エマとニコ

アズルド

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第二十五話

秘めたる想い

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 ニコとペニーは地下迷宮の狭い密室に閉じ込められてしまい、フカフカした祭壇に腰掛けて頭を抱えていました。

「あれからもうどれくらいの時間が経ったんだろ…」

「時計は持って来てないけど…多分、二刻かな」

「ニコ、お腹空かない?」

「僕は“ゾエ”を五分吸ったら十日は食べなくて平気なんだよ」

「そうなんだ…。私、お腹空いて来ちゃった…」

 ニコはナップサックから紅茶の入った水筒と、ハンカチに包まれたビスコッティを取り出した。クッキーを二度焼いたビスコッティは、保存食として重宝する。砕いたナッツもふんだんに使われており、頬張ると香ばしい味が口の中でいっぱいに広がった。

「準備が良いわね?」

「近道があるなんて知らなかったから…カーティス先生に半日以上かかるって聞いてたし…」

「この焼き菓子…すっごく美味しいわ!もしかしてニコが焼いたの?」

「うん…普通のクッキーより日持ちするから…作り置きしてあった…」

「ニコは人間の料理を食べても、お腹は満たされないんでしょ?」

「僕も半分は人間だから少しは満たされるよ…」

「そうなんだ?私…まだニコの事…何も知らない…」

「勉強会では勉強の話しかしないし…」

「本当はね、ニコの好きな事とか知りたかったんだ」

「そんな事…知ってどうするの?」

「ニコにお礼がしたくても、リストバンドくらいしか思い付かなくて…」

「ああ…このリストバンド…気に入ってるよ?」

「ニコがリストバンド、ずっと使ってくれてるから嬉しかった!」

「買ったやつは少しゴムがキツくて…締め付けられると…奴隷にされてた頃を思い出すから」

「リアムのお姉さんからニコは奴隷にされてたの?」

「ううん…お姉さんだけじゃなくて…セフィロトの魔族たち全員に…」

「リアムのお姉さんは一応…ニコの味方みたいだけど…」

「毎日毎日…罵詈雑言浴びせかけられて…家庭内暴力を振われていたけどね…」

「そんな怖い人に見えなかったけど…」

「お姉さんは…顔は美人だけど…性格が良くないから…」

「でもキャンベル先生だって、かなり言う事がキツいと思うんだけど、ニコは仲良くしてるわよね?」

「キャンベル先生が…キツいと思った事ないけどなぁ…」

「あんなにキツく叱られて、ニコはよく平気だなぁと思いながら見てたのよ?」

「う~ん。お姉さんに比べると…キャンベル先生は可愛いものだから…何とも思ってなかった…」

「私の事も嫌ってなかったよね?男子は私の事、性格キツいって言うんだけど」

「僕は…ペニーの性格が…キツいと思った事は…一度もないよ…」

「本当にニコは変わった男の子だなって思ってた…」

「そうかな?僕は…自分が普通だと思ってる…」

「私ね…実はキンダーガートンで好きな男の子がいたのよ…」

「へぇ~、ペニーにも…好きな男の子がいたんだ?」

「名前は覚えてないんだけど…めちゃくちゃカッコいい男の子で…女の子にモテモテだったわ…」

「そうなんだ…。ちょっと…そいつの事が気になるな…」

「私…肌の色でいじめられてたから…その男の子が…肌の色でいじめるのはおかしいって言ってくれて…」

「ペニーの浅黒い肌は…素敵だと思うけどね…」

「それから二人でピクニックに行ったんだけど…そこでその男の子にキスされた…」

「キンダーガートンで…キスするなんて…マセてる子供だなぁ…」

「ニコ…私と…キスしてみない?」

「どうしたの?急に…。ペニーらしくないよ…」

「このまま…ここにいたら…私たち…死んじゃうんでしょ?」

「あと二刻くらいは…酸素が持つと思うけど…」

「もし二刻以内に…カーティス先生と…キャンベル先生が…助けに来なかったら…死んじゃうんだよね?」

「さっきから…何とかならないか考えてるけど…何も思い付かない…。ごめんね…」

