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第十八章
酒の肴
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夏海と小雪は中山の運転する社会福祉協議会のワゴンに乗り込む。この辺りは交通の便が少ない上、立地条件が悪く、地価も安い為、障害者や生活困窮者が多く暮らしている。中山は送迎の為にこの地区によく来ていた。
神社の近くには土砂崩れに注意喚起する看板が立ててあり、災害時危険区域に指定されている事などが書かれているが、それを知っている上で、市役所はこの辺りの空き家を買い取って、賃貸しているようだ。それでも感謝している障害者が多い。
夏海の実家から少し山を下った辺りに、中山はワゴンを止める。車なら数分程度だが、閉店した理髪店だった。二階は住居になっているようだ。市役所が目と鼻の先にあるので、障害者の送迎の後に夏海の家に寄ったらしい。中山はこの地区の担当をしている。
「なんか一階にお店があるね!改装したらオープンできるかも?」
「店舗付きとは…こんな好条件の物件だったら他にも借りたがる人いるんじゃないっすか?」
「それがなかなかね…。夏海君も気に入るかわからないし…」
「ああ、小学校が目の前にあるから、昼休みとか運動会とかうるさいかもしれねぇなぁ」
「子供が産まれたら学校が目の前だし、通いやすくて良いよね?」
「俺の子供が産まれてくるなんて想像もできん…。自分が良い父親になれるとも思えんし…」
「夏海君が気に入ったら、すぐにでも入居出来るけど、中に入って見てみるかい?」
「あっ、中も見せてもらえるんすか?」
「もう一年間、放置されてるから、ちょっと汚いかもしれないけど…」
右側の細い通路に狭い玄関が付いていたので、大男が入ると窮屈そうだった。鍵を開けて無理やり体をねじ込む。夏海は体が小さいので、普通に中に入れた。小雪もスリムな体型なので、何の苦もなく中に入れる。玄関の中は思っていたより広かった。
「入り口が少し狭いけど、店の入り口は自動ドアっぽかったし、あれも開くようになるんすか?」
「あれは電気が通ってないから動かないと思う」
「電気さえ通れば自動ドアから出入りしても良いか」
「大きな家具とかはあっちから運び込むと良さそう」
「あっちが店の方に繋がってて、それと勝手口もこっちにある」
玄関から入ってすぐ階段が左側にあり、階段の裏側に店舗と主屋を繋ぐドアがあった。廊下の突き当たりの建物の裏側に勝手口が付いており、廊下はところどころ板が捲れ上がっていて、歩くたびにギシギシと音を立てて、今にも床が抜けそうだった。
「なんか勝手口の方が出入りしやすくないっすか?玄関はなんであんな狭いんだ…」
「隣の建物が後で出来たから、狭くなったんだ」
「隣の建物もなんかの店っぽかったけど何の店っすか?」
「あれは…夏海君は絶対に行かないような店だよ?」
「あっ…大体、察しました…」
小雪が気になって、中山に質問する。
「もしかしてスナックとか、そんな感じのお店ですか?」
「まあ大体、そんなような店だね」
「小学校の目の前にそんな店を建てるなんて…。どうなってんだ?この街は!」
夏海はブツクサ文句を言っているが、店の外からはそんないかがわしい店に見えない。
「二階も見てみるかい?」
「あっ、二階も気になるっす」
二階に昇る階段も老朽化が激しく、ギシギシと音を立てる。階段も急なので年寄りや足の不自由な障害者は嫌がりそうだが、若い二人には特に気にならなかった。
「二階は一階より綺麗っすね!しかも二部屋もある」
「本当だ!これなら二人で一緒に暮らせるね?」
「ああ、二人で暮らすのは…。う~ん、まあ良いか」
中山は何か言いたげだが、言葉を濁している。
「一階の店も使って良いんっすよね?」
「使いたかったら使っても良いよ?夏海君の家だから自由に使ったら良い」
「俺、ここに住みたいっす!明日からでもここに引っ越して住めますか?」
「本当かい?それなら明日、引っ越しの為に職員を手配するから」
