断罪希望の令息は何故か断罪から遠ざかる

kozzy

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シャノンとアレイスター

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無茶苦茶言ってる自覚はある。アレイスターには関係無いのに…なのにシェイナの事ばかりかジェロームの結婚も阻止しろだなんて。

けど…

この部屋に入ってアレイスターの顔を見たら、いつも僕を助け続けてくれたアレイスターの顔を見たら、それは僕が勝手にお手本にしてただけでアレイスターは知らないことだけど…、でもこの世界に来てからずっと頼りにしてきたアレイスターを見たら僕は気が抜けてしまった。

次から次へと涙が零れてきて…自分勝手な事ばかり言った気がする。それどころか気が付いたらアレイスターの胸に鼻水までこすりつけて。

けど不思議とアレイスターには何を言っても何をやってもいい気がして…、だってアレイスターはノベルゲーに出てこない。シナリオの強制力はアレイスターに届かない。それに…

アレイスターは、図太さには定評のあるこの僕よりもうんと強いから。

アレイスターの立場は中途半端で、なのに腐ることも僻むことも恨むこともなく、息をひそめて静かに傍観者で居たアレイスター。だけどそれは…きっと本当に強くなければ出来ない事で。

ならちょっとくらい甘えてもいいよね?

子供の様に何度も頭を撫でられ気が付いたら涙が止まっていた。
冷静になると恥ずかしい…。僕はこう見えて入院中だって泣いた事なんか一回しか無かったのに。

「シャノン聞いて。いいかい、エンブリー卿の結婚が嫌なら君が彼の妻になるといい」
「え?でもお父様が…」

そんなの…言われなくても今すぐそうしたい!だけどあれはあくまで断罪ありきの計画であって…この流れでお父様が「はいそうですか」と言うわけない。

「王家から婚約を解消されれば君は゛傷物”になる。ましてや君は第一王子とあれだけの確執がある。おかしいだろうか」

確かに普通なら嫁の貰い手は激減するだろう、だが、もしも婚約解消されたらコンラッドへの嫌がらせに僕を大公殿下の後妻に、と言い放ったお父様ならそんなの屁でもない気が…
だいたいお父様はジェロームの後継を心配してるんだから。男の僕を嫁に…なんて多分許可しないよ…

「心配いらない。プリチャード侯はこの冬君の気持ちを知った。私から話そう。後悔を口にする今の侯ならきっとお許しくださる」

「ホントに?アレイスターが話してくれるの?」

「ああ。だがそうなるとエンブリー卿には第二夫人が必要になるね。男の妻を娶った場合第二夫人は公的に認められるが、だが知っているかい?それには妻の承認が必要になる」

「え…?」

つまり僕が奥さんになればジェロームに群がる悪い虫は全部阻止できるってこと?ア…アレイスター…神!

「だがそもそも君を娶ったエンブリー卿が第二夫人を作るとは思えないがね」

「そ、そうだよね!」

「そしてシェイナ嬢の件だが…陛下には違う形で神格を提供するんだ。これは『神託』である君にしか出来ない事だ」

アレイスターは言う。王様が厳密に欲しいのは『神子』ではなく王家を輝かす゛神格”、つまりハクというやつ。そして王様が傾倒する例の伝承…戦場における゛勝利の約束”だろう、と。

「それに替わる同等のものを与えられればあるいは…」

「シェイナを諦める?」
「少なくとも婚約を引き延ばすことは出来るだろう。いくらなんでもまだ一歳だというのに今から婚約などと…父上は君たちの騒動から何も学んでいないらしい」

ホントだよ!

