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15、コトハvsジンジャー、騎射1

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「よぅ、ハルバート」

「……オルク兄様、お久しぶりです」

学院での上級生と下級生の合同授業、当たり前のように絡んでくる…………ハルバート様は顔色を暗くしながらも、何とか笑顔を取り繕って返事をする。

「どうだ、今度はこの射的実習で勝負しないか?」

「え……そ、その………」

「なんだ?、逃げるのか卑怯者」

「ーーー私なら勝負しても良いですよ」

一度は勝ったが、それでも苦手な相手、まだまだハルバート様は小さい、オルク様に怯え、顔を青ざめて俯いてしまう、調子に乗ったオルク様は煽り始める、ムカついた私は勢いのまま勝負を引き受ける。

「こ、コトハ………」

「ほぅ?、良いのか、そんな事を言って、女だろうが容赦しないぞ」

「はい」

私の体をいやらしい眼で値踏みするオルク様、全身に虫を這わされたような不快感。

「これは思わぬ収穫だ、ならば俺が勝ったら貴様は俺のものになって貰うぞ」

「………けど勝負するには一つ条件を飲んでほしいです」

「何だ?、金か?」

「ハルバート様に誠心誠意謝罪してください」

「何で俺がそんなことしなくちゃいけ無いんだ」

「お忘れですか?、前回の勝負の賭け、まだ未払いです」

そう、オルク様が勝手に言い出した勝負なのに、彼は負けても知らんぷりしてるのだ、私はそれが許せない、ちゃんと賭け金は払って貰う。

「………」

「……負けたのに賭けを反故にする方が余程卑怯者だと思われますが………」

「ーーーッッッッ、わかったわかった、謝るよ、すまん、これでいいか?」

「それのどこがーー」

「ーーーコトハ」

「………わかりました」

誠心誠意とは程遠い適当な謝罪に私は噴火しかけるが、そこに待ったをかけるセバスチャンさん………確かに一応は謝っている、これ以上王族に詰め寄るのはまずいと目が言っていたので、何とか溜飲を下げる私。



「それじゃあ始めますか」

「ま、まて!!」

「?」

「お、俺が直接戦っても良いんだが、やはりそちらが臣下を出してくるなら、こちらも臣下でやるのが道理………だろ?」

「別に誰が相手でも構いませんよ」

どうやら今回はオルク様が相手ではないらしい、まぁ、万が一、億が一にもこんな公衆の面前で女にやられたら恥だからな。


「よし、出てこいジンジャー・オウル」

「お呼びで」

「ジンジャー・オウルだと?」

セバスチャンさんは驚愕しながら呟く……ジンジャーと的当て勝負をする事になってしまった、確かジンジャー・オウルといえば学生の中でも屈指の射手……そんな男と射的勝負させて、勝って本当に嬉しいのかこいつ………と思ったけど、普通に大喜びする様子を想像できることに頭が痛くなる私。

「ひゅ~、こりゃ結構な上玉じゃないですか、オルク様、勝ったらこの子を俺にくださいよ」

「……まぁ良いだろう、ただし金の方は少し減らさせてもらうがな」

「こんだけの美人抱けるなら安いもんですよ………」

「………」

目の前で始まる猥談に不快感を感じながらも大人しく黙って待つ私。


「さて、勝負の詳細はそっちが決めていい、少しはハンデをつけてやらないとな」

「随分と気前がいいですね」

「弓矢関連なら俺が絶対勝つからな」

「……では騎馬戦で、お互いに矢を撃ち合い、矢が騎手の頭に当たったら100点、胴なら50点、手足なら20点、時間は三十分、どちらが多くの得点を取れるか勝負といきましょう、私が勝ったら、そうですね、ジンジャーさんをハルバート様の臣下に加わって貰います」