「俺は別に荷物とかもそんなにないし、家具も揃ってるから、この距離なら歩いてでも引っ越せますけど」
「そんな事言わずに手伝わせてぇや?」
「引っ越し代とかいくらかかりますか?普通の引越し業者雇うと結構、高くつくっぽいし…」
「引っ越し代の事なんて夏海君は気にせんでもええんやで?」
「小雪さんも荷物を運ぶならそっちを手伝って欲しいんだけど…」
「彼女さんの荷物はちょっと…。彼女さんは健常者だから対象外だね」
「なるほど…障害者限定のサービスなんすね?」
「私の荷物もそんなに多くないよ?夏海君と一緒に暮らせるなら何にもいらないし」
翌日の授業は引っ越しの為、休むと学校の方へ連絡を入れる。定時制高校なので、普通の高校より融通は利くが、出席日数は就職の際に響くので、全日制の学校のようにとりあえず、授業に出ている者も多い。ただし授業はほとんどせず、一時限四十五分の最初の十分ほど授業をして、三十分は自習になり、最後の五分だけ教師が教室に現れる。
「明日の引っ越しが楽しみで仕方ないよ。お店はどんな感じにする?」
「そうだな…。小学校が目の前だから、駄菓子屋とか文房具屋とかが良いんじゃないかと…」
「確かに!私が子供の頃は手芸屋さんに行くのが楽しみだったよ」
「小雪さんは手芸も出来るんだ?」
「うん!服とかも作れるんだ。デザイナーになるのが夢だったから…」
「すげぇ夢じゃん?小雪さんならなれると思う」
神社の前まで蜻蛉返りする。中山の運転するワゴンカーから降りると、神社の横のトイレで用を足した。
「明日からは夜中に突然、腹が痛くなって起きた後、ここまで歩いて大きい方を我慢する必要もなくなるな…」
「夏海君の家の庭でしちゃうと臭いそうだもんね…」
「オカンに文句言われた…。オカンが庭で育ててる家庭菜園に親父がバラ撒いて肥料にしたらしい…」
「夏海君のお父さん…。イメージがどんどんヤバい人になってくる…」
夏海の部屋のプレハブ小屋の引き戸を開けて中に入る。小雪はいつものように夏海に擦り寄ってイチャイチャしていた。すると突然、プレハブ小屋の引き戸をガンガンと叩く音がしたので、夏海がつっかえ棒の金属バットを手に持って引き戸を開けて確認する。
「何だよ?親父か…」
「夏海…。お母さんと中山さんから…さっき話を聞いたんだが…」
「ああ、親父が寝てる間に色々とあったんだよ」
「その子が夏海の彼女か?」
小雪は慌てて乱れた衣服を整えると、ペコリと頭を下げる。夏海の父親は小雪の想像以上に老けていて、年齢よりも随分と上に見えた。父親と言うより祖父に見える。
「俺は何度も言っただろう?夏海は部落民だから部落民と結婚しろって…」
「それでオカンは好きでもない親父と結婚したって話もオカンから聞いてる。俺は別の父親の子だとか近所のオッさんにも言われたし…」
「夏海は間違いなく俺の子だ!お母さんにも聞いてみろ」
「それで俺にも好きでもない女と結婚しろと強制するつもりか?」
「俺はお母さんの事を愛してた…」
「オカンは親父なんか好きじゃねぇっていつも言ってたけど?」
「そ、そんな事はない!俺と春海は…」
「あっ!お母さんの本名…春海さんって言うんですね?」
「源氏名は遥だけどな」
小雪が突然、会話に割って入ったので、夏海の父親はハッと我に返った。
「愛奈ちゃんは…良い子だと思うぞ?」
「親父は愛奈の常連だっけ?パンケーキをあ~んしてもらって鼻の下伸ばしてたな」
「愛奈ちゃんも夏海のお嫁さんになると言ってくれてる」
「愛奈と結婚するなんて死んでも嫌だね?即答で断る!」
「どうして嫌なんだ?愛奈ちゃんだって可愛いじゃないか…」
「愛奈は顔は可愛いと思うが、性格どブスだから嫌なんだよ?俺は目が悪いし、最近は顔もどブスに見えて来た」
「性格だって悪くない!夏海は女を見る目がないとお母さんも言ってたぞ」
「でもオカンは小雪さんの事、めっちゃ気に入ってるみたいだけど?」
「お母さんは…結婚させてやりゃ良いと言ってたが…俺は反対だ。産まれて来た子供も苦しむ事になる」
「俺は親父の子供に生まれて来て苦しんでたんだが?オカンも見てるだけで助けねぇし、しかも知らねぇオッさんからお前の母親と寝た事があるとか、オッさんが実の父親だとか中学生ん時に言われてショックだった」
