悪徳権力者を始末しろ！

第三章 悪徳繁殖業者をやっつけろ！

第三話

「華鈴、さっき言ってた長野とか八王子の事件って何か分かる？」
「ちょっと待ってねー」

　佐々木さんに『この件は私達に一任して欲しい』と言って別れ、部屋に戻ると梨名が矢継ぎ早にそう言ってきた。華鈴はパソコンを操作し、『きっと、これね』と言ってとあるニュース記事を表示した。
　飼育していた４００匹以上の犬を虐待したとして動物愛護法違反の疑いで逮捕。食事は２日に１回、ケージは糞尿を垂れ流しにできるように網状になっていて、犬はそこで飼育されていたため肉球は硬くなっていた。と書かれていた。

「これって今の日本で起きている現実の話ですか？」
「ホントね。こんなことが起きているなんて信じられないわね」

　あまりにもショッキングなニュースだけに、天衣と保乃先輩は驚きの声を上げ唖然としていた。確かに海外映画の悪いことをしている奴の設定のような、非現実的なニュースに感じられ信じられない気持ちでいっぱいになる。
　表示された画像にはやつれて骨が浮き出てしまっている犬や、体の大きさから考えてどう見ても小さいケージに押し込められた犬、皮膚炎を起こしている犬が見られた。

「週に２０～３０匹オークションに出品していたってなってるけど売れてなかったのかしら？」

「どうして？」
　華鈴が不思議そうな顔をしていたのでそう聞き返す。

「１匹１万で売れていたと考えたとしても週に３０万は売り上げていたってことでしょ？なんでそんなに劣悪な環境で飼育を続けていたのかしら？」

「４００匹いたら餌代が凄かったんじゃない？ウチは餌代月３０００円はかかってたよ」

「梨名あなた犬飼ってたの？」

　だから梨名にボールを持って、近づいて来た子がいたのかもしれないと思った。この人なら自分と遊んでくれそう、と直感的に思っていたのだろう。もしかしたらだから私の周りにだけ集まってきてくれなかったのかもしれない。犬との接し方が分からない私は、向こう側からしたら近づきにくい存在だったのかもしれない。

「儲からないんだったらさっさと廃業すればよかったのに」

「それはそれでそう簡単には廃業できなかったのかもしれないわよ」

　華鈴はそう言ってもう一つの八王子の事件の方を画面に表示させた。そこには飼い犬を衰弱させたとして元ブリーダーの男を逮捕。男は国の天然記念物となっている甲斐犬の販売をしていたが、廃業し残った犬が自分で管理できる範囲を超えていたと話しているそうだ。と書かれていた。

「つまりどう言うこと？」

　動物愛護法が改定になって保健所は業者からの引き取りを拒否できるようになったって書いてあるから、廃業しちゃうと残った犬をどうするかで手に負えなくなるんでしょうね。
　殺処分を減らすために大量飼育、大量繁殖できないように改訂したのだろうけど、こういう業者が出てくるかもしれないって改定の時、想定しなかったんでしょうかね。と華鈴は呆れていた。

「廃業しまーすと言っても、じゃあ残された犬はどうするのって話だし、徐々に減らして行くっていっても人気のある子から売れていくんでしょうから、いずれ売り上げがなくなって首が回らなくなる日が来るでしょうからね」

「でもこんな劣悪な環境で飼育続けているなんて、どうしてこうなる前に何とかしなかったのかしら？」

　保乃先輩がそう言うと華鈴は『ここ見て』と言ってきた。そこには長野県の事件では１０年にわたって度々保健所に動物虐待があることを通報しているが、保健所の指導は『注意』にとどまり、虐待は放置され続けた。と書いてあった。

「つまり１０年間知らんぷり決め込まれていたってことね」
　梨名は飽きれた様子で身をソファーにドカっと投げ出した。

「でもなんで明るみに出たんですか？」

　天衣にそう言われた華鈴はまたパソコンを操作し、どうやらこの非道極まりない現実がとある有名な女優さんの耳に入る事になり、その方が問題として取り上げたから明るみになったと書いてあった。

「じゃあその方がいなかったら、もしかしたらその非道はまだ続いていたかもしれないってことじゃないですか？」

「そうなるんでしょうね」

「結局そうよ。私たち一般人の言葉なんて誰もまともに取り合わないってことよ」

　梨名は自分の過去にあった事と重ね合わせたのか、結局誰も助けてくれない自分の身は自分で守るしかない、そう言う意味も込めしんみりと言ったようだ。

「でもじゃあさあ、今回の依頼ってもしかして繁殖業者をただやっつければいいって話じゃないんじゃない？」

「そうよ。だからあなた達二人を動物愛護団体の施設にわざわざ連れて行ったんでしょ」

　保乃先輩と梨名はそうだったのかー、と声を上げていたが華鈴の指示だったみたいよ、と保乃先輩に教えられていた梨名は、またかよという白い目を向けてきていた。
　リーダーのクセに計画を立てるのはいつも華鈴だな。人任せにしてんじゃねーよ、とでも思っているのだろう。

「取り敢えず同じような業者の奴等が、このままこの業界にいては自分たちの身の補償はできないぞと思うように徹底的に潰すわよ」

「了解」