「「「「??!!!??」」」」

「は、アハハハハハ!!!、今騎馬戦と言ったか?、馬鹿め、ジンジャーは騎射は負け知らずなんだぞ??!!」

「頭は弱い系か……ま、身体が良いなら別に良いか……」

その場にいる全員が驚愕、得意げに語り出すオルク様。

「お、おいコトハ、大丈夫なのか?」

「大丈夫、絶対勝ちます」

あまりに無謀な勝負を挑む自分に耳打ちをしてくるハルバート様に勝利宣言をかます私。

「それじゃあ始めようか」

お互い準備を整え、柵で囲ってある簡易的なコロシアムで勝負を開始………場所はオルク様が先生に話を通して、馬はハルバート様が貸してくれた、こいつらには絶対負けたくない。

「ジンジャー、とっとと勝負を決めてしまえ!!!」

『ーーーあいよ旦那七連光速矢射セブンス・レイアロー

野次を飛ばすオルク様に軽く返事しながらジンジャーは技を放つ。


「す、すげぇ!!!、七つ同時に射ってるよ??!!」

「この勝負、ジンジャーさんの勝ちだな」

私に七つの矢が高速で飛翔、襲いかかってくる、いつの間にか集まっていたギャラリーは感嘆の声をあげる、そいつらの言う通り中々見事な技を見せてくれる、さすがはジンジャーと言ったところか、だが、この程度で私に勝てると思っては困る、ギャラリーの中に的外れに自分が負けると言っている奴がいたが、思い違いと思い知らせてやろう。

『式神召喚・十二宮・射手座サジタリウスーーーーー九連光速射ナイン・レイアロー

「ーーーーッッッッッッッ??!!!?」

「ーーーッッな、なんだよこれ??!!」

「矢に矢を当てて、全弾撃ち落としやがった……」

「いや、それだけじゃない、ジンジャーさんよりも連射数も上だし、ジンジャーさんに当ててる………」

私は十二天将と同等の力を持つ十二宮の式神を憑依させ、自分の実力を見せつける、ギャラリー達は目を剥いて驚愕。

「手足にしか当たらなかったか」

「ば、馬鹿な、お、俺でもそんなことは………」


コイツらがあまりにムカつくんで手元が狂ってしまい、ポイントの低い手足にしか当てられなかった、反省しなければ、ジンジャーはジンジャーで自分との実力差に唖然としている。


「も、もう降参します……」

「良いんですか?まだ十五分くらいしか経っていませんが?」

「はい……」

ジンジャーは降参した、当たり前といえば当たり前か、必死に何発も矢を射るが、ほぼ全てが撃ち落とされ、逆に私の矢は的確にジンジャーの顔に突き刺さる、矢先は布で覆ってあるので殺傷力は低いが、それでも高速で顔面に当たれば痛い、顔よりも手足の方がポイント的にマシだと判断したのか、途中、手で防御しようとするが、私はその防御の隙間を縫って矢を顔面に打ち込んでいく………十五分経つ頃には折角の二枚目だったジンジャーの顔は赤く腫れ上がり、彼の心は完全に折れ、降参してくる、私の勝利だ。

「ば、馬鹿な、ジンジャーが敗北するだと?」

「………これで、ジンジャーはハルバート様の臣下にさせてもらいますね」

「ぐぬぬ、お、覚えてろッッッ!!」

オルク様は悔しそうに歯軋りした後、そそくさとこの場からいなくなる。

「さて、式神召喚っと………ジンジャー、貴方の影に式神を潜ませてもらった、これで貴方の行動は私へと筒抜け、ハルバート様に危害を加えようとしたら…………分かってますね?」

「は、はぃ……」

勝負が終わったので約束通りジンジャーを臣下へと加えさせてもらう、しかし、裏切られでもしたら厄介なので、即ジンジャーの影に式神を潜ませる、いつでも監視してるぞと忠告する私にビビりながら返事をするジンジャー。

「すごいコトハ!!、あっという間に勝ってしまった!!」

「お褒めに預かり光栄です」

目をキラキラさせて近くに駆け寄ってくるハルバート様、軽く会釈をする私。

「こいつは一体何者なんだ?」

「え?今なんか言いました?」

「………何にも」

セバスチャンさんが何か呟いたように聞こえたが、どうやら聞き間違いだったらしく、彼に質問するも、そっぽをむかれてしまう。

(………剣の腕も弓の腕も超一流…………一体………)






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