「そしてここからが本題だ。トレヴァーは抜け目のない子だ。あの子は君という面倒な兄のいるシェイナ嬢を娶とりたいとは恐らく思わないだろう」
「…僕は面倒な兄ですか?」

「そうだね、君の立場を考えれば…トレヴァーにとって面倒な兄だ」

もしや…小姑根性丸出しになってた?あちゃー…

「君が思う以上にあの子は利口だ。時間さえ稼いでやれば上手く躱すに違いない。だからねシャノン、君は王に゛勝利の約束”を与えシェイナ嬢が大きくなるまで婚約を引き延ばすんだ」

「うん」

「そして時機が来たらエンブリー伯爵夫人の座をシェイナ嬢に差し出すといい」

「は?」

結婚と離婚を同時に勧めるとか…意味が分からない。

「まだエンブリー伯爵領の後継問題がある。プリチャード候だが、いつまでもエンブリー卿が第二夫人を持たなければ必ず誰かをあてがうだろう」

「そ…そうかも…」

いや、考えたらそうとしか思えない。未婚の遠縁なんて探せばいっぱいいるんだし…

「どうやら君はエンブリー卿の相手がシェイナ嬢なら構わないのだろう?だが兄妹で正妻、第二夫人など…君は好まない。そうじゃないかい?」

その通りだ…。いくらここでは当たり前…とはいえ前世の道徳観を持つ僕には兄妹揃ってなんてありえない…
だからって…ジェロームの隣をシェイナに渡すって…でもそれって…

「君には不名誉を背負わせてしまうが…」
「ううん、そんなのは構わない…けど…ど…ぅ…」

「すまない。初恋を与えて取り上げる、とは酷い提案だ」
「し、知ってたの…?」

「君は私の前で何も隠さないからね」

何でも知ってるアレイスターは僕の心なんてお見通しだ…。でも…何でも知ってるアレイスターが言うんだから、きっとこれが最善なんだろう…

「初恋だけど…、でも…、でもシェイナにとってはもっと大事な初恋だから!」

「命の恩人だから?そうか…、彼女には大人並みの精神があるのだね」

そうじゃない!あの金平糖を受け取ったのが僕じゃなくシェイナだからだよ!

僕はジェロームが大好き…。彼は前世で一番親身になってくれた研修医の先生に雰囲気が似ていて、その一挙手一投足を見ているだけで僕の心は安堵で満たされる。けど、……重みが違う。

シェイナ、いや、シャノンにとっては言葉通り地獄で見つけたたった一つの温かい感情で…、僕は思ったのだ。もしジェロームに出会わなければ、彼は温もりを知らずに成長し、本物の氷になってしまっていたかもしれないと。

シャノンが持ってない物を僕は何でも持ってた。毛の生えた心臓も…極太の神経も…毎日を彩る腐男子魂も、それから何より…優しい両親の愛情も。だから前世に悔いなんてない!悔いがあるとすれば…弟妹から両親を取り上げたこと…

「ありがとうアレイスター…、すごくいい提案。それでいく。ズ…」
「いいのかい?」
「うん。それがいい」
「顔を貸してシャノン。ほら涙を拭いてあげよう」

「…ズズ…鼻も…」
「いいとも」

グズグズと泣き続ける僕の背中をアレイスターはずっとさすってくれた。カッコ悪い…今日は泣いてばかりだ。

「それにしてもまさか君からこんな相談を持ち掛けてくれるなんてね。これこそ渡りに船だ」
「あ…、そう言えば神の采配って…何のこと?」

そうそう。その事を忘れてた。気になってたんだよね。

「つまり…離縁されれば君の立場は一段下がる。王も留飲を下げよう」
「え?」

引っ込む涙。僕の離婚と王様に何の関係が?

「その時こそシャノン、この手を取って欲しい」
「え?」

い、いきなり話の流れが…、あれ?…よく考えたらずーーっと抱きしめられっぱなし?

「エンブリー卿の妻に…というのは私のためでもあるのだよ。…プリチャード侯もさすがに十年は待ってくれないだろうからね」
「え?」

これなんか空気感が…綿菓子?

「シャノン…十年エンブリー卿のもとで私を待っていて欲しい。分かるかい?これは求婚だ」

「え!? 」

「虫のいい話だ。だから返事は急がない。考えてくれるね?」

えー?えー?えー?あっ!

ゆっくり触れて…そしてゆっくり離れていく唇…、アレイスター、それは僕の…僕の…



ファーストキッス…



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