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18話 夢の中の記憶

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 ぼんやりと"誰かの記憶"を、カナルが眺めていると…


 姿見(全身を映る大型の鏡)の前でその人は、目尻が少しだけつり上がったエメラルドの瞳で、鏡の中の自分を熱心に見つめていた。

<わあぁぁ~っ… 綺麗な人! これだけ綺麗だと、自分の顔を毎日鏡で見るのも、きっと楽しいだろうなぁ… でも、この人は誰だろう?! 知らない人だ…>


 柔らかな癖のある銀色の髪をふわり… ふわり… と揺らし、首に巻いたレースのリボンを、結んでは解き、また結んでは解きと… 
 何かが気に入らないらしく、何度も結び直している。

 優雅な気品に満ちた、オメガの男性らしいスラリとした細身の背中に向かって、カナルが盗み見ている記憶の持ち主は、必死で懇願こんがんした。


『どうか母上! もう2度と叔父上と会うのは、止めてください!』

『朝から強引に私の部屋へ入って来て、何の用かと思ったら… あなたはそんなことを言うために来たのですか?』

 母上と呼ばれたオメガの男性は、迷惑そうな顔をする。

『貴族たちの間で、母上と叔父上が変な噂になっているのを、ご存知ないのですか?!』

『だから、何だというのですか? 私はあなたのお父様と番の契りを結んでいるのだから、不貞を働くことだって出来ない身なのですよ?』

『母上!』

 記憶の持ち主が一歩前に出ると、母親そっくりのエメラルドの瞳と、短く切り揃えた銀の髪を持つ、まったく見覚えのない16,7歳の若いアルファの少年が鏡に映り込み…

 カナルは眉をひそめ、首をひねった。
<んんんんっ?! あれ…? この人は一体、どこの誰なの?! 直接会って、触れなければ、僕はその人の記憶を見れないから… 絶対に会ったことがあるはずだけど? 本当に誰?!>

 そこで記憶が突然途切れた。

 


 ―――だが…
 またすぐに、記憶が再生される。


 ハァ…! ハァ…! ハァ…! ハァ…! 
 肺に痛みを感じるほど、忙しなく荒い息を吐き、転げ落ちそうになりながら、石造りの階段を下へ下へと慌てて駆け下りる。


 薄暗い地下の霊廟れいびょうが現れた。


 石棺せきかんの重そうなフタには、ひつぎに納められた人物の姿が一人ずつ、彫刻されており…
 そのうちのいくつかの彫刻には、頭部に王冠があり、その霊廟は代々の王族が眠る場所だと分かる。




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