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4羽 冒険都市エングリアにて
④最初と最後の冒険
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「いかがでしょう?
こちらのパーティーとの共同任務という条件・・・飲んでいただけますか?」
ライキは受付嬢に紹介されたパーティー”奇跡の退治屋”の二人と何処かで会ったことがあると感じた。
向こうもライキに対してそれを感じているようで、互いに顔を見合わせて、何処で会ったのかを思い出そうと首をひねっていた。
(この二人、前に何処かで親切にしてもらった気がするんだよな・・・。
いつのことだったかすぐには思い出せないけど・・・。
でも、きっといい人達だし、共同任務は問題なさそうだな。
受付の人もこちらの返事を待ってるだろうし・・・。)
ライキはそう考え、頷いた。
「はい、いいですよ?
共同でやらせていただきます。
リーネもそれで良いよな?」
ライキが傍らにいるリーネに確認した。
「うん!」
リーネが微笑んで頷いた。
「お引き受けしていただけて良かったです!
それでは、”奇跡の退治屋”さん、後は宜しくお願いしますね!」
受付嬢は”奇跡の退治屋”と”銀色狼と空駒鳥”に会釈してから業務へと戻って行った。
後を託された”奇跡の退治屋”の、背が高くてごつい体格の20代前半くらいの大剣を背に刺した白髪に浅黒い肌の男が、ライキに向けて手を差し出した。
「・・・つーわけで、改めてよろしく頼むぜ!
”奇跡の退治屋”のバスターだ。
職業は戦士。
お前らのことニュースペーパーで見たぜ!
有名なつがいと共同で任務に着けて光栄に思う!」
ライキは彼の手を取り自己紹介を返した。
「”銀色狼と空駒鳥”の”銀色狼”ライキ・ハント・スイズリーハントです。
職業は狩人です。
宜しくお願いします!」
続いて長い亜麻色の髪をポニーテールに結い上げたスレンダーな二十歳そこそこのロッドを持った女性が笑顔でリーネに手を差し出した。
「あたしはミラクル。
職業は魔法使い。
この時代には珍しく魔法が少し使えるから、こりゃ奇跡だって言って名付け親がこの名前をつけたの。
小っ恥ずかしいからミラって呼んでね!
あたしの名前ミラクルと、相方の名前バスターを合わせて”奇跡の退治屋”をパーティーネームにしてるんだけど、冒険者やって2年経つけどやっとBランク・・・完全に名前負けしてるよね(笑)
どうぞよろしく!」
「いいえ、そんなこと!
素敵なパーティーネームです!
”銀色狼と空駒鳥”の”空駒鳥”リーネ・ファーマシーです。
職業は薬師です。
こちらこそ、よろしくお願いします!」
リーネがミラの手を取り笑顔で挨拶した。
「だが銀色狼さんよ・・・。
あんたとは前にも会ったことがある気がするんだよな・・・。」
バスターがライキの顔を繁々と眺めながらまた首を捻った。
「ニュースペーパーの記事で見たときはピンとこなかったけど、こうして目の前で見ると確かに以前会ってるのよね・・・。」
ミラもその隣で首を捻った。
「俺も貴方達とは以前何処かでお会いしたことがあるような気がしていました・・・。
お二人はフォレストサイド村に来られたことはありますか?」
ライキが尋ねた。
「いや、フォレストサイドはねーな。」
「じゃあ何処で会ったんだろう?
俺は巡礼の旅に出るまではフォレストサイド村にいたから・・・。」
とライキ。
「・・・確か会ったのは俺らがまだ駆け出しのDランクのときだから・・・2年くらい前か?」
「・・・そうだよねぇ。
その時の銀色狼くんは大人びては見えたけど、今よりあどけなくて可愛かったし・・・多分それくらい前だよ。」
ミラもライキの顔をじーっと見ながら言った。
「2年前・・・?
おばあちゃんが亡くなった頃だよね・・・?
ライキ、覚えがある?」
リーネが小首を傾げてライキを見上げた。
「ばーちゃんが亡くなった頃か・・・。
ばーちゃんが亡くなったのは、俺が3日間行方不明になって帰ってきた後だったから・・・」
「「「あっ!!!」」」
ライキ、バスター、ミラの3人が同時に思い当たり、声を上げた。
「初めて空を飛ぶ力が発動して、知らない森に飛ばされ3日間彷徨ったとき、途中で倒れた俺を助けてくれた人たちだ!!」
「おう!あの夜の森の小僧だ!
いやー、男前になったな!!」
「いやいや、あの時助けてもらったのはあたしらのほうだから!
夜の森を舐めてて近道を突っ切ろうとしてたら、ブラックオーガホーンが出て、あの頃のあたしらじゃ対処出来なくてピンチだったところをさ、通りすがりの寝間着姿の男の子が薪割り斧でサックリ倒しちゃうんだもん!
びっくりしたわ!
その後倒れちゃったから、あたしらのテントに寝かせたんだよ。」
「そうそうそーだった!
あの時はマジ助かったぜ!
でも朝になったらいつの間にかいなくなってたからよ、どーしちまったんだって気になってたんだよ!」
「あっ・・・あの時は、えぇと・・・また急に空に飛ばされて・・・。」
(二人がセックスしてるところを目撃して、それをネタに俺とリーネがシてるところに置き換えてオナニーして射精し、空を飛んだ・・・なんて言えないしな・・・。)
ライキはその時の事情を話して知っているリーネと顔を見合わせて苦笑いした。
「ワッハッハ!まじかよ!
空を飛んで移動出来るなんて便利な力だなって羨ましく思うがよ、なかなか難儀なところもあるんだな(笑)」
「あははっ、力に目覚めてすぐはそうでしたね(笑)
力のことがわかった今では便利なんですけど。」
笑いながら言うバスターにライキが苦笑いで答えた。
「じゃあその力で直接シルバーファングウルフのいる地点まで飛んじゃうこともできる?」
ミラが尋ねた。
「あっ、すみません、それは無理です・・・!
一度行ったことのある特徴的な場所へしか飛べないので・・・。
しかも、リーネと二人で集中する時間(射精するのが発動条件とは言い辛いからな・・・。)が必要なんです。」
「あっ、そっか・・・!
それが出来たら楽ちんかなぁと思ったけど、残念!」
ライキの答えにミラが笑った。
「まぁあたしら、あの森にはDランクの時から薬草採取とか魔獣退治とかで出入りしてるし、一通り案内出来るから任せてよ!」
「あぁ、もう庭みたいなもんだぜ!」
バスターがそう笑いながら使い古されて色々と書き込まれたエングリア周辺の地図を出してきて、エングリア南の森のある地点を指差した。
「シルバーファングウルフが居座ってる地点はここなんだが、この辺りまでは歩くと結構距離があり、朝出発して着く頃には夜になっちまう。
だからこの♨印の地点・・・ここは天然温泉が湧いているポイントなんだが、ここで一旦野営しよう。
だが気をつけねーといけねーのは、シルバーファングウルフの影響で、森に出てくる魔獣のランクが全体的に上がってるってことだ。
雑魚でブラックオーガホーンとかウィングウルフとかフレイムフォックスとか出てくるって情報だから油断はできないぜ?
野営するときはうちとお前らとで交代で見張りをして・・・。」
バスターが説明している途中でライキが手を挙げた。
「ん?何だ銀色狼。」
「えぇと、雑魚で黒牛・・・ブラックオーガホーンとか風狼とか炎狐が出てくるなら、キャンプの周りにこれを吊るしておけば寄って来ないです。
そうすれば見張りも必要ありませんし。」
ライキはワイバーンの爪、ヘルハウンドの牙、鬼イノシシの角をアイテムボックスから取り出して見せた。
「うおっ!?
そいつはAランク魔獣の素材じゃーか!
そんなんどこで手に入れた!?」
バスターは驚いて目を見開き、ライキの出した角やら爪やら牙をまじまじと手に取って眺めた。
「俺が普段狩りで入っているフォレストサイド南の森の奥に出て来ます。
雑魚魔獣除けに使えるから倒したやつを売らずに少し残しておいたんです。」
「へぇ~~~!
フォレストサイド南の森は噂に聞いたことあるぜ!
”魔界ゲート”のある世界最強の魔獣が湧くスポットだろ!?
エングリア周辺にも小さい魔界ゲートが幾つかあってよ、たまーにそっから強い魔獣が涌いて出ることがあって、俺らも一度だけ他のパーティーと共同で鬼イノシシ退治をしたことがあるけど、まじヤバかった・・・死にかけたぜ?
それをお前一人でやってんのか?
ハント家マジパネェな・・・!」
「・・・父さんと引退前の兄貴はもっと奥まで入ってますから、俺はまだまだですよ。」
「へぇ~~~・・・!
ちなみにお前が狩った魔獣で一番強かったのはどんな奴だった!?
ドラゴンとか出てくるってのはマジか!?」
バスターは魔獣うんちくに興味があるのかグイグイと食いついてくる。
「ドラゴンなら出てきますよ?
緑色で火を吹く奴とか。
俺が倒した魔獣の中ではそいつが一番強かったです。」
(銀色狼の剣無しでも何とか倒せたけど、フェンリルの牙による武器への風属性付与と、移動の力の応用技が無いと倒すのはキツかったんだよな・・・。
それら無しでウルトラクラスの魔獣を倒してる父さんと兄貴はマジ凄い。)
ライキはそう思い返しながら答えた。
「うおっ!マジか!?
他にもドラゴンっているのか?」
ライキはバスターが魔獣うんちくに興味を持ってくれたことが嬉しくて、ニコニコして続けた。
「兄貴から聞いた話ですけど、俺が倒したグリーンドラゴンの上にレッドとブラックもいるみたいで、レッドはグリーンの比にならないくらい強力なブレスを吐くし、皮膚もとても硬くて兄貴でも歯が立たなかったから、父さんに丸投げしたらしいですよ?
その上のブラックドラゴンは、父さんでも1度しか倒したことがないって言ってました。
父さんはあまり語るタイプじゃないから詳しいことはわからないですが・・・」
「うおーーー、マジか!
もっと魔獣の話聞きてぇ!」
「はいはい、ホント男ってそういう話好きよね・・・。
でもさ、もうギルド閉まっちゃう時間だから、話の続きは明日の野営のときにでも咲かせなさいな。」
ミラがバスターの背中をパシッと叩いて切り上げるよう促した。
ギルド内の照明が少しずつ落とされ、他の冒険者達も徐々に捌けていく。
「そうか・・・もうそんな時間か。
仕方ねぇ、今日は解散だな。
じゃあ、明日の朝8時、エングリアの南の門の前で待ち合わせだ!
