公爵に買われた妻Ωの愛と孤独

金剛@キット

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37話 オウロ公爵家の伝統



 フロルはディアマンテに連れられて、王立医療院の病棟から真っ直ぐオウロ公爵家本邸に来ていた。


 威風堂々、まさにそんなたたずまいの大邸宅。

 それも街中の一等地で、別邸が3個分ぐらい入りそうな大きさだ… 思わず口を開けて見上げるフロル。

「古いだろう? 冬は隙間風が厳しくて… だからクリステルも実家がこれだけ近いのに、王宮の宿舎で寝泊まりしているんだ」

「はぁ~っ…」
 ため息しか出ないフロル。

 建築様式から見て、最低200年以上は前に建てられた石造りの邸宅で、学園を途中退学したフロルでさえ歴史がありそうだとわかる。

「家族は私とクリステルだけだから、両翼部は閉めて、中央部だけを使っている… 大丈夫だ、迷子にはならないさ」

 苦笑するディアマンテを、見上げたフロルの顔が青ざめていた。

<私はこの邸宅以上に歴史ある名家の当主と結婚したのだ…旦那様が言った"覚悟を決めろ" とはこういうコトも含めてなのかもしれない>

 小さな拳を握り気合いを入れるフロルだが…


 ひょいとディアマンテに抱き上げられ、頬にチュッとキスされる。

「あ、あの旦那様?!」

「用意は良いか?」

「え? 何のですか?」
 

 キョトンとするフロルにディアマンテはカラカラと楽し気に笑う。

「そうか!! 言ってなかったか?! …何のためにこんな服を着ているのか」

 医療院で退院の準備をしていると、クリステルに帰宅用の服だと渡されたのは、男性オメガのドレスで昼用の礼服。

 立ち襟にリボンの付いたシャツ、細身の長い上着は腰の位置で精緻な花柄のレースに切り替え、床までふわりと落ちる。

 フロルが初めて袖を通した時、「わぁ! 床にすっちゃう… これサイズ間違えたみたい!」 と叫んだのはディアマンテには内緒。
 
 下衣はシンプルなパンツにエナメル靴、全て純白でまるで花嫁衣装。

 ディアマンテも全身純白の騎士の礼装で、最初見た時フロルは言葉を失い、涎を2,3滴…垂らした。


「下ろしてください旦那様!本当に歩けますから…」

「ダメだ!」

 医療院からずっとこの調子で、派手な純白の衣装のうえにずっと抱き上げられた状態の移動だから、ドコにいても目立ち… フロルは恥ずかしくてうつむきっぱなしだ。


「この家に二人で初めて帰るのだから、一応儀式はしないと… 使用人に受け入れられないから、面倒だが付き合ってくれ」

「儀式?」


<誰かに正式に紹介されるのだろうとは思っていたけど… まさか…>



「シューヴァ、ノックを!」

 シューヴァが重い扉のノッカーをゴンッ、ゴンッ、と打ち付け… 内側から扉が開かれる。

 花びらのシャワーが舞い散り、その中をゆっくり2人は進む。

「おめでとうございます! 旦那様!! 奥様!!」

「ディアマンテ様!! お美しいフロル様!! お幸せに!!」

 15人ぐらいの使用人たちが、ズラリと両側に並びバラの花びらを投げながら歓迎の意を表す。

 一番奥にクリステルと、シャーヴィも並んでいた。

「やっと家族になれたねフロル!! 私の計画では6年遅れだけれど!!」

 クリステルが涙ぐむ。

「おめでとうございます奥様、旦那様は子供の頃からのんびりし過ぎなのですよ」

「ありがとうクリステル! シャーヴィ!」

 フロルも泣き笑いでクリステルとシャーヴィの手を順番にキュッと握る。

「私も、初めて会った時、その場で跪いてプロポーズすれば良かったと何度も後悔した… だが間に合って本当に良かった!」
 
 フロルを見つめ頬にキスするディアマンテ。


「さあ寝室へ行って!! 2人とも!!」

 はしゃぐクリステルに真っ赤になり戸惑うフロル。

「あ、あの…?」


「ふふふふっ… 本来なら、実家から花嫁を抱いて連れ出し教会で夫婦と認められたら、パーティも挨拶も何もかも無視して真っ直ぐ公爵家の寝室に向かうんだよ "一瞬でも手離さず花嫁の気が変わらないうちに子種を蒔け" と言うのがオウロ公爵家代々の伝統でねぇ~!」




 教会の結婚式も花嫁はずっと抱き上げられたまま(拘束されたまま?)するらしい。


 その話をフロルがディアマンテから聞いた時、秘密の結婚式を先にしておいて良かったと胸を撫で下ろした。





 きっと最初から最後までフロルは恥ずかしくて顔を上げられなかったはずだから。





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