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14羽 女神フェリシアに招かれて
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翌朝、ハント家のリビングにて。
ライキとリーネの二人は、ゲイルとサアラに昨夜女神フェリシア様に招かれたことを伝えたのだった。
「あらあらまあまあ!
じゃあ何か手土産をお持ちしたほうが良いかしら!?
フェリシア様って何がお好きかしらね?」
サアラが首を傾げる。
「私、今朝焼いたクッキーと林檎ジャムを持って行ってみます!」
「あら素敵ね!
きっと喜ばれるわ!
うちのハムも持って行ってくれる?
フェリシア様のお口に合うといいのだけど・・・。」
「おばさんのハムとっても美味しいですもん!
喜んでもらえますよ!」
そんな二人のやり取りを微笑んで見ているライキに、父ゲイルが声をかけた。
「私服で行くんだな?」
「うん。
ローデリス邸でナイフ以外の武器を奪われたし、神様に会うのにあまり物々しいのもと思ったから。
変かな?」
「いや、良い判断だ。
帰ったらこちらからも大事な話があるから覚えておけ。」
「・・・うん。」
ライキはリーネに声をかけた。
「リーネ、そろそろ行くよ!」
「はぁい!」
そして、二人は教会の女神像の前に来ていた。
二人は今まで女神フェリシア様を信仰はしていても、どこか遠くの手の届かない次元の存在だと思っていたが、昨日信じられないような奇跡が起こったために、今はとても身近に感じられていた。
「フェリシア様の像の前に来たけど・・・。
・・・特に何もないね?
昨夜の声のこと・・・二人して夢でも見てたのかな?」
リーネがそう呟いた時、女神像がキラキラ光り、リーネの頬に♥印が浮かび上がった。
「リーネ!頬!」
「ライキ!頬!」
二人同時に互いを指差すと、ライキが絶頂して空に昇るときの感覚で、シュン!と身体が消えるのを感じた。
次の瞬間、二人は見たこともないとても広い庭園のような場所にいて、辺りには薔薇やチューリップ、パンジーやストック等の春の花々が咲き誇り、鳥のさえずりが聞こえた。
二人の頬の♥印は、もう消えていた。
二人が手をつないだままきょろきょろ辺りを見渡していると、手前にあるテラスに一人の男性がどこからともなく現れ、恭しく頭を下げた。
「銀色狼と空駒鳥のつがいのお二人、いらっしゃいませ。
こちらへどうぞ。」
黒髪とミステリアスな輝きを放つ金の瞳の青年は、ローデリス邸にいた執事のような服装を着ており、大層な美形だった。
「フェリシア様はすぐに参りますので、こちらへおかけになってお待ちください。」
「あ、あのっ・・・これ、ライキのおうちのお店のハムと、私の作ったクッキーと林檎のジャムなんですけど・・・
よろしければフェリシア様に・・・!」
リーネが手土産を彼に手渡した。
「ありがとうございます。
それでは、クッキーとジャムは早速いただきましょうか。
お茶を用意しますので、おかけになってお待ちください。」
青年はにこやかに微笑むと再度二人に椅子を勧めた。
二人は促されるまま椅子に座る。
彼は綺麗な所作でリーネが持ってきたクッキーと彼が用意していたであろうスコーンをプレートに乗せ、ジャムの瓶を置き、手早く紅茶を淹れると、二人に頭を下げて再び奥へと消えていった。
その場に取り残された二人は顔を見合わせ、お互いに状況についていけていない顔をしていたため可笑しくて少し笑った。
すると庭園の奥のほうから、聞き覚えのある女性の声が聞こえてきた。
「おかしくないかしら?
私人前に出るの久しぶりだから・・・。」
「僕があれだけ手間をかけたんだ。
変なわけがないだろう?
さっさと客人の前に出ろ。」
先ほどの執事らしき青年が嗾けているのが聞こえて、ふたりはポカーンとしてそれを見ていた。
「あっ・・・お待たせしちゃったわね!
私、この国の土地神をやっていますフェリシアです。」
女神像のその人が鮮やかな色を纏って現れると、ニコッと笑って二人の目の前の席にふわりと座った。
「あっ・・・お、お招きいただきありがとうございます!
私、リーネ・ファーマシーといいます!」
リーネが少し取り乱しながらも先に立ち上がり、スカートを持って丁寧にお辞儀をした。
ライキも続いて立つと頭を下げた。
「俺はライキ・ハント・スイズリーハントです。
お招きいただきありがとうございま・・・」
ライキが最後まで言い終わらぬうちにフェリシアはもう我慢ならないといった様子で立ち上がり、リーネとライキの間近まで来て二人を抱きしめ、奇声を上げた。
「きゃーーーーっ♥!!
私の推しが目の前に・・・!!
なんでこんなに可愛いの!!
きゃーーーーっ♥!!」
二人がポカーンとしていると、執事の青年がクスクスと笑い、呆れたように口を開いた。
「貴女のお気に入りのつがいが豆鉄砲食らってますよ?
ふふっ、こんな人ですから気兼ねなく、どうぞ座ってください。」
と笑顔で再び椅子を勧められたので二人はまた顔を見合わせると座った。
しばらく興奮してはぁはぁしていたフェリシアは、何度か深呼吸をしてようやく落ち着いたのか、再び先ほどの席に腰を落とした。
「ごめんなさい・・・!
ずっとあなたたちに会ってみたかったから、つい取り乱しちゃって・・・。
ずっとここ・・・天界からあなたたちを見ていたわ。
今回は二人に直接話しておかないといけないことが沢山あったから招かせてもらったの。
お話、聞いてくれる?」
「「・・・はい。」」
ライキとリーネは同時に頷いた。
「まずは、あなたたちは私にとって”特別なつがい”であることを話しておくわね。
通常のつがいは、教会でお祈りをするときに、神官が心の波動に異常を感じて報告の必要があると判断した場合にのみ、私に知らせが入るようになっているの。
つがい同士で何かのトラブルがあったときなんかがそれに当たるわね。」
「でも、あなたたちの場合は、私が特別な”寵愛”を与えたつがいなのよ。
それにより、普通のつがいの子たちよりも深く私とつながっているの。
だから、この天界へ招くことが出来たのよ。」
「寵愛・・・ですか?」
とライキ。
それは彼らにとっては馴染みのない言葉だった。
「そうよ?
土地神は自分の国の気に入った子に”印”をつけることが出来て、それを”寵愛”と呼ぶわ。
私の場合は♥の印。
ここに来る時に見たでしょう?」
「「あ、はい!」」
と二人。
「寵愛は産まれてすぐの赤ちゃんの時に与えるのよ。
祝福を得た夫婦から産まれた赤ちゃんは、みんな私がチェックしているのだけど、
その時に、その子の人生を確認して、その子に合った”名前”と”通り名”を私が考えているの。」
「えっ・・・!?
それっ俺たちの名前や通り名ってフェリシア様がつけたものだったってことか・・・?」
とライキが驚いて声を上げた。
「えぇ。
それが土地神としての私の仕事の一つなのよ。
そしてその情報は、お告げとして教会の神官に届けられ、神官から両親に伝えてもらって、あなたたちのものとなる仕組みなの。」
フェリシアは続けた。
「ライキ、あなたの方がリーネより少し早く産まれているから、先にあなたのことを見たのだけど、
銀髪に菫の瞳の整った顔立ちに、その性格や人となり・・・全て、なんて可愛い子なのかしらって凄く気に入ったわ!
それでわくわくしながらあなたの人生を更に深く覗いたときに、
ライキの歩む様々な人生の可能性の中に・・・リーネ、あなたがいたの!
中でもリーネと無事に結ばれたライキの未来が、ひときわ輝いていて、とーっても幸せそうで、素敵だったわ!!
きゃーーーっ♥!!
この子も淡い金髪に空色の瞳、感情豊かで思いやりがあって、なんて可愛い娘なのっ!
是非ともこの子に彼のつがいになり、人生の伴侶になって欲しい!
この二人に私の”寵愛”を与えたいと思ったわ!!」
はぁはぁはぁ・・・力説のあまり息を切らすフェリシア。
彼女が紅茶を一気に飲み干すと、すぐに執事の彼が新しいものを注いだ。
「ライキ、あなたはこの国の産まれだったから、問題なく寵愛を与えられたわ。
寵愛を与えた子には特別な力が付与されるのだけど、それがあなたの”射精して空を移動する力”ね。」
「え!?
あれってフェリシア様が与えて下さった力だったんですか・・・。」
真っ赤になるライキ。
「あっ!
今、何で”射精”なんて条件をつけたのか、普通に条件なしにしてくれれば良かったのにって思ったでしょ?」
「・・・は、い・・・すみません。」
ライキは顔を赤らめたまま気まずそうに目を逸らした。
「良いのよ?
これは私の神力不足の問題ね・・・。
土地神としてまだ駆け出しの私は、基本的に今生きている子達の中から一人にしか寵愛を与えられないの。
しかも、あなたたちみたいに余程気に入って、胸がキュンキュンこないと無理なのよ・・・。」
(胸が、キュン・・・?)
不思議そうな顔をするライキとリーネ。
「でも今回はあなた達二人に同時に寵愛を与えたかったから、
二人に与える能力に”条件”を付けなければならなかったのよ。
その変わり、二人で一緒に発動すると一人前の力を発揮できるようになってるわ!」
「成程、それでリーネと一緒に飛ぶと力の精度が上がったのか・・・。」
とライキ。
「あの、フェリシア様。
ここに来る時私にも♥印があったのですが、私にも寵愛を?
私、ダルダンテ神国の産まれなのに?」
リーネがおずおずと尋ねた。
「そうなの。
・・・あなたの場合は訳ありだから、ライキのように簡単にはいかなかったわ。」
「訳あり・・・ですか?」
「えぇ、ライキの人生の中であなたを見つけた時に、あなたはダルダンテ、私の3番目の兄に当たる隣の国の神の、いわば”嫁候補”にあたる存在だとわかったの。」
「えっ・・・ええっ!?
神様のお嫁さん候補!!?」
リーネは驚き目を見開いた。
「そう。
ただしあいつが一方的に決めた・・・ね。
このことは後で詳しく話すわね?
