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悪魔に魅入られた夜会 ②
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「ニコラ!」
「パンクラツィオ様ぁ!」
がばっ!ヒシィ!
駆け寄ったニコラと熱烈な抱擁をかますパンクラツィオ。奴らは現在、非常に感動的かつ運命的な恋人同士の再会に酔いしれている。
ニコラは生きるために戦場へ旅立った不治の病に侵された愛する人を(こう書くとヒドイ…)、それでも健気に待ち続けた悲劇のヒロインになりきっているし、パンクラツィオはパンクラツィオで、旅立つ前にニコラがプレゼントした、笑い合う二人の写真が入ったロケットペンダントにより九死に一生を得る、という劇的なドラマに浸っている。
…が、教えてやりたい。あのフラグを授けたのはこのエヴァ様だ…と…、ふっ、感謝していいよ?
そもそもこれはゲームが用意した最終フラグの代わりともいえるものである。
庶民の、それも受け男のニコラを第二夫人とは言え正式な妻の座につけるというのはタランティーノ公爵家にとって、いくら嫡男の息子がゴリ押ししようと看過できる問題ではない。
先ずはニコラを貴族位に、この一連の流れはパンクラツィオの独断によるものだ。
ニコラを家格の釣り合う然るべき高位貴族でなく、自分の従者であるマルティノんち、つまり無理が利くカポーネ子爵家へ養子に出したのがそのいい証拠だ。
そもそもゲームのニコラとアマーディオの間にも同じ問題は存在していた。
いくら愛人だろうと、ニコラをアマーディオの後宮へ入れることを王様も王妃様も歓迎していなかったのだ。
だからこそ『ニコラが特別な治療でアマーディオの深刻な問題を治癒した』というエピソードが挟まれ、王と王妃の同意を得たワケだ。
その『深刻な問題』であるEDを僕が未然に防いだことでニコラはパンキーにルートを固定した。だからこそここで代わりの劇的エピソードが挟まれるのは必然である。
公爵家嫡男の命を陰ながら救った命の恩人…これで公爵家の態度は大きく軟化するだろう。
とまあ…前置きはここまでにして。
さすがに散らばりパンクラツィオの入場を出迎える下位貴族たち。相手は普段なら近づくことも許されない大物だ。全員貴族の顔を取り戻し、せめて一声…と、虎視眈々チャンスをうかがっている。
が、当の本人はこちらに狙いを定めたようだ。
「お前は…エヴァ!看護師のエヴァか!」
記憶の片隅どころか記憶の中央にいたらしいエヴァに、脇目も降らずずかずかと歩み寄るパンクラツィオ。その腕にはニコラをぶら下げている。
「パンクラツィオ様ぁ、エヴァさんってばひどいんですよぉ、僕の夜会で」
「夜会でなんですか?」
「えっ?や、夜会で…」
「僕が何かしましたっけ?」
「何って…、そ、そう!僕の夜会でイヴァーノのリボンを配るなんて!」
「えー?僕はこの衝立から一歩も動かず「欲しい人どうぞ」って声かけただけなのにぃ?」
「で、でも!」
「僕が庶民だから?」
「ちが…」
「へー、貴族になったとたんこれなんだ?」
「え…そ…」
「あんなに仲良しだったのにぃ!ニコラさんヒドイ!」
「あうう…」
はい特大ブーメランっと。
「やめぬか看護師!私のニコラになにをした!」
「面白いことを言いますね公爵子息様。僕が何かしたように見えましたか?マルティノ先生出番ですよ!ご子息様は眼をやられてご帰還です」
その二つの目は節穴だろうか?あ、ニコラが天使に見えてる時点で節穴だったわ。
「私の目は無事だ!適当なことを言うな!」
バレたか。
「けどマルティノ先生が公爵子息様の健康を慮って僕を呼んだのは本当ですよ?帰ったばかりでお疲れだろうから…って」
「そうかマルティノ気遣い感謝する。だが私の健康状態に問題は無い。…丁度良い…看護師、ついてこい!」グイッ!
