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14話 宰相パラグアス
しおりを挟むエンペサル侯爵領から馬車で7日ほどかけて…
カナルはエステパイス王国の王都、アクラマシオンの中心部にある、王宮へと到着する。
馬車から下り、ホッ… と一息ついたところで、国王ボルカンが最も信頼を置く腹心、宰相のパラグアスから面会を求められた。
疲れてはいたが、情報収集のためにと、カナルはすぐに宰相パラグアスとの面会を受け入れることにした。
王宮は時間が巻き戻る前、姉エリダが不審な死をとげた場所である。
それはつまり、カナルが惨殺されても、国王が望めば… いっさい表には出さずに、隠滅出来るような環境であるということだ。
そうならないためにも、カナルは出来るだけ多くの情報を得て、あまり目立たず、慎重に行動しようと考えていた。
「お初にお目にかかります宰相様、エンペサル侯爵の弟カナルでございます」
深々と頭を下げ、カナルが与えられた私室とは別の応接間で、宰相パラグアスを迎え入れた。
「カナル殿、お待ちしておりましたよ! 陛下も首を長くして、あなたの到着を待っておられましたからね」
顔を上げてカナルは、にこやかに微笑むパラグアスをじっくり観察する。
<うう~ん… 宰相閣下は、なんだか怖い人だ! 物腰は柔らかいけれど… 常に気を張っていないと、心の全てを見透かされそうな… そんな鋭さを持つアルファだ… この人に比べると、エレヒル兄上が素直で可愛い人に思えるよ>
到着の挨拶を済ませ、カナルは微笑みながら、当たり障りのない会話で締めくくる。
そうして無事に面会を終え、宰相パラグアスと共に応接間を出ようとしたところで…
思い切ってある企みを、カナルは決行することにした。
「わあっ…!」
豪華な絨毯に誤ってつまずき、カナルは無様に転んでしまう。
「おお… カナル殿! おケガはございませんか?」
礼儀正しく宰相パラグアスはさっ… と片膝をつき、絨毯の上に転がったカナルに、手を差し出した。
<やったぁ~っ! 狙い通り上手く行ったぞ!>
カナルは内心、ニヤリと笑う。
「申… 申し訳ありません、宰相様!」
「長旅でお疲れだったのでしょう… さぁ、カナル殿! お手をお取りください」
「ご親切に、ありがとうございます… 実は陛下にお会いするのかと思うと、とても緊張してしまって、昨夜も良く眠れず…」
あれこれ言い訳をしながら、差し出されたパラグアスの掌に、カナルはおずおずと手を載せる。
次の瞬間、カナルは―――
宰相パラグアスの記憶の中にいた。
肩までの印象的な赤茶色の髪に、鋭く光る、珍しいガーネットの瞳。
カナルの兄やフィエブレとは比べ物にならないほど… 堂々としていて、重々しい威圧感を放つアルファの男が、パラグアスに命令を下した。
『先にお前が会って、エンペサル侯爵家のカナルというオメガが、どのような者か見極めてから報告をしろ! 正妃のような、浮ついた者ならば、私が会うまでもない』
<ああ、この方が国王陛下… ボルカン様?!>
宰相パラグアスの記憶でしかないボルカンに…
オメガの本能で底知れない畏怖の念を抱き、カナルはその場でひざまずいて、ひれ伏したい衝動にかられた。
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