魔獣のエキスパートの銀色狼がいりゃあ、シルバーファングウルフ退治も達成出来そうな気がするぜ!
魔獣の話の続き、明日じっくり聞かせろよ?」
「はい!
明日宜しくお願いします!」
ライキとリーネは二人に手を振って、冒険者ギルドを後にした。
その後二人は宿を探して町を歩く。
途中で美味しそうなミートパイの店を見つけたので少し並んで買った後、淡い黄色の壁が可愛い冒険者用の宿”金雀枝亭”を見つけたので、その門を潜った。
金雀枝亭と名がついているだけのことはあり、宿の入口付近に金雀枝の低木があり、黄色い花が見事に咲き誇っていた。
金雀枝亭の宿賃は、冒険者割引が適用されたこともあり、昼間に入ったラブホテルよりかなり安く、庶民的なごく普通の内装ではあったが、可愛らしい黄色を基調としたチェックのファブリックに、調度品のテーブルの上には金雀枝の花が生けられており、リーネは「可愛いお部屋♡」と喜んだ。
その黄色いチェックのベッドに白くてしなやかな足を伸ばして、
「今日は何だか疲れちゃった・・・。」
とリーネが溜息をつきながら言った。
「・・・まぁあちこち歩いたし、リーネは4回もイったから、流石に体力を消耗してるよな。
でも巡礼の旅に出る前は2回で気を失ってたリーネが、4回もイクなんて体力ついたんじゃないか?
4回目で流石に気を失ってたけど(笑)」
とライキは少し意地悪に笑ってみせた。
「っ・・・・・ライキだって3回も出した癖に!
ライキこそ疲れてるんじゃないの?」
リーネが赤くなりムキになって返した。
「別に疲れは感じないかな?
でも流石に精液が底をついた気がするし、これ以上シたらちんこが痛くなりそうだから今夜はもうしない(笑)」
「良かったぁ・・・。」
リーネはホッとして溜息をついた。
「良かったって・・・おいリーネ?
なんか・・・・あからさまにホッとされて悔しいから、4発目にチャレンジしてみようかな?」
ライキはリーネに馬乗りになり、挑発的に微笑んだ。
「えっ・・・!?
そ、そ、そんなっ・・・
これ以上エッチなことしたら、明日に差し支えちゃうから良かったって言ったんだよ?
第一おちっ・・・(※リーネ、恥ずかしくて全部言わずに誤魔化す)もう大きくならないでしょ!?」
リーネが真っ赤になって逃げ腰で腰を引いた。
「んー?
大丈夫・・・ほ・ら・♡
逃げようとするリーネが可愛いから余裕で勃起した♥」
ライキはリーネに追い縋り、太ももにまた硬くなったイチモツを擦り付けた。
「も~~~~~!
ホントすぐに大きくしちゃうんだから!
だ、ダメッ・・・♡
今日はもう本当にっ・・・♥
ゆ、許して・・・!!」
リーネが汗を沢山飛ばしながらライキの胸を手で押して拒んだ。
「・・・なんてな。
リーネが可哀想だし、俺も勃つには勃ったけど、イケるかわからないから今日はマジでもうしないから安心しな?」
ライキは優しく微笑むとリーネから降りてその頭を撫でた。
リーネはホッとして目を細めるとライキに擦り寄った。
「うん・・・ありがとうライキ・・・。」
「・・・うん。
今日は晩飯の支度はいいからさ、さっき買ったパイを食って早く寝てしまおう。」
「・・・うん。
でもお部屋にお湯を沸かすための魔石コンロがあるし、簡単にスープとサラダだけでも作っちゃおうかな?
ミートパイだけじゃ栄養バランスが偏っちゃうから・・・。」
リーネがそう言うので、ライキは言われた食材や道具をアイテムボックスから出してやり、リーネを手伝うのだった。
そしてその日の夕食が完成した。
ギルドの帰りに買ったミートパイをメインに、レタスとキュウリとトマト、それから苺とアボカドと、トッピングに砕いたナッツを散らしたサラダ、ドレッシングにはライキがリーネに言われるままに作った白ワインビネガーとオリーブオイル、塩コショウを混ぜたフレンチドレッシングをかけた。
そしてもう一品は、玉ねぎと細切りの人参、ズッキーニと線切りキャベツとひよこ豆、大麦を入れたコンソメスープ。
こちらはライキが野菜を切り、リーネが調理したものだ。
サラダもスープもミートパイととても良く合い、美味しくいただいたのだった。
21時頃──。
二人で仲良く歯を磨き、備え付けのパジャマに着替えて一緒に布団に入っていると、隣の部屋から妙な声が聴こえてきた。
「あっ・・・あうっ・・・ふあっ・・・やっ、あっ・・・また出る・・・っ・・・っあっ・・・あああああっ・・・♥」
「あらあら、こんな・・・出して・・・だらしのないおちんち・・・ですねぇ・・・♥
お漏らし・・・悪い子に・・・お仕置きが必要・・・ね♥」
「あっ・・・やめっ・・・はうっ♥・・・ああっ・・・何でこんな・・・っ僕はっ・・・ドエ・・・んかじゃ・・・♥」
「ドM・・・なければ・・・何なんです?
素直に・・・ないとぉ・・・私のおま・・・ん・・・お預けですよ?」
「やだ・・・っくっ・・・入りたい、入りたいモ・・・カ・・・ど、ドMっ・・・認め・・・からっ・・・♥」
「うふふ・・・可愛らしいレオ・・・様♥
よく言え・・・したね・・・♡♥」
「あっ♡♥」
艷声にギッギッギッ・・・と床が軋む音が加わる。
「あっ・・・はあっ・・・うっ・・・き、気持ちいいっ・・・♡♥気持ちい・・・ニカ・・・♡♥」
「あっ、あっ、はあっ♥
私も気持ち・・・良いですっ♥
レ・・・ン様ぁ♡♥」
「ま、またすぐに出てしまっ・・・くっ・・・・・あっあっあっうあっあっはあっ・・・・・♡♥」
ライキとリーネは真っ赤になって顔を見合わせた。
『お隣さん、男の人がいっぱい喘いでるね・・・。
何か特殊なプレイをしてるのかな・・・。』
『そうだな・・・。
まぁ性癖は人それぞれだし・・・。』
『ん・・・そ・・・だね・・・』
リーネは余程疲れていたのか、隣から聴こえる喘ぎ声をBGMにしながらも、すー、すー、と寝息を立て始めた。
ライキはリーネが先に寝てしまったことで、隣からまだ聴こえてくる男を中心とした喘ぎのほうに意識が向いてしまい、それが何だか思い出したくもない奴の声に似ていると思ったので、不愉快になり眉間に皺を寄せた。
その気になればもっと聞き耳を立てることも出来たが、声の正体への興味よりも嫌悪感のほうが勝ったので、頭から強引にそれらの音声をシャットアウトして、リーネを抱き締めると目を閉じて眠りについたのだった。
翌朝8時──。
エングリアの南門で”奇跡の退治屋”と合流した”銀色狼と空駒鳥”のつがいは、彼らの案内に従い森を進んだ。
確かに出てくる魔獣は今までの旅路に比べると強めだった。
それでもフォレストサイド南の森に慣れたライキには正直物足りない相手だったが、まだレベルの低いリーネにとってはかなり危険な相手なので、彼女を充分にフォローした。
”奇跡の退治屋”の二人はレベルは30そこそこで、攻守・遠近バランスの取れたパーティーであり、フォレストサイド村で年に一度開催される狩人の会合に集まる”フェリシア神国狩人連合”のおっちゃんたちと同等くらいの頼もしさがあった。
ハイクラスと分類される魔獣の中でも弱めの相手であれば、完全に彼らに任せることができたが、強めな相手と遭遇したときには、”奇跡の退治屋”の二人へのフォローも必要だった。
そんな感じで魔獣を倒しつつ森を進んで日が傾きかけた頃、バスターが打ち合わせ時に地図で指し示していた温泉のある場所に到着し、4人はそこで予定通り野営をすることにした──。
テントは二つのパーティーでそれぞれ別々に建てて、ライキとバスターで手分けをしてテントの周囲に魔獣避けの牙、爪、角を吊るした。
焚き火は共同で大きめに焚き、その火を利用してそれぞれのパーティー毎に料理を作ることにした。
この地点に辿り着く直前に若い黒牛を倒したばかりだったので、ライキがそれを手早く吊るして捌いて部位ごとに切り分けた。
見事な手捌きにバスターが感心し、
「おーーー、流石本職・・・!
俺も多少解体は出来るけどよ、こうはいかねぇや!」
と拍手をした。
「あはは、5歳位から小さめな獲物の解体からやらされてますからね・・・。
流石に慣れました。」
ライキはそう言いながら、リーネにはもも肉を、ミラには肩ロース肉を、それぞれリクエスト通りに手渡した。
「二人は辛いのは平気?」
ミラが肉に塩とスパイスを擦り込みながら尋ねた。
「はい!
大丈夫です!
私も今日辛い料理を作るつもりです!」
リーネが飯盒でライスを研ぎながら答えた。
「へぇ~~~!
フェリシア神国の人なのに辛い料理を作るなんて珍しいね?
あたしらはダンダンテ産まれの流れ者だから辛いのに慣れてるけどね。
あの国ではスパイスを使った料理が多いからさ・・・。」
「えっ!?
お二人って、ダンダンテ神国の人なんですか!?」
リーネが驚いて声を上げた。
「まーね。
ダルダンテって神様が民に無関心で信仰が薄いからか、国中で小競り合いが絶えない物騒な国でさ・・・。
あたしらみたいな孤児なんかは尚更居心地悪いから、あたしが成人してすぐに、同じ孤児院で育ったバスターと一緒に安全なフェリシア神国へと逃げてきたんだよ。
それからはフェリシア神国の民じゃなくても出来る冒険者の仕事とアルバイトを両立をして、今まで何とか生計を立ててきたの。
でもさ、あまりいい思い出のない国なのに、料理だけはどうしても生まれ故郷の味になっちゃうんだよね・・・。
まぁ、貧しい孤児院暮らしだったから、今みたいにふんだんにスパイスを使った肉料理なんて食べられなかった反動かも知れないけど(笑)
二人には食べ慣れない味かもしれないけど、良かったら食べてみて?」
ミラはそう言ってニッと歯を見せて笑った。
「はい!」
リーネは”奇跡の退治屋”の二人の境遇を訊いて、自分を攫おうとしている神が治める国にも色んな民がいて、色んな思いをして生活しているんだと思い、ダルダンテ神国の話をもう少し訊いてみたい気持ちになったが、彼らはそれを望まないだろうと思ったため、それ以上は何も訊かなかった。
(ダルダンテ神国のことなら今度おじいちゃんに訊いてみよう・・・。)
「そっちは何を作るの?