まずは寵愛を与えることが出来た経緯だけど、何とかしてあなた達に結ばれて欲しかった私は、まだ産まれて間もないあなたをダルダンテに気づかれる前に、こーっそりとね、私の国へ連れてきたの!
彼にお願いしてね!」
フェリシアが執事の青年を示す。
「彼はヴィセルテ。
執事の格好をしているけれど、私の神使・・・側近であり夫なの!
私が最初に寵愛を与えた存在でもあるわ。」
ヴィセルテの頬に♥が浮かび上がる。
彼は丁寧にお辞儀をした。
ライキとリーネもお辞儀を返す。
「ヴィセルテに与えた寵愛による付加能力は”千里眼”。
この世界の様々なことを見通せる力よ。
ダルダンテ神国の中のことは神々同士の不可侵条約があるから私には知ることは出来ないのだけど、彼の力であなたがダルダンテ神国の何処にいるのか見つけられたの。
それで盗み出せた。
あいつに見つかると危険だけど、あいつも過去に何度か私の国から大事な子を盗んでいるからね。
その仕返しをさせてもらったわ。
ライキのためにもどうしてもあなたが欲しかった。
それで、リーネ、あなたにも名前と通り名と寵愛を与えたることが出来たのよ。」
「そうだったんですね・・・。」
とリーネ。
「・・・そうか・・・。
フェリシア様のおかげで俺、リーネと出会えたんですね・・・。」
とライキが呟いた。
「私がリーネをこの国に連れてこなくても、ライキ、あなたはリーネの魂に引かれてダルダンテ神国に行き出会っていたのだけど、それだと二人が幸せになれなかったから・・・。
私が二人のイチャイチャを間近でどうしても見たかったからそうしたの!!」
とフェリシアはウフフフ!と楽しそうに笑った。
ライキとリーネは赤くなって気恥ずかしそうに俯いた。
「・・・あれ?
でも・・・私にはライキやヴィセルテさんみたいな特別な力は・・・。」
リーネは小首を傾げ、疑問を口にした。
「あなたが気がついていないだけで、無意識に発揮しているのよ?」
「えっ?」
とリーネ。
「あなたの力は”神秘の薬”といって、オーガズムを得たあと1~2日間くらいの間に作った薬の効果が飛躍的に上がるの。
一人でシたときよりもライキにオーガズムに導いてもらうことで、より精度が上がる。
これはライキと同じね。
心当たりがない?」
「・・・そういえば、媚薬も、ローデリス夫人の美容薬も、思っていたよりとても良く効いたわ・・・!」
「解毒薬もそうよ?
あのときローデリス夫人が飲んだ”毒”はダルダンテが手を加えていたものだったから、正しい解毒薬を与えても解毒出来なかった筈・・・。
あなたは無意識に力を使ってそれに打ち勝ったわ!
ライキの力に比べると目に見えないからわかりにくいけれどね。」
「・・・そうだったんですね・・・。
私、この力のお陰で救われたのですね!
ありがとうございます・・・!」
「・・・感謝の言葉なんていいの。
むしろ私は謝らなければいけないわ・・・!
あの毒薬騒ぎは本来私の加護や祝福を得ていたり、ましてや”寵愛”を与えているあなたたちには起こりえない不幸だわ!
・・・あいつが、ダルダンテが、リーネ、あなたを奪い返そうとついに仕掛けてきたのよ・・・!
今回の毒の騒ぎは全てダルダンテが仕組んだこと・・・。
まさかこんなに早く行動に起こすなんて・・・!!」
フェリシアは腹立たし気に拳を握りしめた。
「土地神同士は不可侵条約があり、自国の民以外に手出しはできないことになっているのだけど、あいつはそれを掻い潜る術を持っている。
人の心の悪意や弱みに付け入ることが得意なやつだから、今回は私を信仰していなくて尚且つ常にイライラ状態だったローデリス夫人から取り入り、ヨハナ、そしてローデリス卿と入り込む隙のある民を渡りながら目的を執行したのね。
ローデリス夫妻のように私を信仰していなくても、この国の民である以上私は力を行使できるはずなのに、今回はダルダンテに妨害されてすぐに助けてあげることが出来なかったわ・・・。
何とかあいつの妨害壁を打ち破った時には、もうリーネの家に火が放たれていた。
・・・ごめんなさい。」
リーネは黙って横に首を振った。
ライキはリーネの肩をそっと抱いた。
「・・・ダルダンテはあの騒動であなた達を自分の国へと逃亡させるつもりだったようね。
ダルダンテ神国に入ってしまえば、悔しいけれどあいつのほうが神としての力は上だから、私の与えた”寵愛”や”指輪の加護”は失われる・・・。
後はあいつの好きに出来るのよ・・・。
ライキを殺して、リーネを捉えることも容易い・・・。
だから、ライキがリーネに一緒にダルダンテ神国に逃げようと言った時には焦ったわ。
リーネ、あなたが止めてくれてホッとした。
そして、私のことを信じてくれて嬉しかったわ・・・!」
フェリシアはそう言うと優しくリーネに微笑みかけた。
リーネも優しくフェリシアに微笑み返したのだった。
「・・・あの、さっき私がダルダンテ神の花嫁候補だって仰いましたけど、その理由を聞いてもいいですか?」
とリーネ。
「・・・えぇ。
あなたにはきちんと話しておかなくちゃ。
さっき過去にダルダンテによって私の国の子を盗まれてるって言ったけど、全てはダルダンテがあなたの遠いご先祖に当たるアーシェという女の子に一目惚れをし、妻にしようと強引な手を使って私の国から盗み出したことから始まるわ。
アーシェは淡い金髪、赤い瞳の可愛い子で、顔立ちがリーネ、あなたととてもよく似ているわ。
でもおっぱいはもう少し大きかったわね。
性格ももっと控えめで大人しいタイプで・・・。
私はリーネの小さいおっぱいも気が強い所も大好きだけど!」
くすくすと笑うフェリシア。
「~~~…。」
リーネはからかわれて真っ赤になり複雑な顔をして俯いた。
「・・・話を戻すわね。
ダルダンテに連れ去られてしまったアーシェだけど、彼女は既に愛する人との間に子供を授かっていたわ。
それで彼女を諦める男なら良かったのだけど、アーシェが他の男のものになってしまったものだから、処女厨のあいつは・・・」
「処女、厨?って何ですか?」
とリーネ。
「あ、これもあなた達には馴染みのない言葉よね?
処女性愛っていって、処女じゃない女性を汚らわしいと感じる人がいるのよ。
それを酷く拗らせた変態があいつ。」
「・・・・・。」
ライキとリーネは怪訝な顔をして閉口する。
「アーシェが処女でなかったことを知り逆上したあいつは、アーシェを殺そうとも考えたけど、それよりもアーシェの子供やその子孫から女の子が産まれたら、今度こそ処女のうちに嫁にしようって考えたのよ。
アーシェ自身の心が欲しかったというより、彼女の見た目がドストライクだったのでしょうね。
見た目が似ていれば、それが子孫であってもかまわなかった。」
「執念深い男だな・・・。
それがリーネを狙う理由か!
ただ見た目を気に入った女の子孫ってだけで・・・・・。」
とライキはわなわなと怒りで震えて拳を固く握り俯く。
「えぇ・・・本当に気持ち悪い男・・・。
あんなのが兄だなんて嫌になるわ。
あいつはアーシェを自分の国に縛り付けて子孫共々管理するために◆印をつけたわ。」
「・・・私たちの♥みたいな寵愛ですか?」
とリーネ。
「私の♥と同質のものだけど、あいつの場合は寵愛というより”呪い”ね。
付けた相手に良い効果をもたらすものではなく、ただ国から出られないように縛り付けるものなの。」
「呪い・・・。」
ライキとリーネは深刻な顔になる。
「しかもあいつの印は1度つけた相手の血族ならどんどん追加で付けられるの。
それは死ぬまで外されることはないわ。
印をつけられた場所を切り落としでもしない限りはね。
アーシェは首に印を付けられていたためそれも出来なかったわ。」
「・・・・・。」
二人は黙って俯く。
「・・・アーシェさんと、お腹の赤ちゃんはどうなったのですか?」
リーネが聞く。
「アーシェはそのままダルダンテ神国で子供を産んだわ。
幸い男の子だったから、印をつけられるだけで済んだみたい。
そこでダルダンテはアーシェに男をあてがい、2人目を産ませようとしたけれど、アーシェはそれを拒み、自害したわ・・・。」
二人は青ざめ、つらい顔をした。
「・・・だからダルダンテはアーシェの息子の子孫を待つことにしたのよ。
そして何世代かして、ついに女の子が産まれたわ。
あなたの曾祖母に当たるマールよ。」
「おばあちゃん・・・!」
とリーネ。
「マールの時は、ダルダンテもどうせまた男の子だろうとあまり監視もしなくなっていたことと、少し早産だったこともあって、私がヴィセルテを通して気が付くほうが早かったの。
それで、すぐにヴィセルテを使いにやって、産まれてすぐのマールを私の保護下に置くことができたわ。
でも後に産まれた赤子が女の子だったことを知ったダルダンテは怒り、私から奪い返そうとしたけれど、既に私の保護下にあったことと、マールの傍にはクーヤ・・・あなたの曾祖父に当たる人だけど、彼はちょっと特殊な人だったから、ダルダンテには手を出すことが出来なかったのよ。」
「おじいちゃん・・・。
私がおばあちゃんのところに来た時には既に亡くなっていたから会ったことはないですけど、異国の人だったんですよね?」
とリーネ。
「えぇ、お父様(※創造神)がらみの人だったから、私は彼のことを見る権限がなくて詳しくはないのだけど・・・。
クーヤ・サイジョー。
黒髪に空色の瞳の素敵な人だったわ。
あなたの瞳の色は彼由来ね!」
「そうなんだ・・・。
私、おじいちゃんと瞳の色でちゃんと繋がっているんですね・・・!」
リーネは嬉しそうに表情を緩めた。
「ええ。そうね!
マールはそのクーヤとつがいを経て結婚し、祝福を得たわ。
またしても処女のうちに奪えなかったわけね。」
「でもリーネ、ばあちゃんって、旦那さんと死に別れているよな?
