森の呼吸

珠月

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 小さな国の片隅に大きな森がありました。 
 古い古い森で、大きな樹が何本もありました。 
 たくさんの木々が青々とした葉を茂らせていますが、森はきちんと手入れがされているため、光が差し込む明るい場所でした。 
 
 そんな森を遊び場にする少年がひとり。彼は先祖代々、森を管理する家のものでした。 
 街から離れているため、男の子には友達がいません。でも、彼はそんなこと気にも止めません。彼は遊ぶのに忙しいのです。彼は親から教わることがいっぱいなのです。 
 今日もまた、森の中へ嬉しそうに駆けて行きます。 
 
 ざわざわ、ざわざわ、と森の中を通り抜けていく風が木々を揺らし、大きな音を立てていきます。 
 しかし、男の子にとってそれは子守唄のように聞こえます。目をつぶって、森が奏でる音を聴いていると、駆けずり回っていてドキドキしていた心臓が落ち着いていきました。 
 
「もうそろそろ起きた方が良いと思うわ」 
 人の声が聞こえた気がして目を覚ましました。いつの間にか眠っていたようです。陽は傾き、森の中も薄暗くなっていました。 
「目、覚めた?」 
 やはり声が聞こえます。声の主を探し、きょろきょろしていると 
「ふふふっ、こっちよ」 
 風がささやくような音がしました。 
 振り向くときれいな女の子が立っていました。 
「こんにちは、小さな守り人さん」 
 少女はにこっと笑います。 
「こんにちは……きみはだあれ?」 
「そんなことより、もうお家に帰った方が良いんじゃない?」 
 森がさわさわっと静かな音を立てます。 
「大丈夫。また明日も会えるわ」 
 少女は森の中に消えて行きました。 
 
 男の子に初めての友達ができました。 
 少女は森の精でした。彼女が笑うと森も音を立てます。 
 ふたりでいっぱいおしゃべりをし、ふたりで森の中を冒険しながら毎日を過ごしました。 
 
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