煮込み料理?」
「はい!
私の曾祖父の故郷、ニホン国の煮込み料理で、カレーライスって言います!
スパイスを効かせたシチューみたいなのをライスにかけて食べるんです。」
リーネは手馴れた手付きで玉ねぎを飴色に炒めながら答えた。
「へぇ~~~!
ダルダンテにもシチューをライスとかクスクスにかける料理があるよ!
でもニホン国って聞かない名前だね?
世界のどの辺にあるの?」
「さぁ・・・私も知らないんですよね。
亡くなった曾祖母の話ですと、凄く遠くて簡単に行き来が出来ない場所にあるみたいですよ?」
「凄く遠くて簡単に行き来の出来ない国かぁ・・・。
世界でも有名な国は、やっぱ英雄の末裔が住む印持ちの神国だよね。
♥のフェリシア神国、北の◆のダンダンテ神国、その西にある♠のアデルバート神国、その南にある♣のセラフィア神国・・・。
他はあまり知られていないけど、創造神様が直接治められているヘリオス連合国っていうのも世界のどこかにあるらしいよ?
もしかしたらニホン国って、そのヘリオス連合国のうちの1つなのかもね!」
「えっ!ミラさん博識!!
ジュニアスクールの先生でもそこまで教えてくれなかったですよ!?」
「あはは!
あたし、腐っても魔法使いだからさ、色々知識を得たくてエングリアに来てから沢山本を読んだんだ!
エングリアって冒険都市である一方で本の町でもあるから、裏通りに激安で掘り出し物の本が置いてある古本屋とか色々あるんだよ!
本が好きだったら観光がてらに行ってご覧?
楽しいよ!」
「はい!」
ライキはリーネがミラと楽しそうに話しながら料理をしているのを見て、普段ならリーネに料理の手伝いを申し出るところなのだが、女同士の会話の邪魔をしたら悪いなと思って声をかけられずにいたら、背後からバスターに肩を叩かれた。
「銀色狼さんよ。
手持ち無沙汰なら手合わせしてくれねーか?」
「・・・良いですよ?」
ライキはニッと笑うと近くにあった手頃な木の枝を構えた。
「はあっ、はあっ・・・流石銀色狼・・・得物の扱い方がエゲツねぇな・・・っ!」
「いえ、バスターさんこそ。
そのパワーと鋭い軌道・・・。
もし当たったら俺、ひとたまりもありませんよ。」
「ははは、当たらなければ意味がねぇけどな!
・・・俺は何としてもこの依頼を成功させて、Aランクに昇格しなければならないんだ・・・。
少しでも勝率を上げておきてえから、もう一回頼む!」
「・・・バスターさん。」
ライキはキュッと口元を引き締めてから言った。
「それ以上はやめておいたほうがいい。
さっきの手合わせでわかったんですけど、左腕を痛めてますよね?」
「あ、あぁ・・・少しな。
・・・良くわかったな。」
「無意識に左を庇う動きが出て、そこに隙が生じていました。
俺狩人だから、そういうのを見つけるのは得意なんです。」
「けどこれくらいよくあることだし別に問題ねぇ!
なっ、もう一回頼むって!」
バスターは全然平気だと左腕を回して見せた。
「いえ、今日はもう手合わせはやめて、リーネの湿布を貼って腕を休ませたほうがいい。
勝率を上げると言うなら尚更です。
バスターさんは前衛職だから痛みに鈍感になりやすいとは思いますが、きっとこれ以上やると明日に響きます。
俺もシルバーファングウルフ戦ではリーネを守りながら自分の戦いをするので精一杯になると思います。
バスターさんしかミラさんを守れないんですよ?」
ライキは鋭い瞳をバスターに投げかけた。
「・・・・・・・わかった。
銀色狼の言うとおりだ。
強くなったって、いざというときにミラを守れないんじゃ、意味がねぇ・・・。」
バスターはリーネと楽しそうに料理を作っているミラを真面目な顔で見た後、手合わせで使っていた木の枝を足元へと置いた。
「・・・バスターさんはさっき何としてもAランクに昇格したいと言いましたけど・・・。
何故そこまで焦るのか、理由をお聞きしても良いですか・・・?
俺らとの共同のこの依頼を引き受けたのも、それと関係がありますか?」
ライキは眉を寄せてバスターに尋ねた。
「・・・・・俺たちがダルダンテ神国からの流れ者で、フェリシア神国の国民じゃねぇからだ・・・。
国民でなければ結婚も出来ないし、家も持てねぇ。
冒険者以外の真っ当な仕事にもありつけない。
しかも異国民は2年したら母国へと強制的に送り返されてしまうんだ。
つか、俺らはもうこの国に来て2年経って、ダルダンテに帰るように教会から通告が来てるんだよ。
だが、俺たちは孤児で、ダンダンテに居場所もないし、あんな物騒な小競り合いだらけの国へは本当は戻りたくねぇ・・・。
このフェリシア神国が好きだし、出来ることならこの国の民になって、ミラと所帯を持ちたいんだ・・・。
ずっと、ずっと、結婚を待たせちまってるからな・・・。」
バスターは楽しそうに料理をしているミラを真剣な面差しで見ながらそう語った。
「バスターさん・・・。」
ライキは心配そうに眉間に皺を寄せてバスターの横顔を見た。
「・・・だがな、Aランク冒険者になると、他国の民でもこの国の民として認められる権利、”国民権”を教会から貰えるんだ・・・!
ギルド長がこの任務を達成したらAランクに昇格させてくれるって約束をしてくれた。
だから俺たちは無茶を承知で今回の任務を引き受けたんだ。
俺らには後がない・・・。
この任務を失敗させるわけにはいかねぇんだ・・・!」
バスターは絞り出すようにそう言うと、拳をグッと握り締めた。
「・・・そうだったんですね・・・。
それで・・・・・。」
ライキはバスターの険しい横顔を見ながら、彼ら”奇跡の退治屋”のために、自分が出来ることは何か無いだろうかと考えを巡らせた。
そして、リーネが前にしてくれた、リーネの祖父ノーツがフォレストサイド村に移住してきた時の話を思い出した。
「・・・他国の人が国民権を手に入れる手段か・・・。
確か、Aランク冒険者になる他にもっと簡単な方法があるはずですよ?」
「えっ!?」
ライキの言葉にバスターが驚いて声を上げた。
「リーネのおじいさんは冒険者じゃないけど、すぐに国籍を移せた筈・・・。
ちょっと訊いてみますね。」
ライキはカレーライスの鍋を混ぜているリーネに声をかけて事情を話した。
「おじいちゃんの国民権のこと?
うん、わかった!
もうご飯出来るから食べながらのお話でもいい?」
「バスターさん、飯食いながらで良いですか?」
ライキが振り返ってバスターに確認を取った。
「おう、良いぜ!
飯にしよう飯!」
国民権を得るために、Aランク冒険者に昇格する以外のお手軽な方法があると訊いたからか、バスターから先程までの不安と焦りが抜けて、彼らしく大きな明るい声に戻ったので、ライキはホッとした。
「やった!リーネのカレー久しぶりだ!
いい匂い・・・!」
ライキは嬉しそうに笑った。
その日の晩餐は、リーネの作った玉ねぎとじゃが芋と人参、そして柔らかく煮込まれた黒牛の肉のビーフカレーと、キャベツと人参、ライキの実家のハム、ホールコーン、この森で採れた山菜シオデを使ったコールスローサラダ、そしてこの森で見つけた夏みかんとリーネお手製のマーマレードジャムで甘みをつけたフルーツヨーグルト。
そしてミラが作った黒牛に沢山のスパイスを効かせて焼いた串焼き、オクラとトマトのスープだった。
それらを口に運びながら、リーネは祖父ノーツが国民権を得たときの話を始めた。
「私のおじいちゃん、産まれはフェリシア神国ですけど、事情があってダルダンテ神国で結婚をしたから、その時にフェリシア神国での国籍が抜けて、ダルダンテ神国の国民になっているんです。
でも何十年かしてダルダンテ神国に嫌気がさして、逃げ出す形でフェリシア神国にまた戻って来たんです。
それで暫くはそのことを隠して森の奥でひっそりと暮らしていたんですけど、最近フォレストサイド村に移住することになって。
その際に、フォレストサイド村の村長さんと、ナスタさんっていうおじいちゃんの幼馴染の人の二人に、おじいちゃんの身元を保証するためのサインが貰えたから、教会からの許可が降りてフェリシア神国での国民権を再び得ているんです。
入国したのに未申告で森で隠れ住んでいた時期があったから、そのお詫びとして幾らか教会に寄付金を支払ったみたいですけどね。
だから、お二人の身元を保証してサインをしてくれるこの国の大人の人を2人見つければ、きっと大丈夫ですよ!」
リーネの話に、奇跡の退治屋の二人は顔を見合わせ頷いた。
「そうか・・・そんな方法が・・・。
実は、俺らが入国して教会にその申請に行ったとき、教会の神官さんに国民権を得る方法について訊いてみたんだけどよ、どうもダルダンテ神国の民ってのは神官さんらに嫌われてるらしくて、そういう事を一切教えてもらえなかったから知らなかったぜ。
そいや、俺らと同じ他国から来た冒険者仲間だったザッシュが大工に転職する際に、親方夫婦に保証人になってもらって国民権を得ていたよな!
今思い出したぜ!
・・・でもよ、俺らに保証人になってくれそうな知り合いなんかいるか?」
バスターが眉を寄せながら唸った。
「そうなんだよねぇ。
一人はザッシュに頼んでみるとして、もう一人がねぇ・・・。」
ミラも難しい顔をして唸った。
「ザッシュみたいに転職先を決めて、そこの親方にサインを頼むとしてもよ・・・。
俺、魔獣倒すことしか脳がねーし、そんな俺に勤まるまともな仕事なんかすぐに見つかるか・・・?」
「あー・・・あんた、力はあるけど手先は酷く不器用だし、ザッシュみたいな職人にも向かないだろうしねぇ・・・。
となると、どっかの用心棒とか兵士か・・・。
でもどっちもお偉いさんが絡む仕事だから、身元が不確かな異国民だとなれないだろうし・・・。
あたしは多少なりとも魔法が使えるから、それを活かした何らかの仕事が出来るとは思うけど、そういうのって正式に雇用してもらうには試験が必要だったりするし、異国民の地点で試験を受けさせて貰えないんだよね・・・。」
ライキはそんな二人を見て、一つのとある思いつきを口にした。
「あの・・・お二人が良ければですが、フォレストサイドで狩人になってみませんか?」
「狩人!?
