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その頃二人の王子は…
「カーネル殿!」
「なにをなさっているのですトラチヨ様、あなたの組はもう出発ではございませんか?」
先ほどとうって変わって礼を失せぬ口調。
私は賓客、そしてゴールドスタインの正妃筋。彼は同じ王族だが側妃筋。カーネルのこの弁えた礼節はさすがは鍛えられた王族といったところか。
だがどうしても一言もの物申しておかねばならぬことがある。それほど私は彼の振舞いに一抹の危惧を抱いていた。
「先ほどのあれはどういうつもりだカーネル殿。君は分かっているはずだ。オリヴィエは私の…私の…」
私の何だ?私は何を言うつもりだ!
「あなたの友人。それ以上でも以下でもない。違いましたか?」
「ぐ…、違わない…」
ああ…まだ私は彼の何者でもない、そんな当たり前のことを改めて思い知らされる。
「いいですかトラチヨ様。兄上タケチヨ殿下を説き伏せてまで滞在を延長なさった健気さには敬意を表しますが、彼オリヴィエは私たちの妃選考会に参加しているのですよ?」
「わかっている!だが彼は…」
彼の目的は領の再建、王子妃ではないはずだ!
「いい機会だから言っておきますがベネディクト兄様も彼には興味を示しています」
「な…!」
なんと言うことだ!
あの気難しいベネディクト殿下がオリヴィエに?
「この際だからお伝えしておきますが…この私もです」
「やはりか…」
先の物言いをみていればそれは容易に想像がつく。
「二次の時から思っていましたが…意外性のある方ですね、彼は」
「そうとも。カーネル殿、君に分かるとは意外だ」
「そうですか?」
「君は伯爵家のメイベル嬢のように甘く可憐な女性が好みかと思っていたよ」
「…可憐なだけではだめなのですよ…」
「と言うと?」
「…私は側妃筋の第三王子。あなたやジェラルド兄様とは違う立場です。だからこそ私は常に気を張っている…癒しが欲しいのですよ。疲れた私を包み込むような…そのような方が良い」
確かに…彼は兄たち、特に王太子である長兄に対しけして配慮を怠らない。
「分らないでもないが…癒し、それがオリヴィエだと?」
「…私との会話に何の裏表も考えず嬉しそうに自然を語る素直さ…押しつけがましい自己演出など思い付きもしない謙虚さ、いえ、初めは王子妃の資質としていかがなものかと考えたのですが…」
「考えたがなんだ!」
「面談時に見せた有事の姿…」
「有事?何かあったのか」
「…それはどうでもいいでしょう…、とにかく思ったのです。彼は素朴ではあるが愚鈍ではない」
「気付いたか…」
「先ほどの提案もそう。彼の考えは実に深い」
「ああ。国の未来を支えるは子供たち。知識はいつだって己を守る鎧になる」
そうとも。この国ブルーメンベルグ国では、我が国以上に、一部の高位者が下々を護り先導すればよい、そう考えがちだが、そうではない。
人は誰であれ自尊心が必要なのだ。
だが守られるだけの暮らしの中で、彼らは思考を止める。
そこに自尊心は育たない。
下々の意識を変えることは難しいだろう…、だがそれらを育てることこそが高貴な義務ではないだろうか?
私たちはそれをつい先ほど、…素朴な野の花、オリヴィエに教えられたのだ。
「トラチヨ様。私は彼をもっと知りたい。彼を私の妃にと決めたわけではありませんがここはフェアにいきましょう」
「…いいだろう。正々堂々と、勝負だ」
とは言え…この三次審査が終われば一時帰国せねばなるまい…
分はあちらにある。どうするか…
おっといけない。これだけは渡しておかなければ。
「カーネル、これは先の厨房で言動に不審なところのあった令嬢の名だ。調べて欲しい」
「…その令嬢はなんと?」
フー…「孤児たちに野草を振舞うのはブルーメンベルグ貴族の恥だと」
「その令嬢は真の恥を分かっていないのですね」
「高位貴族の驕り…そして誤った使命感といったところか」
「くだらないことだ。いずれにしてもご安心ください。お戻り迄には片をつけておきます」
「頼んだよカーネル殿」
オリヴィエ手製の料理をよくも…
怒り、焦り、そしてつのるばかりの思慕…
ああ…私の感情は収拾を失っている…
「なにをなさっているのですトラチヨ様、あなたの組はもう出発ではございませんか?」
先ほどとうって変わって礼を失せぬ口調。
私は賓客、そしてゴールドスタインの正妃筋。彼は同じ王族だが側妃筋。カーネルのこの弁えた礼節はさすがは鍛えられた王族といったところか。
だがどうしても一言もの物申しておかねばならぬことがある。それほど私は彼の振舞いに一抹の危惧を抱いていた。
「先ほどのあれはどういうつもりだカーネル殿。君は分かっているはずだ。オリヴィエは私の…私の…」
私の何だ?私は何を言うつもりだ!
