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真夜中のラヴソング
しおりを挟む夜は、人の命が儚いものだという事を思い知らせてくれる魔法の時間だ。
だから人々は、歳を重ねるにつれ夜と親しくなっていく。
幼い頃は夜に憧れ、次第に夜と親密になり、
最後はあまりにも身近になり過ぎた夜が怖くなる。
だけど、僕は幼いころから夜と仲良しだった。
僕がケンジと一緒に初めてギターを練習したのは、
今から三ヶ月ほど前だった。
「彼と一緒に作っていた曲があるんだけど、その曲はまだ完成してないの。
でも、あの曲は彼一人じゃ完成しないの。
だから、彼と一緒にあの曲を完成させてくれない?」
彼女にそう頼まれた僕は、仕方なく隣町の高校に通う彼に会いに行き、
それから三ヶ月間、彼と一緒にギターを練習し続けた。
そもそも僕は、ギターなんてものは
生まれてこのかた一度も弾いたことがなかった。
それに、僕は人付き合いが苦手だし、
他人に心を開いたことなんて、今までに一度も無かった。
それでも僕が彼女の願いを引き受けたのは、
彼女やケンジが僕と同じ高校二年生だったからだ。
同級生であれば、多少は気を使うことなく話をすることが出来た。
もし彼女やケンジが僕と同じ高校二年生でなければ、
僕は彼女のお願いを断っていただろうし、
ケンジに会いに行くことすらしなかっただろう。
「ショウくん、ずいぶん上手くなりましたね!これくらい弾ければもう十分ですよ!」
「俺は音楽のことはよくわからないけど、お前がそう言うのならそうなんだろう。
あとは、お前次第だぞ」
「・・・ショウくん、今晩って空いてますか?」
「俺は構わないけど、良いのか?」
「はい、今晩でお願いします。
こんな事を言ったら彼女に怒られるかもしれないけど、
僕からすれば、今日でも明日でも明後日でも同じですから。
それなら、一日でも早く聴かせてあげたくて」
その日の夜、時計の針が夜中の十二時を指してから少し経った頃、
僕とケンジは彼女に会いに行った。
「それじゃあショウくん、良いですか?」
「ああ、いつでも大丈夫だ」
毎日のように二人で練習したその曲を、僕らは彼女の前で弾いた。
その曲は、彼女と二人で一緒に弾くために彼が書いた
ギター二重奏の曲だった。
二人で弾くことで初めて完成するその曲は、
彼と彼女が過ごしたかけがえのない日々を綴ったラヴソングだった。
「大丈夫か?」
「はい。彼女は、ちゃんと聴いてましたか?」
「お前の真正面に座って、しっかり聴いてたよ」
「彼女、何て言ってます?」
「凄く良い曲だってさ。それと、夜中にこんな所まで来させてゴメンって言ってたよ」
「むしろ貴重な体験ですよ。
彼女がいなかったら、夜中にこんな場所に忍び込んでギターを弾くことなんて、
一生無いですからね。
それより、会いに来るのが遅くなってゴメンって、彼女に伝えて貰っても良いですか?」
ケンジにそう言われて、僕は何も言えなかった。
「・・・もしかして、彼女はもういないんですか?」
「ああ。ごめん」
「どうしてショウくんが謝るんですか。僕らのためにここまでしてくれて、本当にありがとうございました」
ケンジは同じ歳の僕に向かって、頭を深く下げた。
「あいつが消える前、お前に伝えてくれって頼まれたよ。
『私はもう大丈夫だよ』だってさ」
「・・・ショウくん、僕はこれからどうしたらいいんでしょうか?」
目を真っ赤にした彼が、僕にそう尋ねた。
「そんな事、俺に聞くなよ。それが彼女の本心だと思うならそうすればいいし、
彼女がお前のことを想って言ったんだと思うのなら、そう思い続ければいいだけだろ」
「・・・そうですよね。それは、僕が自分で考えなきゃいけない事ですよね。
僕、ショウくんのことをずっと怖い人だと思ってました。でも、本当は凄く優しいんですね」
「バカヤロウ、今更かよ。見ず知らずのお前らのために、俺は三ヶ月間もギターを猛練習したんだぞ。
言っとくけどな、俺以上に優しい奴なんてそうそういないからな」
するとケンジは、
「たしかに、その通りですね」
と言いながら、一瞬だけ僕に笑顔を見せた。
「僕はそろそろ帰ろうと思います。ショウくんはどうします?」
「俺はもう少しここに残るよ」
「わかりました。ショウくん、本当にありがとうございました」
その日を最後に、僕がケンジや彼女と会う事はなかった。
夜は、人の命が儚いものだという事を思い知らせてくれる魔法の時間だ。
そんな夜が、僕は昔から大好きだった。
それに、夜になれば彼らと会う事が出来る。
なぜだかは分からないけど、
こんな僕でも彼らには少しだけ心を開くことが出来た。
僕は幼いころから、夜とだけは仲良しになれた。
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