銀色狼の本職と同じやつか!?」
バスターがライキの思いもよらない提案に驚き目を見開いた。
「はい。
今フォレストサイドでは兄貴が狩人を引退してしまったから、俺が巡礼の旅に出ている間は父さんが一人で南の森と西の森の魔獣狩りをしているんです。
父さん、魔獣狩り以外にも素材の卸とか、フェリシア神国の狩人を統括する仕事もあるし、西の森だけでも誰かに任せられればかなり負担が減るかなと。
西の森は出てくる魔獣も精々角イノシシとか鎌鼬、鎧海老くらいまでですから、お二人のレベルなら余裕な筈です。
西の森専門の狩人だと、月収は2500G程(※日本円で25万円程)・・・雨季と冬季以外は安定した収入が見込めます。
それとは別に、年に数回南の森に魔獣の群れが出たりするので、その討伐に参加してもらえたら、大体月収の3倍ほどのボーナスが入りますよ。」
「えっ!マジか!!
Bランク冒険者よか全然条件いいって!
それ、マジで本気にしていい話か!?」
「あはは!
はい、マジです。
お二人がその気でしたら、俺から父さんに紹介しますよ?
そうしたら父さんが国民権に必要な身元の保証人にもなってくれると思います。
ザッシュさんっていう人がもし保証人になることを引き受けられなくても、父さん以外に母さんとか兄貴とか、保証人を頼める大人に心当たりもありますし。
フォレストサイドは田舎ですけど、自然が豊かで空気が綺麗で・・・まぁ、一部移民差別思考の村人もいますが、俺も両親が他村からの移民ですけど、仲良くしてくれる友人達にも恵まれて、楽しく暮らせていますよ?」
とライキが笑顔で説明した。
「あの・・・住む所も、うちのおじいちゃんの家をどうするかって時に村の人に聞いてみたんですけど、幾つか空き家があるみたいですから何とかなると思いますよ?」
リーネも微笑んで住処についてフォローした。
「そっか・・・・・。
それなら、この子も安心して暮らせるかも・・・。」
ミラが穏やかな表情でお腹をそっと擦りながら呟いた。
「は!?
お前、今、なんて・・・」
バスターが衝撃の余り手に持っていた串を落とした。
「・・・だから、あたし・・・あんたの子を妊娠してるんだよね。
今2ヶ月・・・・・。」
ミラは頬を染めて気恥ずかしそうにはにかんだ。
「ま、ま、ままま、マジか!!!
ミラーーーーーッ!!!」
バスターはミラに駆け寄るとライキとリーネが見ているのも憚らず彼女を抱き締めた。
「あははっ!
苦しいって!」
「馬鹿野郎!!
な、な、な・・・何ですぐに言わねーんだ!!」
「・・・だって・・・。
この任務が失敗したら、ダルダンテに送り返されちゃうし、そしたら・・・この子を産んで育てていける状況に置いてもらえるかもわからないもの・・・。
もし任務を成功させてAランク冒険者になって国民権を得てもさ、子供がいたらあたしは冒険者を続けていけない。
バスターと結婚すれば、バスターがAランクでいてくれる間はあたしと子供もフェリシア神国の民でいられるけどさ・・・。
もしあんたがAランクから降格されたら、家も取り上げられちゃうし、ダンダンテに国籍が戻っちゃって、強制送還されちゃうよね?
それに、バスター一人でAランクの依頼をこなしていけるかっていう不安もある・・・。
あんたって、怪我してても平気で無茶するところがあるし・・・。
そういうことを考えたらさ、あたしが今まで通り冒険者を続けて、あんたのサポートをするべきなんじゃないかって・・・。
この子のことは、諦めるしかないのかなって思って・・・・・それで、言えなかった・・・・・。」
ミラは俯いて、泣き出しそうな顔でそう打ち明けるのだった。
「馬鹿野郎・・・・・!!
お前・・・子供が好きで、あんなに欲しがってたじゃねぇかよ・・・!
なのに・・・そんなこと考えて、言えなかった・・・なんてよっ・・・!
俺の奥さんになって・・・この子を産んでくれよ・・・・・!
頼むからっ・・・・・!!」
バスターはミラの肩に手を置き、涙をボロボロと溢しながら声を震わせて訴えた。
「うん・・・・うん・・・!」
ミラも涙を溢し、嗚咽混じりに頷くのだった。
やがてバスターは顔を上げ、真剣な表情でライキの方を見ると、頭を下げて言った。
「・・・銀色狼・・・。
その話・・・どうか・・・よろしく頼む・・・・・!!」
「・・・はい、わかりました!」
ライキは快く笑顔で頷いた。
「それじゃあ俺たちがフォレストサイド村に飛んで帰るときにご一緒しましょうか。
村に着いたらすぐ父さんに紹介が出来るように、今すぐ鳩に手紙を持たせて飛ばしておきますね。」
ライキはアイテムボックスからメモを取り出すと、そこにさらさらと父に宛てた手紙を書いて鳩笛を鳴らした。
すぐにライキの鳩が飛んで来たので、ライキは足元の筒にメモを丸めて入れて鳩を撫でてから空へと放った。
「えっ、えっ・・・あたしたち、空飛ぶつがいの飛行をこの身で体験出来るの!?
ねっ、ねっ、それって凄くない!?」
ミラがバスターの手を取りはしゃいだ。
「お、おう・・・すげーよなっ・・・!?
マジでいいのか!?
銀色狼さんよ!?」
バスターも興奮して取り乱しながらライキに確認した。
「・・・お二人には馬車を使ってフォレストサイドまで来てもらう時間はありませんよね?
だから、俺の力を使うべきだと思います・・・。
でも、力の発動条件って、実はかなりプライベートなことで、俺はすげー恥ずかしいので・・・何が起こっても、見なかったことにして頂けると助かります・・・・・。」
ライキは耳まで真っ赤になり、頭から湯気を立ち昇らせながら消えそうな声でそう溢した。
ライキの様子を見てリーネもはっとして、顔を赤く染めてから呟いた。
「・・・・・あっ・・・・・力を使うってことは・・・・・そうだよね・・・・。」
そしてライキにこっそりと耳打ちした。
『あの・・・そのとき、ライキだけ・・・イク・・・のじゃ、駄目・・・かな・・・?』
しかし即座にギンッ!とライキに強く睨まれてしまい、リーネは汗を飛ばしてギュッと目を閉じて俯いた。
「あっ・・・!
でも移動の力って、着地するときにシュン!て衝撃があるよね!?
ミラさんお腹に赤ちゃんがいるのに、大丈夫かな!?」
リーネがまだ赤い顔でライキの袖を引っ張って言った。
ライキも、
「あっ、そうか・・・。
ベルク村のベッドみたいに、俺の移動の力の応用技を着地の瞬間に使う・・・のも、対象が自分以外の人となると、コントロールがとても難しいしな・・・。」
と、顎に手を当てて、それについてどうしたものかと考える。
するとミラが何か妙案があるのか、ニッと笑ってから言った。
「着地時に衝撃があるんだ?
でもそれなら大丈夫だよ!
フロートの魔法があるから・・・
─フロート!─」
ミラは魔法を唱え、自分の身体をふわふわと浮かせてみせた。
「少しの間身体を浮かせるだけの風の魔法なんだけど、これを着地の瞬間にかければ衝撃を緩和出来るよ!
きっとね!」
ミラはニシシ!と歯を見せて笑った。
「流石ミラさん!」
リーネとミラがハイタッチを交わした。
「あの、明日のシルバーファングウルフ退治ですが・・・。
”奇跡の退治屋”さんはどうしますか?
Aランクに昇格することに拘らなくても良くなりましたし、身重なミラさんを戦闘に参加させるのも心配ですよね・・・?」
ライキが二人を心配してそう言った。
「いや・・・。
これが冒険者としての最後の仕事になるんだ。
最後までやり抜かせてくれ。
ミラはどうする?
ここで終わるまで待機していてもいいんだぜ?」
バスターがミラに確認した。
「ううん、あたしも戦うよ!
これが最後の仕事だもの・・・。
赤ちゃんに影響が出ないように気をつけて、遠くから魔法で援護する!」
ミラはそう言って腕まくりしてみせた。
「・・・わかった。
じゃあ俺は全力でお前を守る・・・!」
バスターがミラを再びギュッと抱きしめた。
「うん・・・お願いね・・・
あたしの旦那さん・・・!」
ミラもバスターの背中に腕を回して、二人は暫く抱擁を交わした。
銀色狼と空駒鳥のつがいはそんな二人を見て顔を見合わせ、柔らかく微笑むのだった。
「それにしても・・・嬢ちゃんの作ったこのカレーライス?・・・美味ぇなこれ!!
おかわりくれ!」
安心したら腹が減ったのか、食事を再開したバスターが物凄い勢いでカレーライスを完食し、空になった皿をリーネに差し出した。
「あはは!良かったぁ、気に入ってくれて!」
リーネがバスターの皿におかわりをよそって渡した。
「コールスローもヨーグルトも美味しい!
あんた若いのに料理上手でビックリしたよ!
あたしがあんたくらいの頃はそんなに美味しいの作れなかったもの。
あんた、いい奥さんになるよ!」
ミラもリーネの料理を褒めた。
「えっ、ホントに!?嬉しいです!!
ミラさんの串焼きとスープもすっごく美味しいです♥
ね!ライキ!」
「うん、美味いです!
あ、串焼きもう一本貰いますね!」
そんな感じで楽しい晩餐の時間は過ぎていった。
晩餐の後は、各パーティー毎に時間を分けて温泉に入った。
露天風呂の上空に、銀色狼と空駒鳥が重なり合う吐息と共に全裸で浮かんだのは言うまでもないだろう。
そして、風呂の後は焚き火に当たりながら銀色狼の魔獣うんちくや、”奇跡の退治屋”の今までの冒険などの話を楽しく交わした後、それぞれのテントに入り、どちらのパーティーもゆっくりと眠りにつくのだった。
そして翌朝──。
銀色狼と空駒鳥にとっては最初の任務であり、奇跡の退治屋にとっては最後の任務となるシルバーファングウルフ退治の幕が開けようとしていた──。
こちらのパーティーとの共同任務という条件・・・飲んでいただけますか?」
ライキは受付嬢に紹介されたパーティー”奇跡の退治屋”の二人と何処かで会ったことがあると感じた。
向こうもライキに対してそれを感じているようで、互いに顔を見合わせて、何処で会ったのかを思い出そうと首をひねっていた。
(この二人、前に何処かで親切にしてもらった気がするんだよな・・・。
いつのことだったかすぐには思い出せないけど・・・。
でも、きっといい人達だし、共同任務は問題なさそうだな。
受付の人もこちらの返事を待ってるだろうし・・・。)
ライキはそう考え、頷いた。
「はい、いいですよ?
