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コンラッド
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シャノンの弟妹たちが迎えた一歳を祝う宴席。
そこに第二側妃がトレヴァーを送り出したのは強い後ろ盾を欲したからだ。
正妃の息子であり、プリチャード家のシャノンが婚約者であり、序列の順位以上に力を持つフレッチャー候が後ろ盾となっている私の立太子は盤石で、それを疑う者も危ぶむものも今まで一人もいなかった。
それ故アレイスター、トレヴァーはそれぞれ北部、西部に領地を得て公爵位に納まることが既定であり、彼らもそれを強く望んでいた。
王太子、次期国王などといえば響きは良いが、この国における国王とは戦場で先頭に立ち指揮する立場だ。第二側妃も第三側妃も、我が子が自領の統治を務めとする公爵位へ納まることに安堵していただろう。
だがここにきて私が王族離脱を訴え、アレイスターは北部を王家の統治下でありながら政を切り離す共同での統治、正確には分割統治を提唱している。
それらが承認されれば第二継承権を持つトレヴァーは王太子となる道から逃げ出すことは出来なくなってしまう。武闘派で無い彼にはある意味気の毒な事だ。
だが私もアレイスターも知っている。
幼いころから一見どこか淡白そうなトレヴァー。ほどほどに温和でほどほどに冷静で、彼は一歩後ろに下がりながらも常に俯瞰で状況を把握し、そうしてその場その時、もっとも最善と思える手を自然と選ぶ。彼は剣を握らなくとも司令官向きの性格だ。十分に次期王として手腕をふるえるだろうと言うのが私の、恐らくはアレイスターにも共通した考えである。
そのトレヴァーを交え、珍しく本宮で食事を共にする王とひと時の団欒。
王都滞在時、王は第三側妃の後宮に入り浸るのが常だったのだが…アレイスターの問題、私の問題を抱えた今、さすがの父も逃げてはいられぬとお考えなのだろう。
「コンラッド、お前は本気で城を出て一貴族になり下がるつもりか」
「ええ」
「コンラッド、公爵位すら必要ないと、あなたはそう言うのね」
「何度も言ったはずです。シャノンが言うよう…私には心を鍛えなおす試練が必要だと、そう考えています」
「『神託』シャノンか…。厄介なことだ」
「あなた!口を慎みなさいませ!」
「…う、うむ…」
これだから父は本宮をお避けになるのだ。
だからといって所詮母失くして国政は成り立たないと父にも分かっている。いくら父が王であってもその力関係に上下は無い。
「ですが父上、私は騎士の称号を得て父上の力になりたい、そう考えているのですよ?」
「お前の気持ちは嬉しく思う。だが王太子はどうする!」
「トレヴァーを。彼は立派にその大役をこなすでしょう。私よりも賢明に…」
相変わらずどこを見ているか分からぬ瞳で黙々と食事をしていたトレヴァー。彼は己の名が挙がったことで顔を上げこちらを見る。すまないトレヴァー。私も必死なのだ。
「ふむ。トレヴァー、プリチャードの末子を祝いに出向いたと聞いたが…どうであった?」
「はい。さすがはプリチャード侯爵家。幼い双子の誕生祝いといっても一人は嫡男ですしね、そうそうたる顔ぶれでした。ポーレット侯爵家のご夫人も末娘の手を引いて顔をだしておられましたよ」
「あれは…三歳ほどでしたか。シェイナの友人にとお考えなのでしょう。そのシェイナはどうでしたか?プリチャードの血を引く娘であればさぞ…」
「ええ。ますますシャノン様そっくりになられて可愛いかったです」
「ゴホン」
「間違えました。さすがプリチャード家のご息女。まだ一歳だと言うのにシャノン様と普通に会話をしておいででした。凄いですね」
「まあ…、会話…などと。赤子の喃語でしょう」
「いえ。文字盤を使って。語学学習の出来る玩具…と仰っていましたが、その文字盤を使いシャノン様に言葉を伝えておいででした。あれは紛れもない単語でしたよ」
「それは本当かトレヴァー」
「ええ。さすが『神託』さまの妹ですね。感心しました」
