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第五話

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王女の母は精霊であった。
 
今から20年ほど前、王は強力な大陸の統治のため、能のある子をつくろうと他種族からたくさんの女を妃として後宮に迎えていた。魔力を持つ魔族とは先先先代から好んで混血が進められていたが、王は魔族だけでなく獣族や竜族、妖精族などとの混血の子を作り出した。

 人間と交流の深い種族のほとんど全てにおいて混血の子が生まれると、王は神に1番近いとされる精霊族との混血の子が欲しくなった。そこで王は大陸の奥地に住む精霊族の長に使いを出し、女を妃として差し出すよう伝えた。

 しかし精霊族は他種族との混血はもちろん、人間との交流も望んでいなかった。

それゆえ断った。

若かった王は現在の威厳ある姿からは想像できないほど血気盛んで考えが浅かった。それゆえ、自らが最強であり、従わない者などいないと信じて疑わなかったので当然のように激怒した。精霊族が拠点とするひとつの森を有害な植物が確認されたとして焼き払ってしまった。

もちろんそこにいた精霊たちは全滅した。

あまりの所業に精霊族は恐れおののいた。精霊族の長は種族が滅亡するよりはと妃として差し出すことに同意した。

そこで選ばれた長の娘が第十三王女を生む。


「16年前のこの日、わたしはこの世に生を受けました。

覚えていますか。

いや、覚えていないでしょうね。

 貴方はそこまでしてわたしの母を手に入れたにもかかわらず、わたしが三の歳になるまでわたしの存在、そして母の存在までも忘れていましたもの。

 そして、都合の悪いことは全て消し去る素晴らしい頭を持っているものね」

王はかつて自らのなかで封印した苦い記憶が解き放たれるのを感じた。

王女に言葉を返そうとするが彼の口からは言葉にならない音だけがこぼれ落ち、その目はだんだんと虚になっていく。

「まだ昔話は終わっていませんわ。

もう少し聞いていてくださいね」



 精霊の母と人間、魔族の混血である父をもつ王女は並はずれた魔力をその身に宿して生まれてきた。

もちろん精霊特有の力、神性力も備わっていた。

何十という女性が1人の男を巡って争いあう後宮では、子の誕生を喜ぶのは母親以外誰もいないのが当然である。13人目の王女となれば元より王でさえも感動を覚えることはない。

 しかも、王女が生まれたときには王は視察のため大陸をまわっており王城にいなかった。
 王に王女の誕生を伝える者はいたが視察中の王は忙しく、その報告が彼の中に残ることはなかった。王にその存在を認識されることなく、第十三王女は成長していったのだ。
 

 王女は精霊の持つ神性力によって、物から記憶を読み取ることができた。人間の血も流れる王女は高い知能を持ち、この力や母から聞かされる精霊族についての話によって自らが置かれている状況というのを幼いうちに理解していた。

 3歳の誕生日を1ヶ月後に控えた日、王女の母の父、精霊族の長が王女の元に現れた。

自分の娘から彼女が神性力を持つことを知らされていた長は人間の王によって彼女の神性力が利用されることを恐れ、王女に神性力を持つことを隠すように伝えに来たのであった。王女はその意図を正確に汲み取り、その日から力を完全に隠すようになった。

 
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