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おまけ 小さな第一王子
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「殿下、こちらでございます」
「あらあら殿下、こっちでございますわ」
乳母たちに囲まれ手のなる方へ行ったり来たりする、幼いが高貴な身なりの彼はこの国の第一王子である。
婚姻から3年ほどを経てようやく子に恵まれた彼の父と母はこの国の王と王妃。
王族の婚姻など、ほとんどは統治を考え取り決められた申し合わせであり、その若い王と王妃もけっして例外ではない。
近隣諸国との統一を目指す若き王は城を空け陣頭指揮を執る、残った王妃は王の意を汲み宮廷を動かし国を守る。夫唱婦随、だが、それが要因となり夫婦が共に過ごす時間は日一日と減っていった。
そんな中、僅か3年で子を身籠ったのはむしろ幸運であったと言えるだろう。
生まれてすぐに彼は王族子を養育するための宮へと移された。
その宮は王の住まう本宮殿からも王妃の住まう後宮からもほど近かったが、王や王妃が自ら訪れることはほとんどない。
親子が顔をあわせるのは乳母によって父や母のもとを訪れた時のみ。だがこれは特別彼らが非情なわけではない。
王族の養育においてはごく当然の慣習だった。
乳母たちによって手厚く育てられた彼のもとに、ある日一人の小姓が連れて来られた。王の側近である伯爵家の息子だ。
年の近い友人を得て、王子は良く笑い良く動き、ますます健やかに成長した。
相変わらず親子の対面は限られたものだったが、取り立ててそれを気にすることも無いまま月日は過ぎた。
その感情に変化が現れたのは、王子が5才の時だ。
ある日彼の母である王妃が一人の美しい子供を伴いやって来たのだ。今まで自ら来ることのなかった養育部屋に、自分ではない、プラチナの髪を持つ子供を伴って。
一目見るなりいいようのない不快感におそわれたが、幼い彼にはそれがどういう感情なのかわからなかった。そのため彼はすぐにその感情を無かった事にした。それが高貴なるものに求められる振る舞いだからだ。
その美しい子供は王子の婚約者となったが、ほどなくして美しい子供の母親はこの世を去り、その悲劇に泣き崩れる母を、王子は不思議な感覚でぼんやりと眺めていた。
美しい子供はそれから月の大半を王宮で過ごすようになった。
養育宮に通されても、感情を表に出さず、仮面のように微笑む彼が王子はどうしても好きになれなかった。
その感情を理解したのが側付きの小姓だ。小姓と話すことで王子は初めて自分の感情を理解出来た。美しい彼は他者を突き放す冷たい氷。そのイメージは日を追うごとにますます王子の中で決定付けられていった。
ある日美しい彼の父親は義理の息子を遊び相手にどうかと連れてきた。血の繋がりをもたぬ義弟に美しい彼はひどく無関心だ。聞けばその少年は平民街の商家で生まれたという。
「そらみたことか。やはり彼は高慢だ」王子はますます美しい彼を心から締め出し、ことさら彼の義弟をどこへ行くにも連れ歩いた。
それを見た彼の母は、美しい彼を私室に誘うことが増えていった。二人きりで過ごす午後の時間。そこで共有される〝高貴な価値観”。それを許容できないと感じた彼は、それ以来、何をするにも美しい彼の逆を行うようにした。
彼が読書を好めば自分は外で剣を持ち、彼が宝石を愛でれば自分は動物を可愛がった。
それはそのうち至るところにまで浸透し、彼が芸術家の支援をすれば王子は「そんなことより大事なことがあるだろう」と退役兵たちの慰問を行い、彼が美しい自然の保護を訴えれば、「目の前の子供が先だ」と王都の孤児院を訪問した。
高貴なる者の体現者ともいえる彼に対し、庶民派の王子と呼ばれ、市井の者から慕われるのはひどく気分の良いことに感じた。
いつしか、美しい彼に異を唱えるのが彼の生き方を照らす指針になっていった。
そうしてさらなる成長のために入学した学び舎で、彼は彼の人生における運命の出会いを果たすことになる。