共同でやらせていただきます。
リーネもそれで良いよな?」
ライキが傍らにいるリーネに確認した。
「うん!」
リーネが微笑んで頷いた。
「お引き受けしていただけて良かったです!
それでは、”奇跡の退治屋”さん、後は宜しくお願いしますね!」
受付嬢は”奇跡の退治屋”と”銀色狼と空駒鳥”に会釈してから業務へと戻って行った。
後を託された”奇跡の退治屋”の、背が高くてごつい体格の20代前半くらいの大剣を背に刺した白髪に浅黒い肌の男が、ライキに向けて手を差し出した。
「・・・つーわけで、改めてよろしく頼むぜ!
”奇跡の退治屋”のバスターだ。
職業は戦士。
お前らのことニュースペーパーで見たぜ!
有名なつがいと共同で任務に着けて光栄に思う!」
ライキは彼の手を取り自己紹介を返した。
「”銀色狼と空駒鳥”の”銀色狼”ライキ・ハント・スイズリーハントです。
職業は狩人です。
宜しくお願いします!」
続いて長い亜麻色の髪をポニーテールに結い上げたスレンダーな二十歳そこそこのロッドを持った女性が笑顔でリーネに手を差し出した。
「あたしはミラクル。
職業は魔法使い。
この時代には珍しく魔法が少し使えるから、こりゃ奇跡だって言って名付け親がこの名前をつけたの。
小っ恥ずかしいからミラって呼んでね!
あたしの名前ミラクルと、相方の名前バスターを合わせて”奇跡の退治屋”をパーティーネームにしてるんだけど、冒険者やって2年経つけどやっとBランク・・・完全に名前負けしてるよね(笑)
どうぞよろしく!」
「いいえ、そんなこと!
素敵なパーティーネームです!
”銀色狼と空駒鳥”の”空駒鳥”リーネ・ファーマシーです。
職業は薬師です。
こちらこそ、よろしくお願いします!」
リーネがミラの手を取り笑顔で挨拶した。
「だが銀色狼さんよ・・・。
あんたとは前にも会ったことがある気がするんだよな・・・。」
バスターがライキの顔を繁々と眺めながらまた首を捻った。
「ニュースペーパーの記事で見たときはピンとこなかったけど、こうして目の前で見ると確かに以前会ってるのよね・・・。」
ミラもその隣で首を捻った。
「俺も貴方達とは以前何処かでお会いしたことがあるような気がしていました・・・。
お二人はフォレストサイド村に来られたことはありますか?」
ライキが尋ねた。
「いや、フォレストサイドはねーな。」
「じゃあ何処で会ったんだろう?
俺は巡礼の旅に出るまではフォレストサイド村にいたから・・・。」
とライキ。
「・・・確か会ったのは俺らがまだ駆け出しのDランクのときだから・・・2年くらい前か?」
「・・・そうだよねぇ。
その時の銀色狼くんは大人びては見えたけど、今よりあどけなくて可愛かったし・・・多分それくらい前だよ。」
ミラもライキの顔をじーっと見ながら言った。
「2年前・・・?
おばあちゃんが亡くなった頃だよね・・・?
ライキ、覚えがある?」
リーネが小首を傾げてライキを見上げた。
「ばーちゃんが亡くなった頃か・・・。
ばーちゃんが亡くなったのは、俺が3日間行方不明になって帰ってきた後だったから・・・」
「「「あっ!!!」」」
ライキ、バスター、ミラの3人が同時に思い当たり、声を上げた。
「初めて空を飛ぶ力が発動して、知らない森に飛ばされ3日間彷徨ったとき、途中で倒れた俺を助けてくれた人たちだ!!」
「おう!あの夜の森の小僧だ!
いやー、男前になったな!!」
「いやいや、あの時助けてもらったのはあたしらのほうだから!
夜の森を舐めてて近道を突っ切ろうとしてたら、ブラックオーガホーンが出て、あの頃のあたしらじゃ対処出来なくてピンチだったところをさ、通りすがりの寝間着姿の男の子が薪割り斧でサックリ倒しちゃうんだもん!
びっくりしたわ!
その後倒れちゃったから、あたしらのテントに寝かせたんだよ。」
「そうそうそーだった!
あの時はマジ助かったぜ!
でも朝になったらいつの間にかいなくなってたからよ、どーしちまったんだって気になってたんだよ!」
「あっ・・・あの時は、えぇと・・・また急に空に飛ばされて・・・。」
(二人がセックスしてるところを目撃して、それをネタに俺とリーネがシてるところに置き換えてオナニーして射精し、空を飛んだ・・・なんて言えないしな・・・。)
ライキはその時の事情を話して知っているリーネと顔を見合わせて苦笑いした。
「ワッハッハ!まじかよ!
空を飛んで移動出来るなんて便利な力だなって羨ましく思うがよ、なかなか難儀なところもあるんだな(笑)」
「あははっ、力に目覚めてすぐはそうでしたね(笑)
力のことがわかった今では便利なんですけど。」
笑いながら言うバスターにライキが苦笑いで答えた。
「じゃあその力で直接シルバーファングウルフのいる地点まで飛んじゃうこともできる?」
ミラが尋ねた。
「あっ、すみません、それは無理です・・・!
一度行ったことのある特徴的な場所へしか飛べないので・・・。
しかも、リーネと二人で集中する時間(射精するのが発動条件とは言い辛いからな・・・。)が必要なんです。」
「あっ、そっか・・・!
それが出来たら楽ちんかなぁと思ったけど、残念!」
ライキの答えにミラが笑った。
「まぁあたしら、あの森にはDランクの時から薬草採取とか魔獣退治とかで出入りしてるし、一通り案内出来るから任せてよ!」
「あぁ、もう庭みたいなもんだぜ!」
バスターがそう笑いながら使い古されて色々と書き込まれたエングリア周辺の地図を出してきて、エングリア南の森のある地点を指差した。
「シルバーファングウルフが居座ってる地点はここなんだが、この辺りまでは歩くと結構距離があり、朝出発して着く頃には夜になっちまう。
だからこの♨印の地点・・・ここは天然温泉が湧いているポイントなんだが、ここで一旦野営しよう。
だが気をつけねーといけねーのは、シルバーファングウルフの影響で、森に出てくる魔獣のランクが全体的に上がってるってことだ。
雑魚でブラックオーガホーンとかウィングウルフとかフレイムフォックスとか出てくるって情報だから油断はできないぜ?
野営するときはうちとお前らとで交代で見張りをして・・・。」
バスターが説明している途中でライキが手を挙げた。
「ん?何だ銀色狼。」
「えぇと、雑魚で黒牛・・・ブラックオーガホーンとか風狼とか炎狐が出てくるなら、キャンプの周りにこれを吊るしておけば寄って来ないです。
そうすれば見張りも必要ありませんし。」
ライキはワイバーンの爪、ヘルハウンドの牙、鬼イノシシの角をアイテムボックスから取り出して見せた。
「うおっ!?
そいつはAランク魔獣の素材じゃーか!
そんなんどこで手に入れた!?」
バスターは驚いて目を見開き、ライキの出した角やら爪やら牙をまじまじと手に取って眺めた。
「俺が普段狩りで入っているフォレストサイド南の森の奥に出て来ます。
雑魚魔獣除けに使えるから倒したやつを売らずに少し残しておいたんです。」
「へぇ~~~!
フォレストサイド南の森は噂に聞いたことあるぜ!
”魔界ゲート”のある世界最強の魔獣が湧くスポットだろ!?
エングリア周辺にも小さい魔界ゲートが幾つかあってよ、たまーにそっから強い魔獣が涌いて出ることがあって、俺らも一度だけ他のパーティーと共同で鬼イノシシ退治をしたことがあるけど、まじヤバかった・・・死にかけたぜ?
それをお前一人でやってんのか?
ハント家マジパネェな・・・!」
「・・・父さんと引退前の兄貴はもっと奥まで入ってますから、俺はまだまだですよ。」
「へぇ~~~・・・!
ちなみにお前が狩った魔獣で一番強かったのはどんな奴だった!?
ドラゴンとか出てくるってのはマジか!?」
バスターは魔獣うんちくに興味があるのかグイグイと食いついてくる。
「ドラゴンなら出てきますよ?
緑色で火を吹く奴とか。
俺が倒した魔獣の中ではそいつが一番強かったです。」
(銀色狼の剣無しでも何とか倒せたけど、フェンリルの牙による武器への風属性付与と、移動の力の応用技が無いと倒すのはキツかったんだよな・・・。
それら無しでウルトラクラスの魔獣を倒してる父さんと兄貴はマジ凄い。)
ライキはそう思い返しながら答えた。
「うおっ!マジか!?
他にもドラゴンっているのか?」
ライキはバスターが魔獣うんちくに興味を持ってくれたことが嬉しくて、ニコニコして続けた。
「兄貴から聞いた話ですけど、俺が倒したグリーンドラゴンの上にレッドとブラックもいるみたいで、レッドはグリーンの比にならないくらい強力なブレスを吐くし、皮膚もとても硬くて兄貴でも歯が立たなかったから、父さんに丸投げしたらしいですよ?
その上のブラックドラゴンは、父さんでも1度しか倒したことがないって言ってました。
父さんはあまり語るタイプじゃないから詳しいことはわからないですが・・・」
「うおーーー、マジか!
もっと魔獣の話聞きてぇ!」
「はいはい、ホント男ってそういう話好きよね・・・。
でもさ、もうギルド閉まっちゃう時間だから、話の続きは明日の野営のときにでも咲かせなさいな。」
ミラがバスターの背中をパシッと叩いて切り上げるよう促した。
ギルド内の照明が少しずつ落とされ、他の冒険者達も徐々に捌けていく。
「そうか・・・もうそんな時間か。
仕方ねぇ、今日は解散だな。
じゃあ、明日の朝8時、エングリアの南の門の前で待ち合わせだ!
