君との怪異に僕は溺れる

箕田 悠

文字の大きさ
上 下
47 / 259
第二章「正真」

15

しおりを挟む

「お姉さんの彼氏……ずいぶん遊んでいるみたいなんで、気をつけた方がいいですよ。憑いてた女性が、お姉さんの事睨んでいたんで」

 淡々と述べる神近くんの言葉に、僕はゾッとして一気に血の気が引いていく。

「おかしいとは思っていたんです。鐘島先輩の話では、妙な女性の声がしたから見て欲しいと言ってきたので……」

 パズルを片し終えた神近くんが、僕に振り返る。

「先輩に憑いているのはどう見ても男性ですし、その辺で拾ってきた無害の浮遊霊でしたから」

 浮遊霊だろうと性別が何であろうと、僕はどうでも良いぐらいにガタガタと震えていた。姉のことを睨む女の霊。何度もテレビで見た青白い顔の女が姉の後ろに張り付き、僕の部屋にまで入ってきたと想像すると怖くて堪らなくなってしまう。

「か、神近くん……」

 僕は思わず、神近くんにしがみつく。

「なんですか? もう居ないんだから良いでしょ」

 神近くんは鬱陶しいという表情で、僕を見下ろしてくる。

「今日は家に遅くまで誰も居ないんだよ。帰れない……」

「じゃあここに泊まりますか?」

 神近くんが意地悪そうな顔で、口角を上げる。そうこうしているうちに、オレンジ色に染まっていた部屋が薄暗く影を落としていく。

「神近くんも一緒?」

「そんなわけないじゃないですか。俺は帰ります」

 神近くんはすがりついていた僕の手をどかすと、帰り支度を始めてしまう。

しおりを挟む

処理中です...