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真白 まみず

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1章

そしてまた、春が来た

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 高校に入学して2年と1ヶ月。
 つまり、高校3年生の5月。
 もう校舎を見慣れて見飽きた頃。
 今年で卒業だってことが全く自覚にない。
 この2年、思えば普通の生活をしてきた。
 行事もして、友達と遊んで、彼女もいた。
 だから、寂しさとかないけど、彼女のことを思うと、胸が苦しい。
 心臓が止まりそうなぐらい、苦しい。
 思い出を、失うみたいで。
 でも、それも今日で終わりにしようと決めていた。

「今年もまた、あれ、やるらしいよ」
 朝、僕が教室の席について座ろうとしたとき、横の席の白井がおもむろに話しかけてきた。
「そうな」
 適当に返す。
 なんだか、しんどいから。
「ちゃんと祈ってる人、何人いるのかな」
「どうせいないよ」
「私、その人と関わりなかったけど、一周忌ぐらい真面目にやろうって思ってるよ」
「それ、なんの報告?」
「朝、パン食べたよ。みたいな?」
「意味わかんない」
 と言うと、確かに。と小声で頷いて下を向いた。
 僕も席に座って、携帯をいじる。
 でも、そんな気分じゃなくなって、寝るようなそぶりをする。
 寝れないけど、今は寝たい。
 死にたい、に近いのかも。
「只今より、瑠一瑠花さんの、一周忌を始めます」
 という放送がチャイムの終わりと共に流れた。
「黙祷」
 目を閉じる。
 別に目を閉じてるだけで、何も、感じなかった。
 どうでもよかった。
 死んだ人に目を閉じて何かを囁いたところで、どうせ何も聞こえないし伝わらない。
 意味ないな、なんて思ってた。
「黙祷やめ」
 と言われ、目を開ける。
 何だか気になって白井の方を見ると、何だか真剣な眼差しだった。
 知らない人のためにここまで出来る彼女がすごいな、なんて思った。

「吉野君は、何考えてたの?黙祷のとき」
 昼休み。
 購買で買ったラムレーズンのパンをかじりながら「んー」と考える。
「ご冥福をお祈りします?」
「適当すぎでしょ」
「適当で良くない?」
「酷いね、瑠一さんが泣いてるよ」
「泣いてないよ、だいいち死んでるから泣けないし」
 そんな暇潰しみたいな会話を続けて昼休みを終え、くだらない、将来何の役に立つかわからないような授業を終えて、家に帰った。
 飛ぶように、友人の声も無視して、帰った。
 家につくと慌てて紙を持って、また出かける。
 1年前から話していない、友人と呼べるかもわからない奴から指定された場所に向かう。
 気がせってるからか、なんだかわからないけど、走った。
「くだらない、ホントにくだらない」
 なんて呟いて。
 何がくだらないかわからない。
 でも、そうしてないと、そう思ってないと、そう言ってないと、いてもたってもいられないような。
 そんな感じ。
 胸が、苦しい。
 走ってるからかもしれないけど、それ以外にもきっとある。
 でも、今日で終わりにしたかった。
 思い出すのも、この思いも。

「待ってた」
 指定された場所につくと、一人の美少女が待っていた。
「まだ時間まで2時間あるけど」
 僕が言うと、無視して、何かをポケットから出した。
 ライター。
「ちょっと早いけど、火、つけるね」
 そう言うと、いつから集めてたのかわからない木の枝と新聞紙に火をつけた。
 だんだん熱気が増す中、会話は絶対零度。
 僕と彼女の間に、何か話すような関係はなかった。
 学校は同じだけど、クラスも違う。
 お互い、沈黙の時間が続いて気まずくなる。
「和泉、あれから何してた?」
「別に何も」
 話しかけても、やっぱり続かなかった。
 だから、ずっと黙っていた。
 思えば、お互い何かを話すようなテンションじゃなかった。
 2時間ぐらいたった頃、彼女が突然立ち上がった。
「吉野君、時間」
 そう言われ、僕も立ち上がる。
 パチパチと燃えるのを二人で眺めながら、紙を取り出した。
 そして、火の中に入れた。
 燃えるのを二人で、じっと眺める。
「瑠花、読んでくれるかな」
 無意識なんだろう。
 和泉の声が、零れ落ちた。
 なんて思う。
「読んでないんじゃない?あいつ、手紙とか嫌いそうだし」
「自分の彼女のことも知らないの?」
「知らないよ」
「愛してなかった?」
「愛してた」
 二人で、煙を眺める。
 まるで天国に続くみたいに、光って見えた。
 黙祷と変わりない、意味のないことかもしれないけど、なんだかこっちの方が効果がありそうだった。
 瑠一の家の庭で、二人でぼーっと煙を眺める。
 それから、一時間ぐらいたって、二人無言のまま、火を消すこともなく、ゆっくり歩いて帰った。
 なんだか、消したくなかったから。
 消したら終わりみたいで。
 消したらホントに瑠一が死ぬみたいで。
 僕の中でも、死ぬみたいで。
 でも、胸は、苦しくなかった。
 きっともう吹っ切れられたんだろう。
 明日から楽しい生活を始めよう。
 瑠一もきっとそれを望んでる。
 だから、家に帰ってすぐ寝よう。
 今までを、夢にするみたいに。

 起きると、日が変わっていた。
 昨日あれからすぐ寝て、夜中何度か目が覚めたけど、何かに脅されてるかのように、必死に寝た。
 今日も平日で学校に行こうと階下に降りると、リビングの卓上に一枚、紙が置いてあった。
 なんだろう?
 母さんからの伝言かな?
 今日は仕事で遅いとか。
 めくる。
 差出人を見て、呼吸が荒くなる。
 胸が苦しくなって、心臓を抑えながら、何度も、見返す。
 To.吉野希くん
 from.瑠一瑠花
 どう見ても、瑠一の字だった。
 頭が真っ白になって、視界がホワイトアウトする。
 誰かのイタズラとは到底思えない。
 僕たちの関係を知ってるのは、和泉と僕たちだけ。
 母さんにも伝えていなかった。
 だから、これを送ったのは、瑠一しか、いない。
 る、い、ち、が、い、き、て、る。
 これが、現実ではなかったらいいのに。
 でも、現実であってくれ。
 完全に切り替えられたと思ったのに、どうやら、僕はまだ、瑠一に取り憑かれているらしい。
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