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瞬間移動装置とエフ氏

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人類が長年夢見てきた『瞬間移動装置』が開発されたのは、2136年の事だった。
科学者たちは装置の完成を大いに喜び、連日にわたって『物体』を使用した実験を行った。
そして瞬間移動装置の安全性が確認されると、科学者たちはいよいよ『人体』を使用した最後の実験を行うことに決めた。
被験者はこの装置の開発に尽力した科学者の一人であるエフ氏だった。
瞬間移動には2つの扉のような機械が必要であり、どれだけ離れた場所に居ても一方の扉から入ると、もう一方の扉から出てくるという仕組みになっている。

そこでエフ氏と数人の科学者たちは、一つの扉を持って研究所のある東京から北海道へと飛行機で飛んだ。
「無事に北海道に到着しました。それではこれより、北海道~東京間による人体の瞬間移動の実験を始めます」
北海道に到着したエフ氏から東京の研究所にそう電話があった。
「それでは実験開始まで、3・2・1」
電話越しにエフ氏がそう言うと、次の瞬間、北海道にいたはずのエフ氏が東京の研究所にあるもう一方の扉から出てきた。
「やったぞ!成功だ!!」
科学者たちは実験の成功を大いに喜んだ。
そしてすぐにエフ氏の身体検査がその場で行われたが、エフ氏の身体には異常は見られなかった。
「これでようやく、この瞬間移動装置が完璧な装置であると証明された!」
研究所の科学者たちは皆、口を揃えて言った。

その時、研究所に一本の電話がかかってきた。
「もしもし、皆さんすいません。実験は失敗です。なぜだか分からないのですが、扉を通った瞬間にこちらに戻ってきてしまうんです。何度も試してみたのですが、なぜだか東京にあるもう一方の扉から出ることが出来ず、入ったはずのこちらにある扉から出てきてしまうんです」
それは紛れもなくエフ氏の声だった。
「すいませんが、飛行機で一度東京に戻ります。原因を解明してから、もう一度検証してみましょう」
そう言って電話は切れてしまった。
東京の科学者たちはお互いに目を合わせながら、混乱している脳内を必死に整理しようとした。
今の電話は間違いなくエフ氏からだった。
電話の内容からするに、今回の実験は失敗でエフ氏は今も北海道にいることになる。

・・・それじゃあ、今ここにいる彼は一体誰なんだ?
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