いつも近くに寄り添い、彼に温かな笑顔を投げかける心優しき人。彼の幸せな未来を約束する人。
それが『聖なる力』の適合者、アーロン…
「あらあら殿下、こっちでございますわ」
乳母たちに囲まれ手のなる方へ行ったり来たりする、幼いが高貴な身なりの彼はこの国の第一王子である。
婚姻から3年ほどを経てようやく子に恵まれた彼の父と母はこの国の王と王妃。
王族の婚姻など、ほとんどは統治を考え取り決められた申し合わせであり、その若い王と王妃もけっして例外ではない。
近隣諸国との統一を目指す若き王は城を空け陣頭指揮を執る、残った王妃は王の意を汲み宮廷を動かし国を守る。夫唱婦随、だが、それが要因となり夫婦が共に過ごす時間は日一日と減っていった。
そんな中、僅か3年で子を身籠ったのはむしろ幸運であったと言えるだろう。
生まれてすぐに彼は王族子を養育するための宮へと移された。
その宮は王の住まう本宮殿からも王妃の住まう後宮からもほど近かったが、王や王妃が自ら訪れることはほとんどない。
親子が顔をあわせるのは乳母によって父や母のもとを訪れた時のみ。だがこれは特別彼らが非情なわけではない。
王族の養育においてはごく当然の慣習だった。
乳母たちによって手厚く育てられた彼のもとに、ある日一人の小姓が連れて来られた。王の側近である伯爵家の息子だ。
年の近い友人を得て、王子は良く笑い良く動き、ますます健やかに成長した。
相変わらず親子の対面は限られたものだったが、取り立ててそれを気にすることも無いまま月日は過ぎた。
その感情に変化が現れたのは、王子が5才の時だ。
ある日彼の母である王妃が一人の美しい子供を伴いやって来たのだ。今まで自ら来ることのなかった養育部屋に、自分ではない、プラチナの髪を持つ子供を伴って。
一目見るなりいいようのない不快感におそわれたが、幼い彼にはそれがどういう感情なのかわからなかった。そのため彼はすぐにその感情を無かった事にした。それが高貴なるものに求められる振る舞いだからだ。
その美しい子供は王子の婚約者となったが、ほどなくして美しい子供の母親はこの世を去り、その悲劇に泣き崩れる母を、王子は不思議な感覚でぼんやりと眺めていた。
美しい子供はそれから月の大半を王宮で過ごすようになった。
養育宮に通されても、感情を表に出さず、仮面のように微笑む彼が王子はどうしても好きになれなかった。
その感情を理解したのが側付きの小姓だ。小姓と話すことで王子は初めて自分の感情を理解出来た。美しい彼は他者を突き放す冷たい氷。そのイメージは日を追うごとにますます王子の中で決定付けられていった。
ある日美しい彼の父親は義理の息子を遊び相手にどうかと連れてきた。血の繋がりをもたぬ義弟に美しい彼はひどく無関心だ。聞けばその少年は平民街の商家で生まれたという。
「そらみたことか。やはり彼は高慢だ」王子はますます美しい彼を心から締め出し、ことさら彼の義弟をどこへ行くにも連れ歩いた。
それを見た彼の母は、美しい彼を私室に誘うことが増えていった。二人きりで過ごす午後の時間。そこで共有される〝高貴な価値観”。それを許容できないと感じた彼は、それ以来、何をするにも美しい彼の逆を行うようにした。
彼が読書を好めば自分は外で剣を持ち、彼が宝石を愛でれば自分は動物を可愛がった。
それはそのうち至るところにまで浸透し、彼が芸術家の支援をすれば王子は「そんなことより大事なことがあるだろう」と退役兵たちの慰問を行い、彼が美しい自然の保護を訴えれば、「目の前の子供が先だ」と王都の孤児院を訪問した。
高貴なる者の体現者ともいえる彼に対し、庶民派の王子と呼ばれ、市井の者から慕われるのはひどく気分の良いことに感じた。
いつしか、美しい彼に異を唱えるのが彼の生き方を照らす指針になっていった。
そうしてさらなる成長のために入学した学び舎で、彼は彼の人生における運命の出会いを果たすことになる。
いつも近くに寄り添い、彼に温かな笑顔を投げかける心優しき人。彼の幸せな未来を約束する人。
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