「じゃあ最後にキスして?死ぬ前の思い出に…」

「まだ死ぬかどうか…わからないよ?」

「生きてるうちにしたいの…。このまま死んじゃったら…思い残す事があって…成仏できない…」

「本当にいいの?寿命が…縮んでしまうけど…」

「どうせ死ぬんだから…縮んでも同じでしょ?」

 ニコがキスするとペニーはうっとりした表情で呟いた。

「やっぱりキンダーガートンの頃に好きだった男の子はニコだったんだ…」

「どうしてそう思ったのか…」

「キスの味が一緒だからよ…」

「キスの味なんて…わかるの?」

「アカデミーにいた頃に何人かとキスしたけど、あんなに甘くてとろけるようなキスはなかったから」

「ペニーは男の子と…キスとかしない子だと…思ってたよ?」

「ニコが悪いんだよ?私のファーストキスを奪って…。それからすぐ居なくなっちゃって…」

「僕は…アカデミーには…通わせてもらえなかったから」

「アカデミーに入ったら…またニコに会えると思ってたのに…居なくて悲しかった」

「それって…十年前の話だよね?」

「うん…でも私の初恋の人がニコだったんだ…」

「僕もよく覚えてなかった…。実はキンダーガートンにいた頃から…色んな女の子とキスしてたから」

「また会えたのに…ニコはもう私にはキスしてくれないから…辛くて悲しくて」

「ペニーにキスしたら…僕が嫌われると思って…しなかっただけだよ」

「アカデミーに…ニコが居たら良かったのに…」

「もしアカデミーに通ってても…問題を起こして退学にされてた気がするよ…」

「アカデミーにいた頃は…私が勉強でわからなくても…教えてくれる男の子なんか…一人もいなかったもん…」

「ペニーより…頭の良い男子が…少ないからね」

「男子なんて馬鹿ばっかり!」

「カーティス先生とキャンベル先生も…アカデミーの頃は…勉強会してたんだって」

「カーティス先生は頭が良いもんね?私がキャンベル先生でもそうするわ」

「カーティス先生と…キャンベル先生が…結婚したら…幸せになれそうだよ…」

「私もそう思う!あの二人、お似合いだよね?」

「母さんもラインハルト様と結婚して…幸せになるんだろなぁ…」

「私も…ニコと結婚したかったなぁ…」

「僕と結婚しても…幸せにはなれないと思う…」

「幸せかどうかは私が決めるわ?」

「そんな事より…ここから出る方法を…考えないと」

「もうどうでも良いよ!そんな事より…もう一度キスして?」

「なんか…自暴自棄に…なってない?いつものペニーじゃない…」

「どうせ死んじゃうんだから、良い子ぶったってしょうがないじゃない!」

 ペニーはニコを押し倒して無理やりキスを繰り返した。自分の服のボタンを外して胸元をはだけさせる。

「好きなの!ニコの事が大好き…」

「ペニー…落ち着いて…君らしくない」

「ニコは私の事なんか…全然、好きじゃないんだ?」

「ペニーの事は大好きだよ…。好きにならないように…気持ちを抑えるのが…大変だったんだ…」

「だったら…私を抱いて…」

「それはダメだよ…。キスよりもたくさん寿命が縮んでしまうから…僕の母さんはそのせいで…すぐに死んだんだ…」

「どうせ酸素がなくなったら、死ぬんだから、寿命なんてどうだって良いでしょ?関係ないわ!」

「僕…そう言う事は初めてだから…上手くできないかもしれないよ…」

「私だって初めてよ?今まで男子とそんな事したいと思った事なかったから…」

「下手でも…笑わないで…」

「ニコが初めてって思ってなかったから…嬉しい!」

「お姉さんが人間の男と…してるところはよく見てたから…やり方はわかってる…」

「そんなの…見てたんだ?」

「僕はお姉さんの部屋で…檻の中に入れられてたから出られなくて…目を閉じてても声は聞こえてくるし…」

「私もリアムのお姉さんほど…上手にはできないと思うけど…頑張るから」

「二人で…頑張ろう…」
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