祝福を受けたなら死するときも共に逝けるって聞いたけど・・・。」
とライキ。
「それがねライキ、おばあちゃん”祝福を奪われた”って言っていたの。
あまり詳しくは話してくれなかったけど・・・。
フェリシア様、祝福は奪ったり出来るものなんですか?」
リーネが尋ねた。
「祝福を授けた指輪は他者が触れることはできないから、通常は人による悪意、企てによって奪うことは出来ないわ。
ただ二人の愛の結晶である息子の手にかかれば話は別よ。」
「息子・・・?」
「えぇ、マールの息子、ノーツよ。
ノーツが好きになった相手はあまりいい子ではなかったから、ダルダンテがその子に取り入って言わせたのよ。
”あなたの両親の指輪を奪って一緒にダルダンテ神国に来てくれれば結婚してあげる”って。
それで指輪を奪わせたのよ。」
「・・・酷いわ!
指輪を奪われて、おじいちゃんおばあちゃん可哀そうよ!!」
リーネが悲しそうに顔をゆがめながら泣き崩れたためライキが支える。
「・・・リーネ、ノーツのことは許してあげてね。
悪いのはダルダンテなんだから。
ノーツは自分のしたことをとても反省して、悔いながら今も生きているわ・・・。」
「・・・はい、わかっています・・・。
ノーツさん、私のおじいちゃん・・・ですよね。
今はダルダンテ神国にいるんですか?」
「いえ、今はこの国にいるわ。
ノーツはマールとクーヤの指輪を奪った後、ダルダンテ神国に連れて行かれて暫くは束縛されたけど、あちらで子孫を残した後、またダルダンテにいいように使われそうだったようで、嫌気がさした彼は印のつけられた左腕を切り落としてこの国に逃げ込んだわ。
ライキ、あなたが既に会っている人よ。」
「俺が会った人で・・・左腕がない・・・・・・あっ!!
最初に飛んだ時の山小屋のお爺さん!?」
「そうよ、彼がノーツ。
あなたが初めに能力を発動した時、暴走した力は想いの先であるリーネのところへ向かうはずだった。
でも、一人で飛んだ時に同じ村内での移動が出来なかったように、リーネの家までの距離が近すぎて通り過ぎてしまったのね。
それで、その勢いは次にリーネと血のつながりの濃いノーツに向かったんだと思うわ。
私にも未知な部分が多い力だから推測だけどね。」
「・・・そうか、あの人がリーネの・・・。」
「・・・ライキ・・・私、会ってみたい。
もう誰も血の繋がりのある人がいないと思っていたけれど、おじいちゃんがいたんだもの・・・!」
「うん、今度一緒に会いに行こう。」
「それがいいわ。
もう彼がダルダンテに狙われることはないと思うから安心してって伝えて?」
「はい・・・!」
「ダルダンテはマールが長い間待った女の子だったのに、手に入れることが出来なかった悔しさを指輪を奪うという形でぶつけた。
本当はマールを殺そうとしたけれど、クーヤがいたため出来なかったから。
一度失われた祝福は、つがいの頃に戻れない二人にはもう取り戻すことは出来ない。
でも、マールはクーヤと共には逝けなかったけれど、彼が亡くなった後にリーネ、あなたと出会い、共に過ごした時間は、とても尊くて幸せだったと思うわ・・・!」
「・・・はい・・・!」
リーネは顔を上げて、涙を拭き、笑顔を見せた。
「・・・その後ダルダンテで産まれたノーツの息子の子供がリーネ、あなたになるの。」
「あなたの両親にはダルダンテの印があったから、あなたと共にうちの国には来れなかったけど、ノーツからダルダンテのしたことを聞いていた彼らは、産まれて間もないあなたをダルダンテに見つかる前にと快くヴィセルテへと託してくれたわ。
でも、その後すぐにダルダンテにそのことを知られて殺されているの・・・。」
「・・・お父さん、お母さん・・・。」
リーネは涙を滲ませた。
「ごめんなさいね・・・リーネ。
あなたにとってとてもつらい事実だけど、きちんと伝えなければいけないと思ったから私の知る限り伝えさせてもらったわ・・・。」
とフェリシア。
リーネは涙を散らしながら首を横に振った。
「悪いのはフェリシア様じゃありませんから・・・。
ダルダンテ・・・・・許せないわ・・・!」
フェリシアはそっとリーネの頭を撫でてから、ライキの方を向き、再び口を開いた。
「ダルダンテは何世代もアーシェの子孫を待ち続けているからもう限界で、待ちきれなくなっているわ・・・。
だからまだ子供が産める年齢だったリーネの両親を怒りのままに殺したのよ。
それに、ライキとリーネが結ばれたらハント家の血を入れることになるから・・・。」
「俺の一族の血、ですか?」
とライキ。
「そうなの。
ライキの先祖に当たる”ある男”の遺伝子がとても強くてね。
ハント家からって何故か女の子が産まれないのよ。
必ず銀髪の男の子が産まれているの。
そのことをダルダンテはうちの国の誰かに取り入っているときに調べて知っているはず。
そうしたら、もう女の子を待つことはできなくなってしまうわ。
だから、あいつにとっての花嫁は、”リーネで最後”なの。
何としてもリーネが欲しくて強行手段に出てくると思うわ。」
「強行手段・・・ですか?」
怯えたリーネが硬い表情で尋ねた。
「えぇ。
二人が結ばれる前に実体を現し、奪いに来るはず・・・。
だけどあいつはロリコン・・・って言って、未成年の女の子に性的興奮を持つ嗜好を表す言葉があるのだけど、そのロリコンではないから、成人前のリーネに手は出さない筈。
成人してまだ処女であるタイミングを狙って、攫いに現れると思うわ。」
「それなら俺がそこで決着をつける。
相手が神でも負ける気はない。」
ライキは力強く、一切迷いのない顔で宣言した。
「ライキ・・・・・・。」
リーネは瞳を潤ませ、ライキの腕をぎゅっと掴んだ。
「ライキ、あなたは人の子にしてはかなり強いけれど、スケールの違う神に現地点では敵わないわ。
あなたへは私から天界の武具を用意しているのだけど、それがあってもまだ奴には届かない。
だから神に対抗する術を得るために巡礼の旅に出て欲しいの。」
「巡礼の旅、ですか?」
「えぇ。
つがいの二人がより祝福を強固にするために、各地の教会を回ったりするでしょう?
迷信めいているけれど、それにはちゃんとした理由があるの。
それは、私の力がこの国にある”10カ所の教会”に分断されているからなの。
仕事があるつがいは旅には出られないから、住んでいる村の教会でのみ祈りをささげ、成人して祝福を得る。
これで得られる祝福でも、この国の民である以上マールの時のような例外を除けばまず奪われることはないし祝福としては充分なのだけど、全ての教会を回ることにより私より上の神である”お父様”に”祝福を承認される”ことになるの。
それによって、ダルダンテや私のようなお父様より格下の神が直接祝福を奪おうと思っても、創造神に承認されし”強固なる祝福の指輪”へは手出しができなくなるわ。
普通の民には関係のない次元の話だから、これは本人たちの気持ちの上で行われている旅なんでしょうけどね。
でも、天界の武具でもそれと同じことが起こるの。
今の状態でも普通の下界の武具より遥かに強力なのだけど、神に通用する域には届かないわ。
でも10ヶ所全ての教会で祈りを捧げた武具は、お父様に承認され、”クラスアップ”することが出来るのよ。
そのクラスアップされた武具と、あなたの”射精して空を移動する力”があれば、ダルダンテに対抗できるわ!」
ライキは拳に力を込めてしっかりとファリシアを見て伝えた。
「・・・わかりました。
俺はリーネを守るために出来ることは何でもします。
でも旅に出るとなると、仕事もあるし未成年の俺が独断で決めるわけにはいきません。
今の話を俺の両親に伝えてもいいでしょうか?
説得してみます。」
「えぇ、話してみるといいわ。
ゲイルもサアラも、もうそのつもりのようだけど。」
フェリシアは何か知っている風にくすっと微笑んだ。
「それじゃ、堅苦しい話はこれでおしまい!!
お茶にしましょ!!」
フェリシアはぱあっと明るい表情になり、手を合わせた。
「リーネのクッキーとジャム、とっても美味しそうなんですもの♥」
目の前のプレートに向けて♥を飛ばすフェリシアの傍にヴィセルテがスッと近づくと言った。
「それでしたらフェリシア様。
彼に”力の使い方”を教えたいのでお借りしても?」
「あっ・・・えぇそうね!
それじゃあお願いするわ。
ライキはヴィセルテに付いて行ってくれる?」
「あ、はい!」
とライキは席を立つと、心配そうに見上げるリーネの頬に触れて微笑んだ。
「大丈夫だから。
ここでフェリシア様と待っていて。」
「・・・うん」
リーネは柔らかく微笑むと、手を振った。
ライキはヴィセルテに案内され、広い草原のような場所に来ていた。
そこで、彼は見たことのない剣とナイフ、ボウガンを亜空間から取り出し、ライキに手渡した。
「これはフェリシア様が貴方のために用意した天界の武器です。」
「これが・・・?
見た目は普通だ・・・。」
「えぇ、旅先で使いやすいようにと、フェリシア様が・・・。
いえ、実の所、最初はやたらにキラキラゴテゴテとしていましたが、私が止めてこのような見た目にしてもらいました。
派手な武器は目立ちますし、悪意を寄せ付けやすいですからね。」
「ありがとうございます。
俺も普通のほうが助かります。」
ライキはそう言って微笑むと頭を下げた。
ヴィセルテも微笑み返すと、すぐに真剣な表情に変わり続けた。
「では、その武器を使って私に攻撃してください。
手加減は無用です。」
ヴィセルテの金の目がライキの反応を静かに伺っていた。
「・・・・・。」
ライキはこの男に手加減は無意味だと直感で悟り、そっ・・・と剣を抜いた。
剣は見た目に反して軽く、軽く振るとしっかりとした手応えがあった。
(これはすごく良い剣だ・・・!)
「行きます!」
ライキは声をかけてからヴィセルテの懐へ飛び込み、剣を払うもスっと躱される。
そのまま数撃繰り出すも、あっさりと交わされてしまう。
(!?