「ちょっ!」
腕を引っ張り連れて来られたのは隣に用意された休憩の間。そこに居た数人はすぐに席を立ち、僕とパンクラツィオ、ニコラとマルティノだけが部屋には残った。
「いいか!柘榴を手に入れ帰路となるこの一か月私は赤い実を食べ続けた。その甲斐あって昨日、もう問題なかろうと宮廷医のお墨付きを得た。エヴァ、これ以上私の健康に口を挟めば不敬と見なす。良いな!」
出たよ、不敬…。公爵子息パンクラツィオの専売特許。それさえ言えば黙ると思って…
だ・が!
庶民と公爵子息じゃ公爵子息が上だが、患者と看護師なら看護師の方が上だからな!
「…本当にそうか試してみますぅ?」
「何!」
「問題がホントにないか」ニヤリ
「無いに決まっているだろう。宮廷医の診たてがお前に劣るとでもいうつもりか」
「じゃあちょっとそこのイスに掛けてください」
「なんだと?」
「自信があるなら構わないでしょ?イスに座るくらい」
「…よかろう…」ドサッ
「もっと深く」
「うるさい奴だ…」ギシッ
壁際の椅子に腰かけさせたパンクラツィオの額にそっと添える一本の指。
「いいですか?ザクロは確かに抗酸化のスーパーフードです。ですがその外皮は毒が含まれます」
「私が何の毒見もせず食したと思うか。確認はした。問題ない」
「混ざってないって何故言い切れます?あの毒には眩暈を引き起こしたり神経を麻痺させたりする〝アルカロイド” が含まれるんですよ?知ってました?」
「あるかろいど…だと…?何だそれは!」ゴクリ…
「少量なら命に別状はないです。でも毒が回っていればあなたは立てません。さあ立ってごらんなさい!」
「パンクラツィオ様ぁ!立って!」
ニコラが言うといやらしいな…
「パンクラツィオ様?」
「…まさか…」サァァァァ…
みるみる青ざめる二コラと元従者マルティノ。
「何故立てぬ!何故だ!」
「屈強なあなたがこんなか弱い女の指一本で動けないとは…やっぱり…」
「くぅぅぅぅ!」
ふっ!冗談はこれぐらいにしといてやるか。
僕にも理屈は分からないが、これは某人気ツベで見た、指一本でイスから立てなくなる裏技である。
「どうです公爵子息様?だから言ったじゃないですか」
「看護師!この麻痺は治るのか!」
「ええ。不治の病じゃないですからね。明日マルティノ先生に僕しか知らない特別な民間のお薬渡しておきます。それを三日間飲んだら治りますよ」
「そうか…」ホッ
「でもこれに懲りたら医療従事者に向かって「黙ってろ」とか言うの止めてくださいね。今度疾患見つけても教えてあげませんよ?」ギロリ
「…覚えておこう…」
覚えておこう…じゃなくて猛省しろ!それよりいつまでも寄り道してる場合じゃない。本題に戻らないと。
「それより公爵子息様…」
「今度はなんだ!」
「ずいぶんゴージャスで華やかな衣装ですね。高そう」
「当たり前だ。これはこの日のために特別な金糸を使い刺繍を施した衣装だからな。ニコラを祝うために」
「パンクラツィオ様~ぁ♡」
「そのフロックコート…もしかして宝石も入ってます?」
「もちろんだ。施された花の芯には宝石が使われている」
「やっぱり!庶民の僕に貴族さまの流行はよく分からないけど…この会場で光り輝いてるの公爵子息様だけですもんね?さっすがー!」
「そういえば…マルティノ、なんだその地味な装いは…?」
「こ、これはエヴァ、ゴホン、今社交界で最も人気の装いで…、その…」
ふ、と何かを思い出したように勢いよく部屋を出るパンクラツィオ。
エヴァの存在にスルーしかけていたようだが…見るがいい!
