甘味食して、甘淫に沈む

箕田 はる

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「ここがボクたちの寝室だ」
 夕暮れの青白い光が差し込む部屋はおおよそ十畳ぐらいの広さだった。日当たりの良さそうな大きな窓が正面にあり、その前の左側には人が二人余裕で寝れそうな白い布団が乗った寝台しんだい。寝台横には洋燈の乗った台が置かれている。
 寝台の反対側には、丸い大きな鏡の乗っている洋机が備え付けられていた。
 寝台が一つしか無いことに、春信が不思議に思っていると、視界を遮るように清次が目の前に立つ。
「春信君」
 これから告げられる事に、春信は妙な胸騒ぎを感じていた。
「今日から君は、ボクの伴侶になる」
 清次は背広の内側から小さな箱を取り出すと、それを春信の前で開く。中には白銀の指輪が二つ収められていた。
 耳を疑う発言に春信は狼狽しながら、清次の手元を凝視した。
 最近、西洋文化の流れに乗って、結婚指輪をするものが増えたことは知っていたが、春信は新聞の広告でぐらいしか目にした事がなかったのだ。それに結婚指輪というものは、婚約した婦人が付けるものであり、男性は基本的にすることはないはずだ。
「ハイカラに思えるかもしれないけど、どうしても君との証が欲しくてね」
 箱から指輪を取り出しつつ、清次が照れくさそうに口角を上げる。
 春信の冷たくなっている左手を取ると、その薬指に清次が指輪を通す。
 春信の意思は置いてきぼりで事が進んでいく。そのことに、声を発する事も出来ないまま、今までにない指の違和感だけ感じていた。
「うん。よく似合うよ」
 自らの薬指にも同じ指輪を嵌めながら、視線は春信の指先に向けられている。
「……僕は女じゃない」
 掠れた声でやっと、春信が言葉を発する。
「もちろん知ってるよ。君を女とは思っていない。だから君を養子に迎えたんじゃないか」
「そんな……まさか……」
 春信は一歩後ずさる。さっきまで尊敬し、羨望していた相手がまるで、謀略家のように目に映る。
「この国は同性での結婚は認められていないからね。ならばと思って、父に進言した」
「……ご当主に? こんなこと、許されるはずがない」
「父に関しては何も心配することはないよ。それだけの事をボクは父にしてきた。これからも、それは変わらない」
 それが一体どんなことなのか。気にはなったが、春信はそこには触れる気には今はなれなかった。
 ただ、この状況を素直に受け入れる気にはなれず、春信は指輪を外そうと薬指に手を掛ける。
「実はね、君の実家の和菓子をうちの所から外国に出荷しよう思っているんだ」
 春信は手を止めて、清次の方を見る。
「保存が利く羊羹が向こうで軍需品として流行っていてね。君の実家と縁が出来るのであれば、そこで仕入れるのが道理だと思うのだが――」
 わざとらしく思案する清次を前に、春信は臍を噛む。
 そうなれば、店にとって大きな収益が見込めるだろう。今回の件で借金が減ったとはいえ、継続的な収益がなければ同じ轍を踏むことは必至ひっしだ。答え次第でそれが決まるとなれば、腹を括るしかなさそうだった。
「その前に君の答えを聞いていなかったね。ボクの伴侶になってくれるかい?」
 春信は覚悟を決めると、真っ直ぐに清次を見つめる。
「謹んでお引き受けします」
 清次は満足そうに、「そうか。良かったよ」と笑む。
「畏まる必要はないからね。君はありのままの君で、ボクの隣にいてくれれば良い」
 春信は力なく頷く。あくまでも、主従関係を望んではいないようだった。
「その判断を君が後悔することのないように、ボクは尽力する心持ちでいる」
 清次の影が春信を覆う。硬い表情で立ち尽くす春信の左手を清次が優しく取る。柔らかな唇が指輪越しに落とされる。様になる光景ではあるが、春信はまんじりともせずにされるがままになった。
「君がボクの傍に居る限りはね」
 独占欲を滲ませた視線と共に清次が囁く。
 小さく頷きながら、春信はもう二度逢うことが叶わないであろう明臣を思う。 
 せめて幸せに暮らしてほしい。それを願うことが、春信が出来る唯一の事だった。
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