何だ!?この感じ・・・。)
ライキは距離を取ると、今度はボウガンを放ってみる。
1度放った矢がまた直ぐに再構成され、次を自分でセットしなくても放てることに驚いた。
(流石天界の武器だ・・・凄い!)
そのまま数発放つがどれもスッスッと躱される。
(それなら!)
ライキはボウガンを乱射し、その死角からナイフを忍ばせて投げた。
(・・・これならどうだ!?)
ヴィセルテは全てお見通しといった余裕の表情で躱す。
(やはりか・・・さっきから躱し方に無駄がない。)
ライキは剣を鞘に収めた。
その際先程投げたナイフがいつの間にか鞘に戻ってきていて驚くライキ。
「降参です・・・。
あなたに当てられる気がしない・・・。」
ライキがそう言うと、ヴィセルテは穏やかに微笑んだ。
「それはよかった。
一応、”寵愛を受けた者の先輩”としての顔は立ちましたね。
ですが流石はハント家の隠れた天才。
僕が力を使わなければ今頃ただでは済まなかったでしょう。」
(ハント家って神様関連の人にも有名なのか?)
ライキはチラッとそんなことを思うも、すぐに唇を固く結ぶと俯いた。
「いえ、俺はそんなんじゃない・・・です。
それより、貴方の力とは”千里眼”のことですか?」
「えぇ。
ですが常にフルで発動している訳では無く、部分的に使っています。
千里眼をフルで使うことは非常に疲れますから。
先程のような戦闘においては、相手の動きを予測することにのみ必要な力を使っているのです。
寵愛の力はそのように使うことも出来るのですよ。」
「俺の”空を移動する力”もですか?」
「ええ。
この力を戦闘において自在に引き出せれば、人の域を超えた戦いが可能となります。
ダルダンテとの戦いにおいては必要不可欠になるはずです。」
「でも、俺には射精という発動条件がついているから・・・。」
「それでも貴方の身体に備わった力ですから、部分的になら条件を満たさずに引き出せるはずです。
例えば、その剣を任意の場所へ一瞬のうちに移動させたりですね。
そう念じてみて下さい。」
ライキはもう一度剣を抜くと、剣が移動するイメージをしながら念じてみた。
(飛べ、飛べ・・・・・。)
しかし剣は一向に飛ぶ気配がない。
「難しいな・・・。
ただ念じるだけじゃ駄目なのか?」
「うまく行きませんか・・・。
あなたの場合は射精で力が発動しますからね・・・。
では、射精する時の快楽を思い出しつつ念じてみましょうか?」
穏やかにさらっと命じるヴィセルテ。
「えっ・・・ヴィセルテさんの目の前で、ですか?」
ライキの顔が引き攣る。
「やってみて下さい。さあ。」
ヴィセルテからブラックリーネに似た威圧感を感じた。
「”ダルダンテに負ける気はない”のでしょう?」
その言葉でライキはハッとし、目に力が篭り菫の瞳を静かに光らせた。
「・・・わかりました・・・。」
ライキは深呼吸すると瞳を閉じ、ヴィセルテの存在をシャットダウンして、リーネと触れ合いを思い出し、集中した。
(リーネ・・・リーネ・・・可愛いリーネ・・・・・俺のリーネ!!)
月夜に照らし出されるリーネの裸とその肌の心地よい感触・・・自分に触れられて啼く声・・・彼女が達するときのあの表情・・・自分へと与えてくれる快楽・・・。
それらを次々と思い出しているうちに段々と気持ちが高ぶってくる。
その状態で、剣が動くように念じてみる。
(ヴィセルテさんの後へ・・・飛べ!!)
すると、剣が手元からフッと消え、ヴィセルテの真後ろにシュン!と現れた。
(よし!出来たぞ!!
・・・次は・・・刺せ!!)
と念じる。
すると背後から心臓を突き刺すように剣が動いた。
ヴィセルテはハッ!として剣を躱した。
「・・・出来ましたね。
今のは僕の力でも予測が出来なくてヒヤッとしました。」
「・・・普通に避けてるじゃないですか。」
「千年以上フェリシア様の神使として生き、それなりの修羅場を経験していますから。
長年の戦闘経験における勘、みたいなものでしょうか?」
ヴィセルテはまだまだ余裕といった表情で答えた。
ライキは少し悔しそうに眉を顰めた。
「まずは、今のを自在にこなせるようになってください。」
「・・・わかりました。」
『でもこれ、いちいち股間が半勃ちになるし格好がつかないな・・・。』
ライキがボソリと呟いた。
「それはトレーニングして目立たなくするよう努力するしかないですね。
股間が半勃ちの騎士なんてお姫様も幻滅ものですよ?」
クスリと笑われた。
(聴こえてたのか・・・。
この人穏やかそうに見えるけど相当なドSだ・・・。)
ライキは赤くなりながらそう思った。
「まぁ、回数をこなせば身体が覚えて自然に引き出せるようになりますよ。」
「・・・わかりました。」
(でも彼のおかげでダルダンテに対抗するために1歩踏み出せた。)
「ありがとうございます。
ヴィセルテさん。」
ライキは彼に感謝し、頭を下げた。
「いえ。
ひとまず今日のところはここまでとしましょう。」
(今日のところは?)
ライキ、一抹の不安を覚える。
「これから月に一度、フェリシア様の御用向きがない時に進捗を見せて頂きます。
それまでにしっかり練習をしておいて下さい。」
「は・・・い。」
ライキはこれからもこの底知れない腹黒さを持った男と関わっていかなければならないのか・・・と一瞬思ったが、この状況においてはこの上ない心強い存在だと思い直し、覚悟を決め、再度頭を下げた。
「宜しくお願いします。
・・・師匠。」
「その素直さ・・・貴方の良いところですね。
こちらこそ、よろしくお願い致します。」
ヴィセルテは穏やかに微笑んだ。
その後ライキ達が庭園のフロアに戻ると、ファリシアと楽しそうにころころと笑うリーネの姿があった。
「ホントにあの拗らせ童貞、禿げればいいのに。」
「神様に効くかはわかりませんけど、禿げる毒ならありますよ?」
「あるの!?
あなたの力が発動している時の毒なら神相手でも効くんじゃないかしら?
今度作ってみてくれない?」
「良いですよ?
でも禿げるだけでは生ぬるいです。
いっその事不能になってくれれば万事解決なのに!」
そう言って二人でウフフフ!アハハハ!と笑っている。
近づいていくととんでもないことを話しているのが聴こえてきて冷や汗をかくライキ。
「・・・リーネ、終わったよ。」
「あっ、ライキ、おかえりなさい!
今ね、フェリシア様とダルダンテを撃退できる毒を作れないかなーって色々考えてたの。」
「そっか・・・楽しそう(なのか!?)で良かった・・・
あれ?それ、レイピアか?」
ふとリーネが腰に下げたレイピアに気が付くライキ。
「うん、フェリシア様から頂いたの。
毒を忍ばせることが出来る天界の武器なんだって。
このペンダントもお守りにって。
可愛いでしょ?」
と首に下げた空色の石のついたペンダントを見せるリーネ。
「うん。
リーネの瞳の色と同じ石がついててよく似合っているな。」
とライキは優しく微笑み、素直な感想を述べた。
「本当!?嬉しい・・・!
あ、レイピアなんだけど、使ったことがないから今度教えてくれる?
旅に出るまでに使いこなせるようにならなきゃ。」
「うん、わかったよ。」
等とふたりが話している傍で、
「ライキはどうだった?」
フェリシアがヴィセルテに尋ねていた。
「えぇ、彼なら1年もすればかなり使えるようになるでしょう。
その頃には僕も手加減出来なくなるでしょうね。」
「それはよかったわ。
・・・ありがとう、ヴィセルテ。」
「いえ。」
ヴィセルテは小さく頭を下げる。
フェリシアはふたりに向き直ると少し寂しそうに言った。
「ライキ、リーネ。
お茶会はそろそろお開きにしましょう。
とても楽しかったから名残惜しいけれど、下界の方では日が暮れる頃だから。
また日を改めて招かせて貰うわね。」
「「はい!」」
「あんな騒ぎの後だから暫くはダルダンテも手を出してこないでしょうけど、あなたたちが巡礼の旅に出たら、行く先々でダルダンテが人の心の闇に取り入って陥れようとして来るはずよ。
それに、◆の印の魔獣を送ってくる事もあるでしょう。
それはダルダンテの神力で強化された魔獣で、この国にいるハイクラスの魔獣よりも更に手強いから気をつけなさい。
─そして、二人は、成人したと同時に”結婚"するのでしょ?
ライキ?」
「「!!」」
真っ赤になるライキ。
リーネは驚いて目を見開くと、顔に手を当てライキを見上げた。
「・・・それは、フェリシア様の話を聞いてからずっとそう考えてましたけど・・・。
期を見て俺からちゃんとプロポーズしようと思ってたのに・・・。」
真っ赤な顔のまま、悔しそうに顔を歪めるライキ。
「ライキ・・・本当に?」
頬を赤く染めたリーネが瞳を潤ませてライキを見つめる。
「・・・うん。
成人後にモタモタしてたらダルダンテにチャンスを与えるようなものだし・・・。
俺も早くリーネを嫁に欲しいから。」
「嬉しい・・・!
私も早くライキのお嫁さんになりたい・・・!」
リーネはギュッとライキの腕に抱きつくと、頬をくっつけた。
「うふふふ、大切なサプライズを奪ってしまってごめんなさいね!
でもその時に結婚するのが1番いいと思ったから!
リーネが成人したら、二人には私から”強固なる祝福”を授けに行くのと同時に、”天界の武具をクラスアップ”させるつもりでいたの。
その場でなら私も下界に直接干渉ができるから、ダルダンテ戦で微力ながら手助けをしてあげられると思うわ。
ヴィセルテもね。」
ヴィセルテも会釈する。
「ありがとうございます!
心強いです!」
とライキ。
「つまりはあなたたちの結婚式の時がダルダンテとの決戦になるでしょう。
それまでに10カ所の教会を回って武具をクラスアップ出来る状態にしておくこと。
あなた達なら必ず出来ると信じてるわ!」
ふたりは顔を見合わせてから、
「「はい・・・!」」
と決意固く頷いた。
ライキとリーネの二人は、ゲイルとサアラに昨夜女神フェリシア様に招かれたことを伝えたのだった。
「あらあらまあまあ!