これがサルディーニャダンディの姿だ!
「パンクラツィオ様ぁ!」
がばっ!ヒシィ!
駆け寄ったニコラと熱烈な抱擁をかますパンクラツィオ。奴らは現在、非常に感動的かつ運命的な恋人同士の再会に酔いしれている。
ニコラは生きるために戦場へ旅立った不治の病に侵された愛する人を(こう書くとヒドイ…)、それでも健気に待ち続けた悲劇のヒロインになりきっているし、パンクラツィオはパンクラツィオで、旅立つ前にニコラがプレゼントした、笑い合う二人の写真が入ったロケットペンダントにより九死に一生を得る、という劇的なドラマに浸っている。
…が、教えてやりたい。あのフラグを授けたのはこのエヴァ様だ…と…、ふっ、感謝していいよ?
そもそもこれはゲームが用意した最終フラグの代わりともいえるものである。
庶民の、それも受け男のニコラを第二夫人とは言え正式な妻の座につけるというのはタランティーノ公爵家にとって、いくら嫡男の息子がゴリ押ししようと看過できる問題ではない。
先ずはニコラを貴族位に、この一連の流れはパンクラツィオの独断によるものだ。
ニコラを家格の釣り合う然るべき高位貴族でなく、自分の従者であるマルティノんち、つまり無理が利くカポーネ子爵家へ養子に出したのがそのいい証拠だ。
そもそもゲームのニコラとアマーディオの間にも同じ問題は存在していた。
いくら愛人だろうと、ニコラをアマーディオの後宮へ入れることを王様も王妃様も歓迎していなかったのだ。
だからこそ『ニコラが特別な治療でアマーディオの深刻な問題を治癒した』というエピソードが挟まれ、王と王妃の同意を得たワケだ。
その『深刻な問題』であるEDを僕が未然に防いだことでニコラはパンキーにルートを固定した。だからこそここで代わりの劇的エピソードが挟まれるのは必然である。
公爵家嫡男の命を陰ながら救った命の恩人…これで公爵家の態度は大きく軟化するだろう。
とまあ…前置きはここまでにして。
さすがに散らばりパンクラツィオの入場を出迎える下位貴族たち。相手は普段なら近づくことも許されない大物だ。全員貴族の顔を取り戻し、せめて一声…と、虎視眈々チャンスをうかがっている。
が、当の本人はこちらに狙いを定めたようだ。
「お前は…エヴァ!看護師のエヴァか!」
記憶の片隅どころか記憶の中央にいたらしいエヴァに、脇目も降らずずかずかと歩み寄るパンクラツィオ。その腕にはニコラをぶら下げている。
「パンクラツィオ様ぁ、エヴァさんってばひどいんですよぉ、僕の夜会で」
「夜会でなんですか?」
「えっ?や、夜会で…」
「僕が何かしましたっけ?」
「何って…、そ、そう!僕の夜会でイヴァーノのリボンを配るなんて!」
「えー?僕はこの衝立から一歩も動かず「欲しい人どうぞ」って声かけただけなのにぃ?」
「で、でも!」
「僕が庶民だから?」
「ちが…」
「へー、貴族になったとたんこれなんだ?」
「え…そ…」
「あんなに仲良しだったのにぃ!ニコラさんヒドイ!」
「あうう…」
はい特大ブーメランっと。
「やめぬか看護師!私のニコラになにをした!」
「面白いことを言いますね公爵子息様。僕が何かしたように見えましたか?マルティノ先生出番ですよ!ご子息様は眼をやられてご帰還です」
その二つの目は節穴だろうか?あ、ニコラが天使に見えてる時点で節穴だったわ。
「私の目は無事だ!適当なことを言うな!」
バレたか。
「けどマルティノ先生が公爵子息様の健康を慮って僕を呼んだのは本当ですよ?帰ったばかりでお疲れだろうから…って」
「そうかマルティノ気遣い感謝する。だが私の健康状態に問題は無い。…丁度良い…看護師、ついてこい!」グイッ!
