悪徳権力者を始末しろ!

加藤 佑一

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第三章 悪徳繁殖業者をやっつけろ!

第六話

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「ホント酷いわねー、コイツ等人間と思えないわ」
「リーダー、もう証拠は十分でしょ、死刑執行しましょうよ」

「そうだよ、早く救出してあげようよ」
「ダメ、隣のプレハブの状況分かるまで我慢して」


 イヤホンの向こうからそんな会話が聞こえてきたので私は隣のプレハブは何もしなくていいのかと聞いてみた。すると向こうは引退犬だからほっとけばいいと言ってきた。

「引退犬?」

 私が不思議そうな眼差しを向けると、姉ちゃんは知りたがりだねー、まあ今までの様子見てもあまり動揺してないようだから言っちゃうけど、と前置きしてから話し始めた。
 法律で6年経過した犬は繁殖に使ってはいけないと決まってしまったから向こうのプレハブにいる奴らはもう用済みの犬なんだとか。法律で終生飼養なんてのが出来てしまったから、用済みの犬でも殺処分できなくなり、死ぬまで飼い続けなくてはいけなくなった。
 奇形の老犬なんて誰も引き取ってくれないから、向こう送りになりそこで死ぬまで飼い続けていることになっているんだとか。餌はどうしているの?と聞くと共食いしてるだろとさらりと言った。


「自分たちの金儲けのために子供を産ませるだけ産ませて、用済みになったら共食いさせる、卑劣極まりないわね」


 あまりの卑劣な行為にイヤホンの向こう側も、爆発してしまいそうな雰囲気のようだ。華鈴さんが何とか宥めつかせているみたいだが、私は最後にどうしても確認しておきたい事があったので中年男に尋ねた。

「表に車が5台あったけど、他の人たちは手伝ってくれないの?」

 工場長と兄貴達は何もしない、繁殖犬25匹につき従業員1人いなくてはならないという法律があるから、頭数合わせに俺を含め5人いるだけで作業をやるのは下っ端の仕事だと言ってきた。
 お前もここでの仕事ぶりを認められれば、いずれそういう立場になれるから頑張れと言ってきた。これだけの数を一人でこなさなくてはいけないのなら、手が行き届かなくなるに決まっている。衛生状態が悪くなり病気になる仔犬も増えてしまうだろう。
 このままここで働き続けなくてはならないのなら反論の一つもするが、向こうのプレハブ内の様子を探りに行きたいので、ここは中年男に従うそぶりをして一人になれるチャンスを伺うことにした。


「華鈴聞こえた?中に5人いるみたいよ」
「分かったわ。ドローン用意して」


 飛奈は私の質問の意図を汲んでくれたようだ。頭の回転が早くて助かる。赤外線センサー付きのドローンで5人の居場所を特定するつもりだ。プレハブにいないとなると簡易式の建物の方にいると思うが、より確実性を求めなくてはいけない仕事だ。念には念を入れなくてはならない。

 私の作業をしばらく眺めていた中年男は問題ないと感じたのだろう。じゃあ後よろしくーっと言って退散していった。中年男が奥の簡易式の建物内へ消えていったことを確認すると直ぐに隣のプレハブへ向かう。

 隣のプレハブは1階部分のドアや窓は溶接され開閉できない状態となっていた。窓もガラスではなく板がはめ込まれている。見上げると2階部分にドアと窓が付いていた。しかし階段がみられない。

 下を見ると何かを引きずったような、タイヤの後のような線が伸びていることに気づき、その線の先を目で追うと移動式の階段が置いてあった。
 階段に近づき動かそうとしたら、ギシギシ、キーキーと大きく鳴るものだから、とても男達に気付かれないように動かすのは無理だと思い諦め別の方法を探る。

 窓枠と境目に手をかけよじ登れるか探ると、意外といけそうだったのでそのまま2階の窓までよじ登ることにした。窓は汚れが酷く、透明度がすこぶる悪い。

 窓は開閉ができないタイプの嵌め殺し窓だった。ドアの方へ移動できないか探るが難しいようなので諦め、窓から中へカメラを向けマイクの部分を2回叩くと、分かったわそれで十分、危ないからあなた早く降りなさいと言われた。

 窓から見える光景はもう表現することのできない悍ましい弱肉強食の世界だった。このまま放置しているなど鬼畜の所業としか思えなかった。私は我慢できずタガが外れてしまった、、。

「保乃?保乃?聞こえる?」
「どうしたの?」

「ヤバい、あの娘一人で向かっちゃった」
「全く人には冷静でいられるの?とか言ってたくせに」

「流石に限界きちゃったみたいね」

 急いで私も向かおうとしたが天衣はもう既に飛び出していていなくなっていた。
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