じゃあ何か手土産をお持ちしたほうが良いかしら!?
フェリシア様って何がお好きかしらね?」
サアラが首を傾げる。
「私、今朝焼いたクッキーと林檎ジャムを持って行ってみます!」
「あら素敵ね!
きっと喜ばれるわ!
うちのハムも持って行ってくれる?
フェリシア様のお口に合うといいのだけど・・・。」
「おばさんのハムとっても美味しいですもん!
喜んでもらえますよ!」
そんな二人のやり取りを微笑んで見ているライキに、父ゲイルが声をかけた。
「私服で行くんだな?」
「うん。
ローデリス邸でナイフ以外の武器を奪われたし、神様に会うのにあまり物々しいのもと思ったから。
変かな?」
「いや、良い判断だ。
帰ったらこちらからも大事な話があるから覚えておけ。」
「・・・うん。」
ライキはリーネに声をかけた。
「リーネ、そろそろ行くよ!」
「はぁい!」
そして、二人は教会の女神像の前に来ていた。
二人は今まで女神フェリシア様を信仰はしていても、どこか遠くの手の届かない次元の存在だと思っていたが、昨日信じられないような奇跡が起こったために、今はとても身近に感じられていた。
「フェリシア様の像の前に来たけど・・・。
・・・特に何もないね?
昨夜の声のこと・・・二人して夢でも見てたのかな?」
リーネがそう呟いた時、女神像がキラキラ光り、リーネの頬に♥印が浮かび上がった。
「リーネ!頬!」
「ライキ!頬!」
二人同時に互いを指差すと、ライキが絶頂して空に昇るときの感覚で、シュン!と身体が消えるのを感じた。
次の瞬間、二人は見たこともないとても広い庭園のような場所にいて、辺りには薔薇やチューリップ、パンジーやストック等の春の花々が咲き誇り、鳥のさえずりが聞こえた。
二人の頬の♥印は、もう消えていた。
二人が手をつないだままきょろきょろ辺りを見渡していると、手前にあるテラスに一人の男性がどこからともなく現れ、恭しく頭を下げた。
「銀色狼と空駒鳥のつがいのお二人、いらっしゃいませ。
こちらへどうぞ。」
黒髪とミステリアスな輝きを放つ金の瞳の青年は、ローデリス邸にいた執事のような服装を着ており、大層な美形だった。
「フェリシア様はすぐに参りますので、こちらへおかけになってお待ちください。」
「あ、あのっ・・・これ、ライキのおうちのお店のハムと、私の作ったクッキーと林檎のジャムなんですけど・・・
よろしければフェリシア様に・・・!」
リーネが手土産を彼に手渡した。
「ありがとうございます。
それでは、クッキーとジャムは早速いただきましょうか。
お茶を用意しますので、おかけになってお待ちください。」
青年はにこやかに微笑むと再度二人に椅子を勧めた。
二人は促されるまま椅子に座る。
彼は綺麗な所作でリーネが持ってきたクッキーと彼が用意していたであろうスコーンをプレートに乗せ、ジャムの瓶を置き、手早く紅茶を淹れると、二人に頭を下げて再び奥へと消えていった。
その場に取り残された二人は顔を見合わせ、お互いに状況についていけていない顔をしていたため可笑しくて少し笑った。
すると庭園の奥のほうから、聞き覚えのある女性の声が聞こえてきた。
「おかしくないかしら?
私人前に出るの久しぶりだから・・・。」
「僕があれだけ手間をかけたんだ。
変なわけがないだろう?
さっさと客人の前に出ろ。」
先ほどの執事らしき青年が嗾けているのが聞こえて、ふたりはポカーンとしてそれを見ていた。
「あっ・・・お待たせしちゃったわね!
私、この国の土地神をやっていますフェリシアです。」
女神像のその人が鮮やかな色を纏って現れると、ニコッと笑って二人の目の前の席にふわりと座った。
「あっ・・・お、お招きいただきありがとうございます!
私、リーネ・ファーマシーといいます!」
リーネが少し取り乱しながらも先に立ち上がり、スカートを持って丁寧にお辞儀をした。
ライキも続いて立つと頭を下げた。
「俺はライキ・ハント・スイズリーハントです。
お招きいただきありがとうございま・・・」
ライキが最後まで言い終わらぬうちにフェリシアはもう我慢ならないといった様子で立ち上がり、リーネとライキの間近まで来て二人を抱きしめ、奇声を上げた。
「きゃーーーーっ♥!!
私の推しが目の前に・・・!!
なんでこんなに可愛いの!!
きゃーーーーっ♥!!」
二人がポカーンとしていると、執事の青年がクスクスと笑い、呆れたように口を開いた。
「貴女のお気に入りのつがいが豆鉄砲食らってますよ?
ふふっ、こんな人ですから気兼ねなく、どうぞ座ってください。」
と笑顔で再び椅子を勧められたので二人はまた顔を見合わせると座った。
しばらく興奮してはぁはぁしていたフェリシアは、何度か深呼吸をしてようやく落ち着いたのか、再び先ほどの席に腰を落とした。
「ごめんなさい・・・!
ずっとあなたたちに会ってみたかったから、つい取り乱しちゃって・・・。
ずっとここ・・・天界からあなたたちを見ていたわ。
今回は二人に直接話しておかないといけないことが沢山あったから招かせてもらったの。
お話、聞いてくれる?」
「「・・・はい。」」
ライキとリーネは同時に頷いた。
「まずは、あなたたちは私にとって”特別なつがい”であることを話しておくわね。
通常のつがいは、教会でお祈りをするときに、神官が心の波動に異常を感じて報告の必要があると判断した場合にのみ、私に知らせが入るようになっているの。
つがい同士で何かのトラブルがあったときなんかがそれに当たるわね。」
「でも、あなたたちの場合は、私が特別な”寵愛”を与えたつがいなのよ。
それにより、普通のつがいの子たちよりも深く私とつながっているの。
だから、この天界へ招くことが出来たのよ。」
「寵愛・・・ですか?」
とライキ。
それは彼らにとっては馴染みのない言葉だった。
「そうよ?
土地神は自分の国の気に入った子に”印”をつけることが出来て、それを”寵愛”と呼ぶわ。
私の場合は♥の印。
ここに来る時に見たでしょう?」
「「あ、はい!」」
と二人。
「寵愛は産まれてすぐの赤ちゃんの時に与えるのよ。
祝福を得た夫婦から産まれた赤ちゃんは、みんな私がチェックしているのだけど、
その時に、その子の人生を確認して、その子に合った”名前”と”通り名”を私が考えているの。」
「えっ・・・!?
それっ俺たちの名前や通り名ってフェリシア様がつけたものだったってことか・・・?」
とライキが驚いて声を上げた。
「えぇ。
それが土地神としての私の仕事の一つなのよ。
そしてその情報は、お告げとして教会の神官に届けられ、神官から両親に伝えてもらって、あなたたちのものとなる仕組みなの。」
フェリシアは続けた。
「ライキ、あなたの方がリーネより少し早く産まれているから、先にあなたのことを見たのだけど、
銀髪に菫の瞳の整った顔立ちに、その性格や人となり・・・全て、なんて可愛い子なのかしらって凄く気に入ったわ!
それでわくわくしながらあなたの人生を更に深く覗いたときに、
ライキの歩む様々な人生の可能性の中に・・・リーネ、あなたがいたの!
中でもリーネと無事に結ばれたライキの未来が、ひときわ輝いていて、とーっても幸せそうで、素敵だったわ!!
きゃーーーっ♥!!
この子も淡い金髪に空色の瞳、感情豊かで思いやりがあって、なんて可愛い娘なのっ!
是非ともこの子に彼のつがいになり、人生の伴侶になって欲しい!
この二人に私の”寵愛”を与えたいと思ったわ!!」
はぁはぁはぁ・・・力説のあまり息を切らすフェリシア。
彼女が紅茶を一気に飲み干すと、すぐに執事の彼が新しいものを注いだ。
「ライキ、あなたはこの国の産まれだったから、問題なく寵愛を与えられたわ。
寵愛を与えた子には特別な力が付与されるのだけど、それがあなたの”射精して空を移動する力”ね。」
「え!?
あれってフェリシア様が与えて下さった力だったんですか・・・。」
真っ赤になるライキ。
「あっ!
今、何で”射精”なんて条件をつけたのか、普通に条件なしにしてくれれば良かったのにって思ったでしょ?」
「・・・は、い・・・すみません。」
ライキは顔を赤らめたまま気まずそうに目を逸らした。
「良いのよ?
これは私の神力不足の問題ね・・・。
土地神としてまだ駆け出しの私は、基本的に今生きている子達の中から一人にしか寵愛を与えられないの。
しかも、あなたたちみたいに余程気に入って、胸がキュンキュンこないと無理なのよ・・・。」
(胸が、キュン・・・?)
不思議そうな顔をするライキとリーネ。
「でも今回はあなた達二人に同時に寵愛を与えたかったから、
二人に与える能力に”条件”を付けなければならなかったのよ。
その変わり、二人で一緒に発動すると一人前の力を発揮できるようになってるわ!」
「成程、それでリーネと一緒に飛ぶと力の精度が上がったのか・・・。」
とライキ。
「あの、フェリシア様。
ここに来る時私にも♥印があったのですが、私にも寵愛を?
私、ダルダンテ神国の産まれなのに?」
リーネがおずおずと尋ねた。
「そうなの。
・・・あなたの場合は訳ありだから、ライキのように簡単にはいかなかったわ。」
「訳あり・・・ですか?」
「えぇ、ライキの人生の中であなたを見つけた時に、あなたはダルダンテ、私の3番目の兄に当たる隣の国の神の、いわば”嫁候補”にあたる存在だとわかったの。」
「えっ・・・ええっ!?
神様のお嫁さん候補!!?」
リーネは驚き目を見開いた。
「そう。
ただしあいつが一方的に決めた・・・ね。
このことは後で詳しく話すわね?
