君との怪異に僕は溺れる

箕田 悠

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第七章「虚像」

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「でも、神近くんは僕に信じてるって、言ってくれたじゃん……」

「先輩が単純だから、そう言っておけば少しはちゃんと考えるかなと思っただけです」

 ポロポロと涙が溢れて、神近くんのシャツの袖がじっとりと濡れていく。きっと相当嫌なはずだ。何てったって神近くんは、綺麗好きなのだから。恐る恐る顔を上げて「汚くてしてごめん」と僕は鼻を啜る。

 神近くんは僕に向き直ると、顔を近づけてきて頬に唇を寄せた。柔らかい唇の感触を頬に感じ、ビクッと体が跳ね上がる。神近くんの手のひらが僕の頬を掴むと、何度も唇が落ちていく。

「えっ、か、神近くん?」

 何でそんな事をしているのか分からない僕は、驚きのあまり体が硬直していた。

「汚くなんかないですよ」

 神近くんがそう言って僕の目をじっと見つめてくる。間近に迫った神近くんの真剣な眼差しに、僕は頬が一気に熱くなる。

「神近くん……」

 嬉しさと恥ずかしの入り混じった気持ちを誤魔化すように、僕は自分から神近くんの唇を奪った。こんな場所でキスしているなんて、神近くんの家族も知り合いも考えもしないだろう。見られたら大変な騒ぎになりそうだった。でも分かっていても、僕は離れたくはない。

 何度も角度を変えては、口づけを交わし合う。幸せな気持ちと、僕だけは絶対に神近くんを信じようという決意が心を満たしていく。

 遠くから聞こえる蝉の声と川の音はいつの間にか、聞こえなくなっていた。

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