断罪希望の令息は何故か断罪から遠ざかる

kozzy

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88 断罪への新たな一歩

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「シャノン止めるんだ!王に向かってそのような…どれほど不敬か分かっているのか!」
「うるさいコンラッド!あんな男に憧れるとか…お前頭湧いてんじゃないの!」

この期に及んで王様に敬意を払うコンラッドに(当然だけど)ムカついて、ネコならぬシャノンをかぶるのも忘れて僕は素で怒鳴りつけた。
誰も分かってない。シャノンでさえわかってなかった。リカバリーディスクである僕だけが気付いた!

「シャノン、わたくしのために怒ってくれて嬉しいわ。ですから今のは聞かなかったことにしましょう。前々王、前王、そして現王によって、元はこの王都とその周辺でしかなかった国土はここまで膨れ上がった。事実このルテティアはかつてない繁栄の只中にいます。王は偉大なお方です」

「国土拡大が悪いとは言いませんけど…そういう問題じゃない!」

王妃様の運命を狂わせたのが現王で…カサンドラ様を振り回したのが前々王との約束で…、ならきっとアーロンの母にも何か、どこかに接点があるはずだ。市井の娼婦と王様…、だけどどこかに必ず。

「大体、国土の拡大と王妃の平穏が反比例してます。違いますか?」
「シャノンいいのよ。もうよして頂戴」

「どうして?王妃様だってあれだけ王様の愚痴をこぼしてたのに!王様は偉大かもしれない。でもいい夫ではないでしょう?いい父親とも僕には思えない!コンラッドにとってはそうでもないみたいだけど」

「私は…」

唇を噛み黙り込むコンラッド。

昔からコンラッドが王様に憧れてたことはシャノンの日記でわかってる。
王妃殿下 〇〇茶 お菓子〇〇 コンラッド 陛下に同行
王滞在時の日記の記述は常に同じだった。
年に数か月帰って来ては武勇伝を語って聞かせる王様。子供、それも息子なら、それはもう英雄のように映っただろう。僕もあんなふうになりたい!そう目を輝かせるほどに。

「以前の私なら反発しただろう。だが今なら理解できる」

顔を上げたコンラッドは意外にも僕の言葉に同意を示す。そして言葉を選びながら神妙に言葉を続ける。

狩場や馬場に入り浸りシャノンに全てを押し付けておきながら、そのシャノンからの苦言を嫌味と捉え『茨姫』などと名付け避けアーロンに逃げた自分は…母に対する父…王と同じことをしていたのだと。

「君が父を嫌うのも無理はない。父は君の嫌いな私とそっくりだ」

…嫌われていることを自覚していたのか。まああれだけ態度と言葉で示せば当たり前だけど。

「政務を母に押し付けたまま戦場をかけ、苦言を呈す母を避け戻ったら戻ったで第三王妃宮に入り浸る。はは…似たもの親子だ」

情熱的な赤い髪。燃えるようなその髪色も父息子、二人は同じ。髪は体を表す…。彼らは愛に野心に、燃え立つ心をどうしても押さえられない類の人種なのだろう。

「だからこそ同じ轍を踏んではならないのだと思い知らされた。私は母上を否定しながら、私こそがシャノンを母上のようにしようとしていた」

珍しく王妃様の前で饒舌なコンラッド。王妃様はそれを黙って聞いている。

「君の強さに甘えこれ以上君を不幸にしたくはない。…母上。私は王位継承権を放棄し卒業後は王家を離脱し一貴族としてやり直そうと思います」

何だとコンラッド!!!それは想定外!

ガタン!「何を言うのコンラッド!あなたは第一王子!離脱など許さなくてよ!」

決して感情を乱さないはずの淑女の鑑、王妃様もさすがにこれには驚いたようだ。というか僕も驚きまくっている。『愛は光の向こう側』サブ主人公である王子が王子でなくなる…?え?え?意味がわからない。
なのに僕と王妃様を構うことなく、コンラッドは言葉を続けていく。

「あの夏の日まで…私の心に迷いはなかった。私は正しく、間違っているのはシャノン、そして…シャノンを教育した母上、あなたなのだと、そう思っていた」

ムカッ!いや、ここは怒るところじゃない。見ろ王妃様を。目をガン開きにしながらも、一切の感情に蓋をしている。

「私は国のためにシャノンとの婚姻を受け入れる我が身を嘆いてさえいた」

…回想だから仕方ないとはいえ…やっぱムカつくな。

「だがあの日シャノンに己の思い上がりを突き付けられた時から…私の心は揺れ続けていた。間違っていたのは私なのかもしれないと」

かもしれない…?そこは断定してもいい。

「混乱する感情の中で内省は何度も逆行したが…ようやく認めることが出来た。私という人間は酷く身勝手で…一面的な…、人の心の機微に疎い浅はかな人間なのだと」

「止めなさいコンラッド!何を言いだすの!シャノン!あなたからも何か言ってやって頂戴!」

え?無茶ぶりにも程がある!僕が口を挟んだら全肯定になるから逆効果だ。

「母上もいい加減認めるべきだ!私は統治に足る器ではない!いくら勉強して見せかけだけ整えたところで…資質が伴わなければ意味がない!だからシャノンを磨き上げたのでしょう!国を治めるに私では至らぬと分かっていたがために!母上!シャノンはまるであなたの複製だ!いや違う、複製だった…あの夏まで」

こ、これは!このセリフは!
あの日夢の中で見たあのシーンに出てきたセリフ…に近い!

『母上、シャノンはまるであなたの複製だ!シャノンをああまで冷徹にしたのは母上だ!ならばあなたも共に責任をとるがいい‼』

連帯責任だと王妃様を責め立てたコンラッド。ああそうか。僕が半年も早く王様を西の小国に送りこんだのと同じように、コンラッドのこれも結果に影響は無いとして前倒しで差し込まれたってことか。

「頑なにシャノンを私の正妃につなぎとめるのは政に必要だから、そうですね?だが母上。奇しくも『神託』となることで彼は国の道具となることを考え直した。それでもシャノンがこの国の未来に必要な人だということぐらいは分かっている。ならばここを捨てるのはこの私だ」

「コ、ココ、コンラッドちょっと!」

何言ってんの!僕を巻き込むな!ってか、僕が残ってコンラッドが王宮を出るとか…普通逆でしょ!

「国政のための婚姻など止めなければ!妃を愛さない王が民の手本などと…お笑い草だ!母上のような悲しい人をこれ以上王家は抱えてはならない!違いますか!」
「コンラッド!あ、あなたはわたくしを不幸だというの?国の頂点に立つ王の正妃たるこのわたくしを…」

「ならば母上は幸せだと胸を張れるのですか!」

ドラマみたいな状況に僕の場違い感が半端ない。お願い誰か!僕を助けて!

「…母上は賢明なお方だ。国のために、シャノンのために何をすべきかもうお分かりだろう。いまさら母子の情だけで愚かな選択はしないと私は信じている」

時間が凍り付くとはこういうことを言うのか。ピクリとも動かない静止画像のような王妃様。いつも笑わない深いブルーの瞳は、今現在真っ暗な深海のようだ。そして僕はなんとなく指一本動かしてはいけないのだと肌で感じている。やり切った感のあるコンラッドが実に腹立たしい。

ああ…意気込んで来るんじゃなかった。僕は自分の力量を見誤っていた…
どれくらいの時間がたったのだろう。閉じた目をスッと開けると王妃様は扉に向かって一言告げた。

「誰か!アレイスターとアーロンをここに呼びなさい!」




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