まずは寵愛を与えることが出来た経緯だけど、何とかしてあなた達に結ばれて欲しかった私は、まだ産まれて間もないあなたをダルダンテに気づかれる前に、こーっそりとね、私の国へ連れてきたの!
彼にお願いしてね!」
フェリシアが執事の青年を示す。
「彼はヴィセルテ。
執事の格好をしているけれど、私の神使・・・側近であり夫なの!
私が最初に寵愛を与えた存在でもあるわ。」
ヴィセルテの頬に♥が浮かび上がる。
彼は丁寧にお辞儀をした。
ライキとリーネもお辞儀を返す。
「ヴィセルテに与えた寵愛による付加能力は”千里眼”。
この世界の様々なことを見通せる力よ。
ダルダンテ神国の中のことは神々同士の不可侵条約があるから私には知ることは出来ないのだけど、彼の力であなたがダルダンテ神国の何処にいるのか見つけられたの。
それで盗み出せた。
あいつに見つかると危険だけど、あいつも過去に何度か私の国から大事な子を盗んでいるからね。
その仕返しをさせてもらったわ。
ライキのためにもどうしてもあなたが欲しかった。
それで、リーネ、あなたにも名前と通り名と寵愛を与えたることが出来たのよ。」
「そうだったんですね・・・。」
とリーネ。
「・・・そうか・・・。
フェリシア様のおかげで俺、リーネと出会えたんですね・・・。」
とライキが呟いた。
「私がリーネをこの国に連れてこなくても、ライキ、あなたはリーネの魂に引かれてダルダンテ神国に行き出会っていたのだけど、それだと二人が幸せになれなかったから・・・。
私が二人のイチャイチャを間近でどうしても見たかったからそうしたの!!」
とフェリシアはウフフフ!と楽しそうに笑った。
ライキとリーネは赤くなって気恥ずかしそうに俯いた。
「・・・あれ?
でも・・・私にはライキやヴィセルテさんみたいな特別な力は・・・。」
リーネは小首を傾げ、疑問を口にした。
「あなたが気がついていないだけで、無意識に発揮しているのよ?」
「えっ?」
とリーネ。
「あなたの力は”神秘の薬”といって、オーガズムを得たあと1~2日間くらいの間に作った薬の効果が飛躍的に上がるの。
一人でシたときよりもライキにオーガズムに導いてもらうことで、より精度が上がる。
これはライキと同じね。
心当たりがない?」
「・・・そういえば、媚薬も、ローデリス夫人の美容薬も、思っていたよりとても良く効いたわ・・・!」
「解毒薬もそうよ?
あのときローデリス夫人が飲んだ”毒”はダルダンテが手を加えていたものだったから、正しい解毒薬を与えても解毒出来なかった筈・・・。
あなたは無意識に力を使ってそれに打ち勝ったわ!
ライキの力に比べると目に見えないからわかりにくいけれどね。」
「・・・そうだったんですね・・・。
私、この力のお陰で救われたのですね!
ありがとうございます・・・!」
「・・・感謝の言葉なんていいの。
むしろ私は謝らなければいけないわ・・・!
あの毒薬騒ぎは本来私の加護や祝福を得ていたり、ましてや”寵愛”を与えているあなたたちには起こりえない不幸だわ!
・・・あいつが、ダルダンテが、リーネ、あなたを奪い返そうとついに仕掛けてきたのよ・・・!
今回の毒の騒ぎは全てダルダンテが仕組んだこと・・・。
まさかこんなに早く行動に起こすなんて・・・!!」
フェリシアは腹立たし気に拳を握りしめた。
「土地神同士は不可侵条約があり、自国の民以外に手出しはできないことになっているのだけど、あいつはそれを掻い潜る術を持っている。
人の心の悪意や弱みに付け入ることが得意なやつだから、今回は私を信仰していなくて尚且つ常にイライラ状態だったローデリス夫人から取り入り、ヨハナ、そしてローデリス卿と入り込む隙のある民を渡りながら目的を執行したのね。
ローデリス夫妻のように私を信仰していなくても、この国の民である以上私は力を行使できるはずなのに、今回はダルダンテに妨害されてすぐに助けてあげることが出来なかったわ・・・。
何とかあいつの妨害壁を打ち破った時には、もうリーネの家に火が放たれていた。
・・・ごめんなさい。」
リーネは黙って横に首を振った。
ライキはリーネの肩をそっと抱いた。
「・・・ダルダンテはあの騒動であなた達を自分の国へと逃亡させるつもりだったようね。
ダルダンテ神国に入ってしまえば、悔しいけれどあいつのほうが神としての力は上だから、私の与えた”寵愛”や”指輪の加護”は失われる・・・。
後はあいつの好きに出来るのよ・・・。
ライキを殺して、リーネを捉えることも容易い・・・。
だから、ライキがリーネに一緒にダルダンテ神国に逃げようと言った時には焦ったわ。
リーネ、あなたが止めてくれてホッとした。
そして、私のことを信じてくれて嬉しかったわ・・・!」
フェリシアはそう言うと優しくリーネに微笑みかけた。
リーネも優しくフェリシアに微笑み返したのだった。
「・・・あの、さっき私がダルダンテ神の花嫁候補だって仰いましたけど、その理由を聞いてもいいですか?」
とリーネ。
「・・・えぇ。
あなたにはきちんと話しておかなくちゃ。
さっき過去にダルダンテによって私の国の子を盗まれてるって言ったけど、全てはダルダンテがあなたの遠いご先祖に当たるアーシェという女の子に一目惚れをし、妻にしようと強引な手を使って私の国から盗み出したことから始まるわ。
アーシェは淡い金髪、赤い瞳の可愛い子で、顔立ちがリーネ、あなたととてもよく似ているわ。
でもおっぱいはもう少し大きかったわね。
性格ももっと控えめで大人しいタイプで・・・。
私はリーネの小さいおっぱいも気が強い所も大好きだけど!」
くすくすと笑うフェリシア。
「~~~…。」
リーネはからかわれて真っ赤になり複雑な顔をして俯いた。
「・・・話を戻すわね。
ダルダンテに連れ去られてしまったアーシェだけど、彼女は既に愛する人との間に子供を授かっていたわ。
それで彼女を諦める男なら良かったのだけど、アーシェが他の男のものになってしまったものだから、処女厨のあいつは・・・」
「処女、厨?って何ですか?」
とリーネ。
「あ、これもあなた達には馴染みのない言葉よね?
処女性愛っていって、処女じゃない女性を汚らわしいと感じる人がいるのよ。
それを酷く拗らせた変態があいつ。」
「・・・・・。」
ライキとリーネは怪訝な顔をして閉口する。
「アーシェが処女でなかったことを知り逆上したあいつは、アーシェを殺そうとも考えたけど、それよりもアーシェの子供やその子孫から女の子が産まれたら、今度こそ処女のうちに嫁にしようって考えたのよ。
アーシェ自身の心が欲しかったというより、彼女の見た目がドストライクだったのでしょうね。
見た目が似ていれば、それが子孫であってもかまわなかった。」
「執念深い男だな・・・。
それがリーネを狙う理由か!
ただ見た目を気に入った女の子孫ってだけで・・・・・。」
とライキはわなわなと怒りで震えて拳を固く握り俯く。
「えぇ・・・本当に気持ち悪い男・・・。
あんなのが兄だなんて嫌になるわ。
あいつはアーシェを自分の国に縛り付けて子孫共々管理するために◆印をつけたわ。」
「・・・私たちの♥みたいな寵愛ですか?」
とリーネ。
「私の♥と同質のものだけど、あいつの場合は寵愛というより”呪い”ね。
付けた相手に良い効果をもたらすものではなく、ただ国から出られないように縛り付けるものなの。」
「呪い・・・。」
ライキとリーネは深刻な顔になる。
「しかもあいつの印は1度つけた相手の血族ならどんどん追加で付けられるの。
それは死ぬまで外されることはないわ。
印をつけられた場所を切り落としでもしない限りはね。
アーシェは首に印を付けられていたためそれも出来なかったわ。」
「・・・・・。」
二人は黙って俯く。
「・・・アーシェさんと、お腹の赤ちゃんはどうなったのですか?」
リーネが聞く。
「アーシェはそのままダルダンテ神国で子供を産んだわ。
幸い男の子だったから、印をつけられるだけで済んだみたい。
そこでダルダンテはアーシェに男をあてがい、2人目を産ませようとしたけれど、アーシェはそれを拒み、自害したわ・・・。」
二人は青ざめ、つらい顔をした。
「・・・だからダルダンテはアーシェの息子の子孫を待つことにしたのよ。
そして何世代かして、ついに女の子が産まれたわ。
あなたの曾祖母に当たるマールよ。」
「おばあちゃん・・・!」
とリーネ。
「マールの時は、ダルダンテもどうせまた男の子だろうとあまり監視もしなくなっていたことと、少し早産だったこともあって、私がヴィセルテを通して気が付くほうが早かったの。
それで、すぐにヴィセルテを使いにやって、産まれてすぐのマールを私の保護下に置くことができたわ。
でも後に産まれた赤子が女の子だったことを知ったダルダンテは怒り、私から奪い返そうとしたけれど、既に私の保護下にあったことと、マールの傍にはクーヤ・・・あなたの曾祖父に当たる人だけど、彼はちょっと特殊な人だったから、ダルダンテには手を出すことが出来なかったのよ。」
「おじいちゃん・・・。
私がおばあちゃんのところに来た時には既に亡くなっていたから会ったことはないですけど、異国の人だったんですよね?」
とリーネ。
「えぇ、お父様(※創造神)がらみの人だったから、私は彼のことを見る権限がなくて詳しくはないのだけど・・・。
クーヤ・サイジョー。
黒髪に空色の瞳の素敵な人だったわ。
あなたの瞳の色は彼由来ね!」
「そうなんだ・・・。
私、おじいちゃんと瞳の色でちゃんと繋がっているんですね・・・!」
リーネは嬉しそうに表情を緩めた。
「ええ。そうね!
マールはそのクーヤとつがいを経て結婚し、祝福を得たわ。
またしても処女のうちに奪えなかったわけね。」
「でもリーネ、ばあちゃんって、旦那さんと死に別れているよな?
