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4話 公爵の事情
<今のは聞き間違い?>
ぽかんと口を、開いてしまっていたフロル。
「妻になって欲しい!!」
もう一度、公爵は繰り返す。
「…なぜですか?!」
ドキドキと震える胸を押さえながら、公爵を見つめフロルは尋ねた。
「私には既に"運命の番" がいる、だがその人は子を産めない身体なのだ… だから君には私の子を公爵家の跡継ぎを産んでほしいのだ! …だからコレは契約結婚になる」
ジッと見つめるフロルから、視線を逸らし、公爵は苦しい事情を正直に打ち明けた。
<ああ… 何かあるとは思っていたけれど… こういう理由だったとは…>
公爵は自分が好きだから、などとは、フロルも自惚れてはいなかったが…
他に愛する人が居て、その人の為なのかと思うと、切なかった。
窓際から離れ公爵はフロルの前に立ち、真っ直ぐ見つめる。
「相手の方は… 納得されているのですか?」
おずおずと公爵を見上げ、フロルが尋ねると…
「彼がそうしろと、言ったのだよ」
公爵の眉間に、シワが寄る。
「ああ…」
<気の毒に、ディアマンテ様… 陰鬱な顔をして当然だ…>
フロルは、公爵の固く握り締められた、大きな拳まで、視線を下げた。
「男女どちらでも構わない、オメガでもアルファでもベータでもだ! 私は君の項を噛まないよう努力する、1人産んでくれたら… 離婚し君を開放する、君は離婚した後は自由になる、当然、生活の保障もする」
「どうして私を選んだのですか?」
もう一つの疑問を、フロルが口にした瞬間…
公爵は気マズそうな顔をしたが、大きなため息をつき、話し始める。
「クラブでポーカーをしていた時、ベント子爵は酷い負け方をしていたが、逆に私は勝っていた、酔っていた彼は借金を帳消しにする代わりに…君を…」
「ああ、…私を、差し出したのですね?」
<父は厄介払いをしたのだ!! 私がオメガの男性だからと、なぜココまで父に疎まれるのか分からない>
「厳しいコトを言うが、どのみちそんな薄情な父親の元にいても君に未来は無いだろうし…」
「…その話では私に選択肢はありませんね!」
屈辱でフロルの声は震えてしまう。
「君には同情する、だが私も追い詰められているのだ」
「分かりました、お受けします…」
フロルは愛人でも良いから、公爵の元へ行こうと決めていたから、変更は無い。
「本当に良いのかフロル…?」
フロルの決断に、なぜか公爵の方が驚いている様子。
「はい!」
公爵としっかり目を合わせて、フロルはもう一度返事をする。
「…ならば今から君の唇を奪っても良いか?」
公爵の金色の瞳が熱を帯び、太い指先でフロルの頬を撫でた。
「え?」
「私のキスに嫌悪感を感じたなら、この話は断ってくれて構わないから」
うろたえるフロルの細い腰を引き寄せ…
「あ、あの… 公爵様?!!」
公爵は軽くキスをする。
そして、もう一度…
今度は性的欲望を混ぜ込んだ、情熱的なキス。
チュクッ、チュッ、と書斎に、唇の音が絶え間なく響き…
何度も角度を変え、公爵の唇はフロルの小さな唇を包み、吸い、甘噛みし、じっくり味わう。
「ンンッ…ウンンッ…ンンッ…」
フロルは逞しい胸に手を置き、腰を支えられ、身の心も公爵に委ねてしまう。
「…フロル…」
剣技で鍛えられた硬い掌が、痩せた背中を撫で上げ…
フロルには似合わない、無骨なネックガードの隙間に差し入れた指の腹で、項を愛撫する。
「アアッ…ンンッ… 公‥爵…様…ンンッ…!」
オメガの弱点である項を愛撫され、背筋へと甘い刺激が伝わり、フロルの下腹が熱くなり…
「フロル…フロル…」
小さな唇を開放し公爵は…
ハァハァハァと頬を染め、息を乱すフロルの顔に、嫌悪感が浮かんでいないか見定める。
熱っぽく潤んだラベンダー色の瞳が開き、ウットリと金色の瞳を見上げた。
「…嫌だったか?」
甘さを含んだ声で、公爵がフロルに尋ねると…
「いいえ… とても素敵でした…」
ため息交じりに、フロルは公爵を見つめながら答えた。
「そうか、良かった!」
少し前までの陰鬱な表情が消え、嬉しそうに笑い…
そのまま華奢な身体を抱きしめ公爵はホッとため息をつく。
「ならば、今日このまま私のところへ来て欲しい」
「今日ですか?」
「君の気が変わらぬうちに」
目の前にある、フロルの小さな耳に、公爵は唇を寄せ…
「…はい、家の者に別れの挨拶をしてきます」
耳にキスをされ、ビクリッと震えるフロル。
「その身一つで来てくれても構わないから、身の回りの物はこちらで用意する」
「ありがとうございます‥ でも母のモノをいくつか持って行きたいのです」
顔を上げ、フロルは公爵を見上げて、ニコリと笑うと…
公爵は苦笑を浮かべる。
「ああ、余計なコトを言ってしまったな、許してくれフロル‥ 私は無骨者で気が利かない質なのだ」
「いいえ! 公爵様‥ 私は嬉しいのですこの地獄から抜け出せることが!!」
<そうと決まれば、一瞬でも長くこの家にはいたくない! 母の死後地獄となったこの家には、未練も何も無い!>
公爵は嬉しそうにもう一度、熱烈にキスをする。
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