鏡に映る

雪乃

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逆の立場になれば、おなじ選択をするのかはわからない。いいえきっと、離れないでいてくれるだろう。

けれど望めば、答えは違ってくるだろう。




執着混じりの愛情には気づいていた。それを嫌だと思ったことはなかった。

むしろわたしこそその鳥籠を望んでいた。




苦しみをもたらすようなものではないと知っていたから。










けれど苦しめていると、わかっていたら。
それを与えているのが自分だとしたら。





それでも仄かな愉悦が勝り、それが愛だと、彼は思うだろうか。









いいえ、きっと。



『…っ』



だって彼は、わたしを蔑ろになんてしないから。







ねえ、


わたしは、自惚れているの。



『其方は間違ってなどいない。其方が愛した男も、きっとそう言うだろう』





だってわたしは、それほどあなたに愛されていたから。





あなたが愛してくれたわたしを守ることを選んだ。
 

あなたもそうであったらいい。

わたしが愛したあなたを守っている。




あなたも、そうであったらいい。










『……羨ましいな』

『…』

『其方の感情をそれほど揺さぶる婚約者が、羨ましい』



が明ける。




理解していたつもりのクインは、今になって漸く心から受け入れることができたのだと、ひとつぶ、零した。
















それからクインは、アレイスターを恐ろしいと思うことはなくなった。
ふたりで領内を周り、国境まで並走する。
領民たちの暮らしぶりを、防衛に不足はないか目を凝らす。
挨拶を交わし、時には鍛錬を共にする。食事をして、会話をする。



僅かな時間穏やかに過ぎて、








帝国へ進軍する日が近づいていた。













『……王都から戻られたばかりでお疲れではないですか?』

『いや、』



夕食を終えたところ殿下に誘われて足を伸ばしていた。


胸壁に囲まれ、眼下に広がる辺境の地。



『……いよいよですね』

『あぁ』



同盟国は包囲に専念する。
帝都に攻め入るのは殿下たちだ。それを譲らなかったのも殿下を含めた帝国の人間たち。


殿下は珍しく声を荒げてまで、それを押し通したという。



『殿下』



わたしが向き直れば、殿下も意識をこちらに向けてくれたようだった。



『ご武運をお祈りしております』



辺境では火を絶やさない。

月のない夜を連れてきても道を照らす。


篝火が家路へ導く。


迷わず帰ってこれるようにと、祈りを込めて。










『生死に執着はしていないと思っていたが、どうやら違っていたようだ。俺は時間が欲しいーーだから死なない』



遥か遠くを見つめていたまなざしが、わたしを捉える。


鋭さばかりを帯びていた瞳は、あるときだけやわらぐことをわたしはもう知っていた。



『……其方のことを待っている』



その意味も、わたしは知っているような気がした。














一報は二月後大陸を駆け巡った。


ガラルディア帝国軍敗走。

皇帝ギュスタフは皇弟テオドルドによって討ち取られる。





予想と事前に得ていた情報通り、ギュスタフは精鋭を帝都に残し居城の守備を固めていた。
予想外は帝都に進軍するまで時間を要したことであり、その理由は説得と保護。


ギュスタフは、帝都周辺と反乱軍の進軍に沿って帝国内に肉の壁を築いていた。

爆薬を巻かれ、鎖でひと繋ぎにされた帝国民。

それがいくつものように配置されていた。



導火線を持つ帝国兵は狂気に汚染された者、疲弊し怯えた者がいた。

多くが火に巻かれ、多くが救い出された。



王太子エディラルが新皇帝として立ち、領土の返還、または割譲が行われることになり、賠償と支援を含む同盟国との和平条約が結ばれ戦いは終結。



人命を犠牲に、夥しい数の屍のうえから、ガラルディア帝国は新たな道を進むことになる。











父が戻った夜、暮れる西空へと皆で黙祷を捧げた。



『クイン』

『はい』
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