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92話 演説
しおりを挟む「ヒイイッ…!!! ギャアアアアアア――――――ッ!!!!!」
赤い炎に包まれたデトラスは石畳を転げ回り、炎を消そうと暴れ、醜い叫び声を上げ続けた。
「そのだらしない口を閉じろ、デトラス!! 見苦し過ぎて見るに堪えない!!」
ボルカンは手を振り、赤い炎をデトラスから取り除く。
「ヒャアッ…!! ううっ… あああぅ… う…うっ…」
顔を涙と鼻水をぐちゃぐちゃにし、デトラスが尻餅をついた石畳にじわじわと失禁で濡れた染みが広がった。
「熱くはないはずだ! 処刑の前に私が殺しては、民たちが納得できないだろうからな!! 今回は反逆者たちの処刑は臣下たちに任せるとしよう!」
掌の上で赤い炎を躍らせ、ボルカンは茫然自失におちいったデトラスに見せつけた。
ボルカンの言う通り、デトラスは服も肌も赤い炎に包まれていたはずなのに、焼け焦げた痕跡は見つからなかった。
「ああっ… あぅ…っ! ああ… 悪魔っ! 悪魔!! 悪魔―――ッ…!!」
狂人のようにデトラスは叫び続け、ぶるぶると震え石畳をはいずって逃げようとする。
「この無礼者!! 建国の父、グアルダル王に従った火の精霊を、お前たち反逆者は口を揃えて悪魔と呼ぶ!! どうやらお前たちは生まれる国を間違えたようだな―――っ!!」
カァッ… と怒りをあらわに、ボルカンはデトラスを怒鳴りつけた。
「お前たち、いつまで呆けているのだ!! 早くその無礼な反逆者を捕まえて、刑を執行させろ―――っ!!」
素早くベンタナが反応した。
「あ?! ああっ! 申… 申し訳ありませんベンタナ様!!」
「は… はい!! すぐに!!」
火の気の無い場所から炎が噴き出し、一瞬でデトラスが炎に包まれ転げ回った光景に衝撃を受け…
さらにその炎をボルカンが操る姿を見て、パカリッ… と口を開けたまま、腑抜けていた警備騎士たちを怒鳴りつけ、ベンタナは命令を下す。
カナルを霊廟から救い出した後、ベンタナは火の精霊についてボルカンからその性質の説明を受けた。
ボルカンが掌で炎を躍らせるのを、何度か見せられ… それどころかベンタナは、試しに炎に触れたりもした。
「これは好機かも知れない!」
他の者たちよりも余裕のある心で、四方に視線を送りベンタナは処刑場に集まった民たちの様子を冷静に観察し、大きく深呼吸をする。
重臣たちも、貴族たちも、平民たちも… 誰もが、たった今自分の目で見た光景が、信じられないという様子だった。
『陛下が火の精霊の加護を持つことを、民に明かすべきです!』
ベンタナは火の精霊の力を見た後、ボルカンに進言していた。
『今さら、面倒だ! このままで良い、精霊の力を明かさなければならない、特別な理由も無いのだから』
ボルカン自身は面倒だと、ベンタナの意見に渋い顔を見せたが…
『特別な理由なら、あり過ぎるほどありますよ、陛下!』
炎の惨劇以来、けして残虐な性質ではないボルカンを誤解し、"残虐王"と蔑称で呼ぶ民たちに、もっと別の心象を焼き付けたいと、ベンタナはずっと考えていた。
パラグアスが企てた計画も、民たちが抱く"残虐王"という、ボルカンへの間違った印象さえ無ければ、起こらなかったかも知れないのだから…
忠臣のベンタナとしては、その忌むべき印象を、払拭したいと思うのは当然である。
ディアレアが自殺してまで守ろうとした、幼い王女の立場がこれ以上苦しいものにならないよう、デトラスの口を閉じさせようと、ボルカンが咄嗟に下した判断が、思いがけず好機を生んだのだ。
「我らっ…の…!」
緊張で声がひどく掠れ、ベンタナは一度… あああ~っ! コホッ… コホッ… と咳ばらいをしてから、大きく深呼吸をした。
そして大きな声が出るように姿勢を正し、ベンタナは気合いを入れて再び口を開く。
「我らの王、ボルカン陛下は―――っ…!! 始祖の王グアルダル王の生まれ変わりである―――っ!!!」
「・・・っ?!!」
ボルカンは不意にベンタナが大声で演説を始めたのを見て、ギョッ… とする。
「?!」
カナルはポカ~ンと口を開いた。
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