祝福を受けたなら死するときも共に逝けるって聞いたけど・・・。」
とライキ。
「それがねライキ、おばあちゃん”祝福を奪われた”って言っていたの。
あまり詳しくは話してくれなかったけど・・・。
フェリシア様、祝福は奪ったり出来るものなんですか?」
リーネが尋ねた。
「祝福を授けた指輪は他者が触れることはできないから、通常は人による悪意、企てによって奪うことは出来ないわ。
ただ二人の愛の結晶である息子の手にかかれば話は別よ。」
「息子・・・?」
「えぇ、マールの息子、ノーツよ。
ノーツが好きになった相手はあまりいい子ではなかったから、ダルダンテがその子に取り入って言わせたのよ。
”あなたの両親の指輪を奪って一緒にダルダンテ神国に来てくれれば結婚してあげる”って。
それで指輪を奪わせたのよ。」
「・・・酷いわ!
指輪を奪われて、おじいちゃんおばあちゃん可哀そうよ!!」
リーネが悲しそうに顔をゆがめながら泣き崩れたためライキが支える。
「・・・リーネ、ノーツのことは許してあげてね。
悪いのはダルダンテなんだから。
ノーツは自分のしたことをとても反省して、悔いながら今も生きているわ・・・。」
「・・・はい、わかっています・・・。
ノーツさん、私のおじいちゃん・・・ですよね。
今はダルダンテ神国にいるんですか?」
「いえ、今はこの国にいるわ。
ノーツはマールとクーヤの指輪を奪った後、ダルダンテ神国に連れて行かれて暫くは束縛されたけど、あちらで子孫を残した後、またダルダンテにいいように使われそうだったようで、嫌気がさした彼は印のつけられた左腕を切り落としてこの国に逃げ込んだわ。
ライキ、あなたが既に会っている人よ。」
「俺が会った人で・・・左腕がない・・・・・・あっ!!
最初に飛んだ時の山小屋のお爺さん!?」
「そうよ、彼がノーツ。
あなたが初めに能力を発動した時、暴走した力は想いの先であるリーネのところへ向かうはずだった。
でも、一人で飛んだ時に同じ村内での移動が出来なかったように、リーネの家までの距離が近すぎて通り過ぎてしまったのね。
それで、その勢いは次にリーネと血のつながりの濃いノーツに向かったんだと思うわ。
私にも未知な部分が多い力だから推測だけどね。」
「・・・そうか、あの人がリーネの・・・。」
「・・・ライキ・・・私、会ってみたい。
もう誰も血の繋がりのある人がいないと思っていたけれど、おじいちゃんがいたんだもの・・・!」
「うん、今度一緒に会いに行こう。」
「それがいいわ。
もう彼がダルダンテに狙われることはないと思うから安心してって伝えて?」
「はい・・・!」
「ダルダンテはマールが長い間待った女の子だったのに、手に入れることが出来なかった悔しさを指輪を奪うという形でぶつけた。
本当はマールを殺そうとしたけれど、クーヤがいたため出来なかったから。
一度失われた祝福は、つがいの頃に戻れない二人にはもう取り戻すことは出来ない。
でも、マールはクーヤと共には逝けなかったけれど、彼が亡くなった後にリーネ、あなたと出会い、共に過ごした時間は、とても尊くて幸せだったと思うわ・・・!」
「・・・はい・・・!」
リーネは顔を上げて、涙を拭き、笑顔を見せた。
「・・・その後ダルダンテで産まれたノーツの息子の子供がリーネ、あなたになるの。」
「あなたの両親にはダルダンテの印があったから、あなたと共にうちの国には来れなかったけど、ノーツからダルダンテのしたことを聞いていた彼らは、産まれて間もないあなたをダルダンテに見つかる前にと快くヴィセルテへと託してくれたわ。
でも、その後すぐにダルダンテにそのことを知られて殺されているの・・・。」
「・・・お父さん、お母さん・・・。」
リーネは涙を滲ませた。
「ごめんなさいね・・・リーネ。
あなたにとってとてもつらい事実だけど、きちんと伝えなければいけないと思ったから私の知る限り伝えさせてもらったわ・・・。」
とフェリシア。
リーネは涙を散らしながら首を横に振った。
「悪いのはフェリシア様じゃありませんから・・・。
ダルダンテ・・・・・許せないわ・・・!」
フェリシアはそっとリーネの頭を撫でてから、ライキの方を向き、再び口を開いた。
「ダルダンテは何世代もアーシェの子孫を待ち続けているからもう限界で、待ちきれなくなっているわ・・・。
だからまだ子供が産める年齢だったリーネの両親を怒りのままに殺したのよ。
それに、ライキとリーネが結ばれたらハント家の血を入れることになるから・・・。」
「俺の一族の血、ですか?」
とライキ。
「そうなの。
ライキの先祖に当たる”ある男”の遺伝子がとても強くてね。
ハント家からって何故か女の子が産まれないのよ。
必ず銀髪の男の子が産まれているの。
そのことをダルダンテはうちの国の誰かに取り入っているときに調べて知っているはず。
そうしたら、もう女の子を待つことはできなくなってしまうわ。
だから、あいつにとっての花嫁は、”リーネで最後”なの。
何としてもリーネが欲しくて強行手段に出てくると思うわ。」
「強行手段・・・ですか?」
怯えたリーネが硬い表情で尋ねた。
「えぇ。
二人が結ばれる前に実体を現し、奪いに来るはず・・・。
だけどあいつはロリコン・・・って言って、未成年の女の子に性的興奮を持つ嗜好を表す言葉があるのだけど、そのロリコンではないから、成人前のリーネに手は出さない筈。
成人してまだ処女であるタイミングを狙って、攫いに現れると思うわ。」
「それなら俺がそこで決着をつける。
相手が神でも負ける気はない。」
ライキは力強く、一切迷いのない顔で宣言した。
「ライキ・・・・・・。」
リーネは瞳を潤ませ、ライキの腕をぎゅっと掴んだ。
「ライキ、あなたは人の子にしてはかなり強いけれど、スケールの違う神に現地点では敵わないわ。
あなたへは私から天界の武具を用意しているのだけど、それがあってもまだ奴には届かない。
だから神に対抗する術を得るために巡礼の旅に出て欲しいの。」
「巡礼の旅、ですか?」
「えぇ。
つがいの二人がより祝福を強固にするために、各地の教会を回ったりするでしょう?
迷信めいているけれど、それにはちゃんとした理由があるの。
それは、私の力がこの国にある”10カ所の教会”に分断されているからなの。
仕事があるつがいは旅には出られないから、住んでいる村の教会でのみ祈りをささげ、成人して祝福を得る。
これで得られる祝福でも、この国の民である以上マールの時のような例外を除けばまず奪われることはないし祝福としては充分なのだけど、全ての教会を回ることにより私より上の神である”お父様”に”祝福を承認される”ことになるの。
それによって、ダルダンテや私のようなお父様より格下の神が直接祝福を奪おうと思っても、創造神に承認されし”強固なる祝福の指輪”へは手出しができなくなるわ。
普通の民には関係のない次元の話だから、これは本人たちの気持ちの上で行われている旅なんでしょうけどね。
でも、天界の武具でもそれと同じことが起こるの。
今の状態でも普通の下界の武具より遥かに強力なのだけど、神に通用する域には届かないわ。
でも10ヶ所全ての教会で祈りを捧げた武具は、お父様に承認され、”クラスアップ”することが出来るのよ。
そのクラスアップされた武具と、あなたの”射精して空を移動する力”があれば、ダルダンテに対抗できるわ!」
ライキは拳に力を込めてしっかりとファリシアを見て伝えた。
「・・・わかりました。
俺はリーネを守るために出来ることは何でもします。
でも旅に出るとなると、仕事もあるし未成年の俺が独断で決めるわけにはいきません。
今の話を俺の両親に伝えてもいいでしょうか?
説得してみます。」
「えぇ、話してみるといいわ。
ゲイルもサアラも、もうそのつもりのようだけど。」
フェリシアは何か知っている風にくすっと微笑んだ。
「それじゃ、堅苦しい話はこれでおしまい!!
お茶にしましょ!!」
フェリシアはぱあっと明るい表情になり、手を合わせた。
「リーネのクッキーとジャム、とっても美味しそうなんですもの♥」
目の前のプレートに向けて♥を飛ばすフェリシアの傍にヴィセルテがスッと近づくと言った。
「それでしたらフェリシア様。
彼に”力の使い方”を教えたいのでお借りしても?」
「あっ・・・えぇそうね!
それじゃあお願いするわ。
ライキはヴィセルテに付いて行ってくれる?」
「あ、はい!」
とライキは席を立つと、心配そうに見上げるリーネの頬に触れて微笑んだ。
「大丈夫だから。
ここでフェリシア様と待っていて。」
「・・・うん」
リーネは柔らかく微笑むと、手を振った。
ライキはヴィセルテに案内され、広い草原のような場所に来ていた。
そこで、彼は見たことのない剣とナイフ、ボウガンを亜空間から取り出し、ライキに手渡した。
「これはフェリシア様が貴方のために用意した天界の武器です。」
「これが・・・?
見た目は普通だ・・・。」
「えぇ、旅先で使いやすいようにと、フェリシア様が・・・。
いえ、実の所、最初はやたらにキラキラゴテゴテとしていましたが、私が止めてこのような見た目にしてもらいました。
派手な武器は目立ちますし、悪意を寄せ付けやすいですからね。」
「ありがとうございます。
俺も普通のほうが助かります。」
ライキはそう言って微笑むと頭を下げた。
ヴィセルテも微笑み返すと、すぐに真剣な表情に変わり続けた。
「では、その武器を使って私に攻撃してください。
手加減は無用です。」
ヴィセルテの金の目がライキの反応を静かに伺っていた。
「・・・・・。」
ライキはこの男に手加減は無意味だと直感で悟り、そっ・・・と剣を抜いた。
剣は見た目に反して軽く、軽く振るとしっかりとした手応えがあった。
(これはすごく良い剣だ・・・!)
「行きます!」
ライキは声をかけてからヴィセルテの懐へ飛び込み、剣を払うもスっと躱される。
そのまま数撃繰り出すも、あっさりと交わされてしまう。
(!?