「そんな事を誰が言ったんだ!お母さんは夏海の前に妊娠した子供は中絶した。俺と結婚してから夏海が生まれたから間違いなく俺の子だと言ってる」
「はぁ…。そんなのオカンの嘘かもしんねぇだろ?」
「春海は嘘なんかついてない!顔だって俺と夏海はよく似てる…」
「遺伝子鑑定はしてないんだろ?何十万もかかるし」
「それはしていないが、みんな夏海は俺に似てると言うんだ」
「まあ似てるってのは否定しないよ?」
「お父さん…。私、夏海君の事が…世界で一番、大好きなんです…。どうか結婚を許してください…」
小雪が土下座して頼んだので、夏海の父親はあたふたし始めた。
「俺だって最初は結婚しない方が良いって小雪さんに言ったんだよ?でもこんな美人に惚れられて結婚できるなんてチャンスは二度と来ないかもしれないし、宝くじに当たるくらいの確率かもしれねぇのに、なんで別れなきゃならんのだ?」
「宝くじは俺も毎年買ってるが当たらないな…」
「親父は俺が羨ましくて堪らないんだろ?それで邪魔してやろうと思ってるだけだ」
「そんな事はない!俺は夏海の為を思って言ってる」
「俺の為になってないじゃん?俺を不幸にしたくて足引っ張ってるようにしか見えんのだが…」
「それは…誤解だ!」
「誤解もへったくれもねぇよ?事実をありのまま述べてる。親父は俺が幸せになるのを妬んでいるんだ」
「わかった…。もう止めない…。夏海の好きにしろ!後でどうなっても俺は知らんからな?」
「俺はこれから小雪さんと一緒にオープンする店の話をしたいんで、とっととどっか行ってくんねぇか?」
「店をオープンするのか?そんなもん絶対に上手く行くはずがない!」
「親父はいつもそうやってやる前から否定ばかりする。俺の小説だって売れるわけがないとかほざきやがって…」
「俺はお前が失敗して傷付かないように心配して助言してやってるんだ!」
「親父の助言なんか役に立たねぇし、ビジネス本読んだ方がタメになる話が書いてある」
「どんどん生意気になって言う事を聞かなくなって来たな…。小学生の頃はあんなに良い子だったのに…」
「我慢して良い子にしてたんだ。逆らったら殴られるからさ?でも良い子にしても殴られるからグレた!」
神社の近くには土砂崩れに注意喚起する看板が立ててあり、災害時危険区域に指定されている事などが書かれているが、それを知っている上で、市役所はこの辺りの空き家を買い取って、賃貸しているようだ。それでも感謝している障害者が多い。
夏海の実家から少し山を下った辺りに、中山はワゴンを止める。車なら数分程度だが、閉店した理髪店だった。二階は住居になっているようだ。市役所が目と鼻の先にあるので、障害者の送迎の後に夏海の家に寄ったらしい。中山はこの地区の担当をしている。
「なんか一階にお店があるね!改装したらオープンできるかも?」
「店舗付きとは…こんな好条件の物件だったら他にも借りたがる人いるんじゃないっすか?」
「それがなかなかね…。夏海君も気に入るかわからないし…」
「ああ、小学校が目の前にあるから、昼休みとか運動会とかうるさいかもしれねぇなぁ」
「子供が産まれたら学校が目の前だし、通いやすくて良いよね?」
「俺の子供が産まれてくるなんて想像もできん…。自分が良い父親になれるとも思えんし…」
「夏海君が気に入ったら、すぐにでも入居出来るけど、中に入って見てみるかい?」
「あっ、中も見せてもらえるんすか?」
「もう一年間、放置されてるから、ちょっと汚いかもしれないけど…」
右側の細い通路に狭い玄関が付いていたので、大男が入ると窮屈そうだった。鍵を開けて無理やり体をねじ込む。夏海は体が小さいので、普通に中に入れた。小雪もスリムな体型なので、何の苦もなく中に入れる。玄関の中は思っていたより広かった。
「入り口が少し狭いけど、店の入り口は自動ドアっぽかったし、あれも開くようになるんすか?」
「あれは電気が通ってないから動かないと思う」
「電気さえ通れば自動ドアから出入りしても良いか」
「大きな家具とかはあっちから運び込むと良さそう」
「あっちが店の方に繋がってて、それと勝手口もこっちにある」
