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結婚記念日当日。涼華は時間通りにホテルのラウンジに姿を現した。
結婚記念日だからといって、涼華が来てくれるとは限らない。それでも睦紀は、自分にとって敷居の高いホテルのディナーを予約していた。それが睦紀にできる最大限のことだったからだ。
来てほしいようで、来てほしくない。
どちらとも付かない感情に、涼華を前にしても睦紀はなんとも言えない表情で迎えた。
「行こうか」
言葉数少なく、睦紀は涼華を連れ添ってエレベーターに乗り込む。
背後がガラス張りの箱の中で、睦紀は固い表情で眼下に沈む夜景を見下ろす。沈黙を打ち破るように甲高い音が響き、扉が開く。
受付で予約していたことを告げると、品のいいウエイターに窓際の席を案内された。
「結婚記念日だっていうのに、随分と暗い顔ね」
最初のワインで乾杯するなり、涼華が口を開く。
「今日はなんで来てくれたんだ?」
「なんでって、あなたが結婚記念日だから、この場所で会いたいって言ったんじゃない」
「普段は家にすら帰ってこないから、てっきり来ないかと思ってた」
睦紀は不服そうな声で言った。
落ち着いて話そうと思っていたはずが、つい憤りに口調が荒っぽくなる。そもそも涼華が家に帰ってきていれば、間違いは起きなかったはずだ。
「不満を言うために、わざわざこの店を予約したってわけ?」
前菜が運ばれ、早々に口をつけながら涼華は言った。
「どうして、家に帰ってこないんだ? 僕との結婚に何か不満があるのか?」
「不満なんてないわ」
「じゃあ、どうして……」
「あなたは、今の生活に不満でもあるの?」
睦紀の質問には答えず、涼華は問う。
「私が帰ってこないからって、何も困る事なんてないでしょう」
「そんなことは――」
「父と兄と、寝たんでしょ?」
唐突に言われ、冷や水を浴びたように全身が総毛立つ。青ざめる睦紀に「別にいいの」と涼華は冷静に続ける。
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