恋する熱帯魚

箕田 はる

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第十章

7

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「……キミヨさんに初めて教わった料理なんです。煮物ぐらい作れなきゃだめだって言われて……」

 酔いが回っているせいなのか、自然と口数が増えてしまう。

「母に……食事を作ることは多かったのですが、下手だったので……」
「君が話してくれた男の話は、君のことなんだろう?」

 松原の問いかけに、春夜は迷った末に頷いた。お金を払っていない松原は、今日は客ではない。キミヨが特別扱いしたのだから、自分だって――と春夜は少し反抗心が芽生えていた。

「大変だったな」

 松原の労るような言葉に、春夜は首を横に振る。

「……いえ。僕が何の役にも立てなくて、母が愛想を尽かしただけのことで――」
「それは違う」

 松原はきっぱりとした口調で遮った。

「君は何も悪くない」
「えっ……」

 松原は固い表情で、視線を落としていた。

「俺は君の全てを知っているわけじゃない。それでも君が苦労してきたってことぐらい分かる」

 グラスを持つ、松原の手が微かに震えていた。

「……あなたが思っているほど、僕は同情されるような人間じゃないんです」
「そんなことはない」

 断言するような口調で松原に言われ、春夜は少し可笑しくなって口元に手を当てた。松原に訝しげな視線を向けられても、笑みを引っ込めることができない。
 松原は何も知らないから、自分にそんなことを言えるのだ。
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