19 / 23
19.裏
しおりを挟む
雪が降り積もるなか、1人の女が歩いている。
その美しさは何代も前の皇帝に寵愛されたものだったが、今や見る影もない。
皮は火傷で爛れ、まるで溶けた蝋のような醜悪さだ。
すれ違う人間はあまりの悪臭に顔を顰め、中には石を投げる者もいた。
「誰か……助けなさいッ! 私は皇太皇后! 先帝の嫡母であるぞ!」
女はハッキリと発音したつもりだったが、唇に垂れた皮や焼けた喉のせいで雑音にしか聞こえない。
ズルズルと体を引きずり、ようやく封紫城の裏門が見えたことに安堵する。
ほう、と息を着いたところ、ふと目の前に男が立っているのに気づいた。
はっと女の爛れた顔が喜色に満ちる。しかし、その声を聞いた瞬間、女は地団駄を踏んだ。
「おや。寒かったでしょう、皇太后娘娘。お迎えに上がりました」
「お前……! この恥知らず! どんな顔をして北蜀に足を踏み入れた!」
男は女の羽虫のような声を聞くやいなや、城中に響き渡るような声で笑った。
女は顔を赤くし、ぜぇはぁと息を吐きながら男を指差す。
「先帝は楚洪清を皇帝にと仰った……! 間違えてもお前では無い。お前のような人の皮を被った化け物では無い! 良いか、この報いは必ず受けるぞ。この忌み────がぁッ!」
「それは私から皇位を奪う、という旨の発言ですか?」
腹を蹴られ、女はあまりの痛みに震える。
美女と褒め称えられて数十年。人から、それも男から蹴られたことなど1度もなかった。
暴力がこんなにも心を萎縮させるものだと、彼女は知らなかったのだ。
「太古の皇后は皇位簒奪を狙った妃の四肢を切断し、豚と同じ場所で育てたと聞きました。皇后の息子は人糞に塗れた妃を見て、あまりの衝撃に早逝してしまったのだとか」
男は女の顔を覗き込み、三日月のように目を細めて笑う。
この男が何をしようとしているのか、女は悟ってしまった。
「ぁ、ぁあ……!」
「どうでしょう。そんな刑罰をしたことがある処刑人はいないので、上手くやれるかは存じませんが……手は尽くします、ね」
朕は貴方からあらゆる苦痛を賜りましたから。その分は礼をもってお返ししなければ。
暗い目で男が呟き、そばに居た宦官に女を捕まえさせる。
宦官は暴れる女を叩き、引きずるように連れていった。
場所は猪厠。人間が便を落としてそれを豚が食す、という一種の家畜飼育場である。
その美しさは何代も前の皇帝に寵愛されたものだったが、今や見る影もない。
皮は火傷で爛れ、まるで溶けた蝋のような醜悪さだ。
すれ違う人間はあまりの悪臭に顔を顰め、中には石を投げる者もいた。
「誰か……助けなさいッ! 私は皇太皇后! 先帝の嫡母であるぞ!」
女はハッキリと発音したつもりだったが、唇に垂れた皮や焼けた喉のせいで雑音にしか聞こえない。
ズルズルと体を引きずり、ようやく封紫城の裏門が見えたことに安堵する。
ほう、と息を着いたところ、ふと目の前に男が立っているのに気づいた。
はっと女の爛れた顔が喜色に満ちる。しかし、その声を聞いた瞬間、女は地団駄を踏んだ。
「おや。寒かったでしょう、皇太后娘娘。お迎えに上がりました」
「お前……! この恥知らず! どんな顔をして北蜀に足を踏み入れた!」
男は女の羽虫のような声を聞くやいなや、城中に響き渡るような声で笑った。
女は顔を赤くし、ぜぇはぁと息を吐きながら男を指差す。
「先帝は楚洪清を皇帝にと仰った……! 間違えてもお前では無い。お前のような人の皮を被った化け物では無い! 良いか、この報いは必ず受けるぞ。この忌み────がぁッ!」
「それは私から皇位を奪う、という旨の発言ですか?」
腹を蹴られ、女はあまりの痛みに震える。
美女と褒め称えられて数十年。人から、それも男から蹴られたことなど1度もなかった。
暴力がこんなにも心を萎縮させるものだと、彼女は知らなかったのだ。
「太古の皇后は皇位簒奪を狙った妃の四肢を切断し、豚と同じ場所で育てたと聞きました。皇后の息子は人糞に塗れた妃を見て、あまりの衝撃に早逝してしまったのだとか」
男は女の顔を覗き込み、三日月のように目を細めて笑う。
この男が何をしようとしているのか、女は悟ってしまった。
「ぁ、ぁあ……!」
「どうでしょう。そんな刑罰をしたことがある処刑人はいないので、上手くやれるかは存じませんが……手は尽くします、ね」
朕は貴方からあらゆる苦痛を賜りましたから。その分は礼をもってお返ししなければ。
暗い目で男が呟き、そばに居た宦官に女を捕まえさせる。
宦官は暴れる女を叩き、引きずるように連れていった。
場所は猪厠。人間が便を落としてそれを豚が食す、という一種の家畜飼育場である。
63
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで
二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。
過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される
中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」
夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。
相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。
このお話はムーンライトでも投稿してます〜
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
【完結】義妹(いもうと)を応援してたら、俺が騎士に溺愛されました
未希かずは(Miki)
BL
第13回BL大賞 奨励賞 受賞しました。
皆さまありがとうございます。
「ねえ、私だけを見て」
これは受けを愛しすぎて様子のおかしい攻めのフィンと、攻めが気になる受けエリゼオの恋のお話です。
エリゼオは母の再婚により、義妹(いもうと)ができた。彼には前世の記憶があり、その前世の後悔から、エリゼオは今度こそ義妹を守ると誓う。そこに現れた一人の騎士、フィン。彼は何と、義妹と両想いらしい。まだ付き合えていない義妹とフィンの恋を応援しようとするエリゼオ。けれどフィンの優しさに触れ、気付けば自分がフィンを好きになってしまった。
「この恋、早く諦めなくちゃ……」
本人の思いとはうらはらに、フィンはエリゼオを放っておかない。
この恋、どうなる!? じれキュン転生ファンタジー。ハピエンです。
番外編。
リナルド×ガルディア。王族と近衞騎士の恋。
――忠誠を誓った相手を、愛してはいけないと思っていた。切ない身分差、年の差の恋。恋の自覚は、相手が成人してからになります。
目が覚めたら宿敵の伴侶になっていた
木村木下
BL
日本の大学に通う俺はある日突然異世界で目覚め、思い出した。
自分が本来、この世界で生きていた妖精、フォランだということを。
しかし目覚めたフォランはなぜか自分の肉体ではなく、シルヴァ・サリオンという青年の体に入っていた。その上、シルヴァはフォランの宿敵である大英雄ユエ・オーレルの『望まれない伴侶』だった。
ユエ×フォラン
(ムーンライトノベルズ/全年齢版をカクヨムでも投稿しています)
王様お許しください
nano ひにゃ
BL
魔王様に気に入られる弱小魔物。
気ままに暮らしていた所に突然魔王が城と共に現れ抱かれるようになる。
性描写は予告なく入ります、冒頭からですのでご注意ください。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる