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90話 罪と罰2
しおりを挟む国王補佐官ベンタナは重々しい声で、厳罰を言い渡す。
「現公爵デトラスには、死刑を言い渡す!! …なお、本来ならば公爵位を剥奪し、領地は全て没収するのが罪に対して妥当な罰であるが… この度、正妃となられるカナル妃様がご懐妊され、この慶事に免じ恩赦を与える! 爵位を降爵し、領地の半分を王家に返還せよ―――!!」
父親の死刑と共にデトラスの子はルイナス伯爵となり、王家に領地を返還した後の、残り半分を継ぐこととなる。
規模は小さくなるが、家名は残り一家が路頭に迷うことも無くなるのだから、デトラスの愚行に対して、大きな温情を与えられたのは言うまでもない。
「お待ちください陛下!! あんまりです!! このような罰は、受け入れられません!!」
それでもまだ、デトラスは往生際悪くボルカンに食ってかかった。
「大人しく反逆者たちの隣りで死刑の順番を待たれよ!」
冷ややかにベンタナは、デトラスに言い放つ。
「重臣たちと同じく私もパラグアスに騙され、仕方なくしたことだ!! なぜ、私だけ罰金では無くて、このような重い罰なのですか?!」
確かにデトラスは、王太子と第二王子、そして前ルイナス公爵レクエルドをパラグアスが毒殺したことは知らなかったのは事実である。
だが罰金で済まされた重臣たちとは違い、デトラス自身が率先してパラグアスの悪事に加担していたことを、カナルが精霊の力でデトラス本人を尋問した際に、記憶を盗み見て確認していた。
カナルが見た記憶を元に、詳細に調査し証拠も多く集められている。
「なんて恥知らずの愚か者だ! これ以上、陛下のお許しなく勝手に口を開くな!! 不敬であるぞ!!」
ベンタナの怒鳴り声と共に、警備の騎士たちが両脇から押さえ付け、デトラスは無様に両膝を石畳につかされる。
「今、言わなければ、2度と言う機会が無くなると言うのに!! お前こそ黙れ、ベンタナ!! 貧乏子爵家の次男ごときが、我が国の筆頭公爵家、ルイナス公爵に対して無礼だぞ!!」
目を血走らせ、口から唾を飛ばしながら、デトラスは筆頭公爵らしからぬ醜悪な姿で叫んだ。
顔を真っ赤にして、国王の前で怒りをあらわにするデトラスの見苦しさに、罰を言い渡された重臣たちだけではなく、刑場に集まった貴族たちまで顔をしかめ…
平民たちの間では、嘲笑のざわめきが広がった。
「これまでの、王家に対するルイナス公爵家の貢献を考えれば、私の小さな罪など不問にされても良いぐらいでは無いか!!」
これにはさすがに平民たちも、嘲笑を引っ込め怒りをあらわに、口汚く野次を飛ばした。
「ここまで愚かだったとは、レクエルドが気の毒だ」
デトラスが見苦しい言い逃れをする姿を見て… 隣りに座るカナルにしか聞こえないほど小さな声で、ボルカンはぼそぼそと愚痴をこぼした。
ボルカンが一番苦しい時に、助力を惜しまなかった真の忠臣、前公爵レクエルドのために、妹ディアレアに与えたように、兄デトラスにも慈悲を与えたつもりだった。
「・・・・・・」
カナルは隣りから手を伸ばし、ボルカンがギュッ… と握り締めた拳を細い手で包むように添えた。
ボルカンはハァ―――ッ… と大きなため息を吐きながら、拳を開きカナルの手に指を絡め、こいつはダメだと、呆れて首を横に振る。
不器用なボルカンは何も言わないが… 有能な補佐官ベンタナが気を利かせ、ディアレアに与えた慈悲と、ルイナス公爵家のために考えた慈悲を、カナルにこっそり伝えていた。
「黙れ、愚か者!!」
法務官たちをボルカンが苦労して説得する姿を側で見ていたベンタナは、怒りが抑えられなくなり、大声で怒鳴った。
まだまだ未熟ではあるが、エステパイス王国には建国以来、王国法という法律が存在し、独裁者でも暴君でも無いボルカンは王国法を守りながら、国を統治している。
デトラスへの死刑は仕方ないが、王国法の専門家である法務官たちと、何度も衝突しながら、恩人である前公爵レクエルドの孫たちに、ボルカンが与えられる最大の慈悲であった。
ボルカンの慈悲を涙を流しながら娘のために、喜んで受け入れた妹ディアレアとは異なり、兄デトラスは自分の子供たちの未来など、どうでも良いらしい。
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