15 / 20
第2章 暗闇の中の光
4
しおりを挟む
人を迷わすためかのように何度も何度も角を曲がり、階段を上り下りする。
普段着だったら特に問題ないのだが、あいにく今日は正装を着ている。硬く詰まった襟は真下を向くことを許さず、重いスカートは足に纏わりつきスムーズに歩くことさえ困難にさせる。
ジークフリートは普段入ることの出来ない教会の内部に興味があるのだろう。キョロキョロと目を動かしながら歩き、真後ろを歩くミリアーナの様子には気付きもしない。
階段を降りるのにもたついていると、そっと隣を歩く神官から手が差し伸べられた。気づかいがとても嬉しく、彼に好意に甘えることにした。しかし、本音を言うならば、その配慮は夫となる人から欲しかった。
方向感覚が無くなるくらい歩いた頃、建物の外へ出た。四方が建物に囲まれているため、風は吹き込まず、セットされた髪が乱されることもない。室内よりは明るいが、四角く切り取られた空は灰色をしている。
広場の真ん中には大きな樹が一本立っている。
祖父からわけも分からないまま祝福を受けたときもここに来ているが、これからのことを思うと懐かしさよりも憂鬱さが勝ってしまった。
「ここが目的地なのか? 俺には大して何もないように思えるのだが」
ジークフリートはあれだけ侵入者を拒むような道を歩いてたどり着いた先がこの広場であることが不思議なのだろう。
表の礼拝堂や王城の玉座の間のように、分かりやすい権威の象徴なんてものはない。しかし、確かにここがこの国の最重要な場所なのだ。
みんなの息が整ったころ、始めますとの声がかかり、それぞれ定位置へと移動する。
大樹の真下に神官長が立ち、彼と向き合うように、ジークフリートと並ぶ。その後ろに、神官たちが並んだ。
王族の婚約式なのだから、他の国ならたくさんの人々の前で行われるのだろう。しかし、この場には王族と一部の神官しか入れないし、王族はもうミリアーナだけだ。あまりにも少ない証人の前で、婚約式は始まった。
神官長が祝詞を告げていく。民たちの婚約の時のように、覚悟の確認などされない。王家の婚姻とは、本人の意思などほとんど関係ないのだから。
祝詞、署名が済んだ後、神官長はミリアーナの名前を呼んだ。
ミリアーナは自分の出番だと気合いを入れ、一歩前に歩み出た。そして、少し震えた声で詩を紡ぎだした。
天よ、大空をかける竜よ。
あなたに会えたことは、この身に起きた最大の奇跡。
竜よ、栄光の主よ。
この血が続くかぎり、我らはあなたに仕えよう。
主よ、慈悲深き方よ。
あなたの加護が我らにあらんことを、
ただただお祈り申し上げます。
初代国王の祈りを間違えることなく、特につまずくことなく唱えることが出来、ほっとする。
「この場に居るもの、主を証人とし、ミリアーナ・グランディアル、ジークフリート・シュルツの婚約は成立したものとする!」
神官長の言葉が広場に響き渡った。
若き神官たちが安堵の……喜びの表情を浮かべる中、神官長の顔が耐えるように僅かに歪んでいる。これから起こることを理解して、そのことに心を痛めてくれている人がいる、それだけが救いだった。
普段着だったら特に問題ないのだが、あいにく今日は正装を着ている。硬く詰まった襟は真下を向くことを許さず、重いスカートは足に纏わりつきスムーズに歩くことさえ困難にさせる。
ジークフリートは普段入ることの出来ない教会の内部に興味があるのだろう。キョロキョロと目を動かしながら歩き、真後ろを歩くミリアーナの様子には気付きもしない。
階段を降りるのにもたついていると、そっと隣を歩く神官から手が差し伸べられた。気づかいがとても嬉しく、彼に好意に甘えることにした。しかし、本音を言うならば、その配慮は夫となる人から欲しかった。
方向感覚が無くなるくらい歩いた頃、建物の外へ出た。四方が建物に囲まれているため、風は吹き込まず、セットされた髪が乱されることもない。室内よりは明るいが、四角く切り取られた空は灰色をしている。
広場の真ん中には大きな樹が一本立っている。
祖父からわけも分からないまま祝福を受けたときもここに来ているが、これからのことを思うと懐かしさよりも憂鬱さが勝ってしまった。
「ここが目的地なのか? 俺には大して何もないように思えるのだが」
ジークフリートはあれだけ侵入者を拒むような道を歩いてたどり着いた先がこの広場であることが不思議なのだろう。
表の礼拝堂や王城の玉座の間のように、分かりやすい権威の象徴なんてものはない。しかし、確かにここがこの国の最重要な場所なのだ。
みんなの息が整ったころ、始めますとの声がかかり、それぞれ定位置へと移動する。
大樹の真下に神官長が立ち、彼と向き合うように、ジークフリートと並ぶ。その後ろに、神官たちが並んだ。
王族の婚約式なのだから、他の国ならたくさんの人々の前で行われるのだろう。しかし、この場には王族と一部の神官しか入れないし、王族はもうミリアーナだけだ。あまりにも少ない証人の前で、婚約式は始まった。
神官長が祝詞を告げていく。民たちの婚約の時のように、覚悟の確認などされない。王家の婚姻とは、本人の意思などほとんど関係ないのだから。
祝詞、署名が済んだ後、神官長はミリアーナの名前を呼んだ。
ミリアーナは自分の出番だと気合いを入れ、一歩前に歩み出た。そして、少し震えた声で詩を紡ぎだした。
天よ、大空をかける竜よ。
あなたに会えたことは、この身に起きた最大の奇跡。
竜よ、栄光の主よ。
この血が続くかぎり、我らはあなたに仕えよう。
主よ、慈悲深き方よ。
あなたの加護が我らにあらんことを、
ただただお祈り申し上げます。
初代国王の祈りを間違えることなく、特につまずくことなく唱えることが出来、ほっとする。
「この場に居るもの、主を証人とし、ミリアーナ・グランディアル、ジークフリート・シュルツの婚約は成立したものとする!」
神官長の言葉が広場に響き渡った。
若き神官たちが安堵の……喜びの表情を浮かべる中、神官長の顔が耐えるように僅かに歪んでいる。これから起こることを理解して、そのことに心を痛めてくれている人がいる、それだけが救いだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜
黒城白爵
ファンタジー
異次元から現れたモンスターが地球に侵攻してくるようになって早数十年。
魔力に目覚めた人類である覚醒者とモンスターの戦いによって、人類の生息圏は年々減少していた。
そんな中、瀕死の重体を負い、今にもモンスターに殺されようとしていた外神クロヤは、これまでの人生を悔いていた。
自らが持つ異能の真価を知るのが遅かったこと、異能を積極的に使おうとしなかったこと……そして、一部の高位覚醒者達の横暴を野放しにしてしまったことを。
後悔を胸に秘めたまま、モンスターの攻撃によってクロヤは死んだ。
そのはずだったが、目を覚ますとクロヤは自分が覚醒者となった日に戻ってきていた。
自らの異能が構築した新たな力〈システム〉と共に……。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる