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15.楚追明との再会
しおりを挟む楚洪清は姚玉を馬車に乗せると、そのまま北蜀の皇城まで走らせた。
彼曰く、ずっと姚玉や弟である楚追明を探して旅をしていたらしい。危険を冒し、南晋にも足を伸ばしていたのだとか。
(うーん……俺を殺すよう命令した皇太子派の人間はどうなってるんだ?)
まあ、姚玉の知ったところではない。その全員の顔を覚えたとて、姚玉にはなにもできない。
信頼できる環蘭や楚洪清の前でだけ顔を出せばいいだろう。無闇矢鱈に部屋の外に出歩けば、それだけで命を狙われてしまう。
姚玉は皇城に連れ戻された日から、ひたすら書を読むことに没頭した。
口止めをしているので、姚玉が北蜀の後宮にいることを知っているのは皇帝と皇后、そして数人の宦官と女官だけだ。
また、相変わらず召使いは李羽のみ。彼女は姚玉が生きていたことを純粋に喜んでくれた、数少ない人物だった。
「娘娘、追明殿下は……」
李羽は姚玉の服を畳みながら、沈んだ声で伺う。
姚玉は顔を上げ、楚追明に朗読してやった書物の背を指で撫でた。
「はぐれてしまった。でも、きっと彼は生きているし、また会えるよ」
彼女は唇を噛み、静かに頷いた。
◆
1年、2年と時間が経ち、姚玉の心には焦りが募るようになった。相変わらず帰る方法が見つからないからだ。
後宮では、原作で知ってる妃も続々と入宮しているのだが、楚洪清とのどぎついプレイが脳裏をよぎり、顔を見ることすら出来ない。気まずい。チベスナ顔になる。
(主人公のアブノーマルセックスは置いておいて。まさか、帰るには本当にあの子を……)
姚玉は南晋の報せを受け取ることも欠かさなかった。南晋と北蜀は国交を断絶させているも同然だが、商人だけは自由に行き来することが出来る。
彼らに聞くところによると、南晋ではある男が将軍として活躍し、皇帝からも気にかけられているのだとか。
(追明、だろうな。ああ、今安心して寝れてるのかな。食べものに困ってない? 好き嫌いも落ち着いたかな……)
「はあ……」
ここのところ、体が重い。
寝台の上でぼうっとロウソクの炎を見つめていると、静かに扉が開いた。
姚玉は扉の方を向くこともなく、ゆっくりと次の頁を開いた。
「またいらっしゃったのですか、陛下。────ぐッ!」
がっ、と首が締められる。息ができない。瞬く間に姚玉の顔が真っ赤になり、唇がぶるぶると震えた。
姚玉は枕に顔を埋められながら、力を振り絞って振り返る。
(げえぇッ! 遼妃! 原作で何人かライバルを殺してるヤンデレ妃!)
『楚洪清と121人の妃』において第8章3話に起こる、後宮連続殺人事件の真犯人である。
妊娠した妃を順々に殺すヤベー奴。最後は己を寵愛しない夫を殺そうとして、なんやかんや絆されちゃうのだ。その後のおセッセは猟奇的すぎてもはや怖かった。
遼妃は何か飲んでいるのか、細い腕からは想像もできないほどの力で姚玉の首を締める。
彼女の手を掴み解こうとするが、後ろから押し倒されているのもあり、うまく力が入らない。姚玉は必死にガリガリと爪を突き立てるが、一向に力は緩まなかった。
遼妃は鬼のような形相でブツブツと呟きながら、苦しさゆえに涙を流す姚玉を見下ろす。
(もう……ダメだ……クソ、最初の犠牲者は宇妃だっただろぉ……)
顔色が赤を通り越して白くなる。ロウソクの火が消え、目の前が真っ暗になった。姚玉はやがて、必死にもがいていた腕をだらんと垂れさせる。
死を覚悟した、その時。
「……かはッ!」
のしかかっていた遼妃が消えた。いや、首を掴まれ壁に叩きつけられていた。何者かに腹を蹴られ、口から唾液を垂れさせながら気絶している。
姚玉は必死に酸素を肺に入れ、胸を抑えた。鼓動がうるさい。まるで耳元で心臓が鳴っているかのようだ。
姚玉はゆっくりと顔を上げる。美しい男が自身を見下ろしていた。楚洪清かと思ったが、雰囲気がまるで異なる。
「けほっ、陛下……いや、違う…………」
背丈も、髪の長さも楚洪清と同じ。だが鍛え抜かれた武人らしい体格や、気怠けな表情、身にまとう香りは異なる。
男はゆっくりと寝台の上にあがり、むせる姚玉の背中をさすった。その手は数えきれないほどの切り傷の痕があり、タコのせいで岩の様に硬い。
月の明かりだけが頼りだ。姚玉は必死に目を凝らし、暗闇に目を慣らす。
「姐姐」
喜悦と優しさに満ちた低い声。その下で死にかけている妃のことなど眼中に無いようだ。
姚玉と目が合うと、とろりと瞳が甘ったるく溶ける。
「ぐすっ……生きてた……やっと会えた」
ぎゅう、と抱きしめられる。感極まって泣いているようだ。
姐姐、と姚玉を呼ぶのはこの世で1人だけ。
姚玉は緊張に体を硬くしながらも、チラリと壁の方を見た。
「……遼妃、亡くなってませんよね?」
男────楚追明は拗ねたように頬を膨らませる。姚玉は慌ててお礼を言い、目の前の男の頬を撫でた。
すると顔を蕩けさせ、じっと姚玉を見つめながら顔を預ける。子犬のような仕草だ。
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