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2話 初恋
屋根裏にある自室のベッドに座り、窓から薄っすらと差し込む、月明りの下で…
母の長い金髪を、綺麗に編みくるくると渦巻き状にして収めた、ロケットを眺めながら、フロルはディアマンテと会った時の記憶を思い返す。
母親が存命だった頃、フロルは他の令息たちと同様に、学園で学ぶことを父に許されていた。
友人と呼べる人たちが何人かいて、その中でもオウロ公爵家の、次男クリステルと一番気が合った。
身分はクリステルの方が、ずっと上だったけれど…
「ねえフロル、私のお兄様を紹介するから結婚しなよ! そうすれば私たち家族になれるでしょう?」
オメガにしては、スラリとした長身で、クリステルは頭の上で結んだ、情熱的な黒い巻き毛を、ふわふわと揺らしながら歩く。
どこかエロティックな魅力のある、切れ長の金の瞳が、フロルはとても羨ましかった。
「公爵家の奥方になれと言うの? 自慢のディアマンテお兄様の? クリステルったら無茶を言うね!」
<クリステルと家族になるなんて、素敵な話だけど… 公爵様と私では釣り合わないよ>
溜息をつくフロル。
「今日はお兄様が、迎えに来てくれるから! 弟の私が言うのもナンだけど、結構イイ男だし、公爵家の"黒ダイヤ" て、騎士団で呼ばれてるらしいよ? あっ! ‥ほら来た、フロル!」
遠くから見ても、かなりの長身だと分かる、騎士がこちらに向かい歩いて来る。
「嫌だ! 恥ずかしいよぉ~! きっと変な子だと思われるよぉ~」
デビュー前の若いオメガのフロルは、年頃のアルファの男性とは、滅多に会ったコトが無く、怖気づいてしまうのだ。
「もう、フロルったら! 良いからぁ~!」
クリステルは、フロルの細い腕をグイグイ引っ張って、兄の前に連れて行く。
「ああ、待ってクリステル~!」
肩までの黒髪に金色の瞳、クリステルと同じ配色だけど、アルファのディアマンテだと子猫と大型の肉食獣ぐらい雰囲気が違って見える。
彫刻のような、頬から顎にかけてのシャープで雄々しい輪郭。
見上げるほど背が高く、腰に下げた剣の柄に、陽光が反射しキラリと光る。
第二騎士団の制服を、颯爽と着こなして、フロルが会ったアルファ男性の中で、誰よりも美しく素敵だった。
「こんにちは君がフロルだね? 弟からいつも話を聞いているから初めて会った気がしないな」
「でぃ・・・ディアマンテ様、初めまして、私もそう思います!」
あまりにも素敵すぎて、フロルは真っ直ぐ顔を見られず、ずっと赤い顔で俯いていた。
「フフフッ、フロルは照れ屋なんだ、お兄さま! 可愛くて美しいでしょう?」
クリステルはもじもじと下を向く、フロルを兄の前に押し出す。
「やぁ… クリステル!」
強引に押し出され、クリステルに抗議しようと顔を上げると、目の前にディアマンテの逞しい胸があり、思わず顔を見ると、フロルを熱心に見つめる、美しい金色の瞳と合う。
「ああ、本当にお美しい… フロル、どうかこれからもこの我儘な弟と、仲良くしてやって下さい!」
ディアマンテは騎士団で鍛えた、ゴツゴツとした大きな手で、フロルの小さな手を取り、ギュッと包み込む。
「はぁ… あ… はい!」
フロルにとって一番幸せなキラキラした時間だった。
その半年後、フロルの母が病で亡くなり…
オメガには教養など必要無いと、父に学園を途中で退学させられ、それから使用人以下(ただ働き)の生活が始まった。
友人たちとは退学以来、一度も会っていない… クリステルとも。
フロルはオメガだから、誰かを誘惑し問題を起こされては困ると、学園の友人たちと会うのも、外出するのも、手紙を出すコトさえ、父に禁止されたからだ。
オウロ公爵ディアマンテとは、1度しか会ったことは無いが、フロルが恋に落ちるのに充分だった。
懐かしい思い出に浸り、フロルが幸せな気持ちで微笑んでいると… 屋根裏部屋の扉が鳴り始め、ビクリッと震え、青ざめる。
ドンッドンッドンッ、ドンッドンッドンッ、ガチャガチャ、ガチャガチャ、
「兄さん… 鍵を開けてよ、中に入れてくれよ! 兄さん! ねぇフロル!!」
フロルは息をひそめ、その場を動かなかった。
<フルータ!!>
父ラドラが、フロルが発情時に飲む抑制剤が高価過ぎると、安価で粗悪なモノに変えた時があった。
フロルはフェロモンが上手く抑えられず…
アルファの弟、2歳下のフルータが影響を受け、フロルは襲われたコトがあった。
その時は家政婦に見つかり、未遂で終わったが、それ以来弟が淫らな欲望を感じているようで、フロルはいつも怯えているのだ。
ドンッ、ドンッ、ドンッ、ガチャガチャ、
「兄さん! 公爵の愛人になるなんて嘘だよね? 行かないで愛しているんだ!! ねぇフロル!!僕の運命の番は兄さんダケだ!」
<嘘つき! オメガの女性と婚約が決まって大喜びしていたクセに!! 今、家を出なければ、血のつながった弟の愛人にされてしまう!!>
何も聞こえなくなるよう、耳を押さえ身体を丸め、フロルは弟が諦めるのを待った。
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