転生子息は選ばれたい お家のために頑張ります

kozzy

文字の大きさ
67 / 86

オリヴィエの覚醒

あれから二人に除塩作業の細かな説明を行い、ウォーターによる真水散布を終え、日が暮れるころ僕たちは揃ってお屋敷に戻ってきていた。
そして海岸組が帰るのを待って、この五日間毎夜繰り広げられている、互いの顔色を窺いながらの消化に悪い食事を済ませ、その後それぞれがそれぞれの自室へと引き籠った。

せっかく同じ組なのにポールと全然話せてない。だけど今夜の僕は残業上等。何人たりとももう僕を止められない!

そうして完徹しながらある資料を作り上げた。
それは…

『湾岸部における農業とその塩害対策』

「オリヴィエ、これはなんだい?」
「見た通りです。この領での有益な土地活用を今後を踏まえまとめてみました」

その朝、バラバラに朝食を終えみんなが出払ったところで、約束通り虎千代さま、カーネル殿下、ベントレー伯爵は僕の話を聞くために残って下さった。

注がれる注目。
苦手だった会社員時代の企画会議を思い出す…。が、これが青年団の寄り合いだと思えばなんてことはない。へっちゃらだ。

そこには海に面した領地特有の課題と今後の方針が示されている。

「冠水による塩の除去作業はこの滞在時にかなり出来たと思います。ですがここは湾岸に面した丘陵地。今後も潮の影響はついてまわります」

「確かに…。津波以前も我が領の収穫高はそれほど多くはない」

これはベントレー伯爵。けど、それほど多くないって言ってもスターリングよりは多いんだから、これ東がいかに土地が悪いかって話だよね。
本題に戻って…

「なので必要なのは耐塩性作物の導入です」
「耐塩性作物…?」

ここからは専門的な話になるので少々割愛させてもらうが、とりあえずおすすめしたのはトマトと玉ねぎ。これらは塩度の高い土壌で甘みが増す野菜である。ほら、トマトやスイカにお塩ふって食べたりするでしょ?

あとは日本では馴染みの薄いビート。塩対応だと発育が良くなるツンデレな野菜だ。

「またこれらはミネラルを豊富に含む特別な野菜〝ベントレーブランド”として売り出すことも視野に入れています」

「ミネラル…とは何であろうか」

ミネラル、それは体内で合成できない栄養素。カルシウム、鉄分などを中心とした、身体の生理機能をコントロールする、美と健康に欠かせない重要な無機質である。

それをお話しすると、ベントレー伯爵だけでなく二人の殿下も強く関心を示された。

「詳しいのだねオリヴィエは…」
「君はどこかで科学を学んだのだろうか…」

「単純に土は僕の友だちですから。ですがこれらは言うなれば対処療法。抜本的な農業改革として僕は水耕栽培をお勧めします」
「水耕栽培…それは一体…」

水耕栽培、それは土を使わない栽培方法。昨今のイチゴ農園を思い出していただけると分かりやすいだろうか。

「ハウスと水耕栽培。これで湾岸部の冠水や風の影響は最小限になり領の生産性は安定します。尚、将来的に塩害対策、農地拡大を見据え海上農業にまで着手できればいいな…とも考えています」

一見難しそうだが科学の遅れは魔法で補える。それがこの世界の良いところ。知恵と優秀な魔法使いを集めれば不可能じゃないはずだ!

そこまで聞いて椅子から思い切り立ち上がったのはベントレー伯爵。

ガタ「す、素晴らしい!君はなんと博識なのだ…」

…農業限定だけど…ね。

「…この審査の趣旨と外れていたらすみません」
「いや。この審査に決まりはない。これはここまで残った候補者の思考、行動、人格、品位等々を総合的に確認し適正を見極めるためのものだ」

審査の内容はこの際どうでもいいんだけど。王様が僕に興味さえ示してくれれば。
そのために「水耕栽培」とか「海上農業」とか、王様が初めて聞くであろう現代ワードをちりばめたんだから。


さて、プレゼンを終えれば時刻はもうお昼、軽食を済ませた虎千代さまは僕と一緒に除塩作業地へ行くようだ。
カーネル殿下はベネディクト殿下の待つ場へ戻られた。きっと今から僕のプレゼン内容を報告するんだろう。

ベネディクト殿下は興味を持ってくださるだろうか…。まずここを突破しないと王様にはたどり着けない。

「農民と共に土にまみれていると言っていたが…オリヴィエは農作業が好きなのか?」
「大好きです。落ち着きます」

ふかふかの土は僕の心の栄養剤。シンとした山は僕の心の安定剤。なくてはならないものだ。

「そうか…」
「どうかしました?」
「いや」

物憂げな顔。変な虎千代さま。

「おーいオリヴィエさまー!こっちこっちー!」
「あ、ジョンさん」

僕の姿を見つけて大声で呼び寄せる農作業の人たち。
その様子に虎千代さまは呆れている。

「まるで友人かのように…彼らは君の身分を知っているのか?気安いものだ」
「仲良くしてくださってありがたいです」

自領の皆さんともこんな感じだし、僕はこのほうが居心地いいんだよね。

「じゃあ虎千代さまは汚れないようそこで見ててください」
「ああ」

場所を移動しながらの掘り起こし作業。少なくともこの一帯だけは最終日までにすべて済ませるって僕は最初から決めていた。一部そのまま…とか気持ち悪いしね。

残る農耕地はあと少し。

ガッ!