玄関から入ってすぐ階段が左側にあり、階段の裏側に店舗と主屋を繋ぐドアがあった。廊下の突き当たりの建物の裏側に勝手口が付いており、廊下はところどころ板が捲れ上がっていて、歩くたびにギシギシと音を立てて、今にも床が抜けそうだった。
「なんか勝手口の方が出入りしやすくないっすか?玄関はなんであんな狭いんだ…」
「隣の建物が後で出来たから、狭くなったんだ」
「隣の建物もなんかの店っぽかったけど何の店っすか?」
「あれは…夏海君は絶対に行かないような店だよ?」
「あっ…大体、察しました…」
小雪が気になって、中山に質問する。
「もしかしてスナックとか、そんな感じのお店ですか?」
「まあ大体、そんなような店だね」
「小学校の目の前にそんな店を建てるなんて…。どうなってんだ?この街は!」
夏海はブツクサ文句を言っているが、店の外からはそんないかがわしい店に見えない。
「二階も見てみるかい?」
「あっ、二階も気になるっす」
二階に昇る階段も老朽化が激しく、ギシギシと音を立てる。階段も急なので年寄りや足の不自由な障害者は嫌がりそうだが、若い二人には特に気にならなかった。
「二階は一階より綺麗っすね!しかも二部屋もある」
「本当だ!これなら二人で一緒に暮らせるね?」
「ああ、二人で暮らすのは…。う~ん、まあ良いか」
中山は何か言いたげだが、言葉を濁している。
「一階の店も使って良いんっすよね?」
「使いたかったら使っても良いよ?夏海君の家だから自由に使ったら良い」
「俺、ここに住みたいっす!明日からでもここに引っ越して住めますか?」
「本当かい?それなら明日、引っ越しの為に職員を手配するから」
「俺は別に荷物とかもそんなにないし、家具も揃ってるから、この距離なら歩いてでも引っ越せますけど」
「そんな事言わずに手伝わせてぇや?」
「引っ越し代とかいくらかかりますか?普通の引越し業者雇うと結構、高くつくっぽいし…」
「引っ越し代の事なんて夏海君は気にせんでもええんやで?」
「小雪さんも荷物を運ぶならそっちを手伝って欲しいんだけど…」
「彼女さんの荷物はちょっと…。彼女さんは健常者だから対象外だね」
「なるほど…障害者限定のサービスなんすね?」
「私の荷物もそんなに多くないよ?夏海君と一緒に暮らせるなら何にもいらないし」
翌日の授業は引っ越しの為、休むと学校の方へ連絡を入れる。定時制高校なので、普通の高校より融通は利くが、出席日数は就職の際に響くので、全日制の学校のようにとりあえず、授業に出ている者も多い。ただし授業はほとんどせず、一時限四十五分の最初の十分ほど授業をして、三十分は自習になり、最後の五分だけ教師が教室に現れる。
「明日の引っ越しが楽しみで仕方ないよ。お店はどんな感じにする?」
「そうだな…。小学校が目の前だから、駄菓子屋とか文房具屋とかが良いんじゃないかと…」
「確かに!私が子供の頃は手芸屋さんに行くのが楽しみだったよ」
「小雪さんは手芸も出来るんだ?」
「うん!服とかも作れるんだ。デザイナーになるのが夢だったから…」
「すげぇ夢じゃん?小雪さんならなれると思う」
神社の前まで蜻蛉返りする。中山の運転するワゴンカーから降りると、神社の横のトイレで用を足した。
「明日からは夜中に突然、腹が痛くなって起きた後、ここまで歩いて大きい方を我慢する必要もなくなるな…」
「夏海君の家の庭でしちゃうと臭いそうだもんね…」
「オカンに文句言われた…。オカンが庭で育ててる家庭菜園に親父がバラ撒いて肥料にしたらしい…」
「夏海君のお父さん…。イメージがどんどんヤバい人になってくる…」
夏海の部屋のプレハブ小屋の引き戸を開けて中に入る。小雪はいつものように夏海に擦り寄ってイチャイチャしていた。すると突然、プレハブ小屋の引き戸をガンガンと叩く音がしたので、夏海がつっかえ棒の金属バットを手に持って引き戸を開けて確認する。
「何だよ?親父か…」
「夏海…。お母さんと中山さんから…さっき話を聞いたんだが…」
「ああ、親父が寝てる間に色々とあったんだよ」
「その子が夏海の彼女か?」
