コスプレ令息 王子を養う

kozzy

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閑話 ♂♂婚における後継問題

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男同士の婚姻が認められる愛と自由の国、それが大国サルディーニャだ。

だが私は母国に居た頃より、歴史ある貴族家は後継者をどうするのか、とささやかな疑問を持ち続けてきた。
それは母の伯父上がサルディーニャに嫁がれた私だからこそ去来した疑問であるのだが。

その答えを知ったのは隣家の子爵とたわいもない会話を交わしていた時のことだ。

「ところで伯爵は正夫人をどうされるおつもりか」
「それはどういう意味だろう?私の妻はすでにいるが…」
「おや?女性の妻は娶られぬのか。では伯は後継は要らぬと?」

私とコレッティ侯は約束していた。「いずれアスタリア母国へ帰還が叶うならばこの爵位は侯へお返ししよう」と。
その話をした当時、私は男の妻であるイヴァーノを同性婚の習慣がないアスタアリアには連れて行けぬ、帰還の際は生家へ帰らせねば…そう思っていた。が、もちろん今となってはそんな考えなど毛頭ない。誰がなんと言おうが、イヴさえ頷いてくれるのならば共に連れて戻るつもりでいる。

「後継は必要無いのですよ。いずれ爵位はコレッティ家へお返しする所存ですので」
「なるほど。それがコレッティ侯の希望なのですな」

その会話から分かったこと、これはつまり、子を望むのならばもう一人女性の妻を娶らねばならぬということだ。
そして本日ここに招待された、ある夫婦の姿を見てその理解はさらに深まることとなったのだ。

彼らは妻と夫、そして妻に侍るもう一人の男性と、三人で参加していたのだが、一見妻の側仕えのようにも見受けられる、優美な男性…彼は夫のもう一人の妻だと言うのだ。

彼らと話して分かった事は、これこそがこの国における同性婚の始まりだという事実だ。




〝チチスベオ” それは数百年もの遥か昔、この国サルディーニャにあった正式な貴人たちの制度である。

チチスベオとは、妻の生活を快適にするため、婚姻時に夫が妻のために雇う特別な男性の従者を指す。

彼らは夫人の荷を持ちながら、夜会、劇場、王宮行事、ありとあらゆる場所に同行した。そして夫人が常に極上の気分でいられるよう細やかな配慮を忘れなかった。
夫の愚痴を聞き、我儘に応え、社交上の窮地を助け、夫と気の合わぬ夫人であれば疑似恋愛を楽しませ、また装飾品の役割も果たす見目麗しい付き添い騎士、それが〝チチスベオ”だ。

この風習は非常に高尚な、洗練された貴人の粋な嗜みとして長く受け入れられていたという。

そんなチチスベオには、男性の中でもひときわ優雅で美しく、また不貞行為に及ばぬよう、女性に性的な関心を持たぬ中性的な貴公子が就いたのだというが、そうなると今度は夫である当主本人がその優雅なチチスベオに惹かれるのも無理からぬ事。だが不貞行為は神の名において大罪である。

そこで国の要職を務める貴人たちはなんと王まで巻き込み、チチスベオを当主の第二夫人として公的な立場にのし上げたのだ。
恐るべし欲望の力…。だがそれも自由を重んじるという、サルディーニャに脈々と伝わる気風あればこそなのだろう。

そうして時は流れ…
男性同士の婚姻、恋愛はいつしか庶民階級までも浸透し、この国サルディーニャを愛と自由の国へと変貌させていったのだという…



言葉を交わした二人の妻を持つ貴人はこう言われた。

「私が真に愛するのは政略により嫁いだ妻でなく初めに娶った男のヴァレンチノだけだ。それは妻も承知の事。だがヴァレンチノは妻に良く尽くしてくれる。私は二人に感謝と敬意を忘れないよ」

つまり婚姻の順序など関係なく、女性の妻を娶った時点で家内の序列は女性が上となるのだ。そして今でもチチスベオの名残があるのか、第二夫人となった男の妻は正夫人に尽くさねばならないのだとか。

目の前には二人の妻が他のご婦人方も交え和やかに笑い合っている。
だが第二夫人である優美な男性、彼は談笑しながら何気に、正夫人が汗をかけばハンカチを、手洗いに向かおうとすれば白粉を、そのポケットよりすかさず取り出し手渡している。

「卿、あなたの寵愛を求め揉め事にはならぬのだろうか?」
「なんと野暮なことを!このサルディーニャでは笑われてしまうよ」

卿曰く、正夫人は美しい第二夫人だんせいにかしずかれ自尊心を満たし、第二夫人は正夫人により後継を産めぬ憂いを取り去る。そして夫である卿自身は、後継の心配、また後継争いといった面倒事を気にせず心のままに愛を育めるのだとか。

「三者が寛容でなくては成り立たぬ婚姻の形であられるな」
「気品とは寛容の中にあるものではないかね。そして嫉妬などという感情はとても優雅とは言えぬ」

ロマンティックで情熱的、陽気なサルディーニャの民ならではということか…


「ビアジョッティ伯爵、あなたの妻はあのイヴァーノ様だったね。彼が居ては正妻に入られるご婦人はおらんかもしれんな」
「構いませんよ。必要もない」



これが私とイヴの愛を育む愛と自由の国、サルディーニャにおける真の始まりである。






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