魔獣のエキスパートの銀色狼がいりゃあ、シルバーファングウルフ退治も達成出来そうな気がするぜ!
魔獣の話の続き、明日じっくり聞かせろよ?」
「はい!
明日宜しくお願いします!」
ライキとリーネは二人に手を振って、冒険者ギルドを後にした。
その後二人は宿を探して町を歩く。
途中で美味しそうなミートパイの店を見つけたので少し並んで買った後、淡い黄色の壁が可愛い冒険者用の宿”金雀枝亭”を見つけたので、その門を潜った。
金雀枝亭と名がついているだけのことはあり、宿の入口付近に金雀枝の低木があり、黄色い花が見事に咲き誇っていた。
金雀枝亭の宿賃は、冒険者割引が適用されたこともあり、昼間に入ったラブホテルよりかなり安く、庶民的なごく普通の内装ではあったが、可愛らしい黄色を基調としたチェックのファブリックに、調度品のテーブルの上には金雀枝の花が生けられており、リーネは「可愛いお部屋♡」と喜んだ。
その黄色いチェックのベッドに白くてしなやかな足を伸ばして、
「今日は何だか疲れちゃった・・・。」
とリーネが溜息をつきながら言った。
「・・・まぁあちこち歩いたし、リーネは4回もイったから、流石に体力を消耗してるよな。
でも巡礼の旅に出る前は2回で気を失ってたリーネが、4回もイクなんて体力ついたんじゃないか?
4回目で流石に気を失ってたけど(笑)」
とライキは少し意地悪に笑ってみせた。
「っ・・・・・ライキだって3回も出した癖に!
ライキこそ疲れてるんじゃないの?」
リーネが赤くなりムキになって返した。
「別に疲れは感じないかな?
でも流石に精液が底をついた気がするし、これ以上シたらちんこが痛くなりそうだから今夜はもうしない(笑)」
「良かったぁ・・・。」
リーネはホッとして溜息をついた。
「良かったって・・・おいリーネ?
なんか・・・・あからさまにホッとされて悔しいから、4発目にチャレンジしてみようかな?」
ライキはリーネに馬乗りになり、挑発的に微笑んだ。
「えっ・・・!?
そ、そ、そんなっ・・・
これ以上エッチなことしたら、明日に差し支えちゃうから良かったって言ったんだよ?
第一おちっ・・・(※リーネ、恥ずかしくて全部言わずに誤魔化す)もう大きくならないでしょ!?」
リーネが真っ赤になって逃げ腰で腰を引いた。
「んー?
大丈夫・・・ほ・ら・♡
逃げようとするリーネが可愛いから余裕で勃起した♥」
ライキはリーネに追い縋り、太ももにまた硬くなったイチモツを擦り付けた。
「も~~~~~!
ホントすぐに大きくしちゃうんだから!
だ、ダメッ・・・♡
今日はもう本当にっ・・・♥
ゆ、許して・・・!!」
リーネが汗を沢山飛ばしながらライキの胸を手で押して拒んだ。
「・・・なんてな。
リーネが可哀想だし、俺も勃つには勃ったけど、イケるかわからないから今日はマジでもうしないから安心しな?」
ライキは優しく微笑むとリーネから降りてその頭を撫でた。
リーネはホッとして目を細めるとライキに擦り寄った。
「うん・・・ありがとうライキ・・・。」
「・・・うん。
今日は晩飯の支度はいいからさ、さっき買ったパイを食って早く寝てしまおう。」
「・・・うん。
でもお部屋にお湯を沸かすための魔石コンロがあるし、簡単にスープとサラダだけでも作っちゃおうかな?
ミートパイだけじゃ栄養バランスが偏っちゃうから・・・。」
リーネがそう言うので、ライキは言われた食材や道具をアイテムボックスから出してやり、リーネを手伝うのだった。
そしてその日の夕食が完成した。
ギルドの帰りに買ったミートパイをメインに、レタスとキュウリとトマト、それから苺とアボカドと、トッピングに砕いたナッツを散らしたサラダ、ドレッシングにはライキがリーネに言われるままに作った白ワインビネガーとオリーブオイル、塩コショウを混ぜたフレンチドレッシングをかけた。
そしてもう一品は、玉ねぎと細切りの人参、ズッキーニと線切りキャベツとひよこ豆、大麦を入れたコンソメスープ。
こちらはライキが野菜を切り、リーネが調理したものだ。
サラダもスープもミートパイととても良く合い、美味しくいただいたのだった。
21時頃──。
二人で仲良く歯を磨き、備え付けのパジャマに着替えて一緒に布団に入っていると、隣の部屋から妙な声が聴こえてきた。
「あっ・・・あうっ・・・ふあっ・・・やっ、あっ・・・また出る・・・っ・・・っあっ・・・あああああっ・・・♥」
「あらあら、こんな・・・出して・・・だらしのないおちんち・・・ですねぇ・・・♥
お漏らし・・・悪い子に・・・お仕置きが必要・・・ね♥」
「あっ・・・やめっ・・・はうっ♥・・・ああっ・・・何でこんな・・・っ僕はっ・・・ドエ・・・んかじゃ・・・♥」
「ドM・・・なければ・・・何なんです?
素直に・・・ないとぉ・・・私のおま・・・ん・・・お預けですよ?」
「やだ・・・っくっ・・・入りたい、入りたいモ・・・カ・・・ど、ドMっ・・・認め・・・からっ・・・♥」
「うふふ・・・可愛らしいレオ・・・様♥
よく言え・・・したね・・・♡♥」
「あっ♡♥」
艷声にギッギッギッ・・・と床が軋む音が加わる。
「あっ・・・はあっ・・・うっ・・・き、気持ちいいっ・・・♡♥気持ちい・・・ニカ・・・♡♥」
「あっ、あっ、はあっ♥
私も気持ち・・・良いですっ♥
レ・・・ン様ぁ♡♥」
「ま、またすぐに出てしまっ・・・くっ・・・・・あっあっあっうあっあっはあっ・・・・・♡♥」
ライキとリーネは真っ赤になって顔を見合わせた。
『お隣さん、男の人がいっぱい喘いでるね・・・。
何か特殊なプレイをしてるのかな・・・。』
『そうだな・・・。
まぁ性癖は人それぞれだし・・・。』
『ん・・・そ・・・だね・・・』
リーネは余程疲れていたのか、隣から聴こえる喘ぎ声をBGMにしながらも、すー、すー、と寝息を立て始めた。
ライキはリーネが先に寝てしまったことで、隣からまだ聴こえてくる男を中心とした喘ぎのほうに意識が向いてしまい、それが何だか思い出したくもない奴の声に似ていると思ったので、不愉快になり眉間に皺を寄せた。
その気になればもっと聞き耳を立てることも出来たが、声の正体への興味よりも嫌悪感のほうが勝ったので、頭から強引にそれらの音声をシャットアウトして、リーネを抱き締めると目を閉じて眠りについたのだった。
翌朝8時──。
エングリアの南門で”奇跡の退治屋”と合流した”銀色狼と空駒鳥”のつがいは、彼らの案内に従い森を進んだ。
確かに出てくる魔獣は今までの旅路に比べると強めだった。
それでもフォレストサイド南の森に慣れたライキには正直物足りない相手だったが、まだレベルの低いリーネにとってはかなり危険な相手なので、彼女を充分にフォローした。
”奇跡の退治屋”の二人はレベルは30そこそこで、攻守・遠近バランスの取れたパーティーであり、フォレストサイド村で年に一度開催される狩人の会合に集まる”フェリシア神国狩人連合”のおっちゃんたちと同等くらいの頼もしさがあった。
ハイクラスと分類される魔獣の中でも弱めの相手であれば、完全に彼らに任せることができたが、強めな相手と遭遇したときには、”奇跡の退治屋”の二人へのフォローも必要だった。
そんな感じで魔獣を倒しつつ森を進んで日が傾きかけた頃、バスターが打ち合わせ時に地図で指し示していた温泉のある場所に到着し、4人はそこで予定通り野営をすることにした──。
テントは二つのパーティーでそれぞれ別々に建てて、ライキとバスターで手分けをしてテントの周囲に魔獣避けの牙、爪、角を吊るした。
焚き火は共同で大きめに焚き、その火を利用してそれぞれのパーティー毎に料理を作ることにした。
この地点に辿り着く直前に若い黒牛を倒したばかりだったので、ライキがそれを手早く吊るして捌いて部位ごとに切り分けた。
見事な手捌きにバスターが感心し、
「おーーー、流石本職・・・!
俺も多少解体は出来るけどよ、こうはいかねぇや!」
と拍手をした。
「あはは、5歳位から小さめな獲物の解体からやらされてますからね・・・。
流石に慣れました。」
ライキはそう言いながら、リーネにはもも肉を、ミラには肩ロース肉を、それぞれリクエスト通りに手渡した。
「二人は辛いのは平気?」
ミラが肉に塩とスパイスを擦り込みながら尋ねた。
「はい!
大丈夫です!
私も今日辛い料理を作るつもりです!」
リーネが飯盒でライスを研ぎながら答えた。
「へぇ~~~!
フェリシア神国の人なのに辛い料理を作るなんて珍しいね?
あたしらはダンダンテ産まれの流れ者だから辛いのに慣れてるけどね。
あの国ではスパイスを使った料理が多いからさ・・・。」
「えっ!?
お二人って、ダンダンテ神国の人なんですか!?」
リーネが驚いて声を上げた。
「まーね。
ダルダンテって神様が民に無関心で信仰が薄いからか、国中で小競り合いが絶えない物騒な国でさ・・・。
あたしらみたいな孤児なんかは尚更居心地悪いから、あたしが成人してすぐに、同じ孤児院で育ったバスターと一緒に安全なフェリシア神国へと逃げてきたんだよ。
それからはフェリシア神国の民じゃなくても出来る冒険者の仕事とアルバイトを両立をして、今まで何とか生計を立ててきたの。
でもさ、あまりいい思い出のない国なのに、料理だけはどうしても生まれ故郷の味になっちゃうんだよね・・・。
まぁ、貧しい孤児院暮らしだったから、今みたいにふんだんにスパイスを使った肉料理なんて食べられなかった反動かも知れないけど(笑)
二人には食べ慣れない味かもしれないけど、良かったら食べてみて?」
ミラはそう言ってニッと歯を見せて笑った。
「はい!」
リーネは”奇跡の退治屋”の二人の境遇を訊いて、自分を攫おうとしている神が治める国にも色んな民がいて、色んな思いをして生活しているんだと思い、ダルダンテ神国の話をもう少し訊いてみたい気持ちになったが、彼らはそれを望まないだろうと思ったため、それ以上は何も訊かなかった。
(ダルダンテ神国のことなら今度おじいちゃんに訊いてみよう・・・。)
「そっちは何を作るの?
