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高橋と付き合うことにする

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「桜子、寝不足? 目がだいぶ腫れてるけど?」

 翌朝、朝食の席についたわたしをお母さんが心配する。一晩中泣いて腫らした目はどうにも誤魔化せず、まぁね、と返すしかない。

「学校休む?」

 それは魅力的な提案だが、ズル休みしたら涼くんから逃げている事となる。

「ううん、行く」

「そう? 具合が悪くなればすぐ早退しなさいよ。それとーー」

 お母さんがますます伺う口調になり、続けた。

「涼くんが今日から一緒には行けないって。部活動の再開が決まって、朝は練習時間に当てたいそうなの」

「いいんじゃない? 再開するって事は通り魔捕まったのかな?」

 マグカップを慎重に口元へ運び、テレビを付けてみる。
 世間を恐怖と混乱の渦へ陥れた通り魔が連行される映像が流れ、わたしは見知らぬ男性をじっと見詰めた。

「警察から連絡があって、この容疑者がうちへ侵入したと仄めかしてるそうなの」

「じゃあ、わたし1人で通学しても大丈夫だよ」

「それはそうだけど。今朝の涼くんも様子がおかしかったし、喧嘩でもしたの?」

「してない」

 追求されたくないので会話を打ち切る。ほぼ朝食に手を付けず鞄を持ったところでインターフォンが鳴った。
 するとお母さんは肩を竦める。

「はぁ、実は涼くんの代わりに四鬼さんがあなたの送迎をして下さるって連絡があったわ」

「四鬼さんが?」

「一体どういうつもりなのかしらねぇ」

 わたしに警護という名目で監視がつけられていると把握している。
 玄関を開ければ四鬼さんが立っており、爽やかな笑みを浮かべていた。

「おはよう」

「おはようございます。四鬼さん自ら監視ですか?」

「はは、お姫様はご機嫌が悪そうだ」

「色々して貰ってるくせに可愛げのない態度をしてしまい、すいません。今ちょっと余裕がなくて」

 この答えすら可愛くないが、四鬼さんは気にもとめない。

「怒りも不満も全部僕にぶつければいい。僕は君の味方だ」

 さぁ行こうと促す。そこへお母さんも出てきて、四鬼さんへ頭を何度も下げた。

「あぁ、四鬼さんに娘の送迎をして頂くなんて主人にどう話せばいいやら。お手数おかけして申し訳ありません」

 四鬼さんはお父さんの勤める会社の創業者一族。わたしを送るという申し出をむげに出来ないし、かと言って快諾もしがたい。

「頭を上げて下さい。これは僕が好きでしている行動で四鬼家は関係ありません」

「ですがーー」

 食い下がるお母さんに四鬼さんが笑みを一段階深めた。
 甘い香りのする笑顔を向けられ、お母さんがボーッと見惚れてしまう。

「では、行ってきます。お義母さん」

 これまた柔らかく優しい声音で告げる。そのままわたしを外へ連れ出した。

「お母さんに何かしたんですか?」

「異性の気を引くのは鬼の能力のひとつ。桜子ちゃんの身内から活力を奪うなんてしないから安心して。学校へは車で? それとも徒歩?」

「一緒に行くのは決定事項なんですね」

「桜子ちゃんと登下校出来たら嬉しいな」

 わたしには屈託のない笑顔を見せる。

「目立ちたくないので歩きでお願いします」

 そんなに嬉しそうな顔をされたら断りにくいじゃないか。先に歩き始めると四鬼さんがさっと車道側へ滑り込む。

「桜子ちゃんは目立つの嫌い?」

「はい、嫌です。四鬼さんは好きなんですか? 四鬼さんの場合は意図せず目立ってしまうんでしょうが」

「好きというより、鬼は目立ってこそだからね。社会的脚光を浴びるポジション、例えばモデルや俳優業とかアイドル、実業家も鬼が好んで就く業種さ」

「スポーツ選手は?」

「あぁ、それはないな」

 ここは断言されてしまった。

「鬼はもともと身体能力高く、鬼の血はいわゆるドーピングみたいなもの。スポーツの分野で人間達と競うのは好ましくないだろう? 鬼が勝つに決まってる。
あっ、夏目君はサッカー選手になりたいんだったね」

「……はい」

「彼を鬼にしたら日々の鍛錬が水の泡となるだろう。それに夏目君だって鬼の力でサッカーが上手くなるのは本望じゃないはずだ」

 釘を差さんとする内容は承知していると、首を横に振る。

「わたし、もう涼くんの血は飲みません。本人にもそう伝えました。監視の人達に聞きませんでしたか?」

「あれは警護で監視じゃないよ。当主がお姫様に逃げられないよう配置したんだ。ふーん、それで泣き腫らした目をしてるんだ?」

 四鬼家には通り魔犯人の身代わりを用意できる権力があり、わたしなどが逃亡を企てたところですぐ捕まえられるだろう。
 ちなみにニュースでは四鬼病院が通り魔の被害者等の治療にあたり、社会復帰までケアすると伝えられた。

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