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真夜中に二人きり…
コンコン…
暗闇に小さく響くノックの音。なんだかイケナイことをしている気分…
キイィ…
「と、虎千代さま…?」
真っ暗闇の中でいきなり捕まれる手首。
ドキ!
僕の心臓ははねあがった。
「誰にも見られてはいないかい?」
「た、多分…」
「ではこちらへ」
右も左も分からない中、僕は手を引かれるまま気が付いたら最奥の裏口から再び屋外に飛び出していた。
「ど、どこへ行くの?」
「いいから」
連れていかれたのは屋敷の果樹園を越えた向こうにあるささやかな小川。海へ向かう大きなバリアース川の支流だ。
「ここなら大丈夫だろう。貴族令嬢が真夜中に外をふらつきはすまい」
「ま、まあ…」
ましてや王子妃審査に参加するような淑女はそうだろう。
「さあここへかけて」
「あ…ハンカチ…」
「かまわない」
河原の手前にある草深い土手に腰掛けると虎千代さまも横に座った。
本当なら年下のはずな虎千代さま。だけど僕が貧相なのと彼がしっかりしているのとで歳の差はほぼ感じない。
「会いたかったオリヴィエ。どうしても二人で話したかった」
カァァ「ぼ、僕も話したいとは思ってましたけど…」
「そ、うか…嬉しいよ」
アセッ「そーいうんじゃありませんからね!」
も、もー!虎千代さまの目ってば特大の節穴なんだから!
「あれからどうしてた?」
「あれから?自領に帰ってからですか?えっと…」
虎千代さまは熱心に耳を傾けてくださった。
帰ったら小さいけれど商店街が出来ていたこと。そこを中心にほんの少し人の出入りが始まっていたこと。
デイビッドが駆け落ちしてスターリング子爵領の住人になったこと。
不慣れなお父様が頑張って、僕が留守にしている間の農地整備を引き継いでいてくれたことも。
「きっとこの審査が終わって戻ったらますます人が増えてる気がします」
「以前も言っていたが…有能なのだなアンディ殿は」
「はい。けど…」
「どうしたのだい」
「僕は農地の受け持ちなんですけど…正直収穫を増やすのはなかなか難しくって…」
「以前農具は買い替えたと言っていなかったかい?」
「少しだけ。十分じゃないです。それにいくら良い肥料を撒いてもスターリングはそもそも土地が良くなくて」
「そう言っていたね」
「でもいろいろ工夫したので来年になれば少しはマシになると思います」
アンディがこの世界に来て僕の助っ人を始めてからいくつもの季節をまたいでいる。それでもまだ一年はたっていない。
アンディから感じる才覚への信頼により伯爵さまは投資(融資じゃなく投資ね。大きな違いだよ)をしてくださったけど、それでも額面には限度というものがある。
その中から彼は町の整備、農地の整備、事業資金、などに分配しながら上手く回している。
全部ゲームの踏襲だって言ってたけど…ほんと有能だよ。さすが前世の勝ち組エリート…
「オリヴィエはアンディ殿を信頼しているのだな」
「そりゃもう。彼がいなかったら今ごろ僕とお父様は路頭に迷ってたかもしれません」
「…そうか。では彼がいなければ私もオリヴィエと出会うことはなかったということだな」
地面についた僕の手の甲にそっと重ねられる虎千代さまの手。くぁぁ…でも振りほどけない。
「ここだけの話アンディの髪って本当は黒なんですよ。事情があって脱色してますけど」
「ほう?では彼の出身とは我がゴールドスタインなのか?」
ち、違うけど…
でも見本にしたのは間違いないし…
この世界で黒髪はゴールドスタインの代名詞だ。他の国にもいないわけじゃないけど、いわゆる真っ黒なのは日本ベースのゴールドスタインだけ。
「そうです」キッパリ
このほうが説明楽だしね。
「…思うところはあるが…、アンディ殿の話は一旦置いておこう。私の話をしてもいいだろうか」
「はい」
虎千代さまの話。ど、どのあたりの話だろう。ドキドキ…
「王家の力を使わず私だけの力で子爵家の、オリヴィエの力になる、そのためにはどうすればよいか色々と考えたのだよ」
「虎千代さま…」ジーン…
プ、プロポーズはともかく、そのお気持ちは素直に嬉しいと思う。温かな思いやりが胸に沁みる…
「だが私に出来ることは限られている。王族とは不自由なものだ。したいことと許されることが同じとは限らぬのだから」
まあ…自由気ままなお殿様なんて僕も時代劇でしかみたことないよ。暴れん坊な将軍とか…桃太郎な侍とか…
「だからこそこの機会は貴重な時間だ。一分一秒無駄にしたくはない」
「はい」
なにしろ審査中でも無ければ僕が王族とマンツーでお話しできる機会なんてまず無いからね。
「オリヴィエ、君は領の再興を考え資金源を確保するためにあの偽琥珀を発案したと言っていたな?」
「ええ」
アンディが、だけど。
虎千代さまはあの偽琥珀が松ヤニだということを実はご存知だ。まだ出会ったばかりの頃、「まがい物を売るつもりでいるのならば上に報告申し上げる」と言われ、誤解を解くためにこれが領の再建計画であるということを伝え、親しくなる過程で製法の…というか、原料の一つに松ヤニを使うということだけ、秘匿を約束としてお教えしているからだ。
「であれば私はその流れを踏襲しよう」
「…?」
どの流れだろう…。抽象的すぎてわからないよ。
暗闇に小さく響くノックの音。なんだかイケナイことをしている気分…
キイィ…
「と、虎千代さま…?」
真っ暗闇の中でいきなり捕まれる手首。
ドキ!