煮込み料理?」
「はい!
私の曾祖父の故郷、ニホン国の煮込み料理で、カレーライスって言います!
スパイスを効かせたシチューみたいなのをライスにかけて食べるんです。」
リーネは手馴れた手付きで玉ねぎを飴色に炒めながら答えた。
「へぇ~~~!
ダルダンテにもシチューをライスとかクスクスにかける料理があるよ!
でもニホン国って聞かない名前だね?
世界のどの辺にあるの?」
「さぁ・・・私も知らないんですよね。
亡くなった曾祖母の話ですと、凄く遠くて簡単に行き来が出来ない場所にあるみたいですよ?」
「凄く遠くて簡単に行き来の出来ない国かぁ・・・。
世界でも有名な国は、やっぱ英雄の末裔が住む印持ちの神国だよね。
♥のフェリシア神国、北の◆のダンダンテ神国、その西にある♠のアデルバート神国、その南にある♣のセラフィア神国・・・。
他はあまり知られていないけど、創造神様が直接治められているヘリオス連合国っていうのも世界のどこかにあるらしいよ?
もしかしたらニホン国って、そのヘリオス連合国のうちの1つなのかもね!」
「えっ!ミラさん博識!!
ジュニアスクールの先生でもそこまで教えてくれなかったですよ!?」
「あはは!
あたし、腐っても魔法使いだからさ、色々知識を得たくてエングリアに来てから沢山本を読んだんだ!
エングリアって冒険都市である一方で本の町でもあるから、裏通りに激安で掘り出し物の本が置いてある古本屋とか色々あるんだよ!
本が好きだったら観光がてらに行ってご覧?
楽しいよ!」
「はい!」
ライキはリーネがミラと楽しそうに話しながら料理をしているのを見て、普段ならリーネに料理の手伝いを申し出るところなのだが、女同士の会話の邪魔をしたら悪いなと思って声をかけられずにいたら、背後からバスターに肩を叩かれた。
「銀色狼さんよ。
手持ち無沙汰なら手合わせしてくれねーか?」
「・・・良いですよ?」
ライキはニッと笑うと近くにあった手頃な木の枝を構えた。
「はあっ、はあっ・・・流石銀色狼・・・得物の扱い方がエゲツねぇな・・・っ!」
「いえ、バスターさんこそ。
そのパワーと鋭い軌道・・・。
もし当たったら俺、ひとたまりもありませんよ。」
「ははは、当たらなければ意味がねぇけどな!
・・・俺は何としてもこの依頼を成功させて、Aランクに昇格しなければならないんだ・・・。
少しでも勝率を上げておきてえから、もう一回頼む!」
「・・・バスターさん。」
ライキはキュッと口元を引き締めてから言った。
「それ以上はやめておいたほうがいい。
さっきの手合わせでわかったんですけど、左腕を痛めてますよね?」
「あ、あぁ・・・少しな。
・・・良くわかったな。」
「無意識に左を庇う動きが出て、そこに隙が生じていました。
俺狩人だから、そういうのを見つけるのは得意なんです。」
「けどこれくらいよくあることだし別に問題ねぇ!
なっ、もう一回頼むって!」
バスターは全然平気だと左腕を回して見せた。
「いえ、今日はもう手合わせはやめて、リーネの湿布を貼って腕を休ませたほうがいい。
勝率を上げると言うなら尚更です。
バスターさんは前衛職だから痛みに鈍感になりやすいとは思いますが、きっとこれ以上やると明日に響きます。
俺もシルバーファングウルフ戦ではリーネを守りながら自分の戦いをするので精一杯になると思います。
バスターさんしかミラさんを守れないんですよ?」
ライキは鋭い瞳をバスターに投げかけた。
「・・・・・・・わかった。
銀色狼の言うとおりだ。
強くなったって、いざというときにミラを守れないんじゃ、意味がねぇ・・・。」
バスターはリーネと楽しそうに料理を作っているミラを真面目な顔で見た後、手合わせで使っていた木の枝を足元へと置いた。
「・・・バスターさんはさっき何としてもAランクに昇格したいと言いましたけど・・・。
何故そこまで焦るのか、理由をお聞きしても良いですか・・・?
俺らとの共同のこの依頼を引き受けたのも、それと関係がありますか?」
ライキは眉を寄せてバスターに尋ねた。
「・・・・・俺たちがダルダンテ神国からの流れ者で、フェリシア神国の国民じゃねぇからだ・・・。
国民でなければ結婚も出来ないし、家も持てねぇ。
冒険者以外の真っ当な仕事にもありつけない。
しかも異国民は2年したら母国へと強制的に送り返されてしまうんだ。
つか、俺らはもうこの国に来て2年経って、ダルダンテに帰るように教会から通告が来てるんだよ。
だが、俺たちは孤児で、ダンダンテに居場所もないし、あんな物騒な小競り合いだらけの国へは本当は戻りたくねぇ・・・。
このフェリシア神国が好きだし、出来ることならこの国の民になって、ミラと所帯を持ちたいんだ・・・。
ずっと、ずっと、結婚を待たせちまってるからな・・・。」
バスターは楽しそうに料理をしているミラを真剣な面差しで見ながらそう語った。
「バスターさん・・・。」
ライキは心配そうに眉間に皺を寄せてバスターの横顔を見た。
「・・・だがな、Aランク冒険者になると、他国の民でもこの国の民として認められる権利、”国民権”を教会から貰えるんだ・・・!
ギルド長がこの任務を達成したらAランクに昇格させてくれるって約束をしてくれた。
だから俺たちは無茶を承知で今回の任務を引き受けたんだ。
俺らには後がない・・・。
この任務を失敗させるわけにはいかねぇんだ・・・!」
バスターは絞り出すようにそう言うと、拳をグッと握り締めた。
「・・・そうだったんですね・・・。
それで・・・・・。」
ライキはバスターの険しい横顔を見ながら、彼ら”奇跡の退治屋”のために、自分が出来ることは何か無いだろうかと考えを巡らせた。
そして、リーネが前にしてくれた、リーネの祖父ノーツがフォレストサイド村に移住してきた時の話を思い出した。
「・・・他国の人が国民権を手に入れる手段か・・・。
確か、Aランク冒険者になる他にもっと簡単な方法があるはずですよ?」
「えっ!?」
ライキの言葉にバスターが驚いて声を上げた。
「リーネのおじいさんは冒険者じゃないけど、すぐに国籍を移せた筈・・・。
ちょっと訊いてみますね。」
ライキはカレーライスの鍋を混ぜているリーネに声をかけて事情を話した。
「おじいちゃんの国民権のこと?
うん、わかった!
もうご飯出来るから食べながらのお話でもいい?」
「バスターさん、飯食いながらで良いですか?」
ライキが振り返ってバスターに確認を取った。
「おう、良いぜ!
飯にしよう飯!」
国民権を得るために、Aランク冒険者に昇格する以外のお手軽な方法があると訊いたからか、バスターから先程までの不安と焦りが抜けて、彼らしく大きな明るい声に戻ったので、ライキはホッとした。
「やった!リーネのカレー久しぶりだ!
いい匂い・・・!」
ライキは嬉しそうに笑った。
その日の晩餐は、リーネの作った玉ねぎとじゃが芋と人参、そして柔らかく煮込まれた黒牛の肉のビーフカレーと、キャベツと人参、ライキの実家のハム、ホールコーン、この森で採れた山菜シオデを使ったコールスローサラダ、そしてこの森で見つけた夏みかんとリーネお手製のマーマレードジャムで甘みをつけたフルーツヨーグルト。
そしてミラが作った黒牛に沢山のスパイスを効かせて焼いた串焼き、オクラとトマトのスープだった。
それらを口に運びながら、リーネは祖父ノーツが国民権を得たときの話を始めた。
「私のおじいちゃん、産まれはフェリシア神国ですけど、事情があってダルダンテ神国で結婚をしたから、その時にフェリシア神国での国籍が抜けて、ダルダンテ神国の国民になっているんです。
でも何十年かしてダルダンテ神国に嫌気がさして、逃げ出す形でフェリシア神国にまた戻って来たんです。
それで暫くはそのことを隠して森の奥でひっそりと暮らしていたんですけど、最近フォレストサイド村に移住することになって。
その際に、フォレストサイド村の村長さんと、ナスタさんっていうおじいちゃんの幼馴染の人の二人に、おじいちゃんの身元を保証するためのサインが貰えたから、教会からの許可が降りてフェリシア神国での国民権を再び得ているんです。
入国したのに未申告で森で隠れ住んでいた時期があったから、そのお詫びとして幾らか教会に寄付金を支払ったみたいですけどね。
だから、お二人の身元を保証してサインをしてくれるこの国の大人の人を2人見つければ、きっと大丈夫ですよ!」
リーネの話に、奇跡の退治屋の二人は顔を見合わせ頷いた。
「そうか・・・そんな方法が・・・。
実は、俺らが入国して教会にその申請に行ったとき、教会の神官さんに国民権を得る方法について訊いてみたんだけどよ、どうもダルダンテ神国の民ってのは神官さんらに嫌われてるらしくて、そういう事を一切教えてもらえなかったから知らなかったぜ。
そいや、俺らと同じ他国から来た冒険者仲間だったザッシュが大工に転職する際に、親方夫婦に保証人になってもらって国民権を得ていたよな!
今思い出したぜ!
・・・でもよ、俺らに保証人になってくれそうな知り合いなんかいるか?」
バスターが眉を寄せながら唸った。
「そうなんだよねぇ。
一人はザッシュに頼んでみるとして、もう一人がねぇ・・・。」
ミラも難しい顔をして唸った。
「ザッシュみたいに転職先を決めて、そこの親方にサインを頼むとしてもよ・・・。
俺、魔獣倒すことしか脳がねーし、そんな俺に勤まるまともな仕事なんかすぐに見つかるか・・・?」
「あー・・・あんた、力はあるけど手先は酷く不器用だし、ザッシュみたいな職人にも向かないだろうしねぇ・・・。
となると、どっかの用心棒とか兵士か・・・。
でもどっちもお偉いさんが絡む仕事だから、身元が不確かな異国民だとなれないだろうし・・・。
あたしは多少なりとも魔法が使えるから、それを活かした何らかの仕事が出来るとは思うけど、そういうのって正式に雇用してもらうには試験が必要だったりするし、異国民の地点で試験を受けさせて貰えないんだよね・・・。」
ライキはそんな二人を見て、一つのとある思いつきを口にした。
「あの・・・お二人が良ければですが、フォレストサイドで狩人になってみませんか?」
「狩人!?
