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4話 変貌
しおりを挟む「下がれ、不審者―――っ!!」
「なっ…!! 一体、何なんだよ! 2人ともいい加減にしてくれよ!! 朝から僕の部屋に、僕の許可なく入って来たくせに、自分たちこそ不審者じゃないか!!」
剣を首に突きつけられ、始めは状況がつかめずカナルは、困惑するばかりだったが…
フィエブレに何度も怒鳴られるうちに、少しずつカナルのいらいらが大きくなり、ついに我慢できなくなり怒鳴り返した。
<時間が巻き戻ったのは理解できたけど、なぜ僕が自分の部屋で眠っていたのに不審者扱いされるんだ?! 訳がわからないよ!>
「ひどいよ… フィエブレ!!」
<僕を愛していないからって… いくら何でも、この仕打ちはひど過ぎない?>
エリダの双子の弟カナルも、当然子供の頃から4歳年上のフィエブレとは幼馴染として親しい関係だったため…
姉エリダと自分に対するフィエブレの態度の違いに、カナルは深く傷ついていた。
そもそも… 時間が巻き戻る前に、最愛の姉を失くしたカナルと最愛の恋人を失くしたフィエブレが結婚したのは…
フィエブレがエンペサル侯爵家に代々筆頭騎士として仕える、セグロ家出身の騎士であり、結婚は忠誠心を継続的につなぎとめるための手段だったからだ。
隣国と接するエンペサル侯爵領は、エステパイス王国の守りの要でもあり…
騎士たちとの強い信頼関係を保つことは、侯爵家に課せられた重要な義務だった。
「エリダ様、お下がりください!!」
自分が仕える主家の大切な令嬢で、婚約者でもある愛する恋人エリダを守ろうと、カナルを睨みつけたまま、フィエブレは剣を下ろそうとはしなかった。
「待って!! フィエブレ… カナルよ!! その子はカナルだわ?!」
「エリダ様、何を言っているのですか…?!」
「いや… 少し待て、フィエブレ! …お前、本当にカナルなのか?!」
実兄のエレヒルが手を上げてフィエブレを制すると、冷静にカナルの顔を観察しながら、険しい表情を浮かべて問いただした。
「僕は僕に決まっている! なぜ僕がカナルでは無いと言うのか、意味が分からないよ!! 2人とも何なんだ?!」
兄を睨みつけて、カナルはすねて、ふくれた。
「ほらね! カナルだわ!」
「まだダメです、エリダさま!!」
姉のエリダが部屋に飛び込んで来るが、さっとフィエブレがエリダを捕まえ、自分の背に隠した。
「お前が本当にカナルだと言うのなら、自分の顔を鏡で見てみろ! 私たちの困惑がすぐに理解できるはずだから」
室内を見回して兄のエレヒルは、姿見(全身を映すを大型の鏡)を指差す。
兄に言われるまま、渋々カナルは姿見の前に立ち、自分の姿を映すと、そこには―――
「・・・・・っ?!」
自分でも、密かに美しいと自慢に思っていた、ふわふわと癖のある、月光のような淡い金髪と灰色の瞳は無く…
「誰?!」
今まで見たことの無い、艶やかな漆黒の髪と、黒に近い濃紺の瞳をした自分と眼が合った。
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