僕の心臓ははねあがった。
「誰にも見られてはいないかい?」
「た、多分…」
「ではこちらへ」
右も左も分からない中、僕は手を引かれるまま気が付いたら最奥の裏口から再び屋外に飛び出していた。
「ど、どこへ行くの?」
「いいから」
連れていかれたのは屋敷の果樹園を越えた向こうにあるささやかな小川。海へ向かう大きなバリアース川の支流だ。
「ここなら大丈夫だろう。貴族令嬢が真夜中に外をふらつきはすまい」
「ま、まあ…」
ましてや王子妃審査に参加するような淑女はそうだろう。
「さあここへかけて」
「あ…ハンカチ…」
「かまわない」
河原の手前にある草深い土手に腰掛けると虎千代さまも横に座った。
本当なら年下のはずな虎千代さま。だけど僕が貧相なのと彼がしっかりしているのとで歳の差はほぼ感じない。
「会いたかったオリヴィエ。どうしても二人で話したかった」
カァァ「ぼ、僕も話したいとは思ってましたけど…」
「そ、うか…嬉しいよ」
アセッ「そーいうんじゃありませんからね!」
も、もー!虎千代さまの目ってば特大の節穴なんだから!
「あれからどうしてた?」
「あれから?自領に帰ってからですか?えっと…」
虎千代さまは熱心に耳を傾けてくださった。
帰ったら小さいけれど商店街が出来ていたこと。そこを中心にほんの少し人の出入りが始まっていたこと。
デイビッドが駆け落ちしてスターリング子爵領の住人になったこと。
不慣れなお父様が頑張って、僕が留守にしている間の農地整備を引き継いでいてくれたことも。
「きっとこの審査が終わって戻ったらますます人が増えてる気がします」
「以前も言っていたが…有能なのだなアンディ殿は」
「はい。けど…」
「どうしたのだい」
「僕は農地の受け持ちなんですけど…正直収穫を増やすのはなかなか難しくって…」
「以前農具は買い替えたと言っていなかったかい?」
「少しだけ。十分じゃないです。それにいくら良い肥料を撒いてもスターリングはそもそも土地が良くなくて」
「そう言っていたね」
「でもいろいろ工夫したので来年になれば少しはマシになると思います」
アンディがこの世界に来て僕の助っ人を始めてからいくつもの季節をまたいでいる。それでもまだ一年はたっていない。
アンディから感じる才覚への信頼により伯爵さまは投資(融資じゃなく投資ね。大きな違いだよ)をしてくださったけど、それでも額面には限度というものがある。
その中から彼は町の整備、農地の整備、事業資金、などに分配しながら上手く回している。
全部ゲームの踏襲だって言ってたけど…ほんと有能だよ。さすが前世の勝ち組エリート…
「オリヴィエはアンディ殿を信頼しているのだな」
「そりゃもう。彼がいなかったら今ごろ僕とお父様は路頭に迷ってたかもしれません」
「…そうか。では彼がいなければ私もオリヴィエと出会うことはなかったということだな」
地面についた僕の手の甲にそっと重ねられる虎千代さまの手。くぁぁ…でも振りほどけない。
「ここだけの話アンディの髪って本当は黒なんですよ。事情があって脱色してますけど」
「ほう?では彼の出身とは我がゴールドスタインなのか?」
ち、違うけど…
でも見本にしたのは間違いないし…
この世界で黒髪はゴールドスタインの代名詞だ。他の国にもいないわけじゃないけど、いわゆる真っ黒なのは日本ベースのゴールドスタインだけ。
「そうです」キッパリ
このほうが説明楽だしね。
「…思うところはあるが…、アンディ殿の話は一旦置いておこう。私の話をしてもいいだろうか」
「はい」
虎千代さまの話。ど、どのあたりの話だろう。ドキドキ…
「王家の力を使わず私だけの力で子爵家の、オリヴィエの力になる、そのためにはどうすればよいか色々と考えたのだよ」
「虎千代さま…」ジーン…
プ、プロポーズはともかく、そのお気持ちは素直に嬉しいと思う。温かな思いやりが胸に沁みる…
「だが私に出来ることは限られている。王族とは不自由なものだ。したいことと許されることが同じとは限らぬのだから」
まあ…自由気ままなお殿様なんて僕も時代劇でしかみたことないよ。暴れん坊な将軍とか…桃太郎な侍とか…
「だからこそこの機会は貴重な時間だ。一分一秒無駄にしたくはない」
「はい」
なにしろ審査中でも無ければ僕が王族とマンツーでお話しできる機会なんてまず無いからね。
「オリヴィエ、君は領の再興を考え資金源を確保するためにあの偽琥珀を発案したと言っていたな?」
「ええ」
アンディが、だけど。
虎千代さまはあの偽琥珀が松ヤニだということを実はご存知だ。まだ出会ったばかりの頃、「まがい物を売るつもりでいるのならば上に報告申し上げる」と言われ、誤解を解くためにこれが領の再建計画であるということを伝え、親しくなる過程で製法の…というか、原料の一つに松ヤニを使うということだけ、秘匿を約束としてお教えしているからだ。
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「…?」
どの流れだろう…。抽象的すぎてわからないよ。
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