小雪は慌てて乱れた衣服を整えると、ペコリと頭を下げる。夏海の父親は小雪の想像以上に老けていて、年齢よりも随分と上に見えた。父親と言うより祖父に見える。
「俺は何度も言っただろう?夏海は部落民だから部落民と結婚しろって…」
「それでオカンは好きでもない親父と結婚したって話もオカンから聞いてる。俺は別の父親の子だとか近所のオッさんにも言われたし…」
「夏海は間違いなく俺の子だ!お母さんにも聞いてみろ」
「それで俺にも好きでもない女と結婚しろと強制するつもりか?」
「俺はお母さんの事を愛してた…」
「オカンは親父なんか好きじゃねぇっていつも言ってたけど?」
「そ、そんな事はない!俺と春海は…」
「あっ!お母さんの本名…春海さんって言うんですね?」
「源氏名は遥だけどな」
小雪が突然、会話に割って入ったので、夏海の父親はハッと我に返った。
「愛奈ちゃんは…良い子だと思うぞ?」
「親父は愛奈の常連だっけ?パンケーキをあ~んしてもらって鼻の下伸ばしてたな」
「愛奈ちゃんも夏海のお嫁さんになると言ってくれてる」
「愛奈と結婚するなんて死んでも嫌だね?即答で断る!」
「どうして嫌なんだ?愛奈ちゃんだって可愛いじゃないか…」
「愛奈は顔は可愛いと思うが、性格どブスだから嫌なんだよ?俺は目が悪いし、最近は顔もどブスに見えて来た」
「性格だって悪くない!夏海は女を見る目がないとお母さんも言ってたぞ」
「でもオカンは小雪さんの事、めっちゃ気に入ってるみたいだけど?」
「お母さんは…結婚させてやりゃ良いと言ってたが…俺は反対だ。産まれて来た子供も苦しむ事になる」
「俺は親父の子供に生まれて来て苦しんでたんだが?オカンも見てるだけで助けねぇし、しかも知らねぇオッさんからお前の母親と寝た事があるとか、オッさんが実の父親だとか中学生ん時に言われてショックだった」
「そんな事を誰が言ったんだ!お母さんは夏海の前に妊娠した子供は中絶した。俺と結婚してから夏海が生まれたから間違いなく俺の子だと言ってる」
「はぁ…。そんなのオカンの嘘かもしんねぇだろ?」
「春海は嘘なんかついてない!顔だって俺と夏海はよく似てる…」
「遺伝子鑑定はしてないんだろ?何十万もかかるし」
「それはしていないが、みんな夏海は俺に似てると言うんだ」
「まあ似てるってのは否定しないよ?」
「お父さん…。私、夏海君の事が…世界で一番、大好きなんです…。どうか結婚を許してください…」
小雪が土下座して頼んだので、夏海の父親はあたふたし始めた。
「俺だって最初は結婚しない方が良いって小雪さんに言ったんだよ?でもこんな美人に惚れられて結婚できるなんてチャンスは二度と来ないかもしれないし、宝くじに当たるくらいの確率かもしれねぇのに、なんで別れなきゃならんのだ?」
「宝くじは俺も毎年買ってるが当たらないな…」
「親父は俺が羨ましくて堪らないんだろ?それで邪魔してやろうと思ってるだけだ」
「そんな事はない!俺は夏海の為を思って言ってる」
「俺の為になってないじゃん?俺を不幸にしたくて足引っ張ってるようにしか見えんのだが…」
「それは…誤解だ!」
「誤解もへったくれもねぇよ?事実をありのまま述べてる。親父は俺が幸せになるのを妬んでいるんだ」
「わかった…。もう止めない…。夏海の好きにしろ!後でどうなっても俺は知らんからな?」
「俺はこれから小雪さんと一緒にオープンする店の話をしたいんで、とっととどっか行ってくんねぇか?」
「店をオープンするのか?そんなもん絶対に上手く行くはずがない!」
「親父はいつもそうやってやる前から否定ばかりする。俺の小説だって売れるわけがないとかほざきやがって…」
「俺はお前が失敗して傷付かないように心配して助言してやってるんだ!」
「親父の助言なんか役に立たねぇし、ビジネス本読んだ方がタメになる話が書いてある」
「どんどん生意気になって言う事を聞かなくなって来たな…。小学生の頃はあんなに良い子だったのに…」
「我慢して良い子にしてたんだ。逆らったら殴られるからさ?でも良い子にしても殴られるからグレた!」
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