転生子息は選ばれたい お家のために頑張ります

kozzy

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満天の空

僕の農業指導はそれなりに上手く進んでいる。
プロファーマーである(前世の)両親に聞かれたら叱られそうなレクチャーだけど、手伝い程度とは言え、二十八年見聞きした現代農家の知識は伊達じゃない。

「ですがオリヴィエ様。輪作ならご当主様に言われて試したことがあるんでさあ…」
「かえって不作になりましたけど…またやるんですかい?」

「それなんだけど詳しく聞かせてくれる?」



なるほど。大体の原因は分かった。

この世界観にも連作障害の概念は存在する。輪作の知識なんかも一応あるらしい。だけどお父様に詳細な農業知識なんてあるわけがない。それでも領を何とかしようと、お父様はお父様なりに考えて、なんでも隣の男爵領(例の石信仰の領ね)まで行って教えを受けてきたんだとか。

けど所詮付け焼刃。お父様は植え付ける作物の種類にも相性があるのをご存知ない。輪作とは相性が悪いと逆に害虫が活発になってしまうのだ。
そうして行った輪作によって収穫はより壊滅的になってしまったのだとか。そこでお父様は、稼働農地が減るのを分っていながら休耕地農法へと切り替えたらしい。

そこで僕は栽培時期の違う夏の大麦、冬の小麦の間にクローバーとカブを作るよう指示することにした。
確かおじちゃんは土壌の改良に良いのは〝マメ科”だと言っていたはず…。昔は初春になると一面マメ科のレンゲを植えていたんだとか。
一面のレンゲ畑。花冠を編む子供たち。なんて長閑で微笑ましい光景…。けどここにレンゲはない。なのでクローバーで我慢することにした。だってロジンのために四つ葉がたくさん必要だもん。



得意になってアンディに報告する今の僕は、棒切れを咥えた犬みたいに、尻尾があったらきっと千切れんばかりに振っていることだろう。

「そうか…俺にもそんな知識は無かったよ。さすがだなオリー」
「もっと早く気付いてたら良かった…」
「馬鹿。お前まだ成人して二年だろ。仕方ないって」

この世界の成人年齢は十六歳。ちょうど僕が成人を迎えた頃、屋敷からは一人、また一人と使用人が減り始め、僕が十七になるのを待たずに屋敷を切り盛りしていた執事は消え、それを破滅への序章とお感じになられたお母様も家を出てしまわれた。

それからはずっとお父様と二人。
お父様は金策のために何度も伯爵さまのお屋敷を訪ね、僕は何度となく古物商を呼んでは家財を売り払った。

アンディが言うよう、切り盛りに必死なあの頃の僕に何が出来たとも思わない。けど…
ううん止めよう。僕は前を見て歩くって決めたんだから。アンディに手を引いてもらって。


「じゃあ秋に植える苗は注文しておいてくれ」
「支払い出来る?」
「多分な。実は…お前のおかげで早速ロジンの注文が来てる」

「ウソ!」

「本当だ。デボン家ご令嬢の紹介だとさ」
「あのマーガレット様が…」
「誰だそれ」
「王太子妃候補のド本命」
「オリーお前!」
「なっ、なに…」
「いきなり大物釣り上げたな!でかしたぞ!」クシャ

ホワホワ「いっぱい頑張ったもん!」

マーガレット様は棚ぼただけど!

「これはお前が頑張った成果だ。予算なら何とかする。良いと思うものを注文しろ」
「あ、あのじゃあ…」
「どうした?」
「もし予算があったら…番の牛が欲しいんだけど」

「おっと。なかなか目の付け所がいいな。同じこと考えてたよ。買い戻さないとなって」

牛、それはトラクターにも軽トラにもなるアナログ農村の機動力!
本来なら農村では何があっても最後まで手放さないものだけど、それすら手放すほどスターリングは崖っぷちだったってことね。

そっか…アンディも同じことを…ふふふ…
。それだけで舞い上がる僕はなんて単純なんだろう。

彼が考えてたのはまさに機動力として。そして僕が考えてたのは堆肥として。…フンね。

「ハハッ!なるほどな。それは考えに無かったよ」
「普通はそうだよね」
「さすがだオリー。お前に任せて良かった」

アンディってばすぐこうやって僕を持ち上げようとするんだから…
でもそれがお世辞って分かってても嬉しい。

「一度に多くは無理でも…番だけはなんとかしよう」

「大丈夫そ?」
「そのためにもオリーにもっと宣伝してもらわなきゃな」
「う!」

「三次に進めるといいな」

順当にいけばそろそろ教会から通達が来る頃。あと二~三日中に来なければ期待できないだろう。

「落ちてたらゴメンね」
「受かってるさ。オリーはこんなに可愛いんだから」

うぅ…、これは身内の欲目。本気にしちゃダメ。ダメだってば!


「それよりアンディ。明日は休息日だし今日は雲ひとつ無い晴天だよ」

「よし!星空見に行くか?今夜」
「行く!」



本来貴族のご子息が真夜中に屋敷を抜け出して野宿…なんて許されるはずはないけど、ここはド田舎スターリング領。使用人すら満足に居ない我が家で見咎める人はいない。

テント代わりの防水布に持ち運べる薄いラグと肌掛け。水や着火剤が要らないのは魔法様様だ。あとは以前よりは少しだけ中身のマシになったお弁当を持って…


「ここだよアンディ。ここが穴場なの」
「へー。俺が倒れてた池の近くだな」

木々の間にちょうどぽっかり空いた空間。そこからはまるでプラネタリウムみたいに満天の星空が見える。

「広い丘に転がって観るのも開放的で好きだけど…この劇場感が好きなの」
「ああ。確かに素晴らしい眺めだ」

「この山にはずっと助けられてきたんだよ…」

子供の頃はしつけに厳しい執事から逃げ出したりもした。そうそう。お母様のドレスを破っちゃって隠れたりもしたっけ。お母様…定期的に手紙は来るけど…お元気だろうか。

「食糧事情が悪くなってからはキノコに山菜に果実に…」
「池の魚もな」
「うんそう」

カエルは黙っとこう。

でもこの山のおかげで食いつなげたと言っても過言じゃない。

「首が疲れるな…。寝転がるか。お前は?」
「僕はこのままで」


領主館の裏手は山といっても私有地。何かのハプニング、それこそアンディのようにイレギュラーでもなければ領民が入り込むことはない。幸い相当上まで登らなきゃ大きな獣も出ない。

ここは僕にとって秘密の隠れ家。フレッドもお父様も知らない安息の場所。

風の音ひとつしない静寂の森。そこに聞こえるのは微かな葉擦れの音と虫の声だけ。深い深い森の中で今僕とアンディは二人きり。

「アンディ?」

気がつけばリュックを枕に寝息を立てるアンディが居る。毎日精力的に領内を駆けまわるアンディは、あっという間に領民からも頼りにされてとかく毎日忙しい。

「そーっとしとこう…」

身体を冷やさないよう肌掛けを掛ける。

ふふ、リスが頭に乗っても起きないや…

熟睡してる…





チュ



その日僕には一生言えない秘密と思い出ができた。



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