君との怪異に僕は溺れる

箕田 悠

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第六章「帰省」

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 気づけば少し日が落ちかけていて、オレンジ色の夕日が緑の生い茂っている田畑に赤みを差している。遠くの山々からは蝉時雨が聞こえ、夏も半ばだと感じさせられた。

「先輩」

「ん?」

「あれはプロポーズか何かですか?」

 なんの事を言っているのか分からず僕が首を傾げていると、数歩先を歩いていた神近くんが立ち止まり振り返った。逆光によってどんな表情をしているのか、暗い影に落とされていてよく分からない。

「死ぬまで一緒にいるつもりです、だなんて普通は言わないですから」

「えっ……」

「父さん、凄く驚いた顔してましたよ」

 あれは気づかれたかもしれませんねと言って、神近くんは前を向いて再び歩き出す。僕は慌てて神近くんの隣に並ぶと「ごめん」と謝った。

「バレちゃったかな……」

 これから先も友達ですとか、仲良くしますとか何で出てこなかったんだろうかと、今更ながら悔やんでしまう。

「別に……先輩らしくて良いと思いますよ」

 神近くんはそう言って口元を緩める。怒られるかと思っていたけれど、緩く上がった口元からは機嫌が良いのだと感じられホッとした。

「もう取り憑かれたりしないでくださいね」

 ホッとしたのもつかの間、神近くんの言葉に僕は黙って項垂れたのだった。


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