恋する熱帯魚

箕田 悠

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第七章

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「ここから離れたくないんだろう? だったら、俺がここに来ればいい」

 本意ではないせいか、自ずと表情は険しくなった。本当だったら、ここを辞めてほしい。でも彼が感情を荒げてしまうほどに、それを拒否している。これ以上、自分の我を通そうとすれば、二度とハルヤに会えなくなるかもしれなかった。

「なぜ……そこまでして……」
「言っただろう? 俺は君が好きなんだ」

 ハルヤは表情を曇らせ、黙り込んでいる。

「客として来るのもだめなのか?」

 ここまで何かに固執するのは、熱帯魚以来のことだった。自分でも驚きだったが、好きであることは変えようがない。

「それは……」

 ハルヤは逡巡するように、俯いたままだった。

「月に一度でも良い。俺に抱かれたくないんだったら、こうして金魚を一緒に見るだけでもかまわない」

 松原は緊張のせいか少し汗ばむ手で、背広から名刺を取り出した。

「何か困ったことがあったら連絡してくれ。どんなことでもいい。餌がなくなったとか、金魚が元気がないとか」
「結局は金魚なんですね」

 ハルヤが少し呆れたような表情で、松原から名刺を受け取った。受け取ってくれたことに安堵し、松原は肩の力を抜く。

「一番は君に会いたいからだ。それに以前、君は男に絡まれたことがあっただろう。危険な目に遭わないか心配なんだ」

 ハルヤの表情が瞬時に曇った。やはりハルヤにとって、あの男の存在は厄介なのだろう。他の男に抱かれる嫉妬心に加え、ハルヤの身の安全も心配だった。

「……ご心配には及びませんので」

 そう言ってハルヤは、取り繕うような笑みを浮かべる。なかなか心を見せないハルヤに、松原はやるせない気持ちで拳を握った。

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