「ちょっ!」
腕を引っ張り連れて来られたのは隣に用意された休憩の間。そこに居た数人はすぐに席を立ち、僕とパンクラツィオ、ニコラとマルティノだけが部屋には残った。
「いいか!柘榴を手に入れ帰路となるこの一か月私は赤い実を食べ続けた。その甲斐あって昨日、もう問題なかろうと宮廷医のお墨付きを得た。エヴァ、これ以上私の健康に口を挟めば不敬と見なす。良いな!」
出たよ、不敬…。公爵子息パンクラツィオの専売特許。それさえ言えば黙ると思って…
だ・が!
庶民と公爵子息じゃ公爵子息が上だが、患者と看護師なら看護師の方が上だからな!
「…本当にそうか試してみますぅ?」
「何!」
「問題がホントにないか」ニヤリ
「無いに決まっているだろう。宮廷医の診たてがお前に劣るとでもいうつもりか」
「じゃあちょっとそこのイスに掛けてください」
「なんだと?」
「自信があるなら構わないでしょ?イスに座るくらい」
「…よかろう…」ドサッ
「もっと深く」
「うるさい奴だ…」ギシッ
壁際の椅子に腰かけさせたパンクラツィオの額にそっと添える一本の指。
「いいですか?ザクロは確かに抗酸化のスーパーフードです。ですがその外皮は毒が含まれます」
「私が何の毒見もせず食したと思うか。確認はした。問題ない」
「混ざってないって何故言い切れます?あの毒には眩暈を引き起こしたり神経を麻痺させたりする〝アルカロイド” が含まれるんですよ?知ってました?」
「あるかろいど…だと…?何だそれは!」ゴクリ…
「少量なら命に別状はないです。でも毒が回っていればあなたは立てません。さあ立ってごらんなさい!」
「パンクラツィオ様ぁ!立って!」
ニコラが言うといやらしいな…
「パンクラツィオ様?」
「…まさか…」サァァァァ…
みるみる青ざめる二コラと元従者マルティノ。
「何故立てぬ!何故だ!」
「屈強なあなたがこんなか弱い女の指一本で動けないとは…やっぱり…」
「くぅぅぅぅ!」
ふっ!冗談はこれぐらいにしといてやるか。
僕にも理屈は分からないが、これは某人気ツベで見た、指一本でイスから立てなくなる裏技である。
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「看護師!この麻痺は治るのか!」
「ええ。不治の病じゃないですからね。明日マルティノ先生に僕しか知らない特別な民間のお薬渡しておきます。それを三日間飲んだら治りますよ」
「そうか…」ホッ
「でもこれに懲りたら医療従事者に向かって「黙ってろ」とか言うの止めてくださいね。今度疾患見つけても教えてあげませんよ?」ギロリ
「…覚えておこう…」
覚えておこう…じゃなくて猛省しろ!それよりいつまでも寄り道してる場合じゃない。本題に戻らないと。
「それより公爵子息様…」
「今度はなんだ!」
「ずいぶんゴージャスで華やかな衣装ですね。高そう」
「当たり前だ。これはこの日のために特別な金糸を使い刺繍を施した衣装だからな。ニコラを祝うために」
「パンクラツィオ様~ぁ♡」
「そのフロックコート…もしかして宝石も入ってます?」
「もちろんだ。施された花の芯には宝石が使われている」
「やっぱり!庶民の僕に貴族さまの流行はよく分からないけど…この会場で光り輝いてるの公爵子息様だけですもんね?さっすがー!」
「そういえば…マルティノ、なんだその地味な装いは…?」
「こ、これはエヴァ、ゴホン、今社交界で最も人気の装いで…、その…」
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