顔色の変わる父と母。鈍い私でもわかる。これはさすがに…不味いのではないだろうか…
トレヴァー、お前に唯一足りないものがあるとすれば…それは経験という名の場を読む力だ…
そこに第二側妃がトレヴァーを送り出したのは強い後ろ盾を欲したからだ。
正妃の息子であり、プリチャード家のシャノンが婚約者であり、序列の順位以上に力を持つフレッチャー候が後ろ盾となっている私の立太子は盤石で、それを疑う者も危ぶむものも今まで一人もいなかった。
それ故アレイスター、トレヴァーはそれぞれ北部、西部に領地を得て公爵位に納まることが既定であり、彼らもそれを強く望んでいた。
王太子、次期国王などといえば響きは良いが、この国における国王とは戦場で先頭に立ち指揮する立場だ。第二側妃も第三側妃も、我が子が自領の統治を務めとする公爵位へ納まることに安堵していただろう。
だがここにきて私が王族離脱を訴え、アレイスターは北部を王家の統治下でありながら政を切り離す共同での統治、正確には分割統治を提唱している。
それらが承認されれば第二継承権を持つトレヴァーは王太子となる道から逃げ出すことは出来なくなってしまう。武闘派で無い彼にはある意味気の毒な事だ。
だが私もアレイスターも知っている。
幼いころから一見どこか淡白そうなトレヴァー。ほどほどに温和でほどほどに冷静で、彼は一歩後ろに下がりながらも常に俯瞰で状況を把握し、そうしてその場その時、もっとも最善と思える手を自然と選ぶ。彼は剣を握らなくとも司令官向きの性格だ。十分に次期王として手腕をふるえるだろうと言うのが私の、恐らくはアレイスターにも共通した考えである。
そのトレヴァーを交え、珍しく本宮で食事を共にする王とひと時の団欒。
王都滞在時、王は第三側妃の後宮に入り浸るのが常だったのだが…アレイスターの問題、私の問題を抱えた今、さすがの父も逃げてはいられぬとお考えなのだろう。
「コンラッド、お前は本気で城を出て一貴族になり下がるつもりか」
「ええ」
「コンラッド、公爵位すら必要ないと、あなたはそう言うのね」
「何度も言ったはずです。シャノンが言うよう…私には心を鍛えなおす試練が必要だと、そう考えています」
「『神託』シャノンか…。厄介なことだ」
「あなた!口を慎みなさいませ!」
「…う、うむ…」
これだから父は本宮をお避けになるのだ。
だからといって所詮母失くして国政は成り立たないと父にも分かっている。いくら父が王であってもその力関係に上下は無い。
「ですが父上、私は騎士の称号を得て父上の力になりたい、そう考えているのですよ?」
「お前の気持ちは嬉しく思う。だが王太子はどうする!」
「トレヴァーを。彼は立派にその大役をこなすでしょう。私よりも賢明に…」
相変わらずどこを見ているか分からぬ瞳で黙々と食事をしていたトレヴァー。彼は己の名が挙がったことで顔を上げこちらを見る。すまないトレヴァー。私も必死なのだ。
「ふむ。トレヴァー、プリチャードの末子を祝いに出向いたと聞いたが…どうであった?」
「はい。さすがはプリチャード侯爵家。幼い双子の誕生祝いといっても一人は嫡男ですしね、そうそうたる顔ぶれでした。ポーレット侯爵家のご夫人も末娘の手を引いて顔をだしておられましたよ」
「あれは…三歳ほどでしたか。シェイナの友人にとお考えなのでしょう。そのシェイナはどうでしたか?プリチャードの血を引く娘であればさぞ…」
「ええ。ますますシャノン様そっくりになられて可愛いかったです」
「ゴホン」
「間違えました。さすがプリチャード家のご息女。まだ一歳だと言うのにシャノン様と普通に会話をしておいででした。凄いですね」
「まあ…、会話…などと。赤子の喃語でしょう」
「いえ。文字盤を使って。語学学習の出来る玩具…と仰っていましたが、その文字盤を使いシャノン様に言葉を伝えておいででした。あれは紛れもない単語でしたよ」
「それは本当かトレヴァー」
「ええ。さすが『神託』さまの妹ですね。感心しました」
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