転生子息は選ばれたい お家のために頑張ります

kozzy

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真夜中に二人きり…②

「領の再興を交易に委ねる、なるほどいい考えだ。領を栄えさせるのに何も小麦の収穫だけにこだわる必要はない」

虎千代さまはスターリングの現状を良くお調べになったようだ。
そしてあの地が天候、土壌共に、もともと悪条件のオンパレードなのを良く理解しているらしい。

つまり僕が前世の農業知識でいくら底上げしても、それはマイナス5がプラス3になる程度のことであって、決してプラス10にはならないのが現実である。

アンディはこの世界を西と東で別物だと言っていた。
西はゲームで言うところのハードモード。領土争い(ブルーメンベルグだと領域争い)を目的とした戦闘が主体となるエリア。
そしてスターリングのある東側はイージーモード。何もない土地を栄えさせるのが目的のエリアだ。(その中間がノーマルモードエリアかな?王都はこのエリアだよ)

何もない土地を栄えさせる…。その言葉が示すように、何もないからこそ東側で領域の奪い合いは起こらないと言えるが、それは資源、土壌、どれをとっても良くはない、とほぼ同義語である。

「はぁー…」

長い溜息。
アンディの街造りはどんどん進んでいくのに、僕の農地改革といったらまだまだ先が長い。

「であれば他に活路を見出すがいい。松脂…松…。良いものがある。成功すれば我が国が買い上げよう」
「はぁ?な、何を言って…、ゴールドスタインが何を買い上げるですって?」

もちろんそれは偽琥珀なんかじゃないだろう。
あれは貴族の娯楽にはなっても、国が取引するようなレベルの代物じゃない。

「偽琥珀には松の樹脂を使うと言ったな?」
「え、ええ…。ノースティンパイン、スターリングの固有種です…」
「よろしい。ではここからが本題だ」

ドキドキドキ…

「我が国には松を苗床にする大変希少な茸がある」

えっ?ああっ!松から生えるキノコなんてそんなの決まってる!

「分かった!キノコの王様、マツタケですね!」
「ほ…う。オリヴィエは松茸までをも知っているのか」

日本人なら当たり前!秋の風物詩だよ!…もっとも庶民じゃなかなか手が出ないけど。
あ、キノコの王様ってのは日本ではって意味ね。

「でもどうして?別にゴールドスタインで育てたって…」
「王家で食す松茸は御料区にて保全している。だがそれ以外となると…、栽培を試みても衰退してしまうのだよ。なにより我が国では藩主同士の争いが絶えぬ。地方では難しかろう」

な、なるほど…。明治に江戸テイストとは聞いていたけど…ゴールドスタインのハードモードは戦国時代か。

「我が国で松茸は黄金…とまではいかぬがかなり珍重される、藩主ならば誰もが好む逸品だ。松茸を栽培し我が国に卸すがいい。王族御用達の問屋を紹介しよう。その程度であれば王家の関与とは言われまい」
「虎千代さま…」ジーン…

確かに…
大変貴重で高価な〝マツタケ”が手に入るなら、これは需要と供給。問屋にとっても願ったりかなったりだ。

「あっでも、風土が違うとあれだけの香りは出ないかも…」
「かまわない。王家のものと品質が違うのであればむしろ歓迎すべき事だ」

なるほど。SクラスとAクラス…ね。

「出来るか?」
「わかりません。でも…」

山のある土地に生まれし者であれば、成人までに必ず一度や二度…や三度や四度、キノコ狩りに連れ出されるものだ。
まして僕は生粋の山好き。週末には山でソロキャン(というほどおしゃれではない)を敢行していた僕は、キノコ、自生の実、山菜の類には人一倍詳しい。

マツタケ…それはアカマツなどの、ある特定の松の根元に顔を出す薫り高いキノコ。けれどその育成条件は繊細さを極めている。だからこそ前世であってもマツタケの自家栽培は難しいとされ、希少だからこそ高値で取引されていたのだが…

マツタケは瘦せた土地を好む。そしてスターリング領は
それからここが重要。

ここはフィクションの世界。アンディが楽しんでいたゲームの世界だ。
現に〝ノースティンパイン”、スターリングにしか生えないこの松もこの世界のオリジナル、前世にはなかった品種だ。

松の群生地は山の奥深く。ギリ貴族子の僕は今まで立ち入りを禁止されていたけれど…
探せばもしかしてマツタケ及びマツタケの類似品が生えてるかもしれない。

…ワンチャンあるかも…

「ぼ、僕探してみます!もしみつから無ければ御料地の土を、マツタケ周辺の土を少しだけいただけますか?」
「土でいいのか?」
「はい!」キッパリ

マツタケは菌根菌。必要なのは本体じゃない。

「ならばオリヴィエ、これを」
「これ…?」

「これは私に手紙を届けるための専用封蝋印だ」
「そ!そんな大事なもの貰えません!」
「気負わないでくれ。これは紋章というわけではない。ただその印をもつ封書を教会から送れば私に届けられるというだけ。親友の証とでも思って貰えればいい」

「親友の証…、そ、それなら」

ちゃららーん。僕はゴールドスタインとのパイプラインを手に入れた。

「さあもう行こうオリヴィエ。夜は冷える。明日のためにも休まなければ」
「はい」
「私は形式上皆のところを公平にまわらねばならない。残念だが始終君についていることは…」
「ふふ、しなくていいですよ。そのお気持ちだけで十分です」

っていうか、ついてまわろうと思ってたのか…

「あっそうだ虎千代さま」
「どうしたオリヴィエ」
「これを…」

「これは?」
「二次、三次…諸々のお礼です。色々助けていただいたので」

手渡したのはお手製の梅干し。お渡ししたいと思い小分けして領から持ってきたものだ。
梅は今も昔も健康食の見本。おかしなサプリより一日一粒の梅干しってね。梅の木とオオバの群生があって幸いだった。品種が違うからすこーし甘めだけど。

「梅干しか…。我が国では「梅はその日の難逃れ」と言われている」
「なんのがれ?」
「厄除けの意味だ。私を気遣ってくれるのだな。嬉しいよオリヴィエ…」
「あっ…」

おでこに触れたのは虎千代さまの唇。
は、恥ずかしい…

その後虎千代さまは僕の手を取りどんどんどんどん前を進み、果樹園を抜けて裏小屋に戻るまでただの一度も振り返らなかった。





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