銀色狼の本職と同じやつか!?」
バスターがライキの思いもよらない提案に驚き目を見開いた。
「はい。
今フォレストサイドでは兄貴が狩人を引退してしまったから、俺が巡礼の旅に出ている間は父さんが一人で南の森と西の森の魔獣狩りをしているんです。
父さん、魔獣狩り以外にも素材の卸とか、フェリシア神国の狩人を統括する仕事もあるし、西の森だけでも誰かに任せられればかなり負担が減るかなと。
西の森は出てくる魔獣も精々角イノシシとか鎌鼬、鎧海老くらいまでですから、お二人のレベルなら余裕な筈です。
西の森専門の狩人だと、月収は2500G程(※日本円で25万円程)・・・雨季と冬季以外は安定した収入が見込めます。
それとは別に、年に数回南の森に魔獣の群れが出たりするので、その討伐に参加してもらえたら、大体月収の3倍ほどのボーナスが入りますよ。」
「えっ!マジか!!
Bランク冒険者よか全然条件いいって!
それ、マジで本気にしていい話か!?」
「あはは!
はい、マジです。
お二人がその気でしたら、俺から父さんに紹介しますよ?
そうしたら父さんが国民権に必要な身元の保証人にもなってくれると思います。
ザッシュさんっていう人がもし保証人になることを引き受けられなくても、父さん以外に母さんとか兄貴とか、保証人を頼める大人に心当たりもありますし。
フォレストサイドは田舎ですけど、自然が豊かで空気が綺麗で・・・まぁ、一部移民差別思考の村人もいますが、俺も両親が他村からの移民ですけど、仲良くしてくれる友人達にも恵まれて、楽しく暮らせていますよ?」
とライキが笑顔で説明した。
「あの・・・住む所も、うちのおじいちゃんの家をどうするかって時に村の人に聞いてみたんですけど、幾つか空き家があるみたいですから何とかなると思いますよ?」
リーネも微笑んで住処についてフォローした。
「そっか・・・・・。
それなら、この子も安心して暮らせるかも・・・。」
ミラが穏やかな表情でお腹をそっと擦りながら呟いた。
「は!?
お前、今、なんて・・・」
バスターが衝撃の余り手に持っていた串を落とした。
「・・・だから、あたし・・・あんたの子を妊娠してるんだよね。
今2ヶ月・・・・・。」
ミラは頬を染めて気恥ずかしそうにはにかんだ。
「ま、ま、ままま、マジか!!!
ミラーーーーーッ!!!」
バスターはミラに駆け寄るとライキとリーネが見ているのも憚らず彼女を抱き締めた。
「あははっ!
苦しいって!」
「馬鹿野郎!!
な、な、な・・・何ですぐに言わねーんだ!!」
「・・・だって・・・。
この任務が失敗したら、ダルダンテに送り返されちゃうし、そしたら・・・この子を産んで育てていける状況に置いてもらえるかもわからないもの・・・。
もし任務を成功させてAランク冒険者になって国民権を得てもさ、子供がいたらあたしは冒険者を続けていけない。
バスターと結婚すれば、バスターがAランクでいてくれる間はあたしと子供もフェリシア神国の民でいられるけどさ・・・。
もしあんたがAランクから降格されたら、家も取り上げられちゃうし、ダンダンテに国籍が戻っちゃって、強制送還されちゃうよね?
それに、バスター一人でAランクの依頼をこなしていけるかっていう不安もある・・・。
あんたって、怪我してても平気で無茶するところがあるし・・・。
そういうことを考えたらさ、あたしが今まで通り冒険者を続けて、あんたのサポートをするべきなんじゃないかって・・・。
この子のことは、諦めるしかないのかなって思って・・・・・それで、言えなかった・・・・・。」
ミラは俯いて、泣き出しそうな顔でそう打ち明けるのだった。
「馬鹿野郎・・・・・!!
お前・・・子供が好きで、あんなに欲しがってたじゃねぇかよ・・・!
なのに・・・そんなこと考えて、言えなかった・・・なんてよっ・・・!
俺の奥さんになって・・・この子を産んでくれよ・・・・・!
頼むからっ・・・・・!!」
バスターはミラの肩に手を置き、涙をボロボロと溢しながら声を震わせて訴えた。
「うん・・・・うん・・・!」
ミラも涙を溢し、嗚咽混じりに頷くのだった。
やがてバスターは顔を上げ、真剣な表情でライキの方を見ると、頭を下げて言った。
「・・・銀色狼・・・。
その話・・・どうか・・・よろしく頼む・・・・・!!」
「・・・はい、わかりました!」
ライキは快く笑顔で頷いた。
「それじゃあ俺たちがフォレストサイド村に飛んで帰るときにご一緒しましょうか。
村に着いたらすぐ父さんに紹介が出来るように、今すぐ鳩に手紙を持たせて飛ばしておきますね。」
ライキはアイテムボックスからメモを取り出すと、そこにさらさらと父に宛てた手紙を書いて鳩笛を鳴らした。
すぐにライキの鳩が飛んで来たので、ライキは足元の筒にメモを丸めて入れて鳩を撫でてから空へと放った。
「えっ、えっ・・・あたしたち、空飛ぶつがいの飛行をこの身で体験出来るの!?
ねっ、ねっ、それって凄くない!?」
ミラがバスターの手を取りはしゃいだ。
「お、おう・・・すげーよなっ・・・!?
マジでいいのか!?
銀色狼さんよ!?」
バスターも興奮して取り乱しながらライキに確認した。
「・・・お二人には馬車を使ってフォレストサイドまで来てもらう時間はありませんよね?
だから、俺の力を使うべきだと思います・・・。
でも、力の発動条件って、実はかなりプライベートなことで、俺はすげー恥ずかしいので・・・何が起こっても、見なかったことにして頂けると助かります・・・・・。」
ライキは耳まで真っ赤になり、頭から湯気を立ち昇らせながら消えそうな声でそう溢した。
ライキの様子を見てリーネもはっとして、顔を赤く染めてから呟いた。
「・・・・・あっ・・・・・力を使うってことは・・・・・そうだよね・・・・。」
そしてライキにこっそりと耳打ちした。
『あの・・・そのとき、ライキだけ・・・イク・・・のじゃ、駄目・・・かな・・・?』
しかし即座にギンッ!とライキに強く睨まれてしまい、リーネは汗を飛ばしてギュッと目を閉じて俯いた。
「あっ・・・!
でも移動の力って、着地するときにシュン!て衝撃があるよね!?
ミラさんお腹に赤ちゃんがいるのに、大丈夫かな!?」
リーネがまだ赤い顔でライキの袖を引っ張って言った。
ライキも、
「あっ、そうか・・・。
ベルク村のベッドみたいに、俺の移動の力の応用技を着地の瞬間に使う・・・のも、対象が自分以外の人となると、コントロールがとても難しいしな・・・。」
と、顎に手を当てて、それについてどうしたものかと考える。
するとミラが何か妙案があるのか、ニッと笑ってから言った。
「着地時に衝撃があるんだ?
でもそれなら大丈夫だよ!
フロートの魔法があるから・・・
─フロート!─」
ミラは魔法を唱え、自分の身体をふわふわと浮かせてみせた。
「少しの間身体を浮かせるだけの風の魔法なんだけど、これを着地の瞬間にかければ衝撃を緩和出来るよ!
きっとね!」
ミラはニシシ!と歯を見せて笑った。
「流石ミラさん!」
リーネとミラがハイタッチを交わした。
「あの、明日のシルバーファングウルフ退治ですが・・・。
”奇跡の退治屋”さんはどうしますか?
Aランクに昇格することに拘らなくても良くなりましたし、身重なミラさんを戦闘に参加させるのも心配ですよね・・・?」
ライキが二人を心配してそう言った。
「いや・・・。
これが冒険者としての最後の仕事になるんだ。
最後までやり抜かせてくれ。
ミラはどうする?
ここで終わるまで待機していてもいいんだぜ?」
バスターがミラに確認した。
「ううん、あたしも戦うよ!
これが最後の仕事だもの・・・。
赤ちゃんに影響が出ないように気をつけて、遠くから魔法で援護する!」
ミラはそう言って腕まくりしてみせた。
「・・・わかった。
じゃあ俺は全力でお前を守る・・・!」
バスターがミラを再びギュッと抱きしめた。
「うん・・・お願いね・・・
あたしの旦那さん・・・!」
ミラもバスターの背中に腕を回して、二人は暫く抱擁を交わした。
銀色狼と空駒鳥のつがいはそんな二人を見て顔を見合わせ、柔らかく微笑むのだった。
「それにしても・・・嬢ちゃんの作ったこのカレーライス?・・・美味ぇなこれ!!
おかわりくれ!」
安心したら腹が減ったのか、食事を再開したバスターが物凄い勢いでカレーライスを完食し、空になった皿をリーネに差し出した。
「あはは!良かったぁ、気に入ってくれて!」
リーネがバスターの皿におかわりをよそって渡した。
「コールスローもヨーグルトも美味しい!
あんた若いのに料理上手でビックリしたよ!
あたしがあんたくらいの頃はそんなに美味しいの作れなかったもの。
あんた、いい奥さんになるよ!」
ミラもリーネの料理を褒めた。
「えっ、ホントに!?嬉しいです!!
ミラさんの串焼きとスープもすっごく美味しいです♥
ね!ライキ!」
「うん、美味いです!
あ、串焼きもう一本貰いますね!」
そんな感じで楽しい晩餐の時間は過ぎていった。
晩餐の後は、各パーティー毎に時間を分けて温泉に入った。
露天風呂の上空に、銀色狼と空駒鳥が重なり合う吐息と共に全裸で浮かんだのは言うまでもないだろう。
そして、風呂の後は焚き火に当たりながら銀色狼の魔獣うんちくや、”奇跡の退治屋”の今までの冒険などの話を楽しく交わした後、それぞれのテントに入り、どちらのパーティーもゆっくりと眠りにつくのだった。
そして翌朝──。
銀色狼と空駒鳥にとっては最初の任務であり、奇跡の退治屋にとっては最後の任務となるシルバーファングウルフ退治の幕が開けようとしていた──。
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