淫愛家族

箕田 悠

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 睦紀が目を覚ますと、見覚えのない天井が目に入る。いつもとは違う部屋の雰囲気に慌てて身を起こし、ここが俊政の部屋であることに愕然とした。

「おはよう、睦紀。よく眠れたかい?」

 声のする方に視線を向けると、既にスーツを着て新聞を広げている俊政がベッドに腰掛けていた。

「すみません。占領してしまったようで――」
「良いんだ。睦紀の寝顔が見れたお陰か、私も朝までぐっすり眠れたよ」

 俊政はそう言って、声を弾ませている。それでも朝まで寝入ってしまったのは想定外だった。

「まだ出勤までたっぷり時間がある。シャワーでも浴びて、ゆっくり朝食を取ると良いよ」
「はい……そうします」
「私もこれを読んだら、下に降りるから」

 穏やかな口調に促され、睦紀はそそくさと部屋を出た。
 詰めていた息を吐き出しつつ、自室へと向かう。涼華はきっと、すでにいないだろう。結局、話し合いのチャンスは逃してしまった。滅多に帰ってこない涼華のことだから、この機会を逃したら次はいつになるか分からない。
 それでも熟睡したおかげか、頭は冴えていた。以前よりは悲観的な気分にならず、根気よく説得しようと思い至る。俊政は自分をよく見てくれ、理解してくる存在であることが分かっただけでも心強かったのかもしれない。解決に至らなければ、正直に涼華との関係を俊政に相談しようとまで思えた。
 睦紀が自室の扉を開けると、思っていたとおり涼華の姿はなかった。想像していた通りだけあって、ショックは少ない。
 クローゼットから着替えを出そうとしたところで、ふと昨日着ていたスーツがないことに気づく。睦紀の会社でもクールビズの時期に差し掛かっていたこともあって、今日にでもクリーニングに出そうと思っていたところだった。
 疑問に思いつつも、睦紀はシャツとスラックスだけ持って二階を降りる。シャワーを浴びて、身だしなみを整えるとリビングへと向かう。


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