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「それで僕は家にいるし、手伝いたいと思ってるんだ。ただ、倉田さんが嫌がると思うから、清次君から言ってはもらえないだろうか」
春信は清次に向かって、お伺いを立てる。だが、清次は「心配には及ばないよ」と苦笑する。
「実はね、もう一人雇おうと思っていてね。二人だったら、問題はないだろう」
「でも、それだとお金がかかる」
「君はお金の心配ばかりするね。関心ではあるが、ボクだって考えなしに行動はしないよ」
それから清次は実はね、と切り出す。
「君には別のことをお願いしたいと思っているんだよ」
「別のこと?」
「新しい和菓子の開発を担ってもらいたいんだ」
春信は驚いて、「僕が?」と聞く。
「そうだよ。詳しい話はまた今度するけど、和菓子が好きな外国人の知り合いがいてね。向こうで和菓子を売りたいって言うんだ。それで君に白羽の矢が立ったというわけだよ」
「そんな……僕に出来るかどうか」
自信なさげに春信は呟く。
日本ですら自分の味を売り出していないというのに、外国で売り出すなんてもっと厳しいように思えてしまう。
「大丈夫だ。お前なら出来る」
明臣が力強く春信に向けて言う。
「ずっとお前の傍にいて、誰よりもお前の味を知ってる俺が言うんだ。自信持てよ」
一番苦しい時期に、傍にいてくれた明臣だからこその説得力がそこにはあった。
「そうだよ。ボクは君だからこそ、推薦したんだからね」
後押しするように清次にも言われ、春信は決意を固める。
「分かった。やってみる」
また和菓子に携われると思うと、春信の心は沸き立つ。
それに自分が愛する二人が言うのだから、きっと出来るはず。そんな自信を与えてくれる二人の存在の大きさに、春信は胸が熱くなっていた。
朝食を終えると、二人を見送る為に春信は玄関の外に立った。
「じゃあ、行ってくるよ」
清次が帽子を被り微笑む。それから人がいるのもお構いなしに、春信に近づくなり口付ける。
「えっ、ちょっと」
春信が慌てふためくのを見て、さらに明臣も「だったら、俺も」と春信の腕を引き無理やり唇を奪う。
「二人とも、早く行って」
春信は赤面しながら追い立てる。
倉田が呆れた目で、そのやり取りが済むのを待っていたのを春信は気づいていた。
「今日こそ早く帰るからね」
清次が名残惜しそうな顔で、外へと足を踏み出す。
「こいつより先に、帰ってやるからな」
明臣も春信に言い残し、清次の後を追う。
春信はなんやかんや仲良さそうに、話している二人の背を見送る。
「こんな不思議な関係性を私は今まで見たことありませんよ」
倉田が重い溜息を吐きながら、愚痴を漏らす。
「うん。歪だし、不道徳かもしれない。だけど、僕は今が一番幸せだと思う」
三人で愛し合う事は周りから見れば、歪な関係にしか映らないだろう。だが、春信はそれでもこの関係を今はやめる事が出来そうもなかった。
「それはようございます」
倉田はそう言い残して、家の中へと引っ込んでしまう。
冷たい風が、春信の頬を通り過ぎる。これから来るであろう冬のはじまりを告げているように。
だが、春信の心は春が訪れたように、暖かさで満ちあふれていた。
了
春信は清次に向かって、お伺いを立てる。だが、清次は「心配には及ばないよ」と苦笑する。
「実はね、もう一人雇おうと思っていてね。二人だったら、問題はないだろう」
「でも、それだとお金がかかる」
「君はお金の心配ばかりするね。関心ではあるが、ボクだって考えなしに行動はしないよ」
それから清次は実はね、と切り出す。
「君には別のことをお願いしたいと思っているんだよ」
「別のこと?」
「新しい和菓子の開発を担ってもらいたいんだ」
春信は驚いて、「僕が?」と聞く。
「そうだよ。詳しい話はまた今度するけど、和菓子が好きな外国人の知り合いがいてね。向こうで和菓子を売りたいって言うんだ。それで君に白羽の矢が立ったというわけだよ」
「そんな……僕に出来るかどうか」
自信なさげに春信は呟く。
日本ですら自分の味を売り出していないというのに、外国で売り出すなんてもっと厳しいように思えてしまう。
「大丈夫だ。お前なら出来る」
明臣が力強く春信に向けて言う。
「ずっとお前の傍にいて、誰よりもお前の味を知ってる俺が言うんだ。自信持てよ」
一番苦しい時期に、傍にいてくれた明臣だからこその説得力がそこにはあった。
「そうだよ。ボクは君だからこそ、推薦したんだからね」
後押しするように清次にも言われ、春信は決意を固める。
「分かった。やってみる」
また和菓子に携われると思うと、春信の心は沸き立つ。
それに自分が愛する二人が言うのだから、きっと出来るはず。そんな自信を与えてくれる二人の存在の大きさに、春信は胸が熱くなっていた。
朝食を終えると、二人を見送る為に春信は玄関の外に立った。
「じゃあ、行ってくるよ」
清次が帽子を被り微笑む。それから人がいるのもお構いなしに、春信に近づくなり口付ける。
「えっ、ちょっと」
春信が慌てふためくのを見て、さらに明臣も「だったら、俺も」と春信の腕を引き無理やり唇を奪う。
「二人とも、早く行って」
春信は赤面しながら追い立てる。
倉田が呆れた目で、そのやり取りが済むのを待っていたのを春信は気づいていた。
「今日こそ早く帰るからね」
清次が名残惜しそうな顔で、外へと足を踏み出す。
「こいつより先に、帰ってやるからな」
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「それはようございます」
倉田はそう言い残して、家の中へと引っ込んでしまう。
冷たい風が、春信の頬を通り過ぎる。これから来るであろう冬のはじまりを告げているように。
だが、春信の心は春が訪れたように、暖かさで満ちあふれていた。
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