淫愛家族

箕田 はる

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 翌朝になっても涼華は帰ってはいなかった。
 隣に並んだ空っぽのベッドに、睦紀は自然と溜息を漏らす。憂鬱な気分のまま、クローゼットからスーツを取り出し、姿見の前で身支度を調える。
 階下に降りて洗面所で顔や歯を磨いてから、広々としたリビングに向かうと、すでに新聞を広げている俊政がいた。
 睦紀が挨拶すると、俊政が穏やかな表情で挨拶を返す。

「昨日は随分と遅かったようですね。お疲れなんじゃないんですか?」

 俊政の斜め前の席に腰を下ろし、睦紀は問う。

「そうだな。もう五十になるせいか、昔に比べると少し疲れやすくなった気がするよ」

 そう言って笑みを浮かべる俊政は、撫でつけた黒髪に白髪一つ無く、五十になるとは思えないほど若々しい。春馬に負けず劣らず容姿端麗で、熟成した男の色気がある。だが、春馬に比べて表情は常に穏やかで、物腰も柔らかい。
 家政婦の瑞恵みずえが睦紀の前にもコーヒーを置き、睦紀は礼を言って頭を下げた。

「そんな畏まらなくてもよろしいんですよ」

 瑞恵はそう言って、困ったような笑みを浮かべる。睦紀にしてみれば、食事や家事を給仕する人間が家にいることなど、まずあり得ないことだ。堂々としていればいいのだろうが、どうにも落ち着かなかった。

「もうすぐ一年になるというのに、睦紀はまだ慣れないみたいだね。でもちゃんと礼儀を弁えているところは好感が持てるよ」

 そう言って優しげな笑みを浮かべる俊政もまた、瑞恵から朝食を出されると礼を口にした。

「美味しそうだね。春馬がまだ来ないようだけど先に頂こうか」

 そう言って俊政はナイフとフォークを手にし、目玉焼きに手を付ける。
 昨日の夜遅かったこともあり、春馬は出勤時間ギリギリまで寝るのだろう。心配ではあったが、家主が食べている横で手を付けないわけにはいかず、睦紀もフォークを手に取る。目玉焼き一つ取ってしても品良く食べる俊政に、自分との育ちの差を思い知らされてしまう。
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