「あなたの友人。それ以上でも以下でもない。違いましたか?」
「ぐ…、違わない…」
ああ…まだ私は彼の何者でもない、そんな当たり前のことを改めて思い知らされる。
「いいですかトラチヨ様。兄上タケチヨ殿下を説き伏せてまで滞在を延長なさった健気さには敬意を表しますが、彼オリヴィエは私たちの妃選考会に参加しているのですよ?」
「わかっている!だが彼は…」
彼の目的は領の再建、王子妃ではないはずだ!
「いい機会だから言っておきますがベネディクト兄様も彼には興味を示しています」
「な…!」
なんと言うことだ!
あの気難しいベネディクト殿下がオリヴィエに?
「この際だからお伝えしておきますが…この私もです」
「やはりか…」
先の物言いをみていればそれは容易に想像がつく。
「二次の時から思っていましたが…意外性のある方ですね、彼は」
「そうとも。カーネル殿、君に分かるとは意外だ」
「そうですか?」
「君は伯爵家のメイベル嬢のように甘く可憐な女性が好みかと思っていたよ」
「…可憐なだけではだめなのですよ…」
「と言うと?」
「…私は側妃筋の第三王子。あなたやジェラルド兄様とは違う立場です。だからこそ私は常に気を張っている…癒しが欲しいのですよ。疲れた私を包み込むような…そのような方が良い」
確かに…彼は兄たち、特に王太子である長兄に対しけして配慮を怠らない。
「分らないでもないが…癒し、それがオリヴィエだと?」
「…私との会話に何の裏表も考えず嬉しそうに自然を語る素直さ…押しつけがましい自己演出など思い付きもしない謙虚さ、いえ、初めは王子妃の資質としていかがなものかと考えたのですが…」
「考えたがなんだ!」
「面談時に見せた有事の姿…」
「有事?何かあったのか」
「…それはどうでもいいでしょう…、とにかく思ったのです。彼は素朴ではあるが愚鈍ではない」
「気付いたか…」
「先ほどの提案もそう。彼の考えは実に深い」
「ああ。国の未来を支えるは子供たち。知識はいつだって己を守る鎧になる」
そうとも。この国ブルーメンベルグ国では、我が国以上に、一部の高位者が下々を護り先導すればよい、そう考えがちだが、そうではない。
人は誰であれ自尊心が必要なのだ。
だが守られるだけの暮らしの中で、彼らは思考を止める。
そこに自尊心は育たない。
下々の意識を変えることは難しいだろう…、だがそれらを育てることこそが高貴な義務ではないだろうか?
私たちはそれをつい先ほど、…素朴な野の花、オリヴィエに教えられたのだ。
「トラチヨ様。私は彼をもっと知りたい。彼を私の妃にと決めたわけではありませんがここはフェアにいきましょう」
「…いいだろう。正々堂々と、勝負だ」
とは言え…この三次審査が終われば一時帰国せねばなるまい…
分はあちらにある。どうするか…
おっといけない。これだけは渡しておかなければ。
「カーネル、これは先の厨房で言動に不審なところのあった令嬢の名だ。調べて欲しい」
「…その令嬢はなんと?」
フー…「孤児たちに野草を振舞うのはブルーメンベルグ貴族の恥だと」
「その令嬢は真の恥を分かっていないのですね」
「高位貴族の驕り…そして誤った使命感といったところか」
「くだらないことだ。いずれにしてもご安心ください。お戻り迄には片をつけておきます」
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