「なんだこりゃぁ!」
「こいつぁ困った!」

そこに湧き上がったざわめき。

「どうしたんですかサムさん、ダグさん」

「この奥に津波で流されてきた石塊が埋まってやがる!」
「えぇー!大きいのですか?」
「まあまあデカい」

重機も無いし困ったなぁ…。放置したら水はけとか根っこの成長とかいろいろ問題出るじゃないか。

「オリヴィエ」

思案する僕にかけられたのは聞き慣れた頼りがいのある声。

「虎千代さま…」
「良ければ私が手を貸そう。それを除ければいいのかい?」
「え?」

風魔法の使い手虎千代さま。彼ならどうという事もなくどかせるだろう。これが通常だったらありがたい申し出なんだけど…

「いけません虎千代さま。これは厳正なる審査。人の目が無いからって手は借りられません」
「だが皆が困るのだろう?それならば」

「いいえ。これは候補者たちがどうするかまで見極める審査です。そのままお見守りください」

今の僕はたとえ王子妃じゃなくともれっきとした審査対象者。えこひいきは許されない。

「皆さん板切れをお持ちください。長い棒でもいいです!力を合わせて掘り出しますよ!」

「ヨイショ!ヨイショ!」
「おお動いたぞ!」
「ウンショ!ウンショ!」
「よしもう少しだ!」

「そーれ!」

ドッスーン!

湧きたつ一同。そうそう。こういうので連帯感って生まれるんだよね~。
気がつけばみんな土だらけで汗だらけ。けど心地よい達成感。

フワ…

「あ…虎千代さま…」
「クリーンだ。この程度であれば審査には関係ないだろう?そのままでは屋敷に戻れまい」
「あ、ありがとうございます」
「君はクリーンが使えないと言っていたからね」

覚えててくださったのか…

「おーいオリヴィエさまー、石灰撒き終わったぜー!」
「早いとこ頼むー!」
「わかりましたー。いきますよー、ウォーター!」

一斉に散布されるウォーター。それをシャワー代わりにしようとみんな集まってくる。その表情には笑顔が溢れてて…

「いい光景だ」

虎千代さまはポツリとそう呟かれた。






感想 115

あなたにおすすめの小説

異世界転生してひっそり薬草売りをしていたのに、チート能力のせいでみんなから溺愛されてます

ひと息
BL
突然の過労死。そして転生。 休む間もなく働き、あっけなく死んでしまった廉(れん)は、気が付くと神を名乗る男と出会う。 転生するなら?そんなの、のんびりした暮らしに決まってる。 そして転生した先では、廉の思い描いたスローライフが待っていた・・・はずだったのに・・・ 知らぬ間にチート能力を授けられ、知らぬ間に噂が広まりみんなから溺愛されてしまって・・・!?

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ※第33話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

魔王様は俺のクラスメートでした

棚から現ナマ
BL
前世を憶えている主人公ミルは、チートもなくラノベのような世界で、ごく平凡に庭師見習いとして働いて暮らしていた。 ある日、なぜか魔王様に踏まれてしまったミルは、魔王様が前世のクラスメートだったことに気が付き、おもわず名前を呼んでしまう。 呼ばれた魔王様はミルを自分の王宮に連れ込んで……。 逃げたいミルと、どうしても手放せない魔王様の話し。もちろんハッピーエンド。

生まれ変わったら知ってるモブだった

マロン
BL
僕はとある田舎に小さな領地を持つ貧乏男爵の3男として生まれた。 貧乏だけど一応貴族で本来なら王都の学園へ進学するんだけど、とある理由で進学していない。 毎日領民のお仕事のお手伝いをして平民の困り事を聞いて回るのが僕のしごとだ。 この日も牧場のお手伝いに向かっていたんだ。 その時そばに立っていた大きな樹に雷が落ちた。ビックリして転んで頭を打った。 その瞬間に思い出したんだ。 僕の前世のことを・・・この世界は僕の奥さんが描いてたBL漫画の世界でモーブル・テスカはその中に出てきたモブだったということを。

【完結】第三王子、ただいま輸送中。理由は多分、大臣です

ナポ
BL
ラクス王子、目覚めたら馬車の中。 理由は不明、手紙一通とパン一個。 どうやら「王宮の空気を乱したため、左遷」だそうです。 そんな理由でいいのか!? でもなぜか辺境での暮らしが思いのほか快適! 自由だし、食事は美味しいし、うるさい兄たちもいない! ……と思いきや、襲撃事件に巻き込まれたり、何かの教祖にされたり、ドタバタと騒がしい!!