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3話 オウロ公爵
渋々だが… 父に、亡くなった母、アメジスタの服を着ることを、フロルは許された。
<公爵と対面するのに、ボロボロに着古した弟のお下がりでは、誘惑は成功しないと父も、思ったのだろう>
世間から、隔絶された生活を送って来たフロルには、最新流行のファッションなど知るわけもなく…
母の服の中で、一番シンプルで自分に似合いそうなモノを、選んだ。
母もフロルと同じ、蜜色の金髪にラベンダー色の瞳だったから、どの服もフロルに似合うはずだが…
無骨なネックガードを、目立たなくする為に…
高めの襟に、フロルの瞳と同じラベンダー色の糸で、花の刺繍の入った白いシャツ。
袖口にレースをあしらった、肌が青白く見えないクリーム色で、スラリと細身のジャケットと同色のベスト…
そして薄茶にピンストライプのパンツ。
母が亡くなってから、ずっとしまい込んであったから、少々虫食いが出ていたけれど…
昨夜のうちにフロルは、得意の裁縫で完璧に繕ってある。
長い髪は悩んだ末、いつものようにまとめてシニヨンにした。
小柄なフロルでも、スラリと首が長く見えるようにだ。
最後に母の髪が入ったロケットを、クビから下げて、ベストの下に隠す。
<公爵が私を買うと言うなら、妻ではなく愛人にする為だと想像はつく… でも、なぜ私なのだろう? 彼ほどの身分と資産があるなら、もっと美しく、条件の良い人はたくさんいるはずなのに?>
窓の外から良く晴れた空を見ていると…
親友に紹介され、公爵に初めて会った日も、こんな晴れた青空だったと、フロルはあの時の胸の高鳴りを思い出し、自然と笑みが零れる。
<嬉しい! …また彼に会える! 彼に! 愛人でも良い、彼にまた会えるのなら>
屋根裏にある自室を出て、階段の踊り場にある姿見で、自分の姿を確認する。
頬をつねり赤みを加え、微笑みながら書斎に向かう。
フロルが書斎に入ると、父の隣で公爵は窓から外を眺めていた。
公爵はゆっくり振り向き、目を細めてフロルの全身を嘗めるように見つめた。
2人は同じアルファのはずなのに、父が酷く貧弱に見えた。
いつもは堂々として、父は威圧的な人だと思っていたけど…
背が高く分厚い胸を持つ、オウロ公爵の隣では、父の存在自体が霞んで見えてしまう。
公爵の、昔は肩までだった黒髪は…
今は背中まで伸ばし、首のところで黒の皮ヒモでまとめて縛っている。
白のシャツ以外は、黒一色の服装で、隣に立つ父とは違い、飾り気の無い姿に、公爵の威厳を感じた。
ゆっくりお辞儀をし、視線を下げたまま、フロルは挨拶をする。
「お久しぶりです公爵様」
「君も、元気そうで何よりだ」
公爵の、低い声を聞いただけで、フロルの背筋はゾクリとし、ほんの少し震えてしまった。
顔を上げ、真っ直ぐフロルが視線を合わせると…
以前とは別人のような、陰鬱な金色の瞳で見つめられ息を呑む。
「私は席を外しますので… オウロ公爵、どうぞゆっくりしていって下さい!」
「このような機会を頂き、感謝しますベント子爵」
「フロル、くれぐれも失礼のないようにな!」
ニヤニヤと媚びを売るように、下品に笑う父が、フロルは恥かしかった。
「はい」
公爵には見えないように、ジロリとフロルを睨み、書斎を出て行く子爵。
フロルが公爵を見つめると、公爵もフロルを見つめていた。
「率直に言う、私の妻になって欲しい!!」
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