何だ!?この感じ・・・。)
ライキは距離を取ると、今度はボウガンを放ってみる。
1度放った矢がまた直ぐに再構成され、次を自分でセットしなくても放てることに驚いた。
(流石天界の武器だ・・・凄い!)
そのまま数発放つがどれもスッスッと躱される。
(それなら!)
ライキはボウガンを乱射し、その死角からナイフを忍ばせて投げた。
(・・・これならどうだ!?)
ヴィセルテは全てお見通しといった余裕の表情で躱す。
(やはりか・・・さっきから躱し方に無駄がない。)
ライキは剣を鞘に収めた。
その際先程投げたナイフがいつの間にか鞘に戻ってきていて驚くライキ。
「降参です・・・。
あなたに当てられる気がしない・・・。」
ライキがそう言うと、ヴィセルテは穏やかに微笑んだ。
「それはよかった。
一応、”寵愛を受けた者の先輩”としての顔は立ちましたね。
ですが流石はハント家の隠れた天才。
僕が力を使わなければ今頃ただでは済まなかったでしょう。」
(ハント家って神様関連の人にも有名なのか?)
ライキはチラッとそんなことを思うも、すぐに唇を固く結ぶと俯いた。
「いえ、俺はそんなんじゃない・・・です。
それより、貴方の力とは”千里眼”のことですか?」
「えぇ。
ですが常にフルで発動している訳では無く、部分的に使っています。
千里眼をフルで使うことは非常に疲れますから。
先程のような戦闘においては、相手の動きを予測することにのみ必要な力を使っているのです。
寵愛の力はそのように使うことも出来るのですよ。」
「俺の”空を移動する力”もですか?」
「ええ。
この力を戦闘において自在に引き出せれば、人の域を超えた戦いが可能となります。
ダルダンテとの戦いにおいては必要不可欠になるはずです。」
「でも、俺には射精という発動条件がついているから・・・。」
「それでも貴方の身体に備わった力ですから、部分的になら条件を満たさずに引き出せるはずです。
例えば、その剣を任意の場所へ一瞬のうちに移動させたりですね。
そう念じてみて下さい。」
ライキはもう一度剣を抜くと、剣が移動するイメージをしながら念じてみた。
(飛べ、飛べ・・・・・。)
しかし剣は一向に飛ぶ気配がない。
「難しいな・・・。
ただ念じるだけじゃ駄目なのか?」
「うまく行きませんか・・・。
あなたの場合は射精で力が発動しますからね・・・。
では、射精する時の快楽を思い出しつつ念じてみましょうか?」
穏やかにさらっと命じるヴィセルテ。
「えっ・・・ヴィセルテさんの目の前で、ですか?」
ライキの顔が引き攣る。
「やってみて下さい。さあ。」
ヴィセルテからブラックリーネに似た威圧感を感じた。
「”ダルダンテに負ける気はない”のでしょう?」
その言葉でライキはハッとし、目に力が篭り菫の瞳を静かに光らせた。
「・・・わかりました・・・。」
ライキは深呼吸すると瞳を閉じ、ヴィセルテの存在をシャットダウンして、リーネと触れ合いを思い出し、集中した。
(リーネ・・・リーネ・・・可愛いリーネ・・・・・俺のリーネ!!)
月夜に照らし出されるリーネの裸とその肌の心地よい感触・・・自分に触れられて啼く声・・・彼女が達するときのあの表情・・・自分へと与えてくれる快楽・・・。
それらを次々と思い出しているうちに段々と気持ちが高ぶってくる。
その状態で、剣が動くように念じてみる。
(ヴィセルテさんの後へ・・・飛べ!!)
すると、剣が手元からフッと消え、ヴィセルテの真後ろにシュン!と現れた。
(よし!出来たぞ!!
・・・次は・・・刺せ!!)
と念じる。
すると背後から心臓を突き刺すように剣が動いた。
ヴィセルテはハッ!として剣を躱した。
「・・・出来ましたね。
今のは僕の力でも予測が出来なくてヒヤッとしました。」
「・・・普通に避けてるじゃないですか。」
「千年以上フェリシア様の神使として生き、それなりの修羅場を経験していますから。
長年の戦闘経験における勘、みたいなものでしょうか?」
ヴィセルテはまだまだ余裕といった表情で答えた。
ライキは少し悔しそうに眉を顰めた。
「まずは、今のを自在にこなせるようになってください。」
「・・・わかりました。」
『でもこれ、いちいち股間が半勃ちになるし格好がつかないな・・・。』
ライキがボソリと呟いた。
「それはトレーニングして目立たなくするよう努力するしかないですね。
股間が半勃ちの騎士なんてお姫様も幻滅ものですよ?」
クスリと笑われた。
(聴こえてたのか・・・。
この人穏やかそうに見えるけど相当なドSだ・・・。)
ライキは赤くなりながらそう思った。
「まぁ、回数をこなせば身体が覚えて自然に引き出せるようになりますよ。」
「・・・わかりました。」
(でも彼のおかげでダルダンテに対抗するために1歩踏み出せた。)
「ありがとうございます。
ヴィセルテさん。」
ライキは彼に感謝し、頭を下げた。
「いえ。
ひとまず今日のところはここまでとしましょう。」
(今日のところは?)
ライキ、一抹の不安を覚える。
「これから月に一度、フェリシア様の御用向きがない時に進捗を見せて頂きます。
それまでにしっかり練習をしておいて下さい。」
「は・・・い。」
ライキはこれからもこの底知れない腹黒さを持った男と関わっていかなければならないのか・・・と一瞬思ったが、この状況においてはこの上ない心強い存在だと思い直し、覚悟を決め、再度頭を下げた。
「宜しくお願いします。
・・・師匠。」
「その素直さ・・・貴方の良いところですね。
こちらこそ、よろしくお願い致します。」
ヴィセルテは穏やかに微笑んだ。
その後ライキ達が庭園のフロアに戻ると、ファリシアと楽しそうにころころと笑うリーネの姿があった。
「ホントにあの拗らせ童貞、禿げればいいのに。」
「神様に効くかはわかりませんけど、禿げる毒ならありますよ?」
「あるの!?
あなたの力が発動している時の毒なら神相手でも効くんじゃないかしら?
今度作ってみてくれない?」
「良いですよ?
でも禿げるだけでは生ぬるいです。
いっその事不能になってくれれば万事解決なのに!」
そう言って二人でウフフフ!アハハハ!と笑っている。
近づいていくととんでもないことを話しているのが聴こえてきて冷や汗をかくライキ。
「・・・リーネ、終わったよ。」
「あっ、ライキ、おかえりなさい!
今ね、フェリシア様とダルダンテを撃退できる毒を作れないかなーって色々考えてたの。」
「そっか・・・楽しそう(なのか!?)で良かった・・・
あれ?それ、レイピアか?」
ふとリーネが腰に下げたレイピアに気が付くライキ。
「うん、フェリシア様から頂いたの。
毒を忍ばせることが出来る天界の武器なんだって。
このペンダントもお守りにって。
可愛いでしょ?」
と首に下げた空色の石のついたペンダントを見せるリーネ。
「うん。
リーネの瞳の色と同じ石がついててよく似合っているな。」
とライキは優しく微笑み、素直な感想を述べた。
「本当!?嬉しい・・・!
あ、レイピアなんだけど、使ったことがないから今度教えてくれる?
旅に出るまでに使いこなせるようにならなきゃ。」
「うん、わかったよ。」
等とふたりが話している傍で、
「ライキはどうだった?」
フェリシアがヴィセルテに尋ねていた。
「えぇ、彼なら1年もすればかなり使えるようになるでしょう。
その頃には僕も手加減出来なくなるでしょうね。」
「それはよかったわ。
・・・ありがとう、ヴィセルテ。」
「いえ。」
ヴィセルテは小さく頭を下げる。
フェリシアはふたりに向き直ると少し寂しそうに言った。
「ライキ、リーネ。
お茶会はそろそろお開きにしましょう。
とても楽しかったから名残惜しいけれど、下界の方では日が暮れる頃だから。
また日を改めて招かせて貰うわね。」
「「はい!」」
「あんな騒ぎの後だから暫くはダルダンテも手を出してこないでしょうけど、あなたたちが巡礼の旅に出たら、行く先々でダルダンテが人の心の闇に取り入って陥れようとして来るはずよ。
それに、◆の印の魔獣を送ってくる事もあるでしょう。
それはダルダンテの神力で強化された魔獣で、この国にいるハイクラスの魔獣よりも更に手強いから気をつけなさい。
─そして、二人は、成人したと同時に”結婚"するのでしょ?
ライキ?」
「「!!」」
真っ赤になるライキ。
リーネは驚いて目を見開くと、顔に手を当てライキを見上げた。
「・・・それは、フェリシア様の話を聞いてからずっとそう考えてましたけど・・・。
期を見て俺からちゃんとプロポーズしようと思ってたのに・・・。」
真っ赤な顔のまま、悔しそうに顔を歪めるライキ。
「ライキ・・・本当に?」
頬を赤く染めたリーネが瞳を潤ませてライキを見つめる。
「・・・うん。
成人後にモタモタしてたらダルダンテにチャンスを与えるようなものだし・・・。
俺も早くリーネを嫁に欲しいから。」
「嬉しい・・・!
私も早くライキのお嫁さんになりたい・・・!」
リーネはギュッとライキの腕に抱きつくと、頬をくっつけた。
「うふふふ、大切なサプライズを奪ってしまってごめんなさいね!
でもその時に結婚するのが1番いいと思ったから!
リーネが成人したら、二人には私から”強固なる祝福”を授けに行くのと同時に、”天界の武具をクラスアップ”させるつもりでいたの。
その場でなら私も下界に直接干渉ができるから、ダルダンテ戦で微力ながら手助けをしてあげられると思うわ。
ヴィセルテもね。」
ヴィセルテも会釈する。
「ありがとうございます!
心強いです!」
とライキ。
「つまりはあなたたちの結婚式の時がダルダンテとの決戦になるでしょう。
それまでに10カ所の教会を回って武具をクラスアップ出来る状態にしておくこと。
あなた達なら必ず出来ると信じてるわ!」
ふたりは顔を見合わせてから、
「「はい・・・!」」
と決意固く頷いた。
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