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9話 白昼夢2
しおりを挟む恐る恐る、もう一度エリダの両手をギュッ… と握るとカナルの前に、再びあずま屋が現れた。
『愛しているよエリダ! 君だけを愛し続けると誓う! 必ず幸せにするから!』
隣りに座るフィエブレに抱き寄せられ、何度も何度も…
軽いキスに情熱的なキス、何度も続けて(エリダは)キスをされる。
エリダの手を放し、カナルは距離を取ろうとよろよろと後ろに下がり、壁に背中が当たるともたれた。
急激に上昇した身体の熱を冷まそうと、ハァ―――ッ… と長いため息をつく。
2人の過去を目撃してしまった衝撃もあるが…
それ以上にヂクヂクと疼く胸の痛みに、カナルは耐えられなくなっていた。
<僕は彼に愛されていなかったどころか… もしかすると、フィエブレに嫌悪されていたのかも知れない! だって僕は結婚までしたのに、一度も彼にキスをされたことが無い… 抱かれたのも発情期の時に一度だけで… それさえ夫の義務を果たそうと、仕方なく… 嫌そうに… 僕にいつもすまなそうにフィエブレが言った言葉が…>
『すまないカナル、お前を弟としか思えない』
<愛する人が他にいるなら、誰だって自分の弟を抱くのは、嫌に決まっている>
「ねぇ、カナル?! 本当に大丈夫なの? 今度は顔が真っ青よ?!」
「う… うん… 大丈夫だよエリダ、少しめまいがしただけだから…」
「誰か呼んだ方が…」
「大丈夫だから、それにほら! そろそろ付き添い役を兄上に変わる時間だしね… 兄上を呼んで来るから、エリダは待っていて…」
ぴくぴくと頬を引きつらせながら、カナルは無理に笑って見せた。
「ねぇカナル… 本当にあなたは婚姻の義式に参列してはくれないの?」
ドアノブを握り、扉を開けようとしたカナルの背中に、心細そうなエリダの問いかけが届く。
「それはもう、話しあったよね? エリダのためでもあるのだから我慢しないと! フィエブレがピッタリと付いていてくれるから大丈夫だよ」
「そうね… 分かってはいるけれど、あなたは一番の親友でもあるから、寂しくて… ごめんなさい我がままを言って」
袖飾りのレースを指先でもてあそびながら、エリダはもじもじとカナルに謝った。
「僕も寂しいよエリダ、でもこれで愛するフィエブレの妻になれるのだから、元気を出して! 兄上を呼んで来る」
今度は心からの笑みを浮かべ、カナルは扉を開けて廊下へと出る。
兄エレヒルと相談して、容姿が激しく変貌したカナルは、使用人たちからも恐れられるようになり、なるべく目立たないよう、婚姻の義式の間も家族用の参列席には着かず、表にはあまり出ないようにすることにした。
何よりエリダの嫁ぎ先であるフィエブレの家族、セグロ家の人たちが兄のエレヒルに隠れてひそひそと内緒話をしていたのを、運悪くカナルは聞いてしまい、その内容を兄に報告して決めた。
『病弱なエリダ様をフィエブレの妻に迎えても、子供ができなければ弟のカナル様を妾に迎えれば良いと、先代侯爵様は約束してくれたが…』
『ですが、あのような真っ黒な瞳や髪に変わってしまっては…』
『他家の騎士たちに悪魔憑きを迎えたと、陰口を叩かれるようになっても困るからな』
『カナル様はとても迎えられそうにはない』
精霊の加護を受けて変貌したカナルの姿は、国教を尊ぶ信仰心の厚い騎士たちには、邪悪な姿に見えるらしい。
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