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ラウンド8.
しおりを挟む「飽きないよねえ」
わたしが好む甘いクッキーを手に取り、くるくるかざしながら楽しそうに言う。
「邸にきても門前払い。手紙も受け取り拒否。ミアの友人に聞いても教えてもらえない。…だから情報が手に入らないんだろうねえ」
「…ほんとに絡まれたりしてませんか?」
「ないね、睨まれるくらいかな?キツネネコの威嚇みたいで毎日楽しいよ」
「爪は鋭いですけどね」
「それはそれで一興」
甘っ。と顔をしかめるお義兄さまは戯れ合いでも希望しているのかな。
一週間ほどで痣は目立たなくなり、自分でつけてしまった傷も癒えた。
でもまだまだと両親の許可が下りずに結局二週間も学園を休んでしまい、明後日から登校するのだけど。
"トーリが校門で待っていた"
そうお義兄さまに聞いたのはわたしが休み始めた初日からで、今もまだそうしてるらしい。
もしかしたら勘違いで他の誰かを待っていたのではと聞いてみたけれど、お義兄さまが降りた馬車が走り去るのを見届けてから校舎に向かってゆくので間違いないだろう、と。
……途端に憂鬱になる。
行きたくないなぁと思うけど、この国で貴族として一人前と認められるためには学園の卒業資格が必須だ。あまり休んでもいられない。
「……もしかしたらわたしが落としたノートとかを拾ってくれてそれを返すためじゃないかな」
「前向きすぎでしょ。話し合いたいんでしょ、ふつうに。納得してないから。……そのつもりあるの?」
「ない。……納得してないのは向こうの問題だし、……気持ちはあのとき聞いた」
ーーガヤガヤと、ひとの気配に緩んだいっしゅん突き飛ばした。トーリはよろけただけだったけど。
ゴシゴシくちびるをぬぐうわたしを見て傷ついてるような顔を横目に、教室を飛びだした。
あのまま誰も通らなかったらーー想像しただけで怖くてたまらなかった。
どうひっくり返っても、やり直すなんてぜったい無理。
わたしのせいにしたいならすればいい。
でもそれを言いわけになんかぜったいさせない。
「……ミア」
はっとして、呼ばれた声に顔を上げる。
お義兄さまが頬杖をついてわたしを見つめていた。
「ひとりにならないようにね。友だち複数と行動して。俺は離れてるからすぐ助けには行けない。
でも何かあったら飛んでくよ。……たぶんね」
「…たぶんですか」
「ふふ、…ほら、こっちのほうが甘いよ」
ゆびが、わたしの頬を掠めている。
「…お義兄さまは、」
「俺には甘すぎる」
それはさく、と舌のうえであっというまにとけた。
覚悟していてもいざとなればその動揺は計り知れない。
ズンズン向かってくるトーリに気づき、冷や汗混じりにお義兄さまの袖を掴んでいた。
目の前にきたトーリはおはよう、と平坦な声で言う。顔色は悪く、視線を合わせないようにしてるみたいに、うつむきがちに。
「……これ、落としたやつ」
「、ーーありがとうございます」
それはノートだった。教本と、ペンケース。
まさかの大当たりに思わずお義兄さまを見上げると、だから?みたいな表情。
そして気を取られているうちに、
「……じゃあ」
「あ、はい。…ありがとうございました」
あっさり背中を向けて去っていった。
ほっとして気が抜けると、手に抱えてるものが急に重く感じる。
「…へえ、…押してだめなら引いてみる、ってやつ?」
また落としそうになった。
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