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65話 夜の執務室 ボルカンside
しおりを挟む夜が深まる頃…
1人で精力的に公務をこなす国王ボルカンの執務室へ、宰相パラグアスが訪れた。
「陛下、やはりまだ居ましたね… おやおや、お1人ですか? 補佐官はどうしたのですか?」
チラリと書類から視線を外し、宰相パラグアスを見ると… またすぐにボルカンは手に持つ書類に視線を戻す。
ボルカンが1人っきりでいるのが不思議だと言いたげに、パラグアスは執務室の奥に置かれたソファセットに腰を下ろした。
「あいつはうるさいから追い出した」
実際は、ベンタナを追い出したのではなく… 生まれたばかりの甥に会いたいと、ベンタナが愚痴をこぼしたから、晩餐に間に合うようにと、ボルカンが気遣い、家に帰したのだ。
不器用で意地っ張りのボルカンは、自分が親切心からベンタナを気遣ったからとは、口が裂けても絶対に言わない。
<自分の子でなくとも、会いたいと思う気持ちは理解できるからな… 先日王女に贈った、空色のドレスと靴は気に入っただろうか?>
…ふと、手を止めてボルカンはただ一人の血縁者、幼い王女を思い浮かべる
正妃ディアレアと、亡き長兄王太子テルミナルの娘、第一王女に父親としてボルカンが会いに行っても…
いつも母親(正妃ディアレア)に邪魔をされ、ほとんど話すことが出来ないでいる。
王女と良い交流が持てない代わりに、ボルカンはこまめに贈り物をするようにしていた。
<あの毒婦はきっと、私を汚らわしい野蛮人だと、王女に毒を吹き込んでいるだろうよ!! まったく、腹立たしいことだ! 今は亡き先代ルイナス公爵レクエルドの娘とは思えない性悪だ! 無能な兄、現公爵デトラスにしても… どうやら、先代ルイナス公爵の娘と息子は、母方の血が強く出たようだな>
「やはり、もう1人ぐらい陛下の補佐官を増やした方が良いのではありませんか?」
「分かっている」
<増やしたくても、居つかないのだから、仕方ないだろう? ベンタナの下に何人か就けたが、結局は全員すぐに逃げ出したのだ… いっそ王宮騎士の中から探してみてはどうだろう?>
王宮事務官になるには、それなりの教養(学歴)と、王宮で官職に就く者の推薦状が必要で、その2つを揃えて初めて下級事務官の試験の受験資格が得られるのだ。
その教養(学歴)を得るにも、貴族(アルファのみ)しか通えない学園で、優秀な成績を収めた者だけに限る。
つまり… 王宮事務官たちは全員が品位を重んじる貴族出身で…
ボルカンのように荒々しい人間に、あまり慣れていないために、補佐官に抜擢されてもすぐに逃げ出してしまう、ひ弱な質の者が多いのだ。
「私が適任者を探しておきます」
「それでパラグアス、何の用なのだ? 私と世間話をしに来たのではないだろう?」
手に持っていた書類に差し戻せと書き入れ、木箱の中にぽいっ… と放り込むと、ボルカンは一度もパラグアスを見ずに次の書類に目を通す。
「カナル様にお子様が出来たのなら、お子様が生まれるまで、陛下の寝所を温める者が必要でしょう? もう1人側妃様を娶られてはいかがですか?」
「要らん!」
「カナル様を娶られる前に陛下も心配していたではありませんか? 男性オメガでは子が産めないのではないかと… ですから次は、陛下の好みの女性オメガを娶るのが宜しいかと… エンペサル侯爵への義理は果たせましたし」
「要らん!」
「ですが、正妃様とのお子を望まれないとなると、カナル様の負担を考えて頂かないと、寿命を縮めることになりかねませんしね」
「・・・・・・」
<ずけずけと言いたいことを言う、実に嫌な男だ!>
書類から顔を上げずに、ボルカンはむっ… と不機嫌になる。
王太子テルミナルの側近だったパラグアスとは、ボルカンは長兄を通して知り合い子供の頃から年上の友人として付き合って来たが…
パラグアスの有能さを買い、自分の右腕として最初に重用し使い出したのは、前宰相の今は亡きルイナス公爵レクエルドだった。
そのルイナス公爵が病死した後、現在の宰相職を公爵から引き継いだのがパラグアスだ。
<私を恐れないのは良いが… あまりにも私の意に添わぬことを、押し付けるのが気に入らない! それが理性的で正しい意見だからこそ、余計に腹が立つのだ!>
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